Semua Bab 唇に触れる冷たい熱: Bab 71 - Bab 80

87 Bab

ハムスター見に来ないか? 1

 要《かなめ》の胸に抱かれたまま夜を迎えたのだが……少し離れたところから聞こえてくるカラカラという音で、夢現のまま彼とこうなる前の事を思い出していた。 あれはまだ、私がこの人の事を信じられず意地をはって素直になれなかった頃のことで。**「ハムスター、見に来ないか?」 いきなり私の行き先を塞ぎ、何の脈絡もなく御堂がそう言ってきたのは……金曜の就業時間を終えたばかりの事だった。「……」 いま、御堂《みどう》は何と言ったのかしら? こう言っては申し訳ないけれど、強面の御堂に小動物を組み合わせることを私の脳が拒否しているようにも感じる。「紗綾《さや》、どうして黙る。俺に似合わないと思うのならハッキリと似合わないと言えばいいだろう?」  言ってよかったのかしら? ハッキリ言ってしまうと、それはそれで御堂が傷付いてしまうんじゃないかと言えずにいたのに。  御堂はいつも強引で私を追い詰めていく男だけれど、本当はとても小さい事まで気を使ってくれる優しい人だとも知っている。  ……だから。「えっと、そう言うわけじゃないんだけれど……ハムスターがどうしたの?」 ごめんなさい、御堂。本当は似合わないって思ってしまったけれど、やっぱりそれをあなたには言いたくないの。「だから、紗綾にハムスターを見に来ないかと聞いている」  御堂に一歩前に踏み出されて、私は一歩後ろに下がってしまう。  何だかんだと私と御堂はお付き合いをしている関係になったけれど、まだまだ強引に迫ってくる御堂に慣れたわけでもなくて……「ハムスターね、いいと思うわ。でも、あの……そのね御堂、ちょっと近すぎだから……」  他の社員はほとんど帰っているとはいえ、私と御堂の2人きりというわけじゃない。ほら、横井さんだってこっちをチラチラと見ているじゃない。「付き合っている事を横井さんも知っているんだから、別に構わないだろ? で……結局のところ紗綾は見に来るのか、来ないのか?」 「見に行くって、もしかして御堂《あなた》の部屋に……?」  そりゃあ御堂は構わないかもしれないけれど、私は構うわよ! 後で散々揶揄われるのは、絶対に私の方なんだからね? 「見に来るかと聞いているんだから、俺の部屋に決まっているだろう? 明日は俺も紗綾も休みだし、部屋でゆっくり過ごせるからな」 「……休みだから、部屋
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-26
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ハムスター見に来ないか? 2

「……おい、何時までデスクでそうしてる? 終業時間はとっくに過ぎている筈だろう、残ってまでする仕事を頼んだ記憶も無いんだが?」 いつの間にか人がまばらになったオフィス。机の上に残したままの急ぎではない書類とにらめっこしていた私に、揶揄うように御堂《みどう》がそう声をかけてきた。  ……そりゃあ私だって黙ってここに残っていても、この人がすんなり諦めてくれるなんて思ってはいなかったけれど。「そんな遠回しな嫌味はいらないわよ、貴方だって私の返事も聞かずに先に戻ったくせに」 御堂は私が断れない事を分かって誘ったくせに、こうして急かしてくるんだもの。こっちだって少しくらいはそんな彼に歯向かってみたくもなる。こういう時だけ発揮される負けず嫌いな性格が、男性からすれば可愛くないのだと頭では分かってはいるのに。  それでも御堂がちょっとくらい戸惑ったり、困ったりした顔でも見せてくれればいい……そう思ったのだけれど、そうそう上手くいくわけもなく。「……なるほど。オフィスではクールな紗綾《さや》が、俺にだけそうやってむくれて見せてくれるのも悪くないな。それどころか、もっとお前のいろんな表情を知りたくなる」「また、そういう事を……臆面もなく」 そう言われて顔を赤くしてしまうのは、いつも私なのに。恥ずかしくなるような事を言っている本人は、いつもと変わらず飄々としているの。「言葉にする事で可愛い恋人が少しでも反応してくれるところが見れるなら、いくらでも言葉にしてやるさ」 「もういいわよ! さっさとハムスターを見に行きましょう」 結局私の方が先にギブアップ。こんな風にストレートに愛情をぶつけられることに慣れてない私には、こういう時どうしていいか分からないのよ。  御堂を車で待たせているうちに、急いで着替えて化粧をしてたまには髪をアップにしてみたり。  バタバタと支度を済ませ、最後にお気に入りのバックを持って彼の車の助手席へ。「ごめんなさい、待たせてしまって」 「……いや」 助手席に座った私を見て少しだけ目を泳がせる御堂。なんなの? 今日の私、どこかおかしいのかしら?「何? 何か言いたいことがあるみたいだけど」 「いや、紗綾の雰囲気が会社と全然違うから……そういう髪型も、とても似合っている」 「ゴホン」とわざとらしい咳をした後、御堂は発進させた。御堂は私の
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-27
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ハムスター見に来ないか? 3

