Semua Bab 霧に沈み、あなたを忘れる: Bab 11 - Bab 20

新洲島？確か、絵蓮の叔母が移住したのは新洲島だったはずだ。突然、半月ほど前の宴会でのあの電話が脳裏によみがえった。あの時、絵蓮の一瞬の動揺を思い出し、衡稀はほのかに真実を察した。一晩中の心配と焦り、絶望と苦しみが、今この瞬間、すべて怒りに転化した。銀行カードを強く握りしめ、怒りを胸に外へと飛び出した。助手が慎重に後ろから声をかけた。「社長、これからどちらへ向かわれますか？」衡稀は真っ直ぐ前を見据え、歯を食いしばりながら、短く三つの文字を吐き出した。「新！洲！島！」助手はすぐさま、最も近い便の航空券を手配した。12時間のフライトの間、衡稀は一度も目を閉じなかった。頭の中は混乱し、さまざまな光景が次々に浮かび、胸の中で複雑な感情が絡み合っていた。五歳の絵蓮と遊園地で遊んだあの幸せな瞬間。七歳の絵蓮の家族の葬儀を取り仕切ったあの哀れな時間。十三歳の絵蓮を暗闇から抜け出し、笑顔を取り戻した時の安堵。十七歳の絵蓮から告白されたあの慌てた気持ち。二十歳の絵蓮が徐々に沈黙し始めた絵蓮を胸を痛めて見守った日々。そして二十一歳の絵蓮が自ら離れていこうとしている。衡稀の心は、捨てられた怒りと絶望で満ちていた。なぜ彼女が去るのか、理解していた。だが、その事実を受け入れることなど、できなかった。彼の手の届かない場所へと遠ざかっていこうとする彼女を、どうしても許すことができなかった。昨夜まで、衡稀の心には一縷の幻想があった。偽りの結婚生活の中で、絵蓮の分不相応な望みを断ち切り、養女の身分として安穏とそばに留まらせられると信じていたのだ。彼らが家族という形なら、永遠に離れないと、衡稀は思っていた。未来ばかりを見つめ、目の前の現実や絵蓮の頑固で制御不能な性格を見落としていた。幼い頃に家庭の変故を経験した彼女は、普通の人よりも強い心を持っている。だからこそ、たとえ彼にどれほど拒まれようとも、決して諦めることはなかった。また、幼い頃から他人の庇護のもとで生きてきた彼女にとって、衡稀が結婚することを知ってから、ここはもう「安心」とは程遠い環境だった。だから、絵蓮は見捨てられると感じて、静かに去ったのだ。この関係において、表面的には常に衡稀が主導権を握っているように見えた。しかし、

カフェにはしばらく沈黙が続いた。やがて衡稀が重い声で口を開いた。「外の人たちは、俺が絵蓮を育てたと思ってるかもしれませんが、実際には絵蓮が十一年もの間、俺に付き合ってくれたのです。ご存じの通り、俺の両親は仕事で忙しく、兄たちとは十歳以上も離れていて、俺はひとりで育てられました。物質的には恵まれてましたが、いつも孤独でした。絵蓮は、俺が見守って育てました。小さい頃から俺にべったりで、とても賢く可愛らしかった。彼女に出会ってから、俺はずいぶん明るくなりました。その後、あんな酷いことが起き、彼女を心配して側に置いた。心の中で、絵蓮はもう家族そのものです」彼の告白を聞き、秋穂も胸を打たれた。「ええ、絵蓮は衡稀君を『おじさん』と呼ぶが、あなたが背負ってるのは実は父親としての責任だと思ってる。私も、お二人が家族同然の関係にあることは理解しているので、これまで長い間、お二人の間に干渉しないようにしてきた。ただ、一か月ほど前に衡稀君が結婚するという話を耳にして、それで絵蓮に連絡を取って、彼女の気持ちを確かめたのだ。最初は乗り気ではなかったのが、急に考えを変えたようで、彼女に広い世界を見せてあげるのも良いかと思い、グリーンカードの申請をした」彼女の話から事情の経緯を聞いた衡稀の胸に、わずかな痛みが走った。「秋穂姉は絵蓮にとって唯一の肉親で、家族が再会するのは当然のことです。ただ、彼女が新洲島に来るのは旅や留学には合っていると思いますが、なぜわざわざ永住を選んだのでしょうか」秋穂は、絵蓮が渡航前に衡稀とすべて話し合ったと思っていた。そのため、突然その質問を受けて少し驚いた表情を見せた。「絵蓮が自分から永住したいと言い出したよ。私は彼女の意思を尊重して手続きを進めただけ。衡稀君は……何も知らなかったの？」衡稀の胸はまるで刺されたように痛んだ。彼はゆっくりと首を横に振り、苦い笑みを浮かべた。「彼女は……何も話してくれませんでした」秋穂はさらに驚いた。しかし絵蓮は彼女の実の姪であり、言い訳を探すようにかばった。「多分、衡稀君が結婚の準備で忙しくて、いいタイミングがなかったのでしょう。でも大したことじゃない。今は交通も発達していて、行き来も簡単でしょ。会いたければ簡単に会える。そういう細かいことにこだわらないで」

