浴室の中。黒澤誠(くろさわ まこと)の手が、九条星良(くじょう せいら)の腰をがっちりと掴んでいた。白く滑らかな肌には、すぐさま五本の紅い痕がくっきりと残る。彼女がまるで反応しないのを見て、誠は苛立ちを露わにして身を寄せる。そしてそのまま、星良の肩に鋭い牙を立てた。誠の鋭い犬歯が容赦なく肌を貫き、皮膚を破る。血がじわりと口元に滲み、舌の裏に鉄の味が広がった。その突如として襲った激痛で、星良は目を見開いた。だが、目の前の人物の顔を見た瞬間、彼女の手が無意識に動き、誠の身体を思いきり突き飛ばした。壁にぶつかった誠は、驚いた表情で星良を睨みつける。その瞳の奥には、明確な凶悪の色が一瞬だけ走った。それを見た星良は思わず身を縮こませ、恐怖に駆られて震えた。「言われた通りにしたんだろう。半月は来ないって、そう言ったでしょ」それは確かに誠の声だった。けれど、その響きにはどこか、少年のような感触が混じっていた。星良は茫然と彼の裸の上半身を見つめ、次いで周囲に目を走らせる。暗く湿った地下室でもなければ、あの忌々しいネズミの鳴き声もない。まるで何かを思い出したかのように、星良は両手を勢いよく持ち上げた。そして、十本の指を確認する。――全部、ある。その事実を見た瞬間、彼女の瞳から涙が溢れ出す。誠は困惑の色を深めたまま、星良の様子をじっと見つめていた。返事がないままの彼女に、不安を拭えなかったのだろう。彼は表情を強張らせながら、そっとその手を彼女のうなじに伸ばす。けれど――「っやめて!!」怯えたように叫ぶと、星良は再び彼を突き飛ばす。誠の我慢の限界が、今、音を立てて崩れる。「寝たいって言ったのはお前だろ?触るなって言うのもお前。……一体何がしたいんだよ」その声音には、見下すような嘲りが滲んでいた。星良の服はすでに水で濡れそぼり、身体は小刻みに震えていた。彼女は必死に震える声を抑えながら、ぽつりと呟く。「……出てって……」その言葉に、誠は意外そうに彼女を一瞥する。しかしその刹那、スマホの着信音が鳴った。「誠!すぐ来て!紗耶が大変だぞ!」その声を聞くや否や、彼は一言も発せず浴室を飛び出して行った。扉を閉めることさえ忘れた。彼の気配が消えた瞬間、星良はその場に崩れ落ちた
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