 何となく照れ臭い雰囲気のまま、御堂《みどう》の運転で彼のマンションへ。御堂が部屋のカギを開けると、チェストの上に置いてあるハムスターのケージから、カシカシ……という音が聞こえてくる。「アイツ、俺が帰ってくるといつも《ああ》なんだよ」 ケージから御堂に向かって、一生懸命手招きをするようなハムスターの仕草に思わず笑ってしまう。「あら、御主人様が帰ってきてくれたのが嬉しいんじゃないの? とても可愛いらしいじゃない」「アイツは俺の事を、餌をくれる人間としか認識していなさそうだがな。まあいい、紗綾《さや》もおやつをやってみるか?」 そう言って御堂が渡してきたのはスティック状の袋で、赤いフルーツの模様がとても可愛いけれど。私がそれを手に持ったまま戸惑っていると、御堂が切り口を開けてもう一度私に持たせた。「ほら、そのまま茶太郎《ちゃたろう》に食わせてやってくれ」「茶太郎? この子の名前は、茶太郎って言うの?」 言われてみれば、このハムスターの毛色は茶色と白だけど。そのままの名前の付け方なのが御堂らしい。 ハム太、ハム助なんてつけてもいても、彼ならばなんらおかしくないような気がするし。「茶太郎ちゃん、おやつですよー?」 声をかけながらおやつをケージに近付けると、すぐに寄ってきてくれる茶太郎。私が差し出したおやつをペロペロ、モグモグと食べてくれている。 あまりペットを飼ったことのない私は、その可愛さに興奮してしまい……「ねえねえ、見た? すぐに食べたわよ? 凄い、可愛いわね!」 なんて、御堂の腕を掴んで一人ではしゃいでしまっていた。そんな自分に気が付いて急いで御堂から手を離したのだけれど。「茶太郎《コイツ》よりも、俺の隣で喜んでいる恋人の方が何十倍も可愛いが?」「そ、そんな事をいちいち言わなくていいの!」 いつもこうなのよ! 自分の言葉や行動より、その後に御堂の言葉に真っ赤にならなきゃいけないんだから。「ほら、紗綾。食いしん坊な茶太郎が残りを早くよこせって言ってるぞ?」「あ、ごめんね。茶太郎ちゃん」 慌てておやつを茶太郎に食べさせると、全部綺麗に食べてくれた。茶太郎はおやつをもらってご機嫌なのかスリスリと頬を触らせてくれた後、奥に引っ込んで出て来なくなって。「……もしかしてお腹いっぱいで寝ちゃった?」 動物の事に詳しくない私には分からな
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-27
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ハムスター見に来ないか? 4