新洲島で迎えた初めての夜、絵蓮はぐっすり眠った。目覚めるともう10時で、伸びをしながらあくびをすると、トントンとノックの音が聞こえた。「お姉ちゃん、起きた？ママがおにぎりを作ったいよ、私の握ったものもあるよ。早く食べてみて！」絵蓮は返事をして、慌てて身支度を整えると、階下へ降りて行った。テーブルに着くやいなや、菱ちゃんがおにぎり持ってくれて、期待に満ちた顔で彼女に差し出した。絵蓮はからかうつもりでわざと眉をひそめておにぎりを食べた。すると、菱ちゃんも一緒にしかめっ面になった。その様子に心の中で笑い、菱ちゃんを抱きしめて感心の声を上げた。「菱ちゃんのおにぎり、すごく美味しいよ！これからはお姉ちゃんのおにぎりは全部任せるね！」小さな女の子はたちまち大喜びした。「じゃあこれから任せるね！ねえ、お姉ちゃん、絵も教えてくれない？」そんな小さなお願いに、絵蓮は迷わず快く応じた。朝食を終えるとすぐ、菱ちゃんは彼女の手を引いて外へ連れ出し、絵を描いてほしいと言った。ちょうど時間もあったので、絵蓮も散歩がてら付き合うことにした。二人は手をつないで文具店へ行き、必要なが画材をすべて揃えた。その後、菱ちゃんは絵蓮を近くの公園に連れて行き、湖のほとりでポーズをとって言った。「お姉ちゃん、描いて！」絵蓮は断らずにイーゼルを組み立て、画材を取り出して筆を動かし始めた。約30分ほど描いたころ、菱ちゃんは少し疲れて石の上にどっと座り込んだ。絵蓮は彼女が退屈しないように、出かける時に持ってきたおもちゃを取り出して手渡した。石のそばの小道は細くて、絵蓮がかがんだその時、突然、大柄な男の子が走ってきて彼女を湖に押し込んだ。水は深く、絵蓮は泳げなかった。水中で激しくもがいた。石の上の菱ちゃんはその様子に慌て、大声で泣きながら身を乗り出して助けようとした。その時、小さな子が湖に落ちそうになったところで、岸辺から一人が駆け寄った。まず菱ちゃんを安全な場所に抱き上げると、すぐに湖へ飛び込んで助けに向かった。冷たく硬い湖水が喉に入り、酸素を奪われ、絵蓮の意識はぼんやりとしていった。意識が朦朧とする中、彼女はかすかに助けに来た人の姿を目に捉えた。生きたい本能に駆られ、彼女はその人に手を伸ばした。次の瞬間、しっ

