控室のドアが皆の視線を背にして閉まり、外の様子は完全に遮断された。直樹は我慢できずに紗良に駆け寄ろうとしたが、豪華なウェディングドレスの大きなスカートに阻まれて足が止まった。紗良は黙って一歩後ろに下がった。「両親には私たちのこと、一度も話したことないの。全部、自分で決めたことだから」直樹の胸に、不安がじわじわと広がっていく。「前から出国のこと知ってたなら、どうして早く言ってくれなかったんだ?何があったんだよ?」紗良の視線には、複雑な感情が渦巻いていた。「自分がやったこと、まさか覚えてないわけじゃないでしょ?」「真琴とのバーでの件は、ただのゲームだったんだ……」まだ言い訳を続ける直樹に、紗良の我慢も限界を迎えた。「私に近づいたのって、彼女の復讐のためでしょ?私を妊娠させたのも、お父さんへの当てつけだったんじゃないの?ここまできて、よくもまあ平気な顔して私の前に現れたわね」そう言いながら、紗良の表情がわずかに歪み、皮肉めいた笑みを浮かべた。「ああ、そういうことか。私の婚約発表の場で大騒ぎして、皆に私を笑わせる。それも復讐の一環なのね」直樹は雷に打たれたように顔を青ざめさせた。やっぱり、気づいてたんだ……脳裏に、あの夜のベランダでの電話の記憶が閃いた。背後に気配を感じたのに、紗良が睡眠薬入りのミルクを飲んでいたからと、油断してしまった。あの夜だったんだ――間違いない。だってその前まで、二人で激しく愛を交わしていた。そのときの紗良は、いつものように素直で、彼にすべてを委ねていた。思い出すほどに、直樹の胸は後悔と苦しさで締めつけられた。もっと慎重にしていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。だがそれ以上に苦しいのは、紗良の冷たさだった。彼女は、やり直す機会すら与えてくれないのか。「紗良……あの件は、俺が悪かった!ちゃんと謝る。確かに最初は目的があって近づいた。でも、一緒に過ごした千日以上の時間――あの幸せな思い出まで、全部なかったことにするのか?」最初は深く反省していた直樹だったが、話せば話すほど、胸の奥に溜まった怒りが顔を出してくる。この三年間、彼なりに紗良を大切にしてきた。紗良が「城北の老舗の朝ごはんが食べたい」と言えば、朝五時に車を出して並びに行き、できたてを
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