「ほら、ミルクも砂糖も多めにしておいた。これが好きだろう?」 御堂《みどう》からカフェオレを受け取りながら、不思議に思う。私は仕事の時はブラックしか飲まなくて、仕事が終わった時だけご褒美に甘いカフェオレを飲むの。「どうして……?」「……聞いても怒らないか?」 困ったような顔をしないでよ、そんな顔をされたら「怒るわよ」なんて言いにくいじゃない。「横井《よこい》さんが、紗綾《さや》は本当はカフェオレが好きなんだと、自分へのご褒美にしているんだと話してくれてな」「そう、だったんだ。ちょっとビックリはしたけれど、そんな事まで怒ったりしないわよ。これ……美味しいし」 そう、御堂の淹れてくれたカフェオレはお店で飲むものより美味しかった。御堂に言うと「愛情だ」なんて言いそうだから言わないけれど。「……そうか」 御堂は私の頭をポンポンと撫でると、そのまま私の隣へと腰かけた。 二人掛けのソファー、腕が触れてしまいそうなほど近い私と御堂。さっきまでリラックスしていたのが吹っ飛んで急に緊張してしまう。 今まで強引に2人の事を進めてきた御堂がどんな行動をとってくるのか、私は期待なのか不安なのか分からない気持ちでいっぱいになる。「キャッ……」 突然、御堂の大きな手が私の肩の触れる……! 驚いて思わずソファーの端へと移動する私。そんな私を見ている御堂も驚いた様子だけど……「だって、御堂が急に触れるから!」 あまりに緊張していた私は、御堂が全部悪いみたいに言ってしまう。恋人の御堂に触れられる覚悟くらい私だってしておくべきだったのに。「あのな紗綾、俺は恋人になったからと言ってお前が望まない事をするつもりはない。だからそんなに俺を怖がるな」 少し傷付いたような御堂の表情を見て、素直に謝りたいと思った。私だって御堂にこんな風に避けられたらショックだもの。「ごめんなさい。御堂が怖いんじゃなくて……私が緊張して気持ちの余裕がなかったの」「いい、気にしてない。けれど紗綾が許してくれるなら、少しだけ抱きしめていてもいいか?」 そっと後ろから回された両腕。私を大切な物のように扱う、その力強い腕に私も安心して身体を預けられるの。「御堂、暖かい……」 回された腕と背中に当たる彼の体温が、あまりに心地よくて……私はうっとりとしてしまう。 そう言えば私、今日はまだ寝足り
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-27
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お前だけでいい 1

「そう言えば要《かなめ》は私の事を迎えに来たって言っていたわよね、あれについてはまだ教えてもらえないの?」 要と再会したばかりの頃、確かに彼はそう言ったの。彼にとって大切な事を、ずっと思い出せないことが心苦しくて……「紗綾《さや》が気にする必要はない。確かに俺にとっては心の支えだったが、今こうして紗綾が傍にいてくれさえすればそれだけでいいんだ」 要にとって心の支え? そう言えば【かんちゃん】は、何故突然引っ越していったのだろうか?「そう言えば要は、父子家庭で育ったと言っていたわよね? 私の記憶では確か以前はお母さんがいた気がしたのだけど――?」「紗綾、今はその話をする必要はない。紗綾と過ごすこの時間だけは、あの頃の事を考えたくはないんだ」 今まで優しかったはずの要の瞳が、まるで別人のように鋭くなっていた。もしかしたら要にも私が知らない深い傷があるのかもしれない。 もしそうなのならば要が私を救ってくれたように、私も要の力になりたいのに。「そう、じゃあ私は要が話してくれるのを待つわ。こう見えて待つのは得意な方なのよね」 「全く、紗綾には敵わないな」 そう言って彼は、普段見せないような笑みを見せてくれる。私は要がもっと心から笑えるように、支えてあげられる存在になりたいと強く思う。 彼の腕に抱き締められ、その体温を肌で感じながら……ずっと一緒にいられる二人の未来を思い描いてーーーー 要《かなめ》と暮らし始め段々落ち着いてくると、今までは気付かなかった彼の色んな一面を知ることが出来た。 要が料理を得意な事は知っていたけれど、実は掃除は全然ダメで私に内緒で家政婦さんを雇っていたこと。 いつもは不愛想なのにハムスターにおやつを食べさせている時ちょっとだけ微笑んでいたりすることとか。 こんなちょっとした発見で、毎日が楽しくてしょうがなくて。「紗綾《さや》は俺と住み始めて生き生きしてきたな。もっとストレスを感じるんじゃないかと少し心配していたんだが」 彼の苦手な掃除の最中に後ろからそう話しかけられて、クルリと振り返る。確かに要の言う通り、私は今まで誰かと暮らすとストレスを感じることが多かった。「どうしてかしらね、貴方とは何だか自然体でいられるの。一緒にいて、すごく楽なのよ」 「俺といて楽……?」 あら? 要は喜んでくれるかと思っていたのに、彼
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-28
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お前だけでいい 2

