律也は避けきれず、黎真の拳をまともに受けた。その衝撃で数歩よろけ、後ろに下がる。「律也!」その姿を見た凛花は顔色を変え、慌てて彼のもとへ駆け寄った。「大丈夫?どこか痛む?」黎真の拳には、怒りと執着が込められていた。律也の口元には血が滲み、凛花は慌ててポケットからハンカチを取り出し、彼の唇の端を優しく拭った。「痛くない?」「平気だよ、全然痛くない」律也は彼女からハンカチを受け取り、微笑んだ。その微笑みを見た瞬間、凛花の心の最後の防波堤が、音を立てて崩れ落ちた。彼女はくるりと振り返り、怒りを露わに黎真を睨みつけた。「神谷黎真、あんた、正気なの?自分が何してるか分かってるの?」「そんなに……そんなに、あいつのことが大事か?」凛花が律也を心配するその様子に、黎真の胸がずきずきと痛んだ。かつては、自分に向けられていたあの優しさも、眼差しも——今はもう、他の男のものになっている。「そうよ、大事に決まってる。彼は、私の恋人であり……夫でもあるの」凛花は律也の手をきゅっと握りしめた。指と指がしっかりと絡み合う。「神谷黎真、もう終わりにして。私、律也と結婚したのよ!」「な、に?」黎真はその場に立ち尽くした。彼女と過ごした七年——そのすべてが、今まさに崩れ去ろうとしている。彼女が、よりにもよって他の男と結婚だなんて——まさか、そんなはずがない。「嘘だ。たった一発、あいつを殴っただけで、そんな嘘を?」「嘘だと思うなら、これを見て」凛花が静かに言い、律也がスマートフォンを取り出した。そこには、婚姻届を提出した日、二人で撮った写真が映っていた。並んだ名前と笑顔の二人。どう見ても本物だった。「これが……何かの冗談だろ?」黎真は信じられないとばかりに、かすかに笑って首を振った。「お前が他の男と結婚するなんて、ありえない。お前は俺を七年間も愛してきたんだぞ。そんな簡単に、他の男と結婚なんて……できるわけがないだろ?」「あなたも知ってるでしょ。私、あなたと七年間一緒にいたのよ」凛花は冷たく笑った。「七年……七年も付き合って、あんたは私に何の約束もしてくれなかった。でも、律也は出会ったその日に、私を連れて区役所に行ってくれた。私の本気を、ちゃんと受け止めてくれたのよ」
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