遥かに見つめ合うふたり。まるで一世紀を隔てたかのような静寂の中、最初に視線を逸らしたのは星良だった。彼女は無言で相手に軽く頷くと、そのまま踵を返して立ち去った。男は安堵の息を漏らす。噂は本当だったようだ。星良は、本当にもう誠に未練などない。扉の外を茫然と見つめる誠。彼の無様な姿、踏みにじられた尊厳、それらすべてが彼女の目に晒されていた。やがてトイレから出てきた星良は、外で待っている誠の姿を目にする。彼は煙草の灰を落とし、星良の姿を見た途端、慌てて煙草をもみ消した。彼女が煙草の匂いを嫌うことを、まだ覚えていた。無精ひげが顔を覆い、痩せこけたその姿。星良を見つめながら、胸の奥がチクリと痛んだ。こんなにも彼女を想っていたのだと、ようやく自覚した。ずっと星良に会わないようにしていた。彼女が自分を見たくないことくらい、わかっていたから。けれど、我慢というものがこれほど苦しいものだとは思わなかった。誠は後悔した。自分はいったい、どれほどのものを失ってきたのか。まつ毛がかすかに震える。口を開こうとしても、言葉が出てこない。彼女の目に映る今の自分を見るのが、怖かった。星良の表情は淡々としていた。「何か用?」その一言に、胸が押し流されるような衝撃。「……元気にしてた?」彼の掠れた声が、少々耳障りに聞こえた。星良は目を伏せた。元気か否か、もう誠とは何の関係もなかった。彼女は答えず、むしろ問い返す。「雨宮さんから連絡はあった?」その名を聞いた瞬間、誠の眉がひそめられ、すぐに否定した。「もう、ずっと会ってないんだ」星良は彼の反応が嘘ではないと感じ、それ以上は何も聞かなかった。その場を離れようとした瞬間、誠は思わず彼女の腕を掴もうと手を伸ばした。「星良……俺のこと、許してくれたのか?」その手を見下ろす。彼の手は、形も肌も美しかった。星良がかつて何度も夢に見た手。頬を優しく撫で、肩を抱きしめ、必要な時には真っ先に彼女を守ってくれるはずだった。この世界の誠は、彼女と結婚することもなかった。父を死に追いやることも、妊娠三ヶ月の彼女を山中に走らせることも、暗い地下室に閉じ込めることもなかった。けれど――誠は星良のプライベートな写真をばらまき、紗耶
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