その言葉に、ギュッと胸が苦しくなる。要《かなめ》は最初から私を「迎えに来た」と言っていた、私はそんな彼を拒否してしまったのね…… だけど要は、それ気にする様子を私に見せることは一度も無くて。彼の優しさと愛情深さに何度救われているのかしら。「向こう側の建物が中学校だ。その頃は親や周りに迷惑をかけてばかりで、あんまり良い思い出はないが……」「要にもそんな時期があったなんてね、ちょっと見たかったような気もするわ」 私の知らない要の事全部を知りたい、もっともっと貴方の事を教えて欲しいの。そんな私を見て要が……「……写真、今から見に来るか? 紗綾《さや》が俺のマンションに来るのが嫌では無ければ、の話だが」 そう言われて私は戸惑った。 自分勝手な感情で要のマンションを出て行ったのに、いまさらあの部屋に入る事なんて……「掃除はしているが、部屋はあの日のままにしている。紗綾がいつでも戻ってこられるように」「……本当に馬鹿だわ、貴方は」 それでも、こんなに私の事だけを想ってくれる人はきっとどこにもいない。それに彼はきっと、どれだけ私が逃げたとしても……どこまでも追いかけて捕まえてしまうはず。「どれだけ馬鹿でも構わない、俺はいつでも紗綾の帰れる場所でありたいから」 こんなにも愛して甘やかして、私を駄目にしてしまいそうな男。 だけど、どうしようもなく要と一緒に居たい。彼の隣に立つのは私でありたい。 でもそう言葉にすることが出来なくて……「そろそろ帰るか。俺の高校と大学はここから少し離れているから、また次に来た時にしよう」 そう言った要は私を助手席に乗せると、自分も運転席に乗り込み車のエンジンをかけた。 来た時と同じように高速を走っている間は、二人ともほとんど無言のままで。 こうやっていつも、要《かなめ》は出来る限り歩み寄ってくれている。後は私が心を決める番。 そう分かっているのに、私はまだきちんとした答えを要に返せないままで……「……どこまで送ればいい?」 要の声に顔を上げると、いつの間にか車は会社の駐車場に着いていて。 さっきは自分のマンションに写真を見に来ないかと言ったくせに、今度は「どこまで送ればいい?」と聞いて来る。 強引に手を引いて欲しい時に、そうやって貴方は私に選択肢を与えてくるのね。「写真、見せてくれるんじゃなかったの?」
Last Updated : 2025-08-03 Read more