濡れた服に着替えた後、絵蓮は何とか理由をつけてその場を離れようと考えていたが、突然菱ちゃんがお腹が空いたと言い出した。衡稀は黙って彼女を抱き上げ、レストランへ向かった。絵蓮は小走りでついていくしかなかった。三人が席についたばかりのとき、衡稀のスマホが鳴った。彼は画面を一瞥し、すぐに通話を切った。その画面に【丹羽梓】と表示されているそれを見た絵蓮は、急にある重要なことを思い出して、尋ねようとした時、また着信音が鳴った。衡稀は即座にマナーモードに切り替えた。その一連の動作は流れるようで、絵蓮は呆然と見つめるしかなかった。二分後、絵蓮のスマホに国際電話の表示が出た。出ると、向こうから荒い息遣いとともに激しい罵声が飛んできた。「森清！この女狐！衡稀をどこに連れ去ったんだ！」「どうやって私の番号を知ったんだ？」隣の衡稀は梓の言葉を一言一句逃さず聞き取り、顔色が変わった。彼はすぐに絵蓮のスマホを奪い取り、梓をブロックしてから助手に電話をかけた。「お前が番号を梓に渡したのか？勝手に決めるな。明日、人事部に行って退職届けを出せ」梓に罵られたとはいえ、絵蓮はその件を気にしていなかった。むしろ彼の決断が急すぎて、助手のことをかばった。「川上さんだって悪くないのに、どうしてそんな些細なことで責めるの？」衡稀は彼女が助手をかばうことには気にしなかったが、梓に対する彼女の反応には驚いた。あれだけ罵られても、彼女がまったく動揺しないのはなぜだろう。「お前の番号を梓に渡した。解雇するべきじゃないか？」ここ数ヶ月の梓絡みの出来事で、これは衡稀が唯一絵蓮の味方をした言葉だった。彼女はずっと彼が梓に甘いのに慣れていたため、今回の態度は違和感があった。「それは許されない過ちじゃない」衡稀はじっと彼女を見つめた。なぜそこまで助手をかばうのか理解できなかった。「じゃあ、何が許されないんだ？」絵蓮は視線を落とし、頭の中に色々な出来事がよぎった。雪の中で見捨てられた時、シャンパンタワーが倒れた時、原画が盗まれた時、どれも番号の件よりずっと深刻だった。彼女は結局、彼の犯した過ちや傷ついたことを許してきた。だから、たかが番号のことが一体何なのか。その思いを胸にしまい、ただ彼に助手を解雇すべきで

今日、二人で出かけたのは衡稀に会ったから？だからこんなに遅くなったのね。秋穂の目に一瞬驚きが走り、つい幾つか質問を重ねた。すると、菱ちゃんは朝からの出来事を一気に話し始めた。まずは湖に落ちた話で、秋穂はぞっとし、恐怖がこみ上げた。次に昼食のこと。菱ちゃんは正確な言葉は覚えていなかったが、記憶に残ったのを選び、特に衡稀が話す時の表情も詳しく伝えた。「おじさんがお姉ちゃんに、『もう会いたくないの？』って聞いたら、泣きそうだったよ。それに、『十歳年上で血の繋がりはない』って言ってて、お姉ちゃんが最後に『新婚おめでとう』って言ったら、おじさんはテーブルをひっくり返して、すごく怖かった！」子どもの無邪気な言葉だったが、その話が秋穂の心にあった疑問を一気に解けた。彼女はずっと不思議に思っていた。なぜ絵蓮は突然ここに来るのを承諾したのか。なぜ衡稀は結婚式の真っ最中に新洲島まで来たのか。なぜ二人の会話はあんなにぎこちなく不自然だったのか。今になって、その違和感の理由がはっきり理解できた。二人の話し方は、頼り合う「父と娘」ではなく、まるで喧嘩別れするカップルのようだった。菱ちゃんの話も踏まえ、秋穂はほぼ確信した。絵蓮と衡稀の関係は普通の親戚の枠を超えているのだ、と。その考えが浮かぶと、秋穂の胸に冷たいものが走った。娘に毛布をかけると、彼女は二階に上がり、絵蓮の部屋のドアを叩いた。「絵蓮、おばさんに正直に話して。ここに来るのは、おじさんが結婚するから？」真剣な顔でそう問いかけると、絵蓮の体がピンと張った。「おばさん、どうしてそんなことを？菱ちゃんが何か言ったの？」秋穂は静かに彼女を見つめ、心配を込めて言った。「おばさんの質問に答えて。絵蓮とおじさんは、一体どんな関係なの？」絵蓮の目に一瞬慌てが走り、うつむいて深く息をついた。「おじさんと養女の関係だけ」彼女は本当のことを言った。なぜなら最初から最後まで、衡稀は越えてはいけない線を守り、はっきりと彼女を拒んでいたからだ。だが秋穂は信じなかった。彼女は絵蓮の手を握り、根気強く諭した。「怖がらないで。おばさんはただ絵蓮が間違った道を歩かないか心配してるだけよ。まだ若いから知らないことも多い。おばさんは経験者だから、もし辛いことが