【藤原あゆみと犬、立入禁止】その懐かしい看板を目にした瞬間、涙があふれた。悲しさではない。うれし涙だった。――藤原あゆみ(ふじはら あゆみ)。それは、私の名前。今まさに「犬」と並べて侮辱されているのに、私は心底から嬉しかった。なぜなら、私は――生き返ったのだ。しかも、婚約者・芹澤和也(せりざわ かずや)の誕生日当日にタイムスリップした。誰の目から見ても、私は和也に釣り合わない存在だった。家柄も、容姿も、何もかもが天と地ほど違っていた。彼は江北市・芹澤家の跡取り息子。私は親もいない孤児。ただの子ども時代の冗談で交わされた婚約が、二十年以上も私たちを縛っていた。みんなが和也に同情している。もちろん、彼自身も。だから彼は、私がパーティーに入れないよう、家の前にこの看板を立てたのだ。「藤原、悪いけど今日は入れてやることはできない。これは和也さんが決めたことだ。お前ならわかってくれるだろ?無理に入ったら、ますます立場が悪くなるだけさ」玄関の前に立つのは和也の取り巻きたち。彼らは冷たい目で私を追い返そうとしている。両脇には、電気警棒を持った警備員。まるで、私が犯罪者であるかのような扱いだ。それほどまでに、和也は私を忌み嫌っていた。前の人生でも、私はこの宴に参加できなかった。玄関先にしゃがみ込み、朝から晩まで、犬のようにひたすら待ち続けた。結局寒さに凍え、高熱で倒れた。和也の両親がこのことを聞くと、息子を叱り、結婚式を早めるよう強く勧めた。そして結婚の日。和也の初恋・伊藤菜々子(いとう ななこ)が崖から飛び降り、命を落とした。それ以来、和也とその取り巻きたちは、私を「殺人犯」だと決めつけた。彼は復讐の名のもとに、私を冷たく虐げ続け――無視し、拒絶し、痛めつけた。私は何度も離婚を願い出たが、すべて却下された。「お前が死ぬまで俺は離婚なんかしない」と、彼が言った。その言葉のとおり、私はただの物のように扱われ、二十年間朽ち果てるように生きた。そして最後、心を壊し、海へと身を投げた。けれど――その死の間際。私は信じがたい光景を目にした。菜々子が帰国し、堂々と和也と再会したのだ。彼女は死んでいなかった。むしろ生き生きと輝き、世界的に有名なデザイナー
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