その後、菜月はアカウント設定からカスタマーサービスに連絡し、アカウントの削除を申請した。それは、かつて彼女が大切にしていた過去を、未練も見せずに埋葬する行為だった。晨也は突然、胸を引き裂かれるような痛みに襲われた。自分ですらこれほど苦しいのに、彼女がその時どんな気持ちだったのか、想像するのも怖かった。だが、彼はふと気づいた――なぜ「半年前」と「昨晩」だったのか?この二つの時点に、彼は違和感を覚えた。ブランコに座って日が暮れるまで考え込み、やがて顔を手で覆って呆然としたまま、皮肉めいた笑いを漏らした。半年前。それは彼が桜子と関係を持ち始めた頃だった。菜月は、とうに知っていたのだ。そしてその後も何度もチャンスを与えてくれていたのに、自分は一度たりとも応えられなかった。今度、本当に彼女は戻ってこないのだ。その晩、晨也はどこへも出かけなかった。桜子からの誘いの電話も、挑発的なメッセージもすべて無視し、ビジネス仲間からの連絡すらも自動で拒否されるままにした。今の彼には、誰にも会いたくなかった。ただ、菜月が寝ていたベッドの片側に身を横たえ、彼女の温もりを感じようとした。けれど、どれだけ横になっても、シーツは冷たいままだった。彼女は何も残さずに去った。まるで、彼の人生から完全に消えたかのように。彼は眠れぬ夜を過ごし、真夜中になって銀行や店から誕生日のメッセージが届いたことで、ようやく、今日は自分の誕生日だと気がついた。無意識のうちに、枕元の封筒に目をやった。その上に置かれた小さな箱を手に取ると、そこには菜月が残したメモが貼られていた。彼女が置いていった誕生日プレゼントだという。晨也は期待に胸を高鳴らせて箱を開けた。彼女の行き先に関する何かヒントがあるかもしれない。長年連れ添った夫婦なのだから、きっと……だが、彼が想像した光景は次の瞬間、完全に打ち砕かれた。箱の中に入っていたのは、装飾品などではなかった。そこにあったのは、溶かされたプラチナの塊と、大きなダイヤモンドだけだった。それは、二人の婚約指輪だった。菜月は、彼らの婚約指輪を溶かしてしまったのだ。晨也はパジャマのまま飛び起き、夜明け前に警察署へ車を飛ばした。「妻が行方不明なんです。もしかしたら自殺するかもしれない」警官は少し怪訝そうな顔をして聞いた
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