 複雑な思いを抱えながらも、実際には要《かなめ》と二人の生活がとても楽しくて。本当に、ずっとこのままでいれればいいとさえ思っていた。 彬斗《りんと》君とのこともやっと気持ちの切り替えが出来そうだった頃……彼はある日、突然会社を辞めてそのまま姿を消したのだった。「紗綾《さや》、俺はどうしても伊藤《いとう》 彬斗の事が気にかかる。しばらくの間、一人だけにならないよう気を付けて欲しい」 要からそう言われて会社の行き帰りは出来るだけ彼と一緒に、会社では常に横井《よこい》さんと一緒に過ごすことになった。「本当に主任は愛されていますねえ、もうこれは溺愛と言っても良いんじゃないですか?」 なんて昼食中もしつこく揶揄ってくる横井さん。彼女は今でも私と要の事を応援してくれている、心強い味方。「溺愛って、まさかそんな事は……」 と言いかけて考えてみる。確かに要のそれは、溺愛と呼んでもおかしくないのかもしれない。彼は何よりも私の事を優先して考えてくれるから。「言いながら照れないでくださいよ、こっちの方が恥ずかしい。そう言えばあの噂……主任は知っていますか?」 そう言われたってしょうがないじゃない。一度、横井さんも同じように愛されれば分かるのはずなのに。 そう言い返そうとしたが、続けられた言葉が気になってしまって。「横井さん、あの噂って……?」「え、主任知らないんですか? 休職していた課長が、もうすぐ復帰するって噂ですよ⁉」 横井《よこい》さんの言葉に、パンを食べていた手がピタリと止まる。心臓がドクドクと音を立てているのがハッキリと分かった。 ……ああ、とうとうその時が来てしまったんだ。「そう……その話、誰がしていたの?」「えっと、内緒ですよ? 最近私にアプローチしてきてる、ちょっと軽めの人事の男性社員から聞いた話なので」 誰かの勘違いであればいい、そう思ったのだけれど。横井さんの情報はどうやらかなりの正確そうだった。「ですけどね、課長の話にはまだ続きがあって――」 私は横井さんのその話の続きに驚いてしまった。あんなに真面目そうに仕事をしていた課長が、まさかそんな事を?「……その、ちょっと信じられないわね。今聞いたばかりでは、私は何とも言えないわ」 あの課長には色んな仕事を教えてもらったし、部下として彼の事をそれなりに尊敬もしていた。「でもです
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-28
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お前だけでいい 3

 横井《よこい》さんに聞いた要《かなめ》と課長の話が気になって、なかなか仕事に集中出来ないでいた。その日の午後に……「長松《ながまつ》 紗綾《さや》さんって貴女ですよね? さっき、これを預かったんだけど」 お手洗いに行く途中に知らない女性に呼び止められて、白い手紙を受け取った。その手紙には宛名も無くて……「あの、これは誰から……?」「ええと、ほら。最近、貴女のオフィスに来た……伊藤《いとう》さんだっけ? 最近見ていなかったけれど、それを貴女に渡して欲しいって」 女性の言葉に、一気に鳥肌が立ちそうになる。彬斗《りんと》君が会社に来なくなって安心していたけれど、彼が今現在どうしているかまでは分かっていなかった。「それじゃあ、私は渡したからね?」 女性が去っていくと、私は急いで階段の影に隠れて手紙の封を切る。良い内容でないことは間違いないが、放っておけば何をされるか分からない恐怖もあったから。『紗綾《さや》は御堂《みどう》が支社に来た、本当の理由を知りたくないか? もし紗綾が詳しく知りたければ、昔二人でよく行ったあの店で――』 どうして? どうして私が一番気になっている事を、会社に来なくなった彬斗《りんと》君が知っているっていうの?  もしかして彼は要《かなめ》から逃げていたのではなく、彼の事について調べていたのだろうか?『紗綾が来なければ、この話を会社の全ての社員にバラすつもりだから』 最後の脅しとも取れる一言。私と彬斗君の事でこれ以上、要を巻き込むわけにはいかない。  私は手紙をギュッと握りしめて、歯を食いしばりそのままオフィスへと戻った。「主任……さっきの事、やっぱり気にしているんですよね?」 デスクに戻ると、すぐに隣の席の横井《よこい》さんが声をかけてきた。さっきの事と言われた瞬間、彬斗《りんと》君からの手紙がバレてしまったのかとドキリとする。「さっきの事って、別に私は何も……」「いえ、御堂《みどう》さんの事について確信も無いのにペラペラと話すべきじゃなかったです。結果的に、主任を不安にさせてしまいましたし」 横井さんの言っている事が御堂の話で少しホッとした。彼女の事だって、彬斗君の件で何度も巻き込みたくなかったから。 御堂の事で私の様子がおかしいと思っていてくれれば、今はその方が都合が良い。「そうね、不安じゃないと言えば
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-28
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お前だけでいい 4

