「今回は着けてないの?」紗良は温めたミルクを飲みながら、床に落ちている使用済みのひとつだけをちらりと見た。けれど、今夜直樹は確かに三回も彼女を抱いたはずだった。彼女の顔色が一瞬で真っ青になる。「う、嘘でしょ……まさか、忘れたなんて……?もし妊娠でもしてたらどうするのよ?」だが直樹はまったく動じる様子もなく、薄いシフォンの下に手を滑り込ませながら笑った。「わざとだよ」彼は紗良の耳たぶを甘く噛み、優しく弄ぶ。「もし子どもができたら、俺は君と結婚する。盛大な式を挙げて、子どもにも堂々とした家族を与える。君の父親にも認めてもらえるようにする。どう?」頬を赤らめた紗良は、慌てて口元を手で覆い、これ以上の下品な言葉を遮った。そんな彼女の、恥じらいと怒りが交じる表情を、直樹は何よりも愛していた。「またそんなことを……」直樹は彼女の柔らかな首筋に顔を埋め、そっと香りを吸い込む。その声はかすれていた。「もうこれからは使わなくていいだろ?子どもができたら、それを口実に君の父親に正式に結婚を申し込めるんだから」紗良の心がわずかに揺れた。南條家と桐生家は、商業の世界で長年にわたり激しく対立してきた。そんな中、いつもは従順な紗良が、両親に隠れて直樹と密かに交際していたのだ。もしかすると、子どもを利用すれば、両親の心を動かせるかもしれない……眠気が一気に押し寄せ、彼女はそのままうとうとと眠りに落ちた。だが、間もなく腹部の激しい痛みに目を覚まし、トイレに駆け込み、飲んだミルクをすべて吐き出してしまった。「桐生坊ちゃん、本気で紗良を孕ませて結婚するつもりなのか?」リビングでは、直樹が煙草に火をつけ、スマホのスピーカーをオンにしていた。「前半は正解。でも結婚?フッ、ありえないだろ。子どもが生まれたら、あいつはポイだよ」紗良はまるで悪夢を見ているような気分だった。だが、太腿を強くつねった痛みが、これが現実であることを容赦なく突きつけてくる。電話の向こうからは、爆笑が響いてきた。彼の計画を絶賛する声が飛び交う。「未婚で妊娠して、しかも宿敵に捨てられるとか、紗良の名誉は地に落ちるな!誰がそんな女と結婚するかね」「それに南條貴弘(なんじょう たかひろ)のじじいも、顔面丸潰れだろ?孫が敵の血を引いてると
Read more