綺音は心から祝福の言葉を贈った。「ご家族が一緒に過ごせるのは素敵なことです。どうかお幸せに」木下は深く感謝の意を示し、そして尋ねた。「綺音さんは、このままお帰りになるおつもりなんですか?」「いいえ。私はもう西江グループとは一切関係ありません」綺音はきっぱりとそう言い切ったあと、少し言い淀みながらも真剣な面持ちで頼み込んだ。「ひとつお願いがあります。私が生きていること、誰にも言わないでもらえませんか? 旦那さんにも」過去のすべては、昨日と共に死んだのだ。彼女はもう、絶対に振り返るつもりはなかった。木下は少しの迷いも見せずに頷き、微笑みながら綺音と健に優しく目を向けた。「女同士ですもの。互いの気持ちはよくわかるわ。安心して、私がこの秘密はきちんと守ります」綺音は、その意を察し、それ以上は何も言わなかった。木下の娘に向かって手を振り、さようならの挨拶をしてから、再び健の隣に腰を下ろした。健はまるで何もなかったかのように、スマホで観光情報を見ながら話しかけた。「昼食で評判の店を見つけたんだけど、明日の朝早く起きられるなら一緒に行ってみない?」綺音は彼を不思議そうに見つめた。「あなた、本当に何も聞きたいことはないの?」彼女は健が問いかけてくることを覚悟していた。だが、彼の反応は予想外だった。「僕にとって、あなたはただの遠野先生だよ。過去のことはあなた自身の秘密だ。話してくれるなら喜んで聞くけど、話したくないなら、僕は詮索しない」その言葉に、綺音の胸は深く打たれた。彼女は、物語を語るように、これまでのことを健に打ち明けた。あの破綻した結婚を含め、すべてを。健はしばらく沈黙した後、静かな声で言った。「きっと……たくさん辛い思いをしたんだね」綺音の目に涙が浮かび、顔をそむけて空港のモニターに映る広告を見つめながら、ぽつりと呟いた。「もう終わったことよ。……他に何か聞きたいことはある?今日じゃなきゃ話せないかもしれないし」心の奥にずっと秘めていたものは、時にはこうして誰かに打ち明けることで、少しだけ軽くなるのかもしれない。「あるよ」健は彼女を見つめ、目は深く穏やかだった。しばしの沈黙の後、彼は静かに問いかけた。「今でも、愛を信じられる?」綺音は、ほんの一瞬だけ迷
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