 そのまま仕事を終えると、鞄を持って急いでビルを出る。少しでも早く、彬斗《りんと》君のところへ行って彼を説得しなくては。 そう思って目的地まで走り出そうとした時、誰かに後ろからガシッと腕を掴まれた。「かな……っ、え? 横井《よこい》さんっ⁉」 てっきり要《かなめ》だとばかり思ったのに、そこにいたのはとても怒った顔をした横井さんだった。どうして彼女はこんなにも怒っているの……?「どうして主任は、何度も一人で危ない事をしようとするんですか? いつも隣にいる私や御堂《みどう》さんはそんなに頼りになりませんか?」 「私は別にそんな事……ただ貴方達を、これ以上巻き込みたくなくて」 本当は分かっている、ちゃんと相談しない事で二人に余計な心配をかけているって事。それなのにいつも私は言えないでいるの。「分かっていますよ、それくらい。だからって主任が一人で危険な目にあうのは構わないって思っているんですか? 今日の相手は、あの伊藤《いとう》さんなんですよね!?」 「どうして、横井さんがその事を……?」 そう言えばデスクの引き出しに彬斗君からの手紙を入れたままだった。横井さんはそれを見て……?「悪いとは思いましたが、主任の顔色が良くなかったので勝手に読ませていただきました。どうしても……伊藤さんの所に行くんですか?」 コクリと頷く、私が行かなければきっと要に迷惑がかかるもの。「じゃあ、私も一緒に行きます。主任がなんと言おうとこれだけは譲れません!」 貴女を巻き込みたくないし、危険な目にもあわせたくない。これ以上、迷惑かけたくない……けれど何を言ってみても横井《横井》さんを説得できなくて。 ……結局、今回も彼女にこうして助けられているの。「主任、何かあったらすぐに大声を出すんですよ! ああいうプライドだけ高い男は、そういう悪い意味で目立つことを嫌うはずですから」 店の外で横井さんからそう言われて考える。そう言えば確かに彬斗《りんと》君はそう言うタイプかも知れない、私はいつも彼の顔色を窺って過ごしていたから。「けれど逆上する可能性もあるんじゃないかしら? きっとそうなったら手の付けられないタイプだと思うの」「そこは、ほら……何とかなると思いますよ?」 何故か一人で「うん、うん」と頷き納得してしまう横井さん。ねえ、あなた何か私に隠し事してない?「横井さ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-29
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お前だけでいい 5

「私が無理矢理ついてきたんですよ。私は伊藤《いとう》さんのことを、これっぽっちも信頼してないんで!」 横井《よこい》さんは最初から彬斗《りんと》君に対してかなり喧嘩腰なっている。出来るのなら、なるべく穏便に話を済ませたいとこだけれど……「はあ、キャンキャンとうるさい子だな。俺と付き合っている時には、こんなお節介な女とは仲良くしてなかったのに」 彬斗君は横井さんを見た後で私の事を睨む。なんでお前は昔と変わったんだと言わんばかりの目で。「あの頃は彬斗君がそう望めば言われたままに応えていたと思う。でも、もう違うの。今の私は御堂《みどう》 要《かなめ》の恋人なんだもの」 今、私がなんでも応えてあげたい相手は要だけなの。 もっとも要は彬斗君の様に私の親しい人を否定するようなことはしないけれど。「……昔の紗綾《さや》の方が、素直で可愛かったよ」「そう? それでも私は、今の自分の方が好きなの。あの頃の私にはもう戻らないわ」 それは素直で可愛かったんじゃない。きっと彬斗君にとって、都合の良い女で便利だっただけ。「そんな生意気な口、いつまで聞けるか楽しみだ……紗綾も気になっているからここまで来たんだろう? 《あの男》の秘密を」「御堂さんの、秘密?」 横井さんの言葉を聞くと彬斗君はニヤリと微笑んで、鞄から白い封筒を取り出してバサリとテーブルの上に置いた。 その拍子に封筒から数枚の写真が飛び出たのだけれど……「ほら? 紗綾《さや》、ちゃんと見てみろよ」 そう彬斗《りんと》君に言われて、私は飛び出した写真の中から一枚を手に取って見てみる。もしかしたら私にも、要《かなめ》の秘密を知りたいという気持ちがあったのかもしれない。 その写真に写っていたのは要と五十歳くらいの男性が、レストランで食事をしているものだったのだけれど。「どうして、この人が要と一緒に……?」 だって、私はこの男性を知っている。何度も社内広報に彼の写真が映っているのを見たことがあるもの。「面白いだろう? たまたまじゃない、他の写真に写っているのも全部同じ人物だよ」 嘘だと思いたくて他の写真にも手を伸ばす。 一枚確認して、また次の一枚……全て要ともう一人の男性だけ。料亭、カフェ、バー場所は違っても写っている人は同じだった。「どうして要が、うちの会社の社長と……?」 しかも写真を見る
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-29
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お前だけでいい 6

「なあ、紗綾《さや》も知りたいだろう? 御堂《みどう》 要《かなめ》と社長がどんな関係なのかって。あの男は教えてくれなかったんだろう、俺が紗綾に教えてやるよ」 彬斗《りんと》君は椅子から立ち上がって私の傍へと近寄って来る。彼から離れなくてはならないのに、身体は少しも動こうとしない。「主任、その男性は御堂さんのお父さんとかじゃないんですか? 実は御堂さんは社長の息子だとか……」 横井《よこい》さんの言葉に私は小さく首を振る。私の記憶にある要のお父さんはこの人じゃなかったし、要は確か前に私に父子家庭で育ったと話していた。「じゃあ、この二人はいったい……」「君も知りたいなら教えてあげるよ、柊《ひいらぎ》社長はね、御堂 要の母親の再婚相手なんだよ。父を在学中に亡くした御堂 要は大学を卒業するまでずっと、自分の事を息子のようにかわいがる柊社長から援助を受けていたんだ」「要のお母さんが、再婚……?」 そう言えば要は母親のことを話したく無さそうだった。もしかしてこの事を少しでも隠すためだったの?  でもいったい何のために……?「そう、でも御堂 要は社長からの養子縁組の申し出を断っている。援助してもらった分は柊社長の会社で働き、全て返すと言っていたそうだ」 確かに要ならばそういう選択をするのもわかる気がする。でもそういう事だとしたらわざわざ私に隠す必要はないはずだわ。「それと、この男のことももちろん知っているよな? 柊社長の息子で次期社長の柊《ひいらぎ》 悟《さとる》。こいつが御堂 要の異父弟だ」 次期社長が要の異父弟……? でも養子縁組を断った要にはあまり関係のない話なんじゃないの……? 「御堂《みどう》 要《かなめ》は将来、本社に戻り柊 悟の補佐を務める事になる。その時に紗綾《さや》はどうするんだ?」「どうして? 要が次期社長の補佐をする必要なんて……?」 それでもどこかで「やっぱり」という気持ちもあった。要の程の仕事の能力があれば、柊社長も彼を手元に置いておきたいはずだから。「あの男ほど能力のある奴が放っておかれるわけないだろう。この支社に来たのだって御堂 要の一時的な我が儘にすぎない。すぐに本社に戻らされるだろうさ」 要の我が儘……もしかしてその理由が私だったりするのかしら? だとしてもこうやって恋人になった私を、要はどうするつもりだっ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-29
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