―Prologue— 唇に触れる御堂《みどう》の指はとても冷たいのに、私の唇はジンジンと熱を持つ。 睨むような切れ長の目に囚われて、指一本動かすことが出来ないのに…… 心臓の鼓動は驚くほど速い。 お願いよ、御堂《みどう》。 それ以上何も言わないで……「…… よく覚えておけ、紗綾《さや》。 お前は俺からどうやったって逃げきることなんて出来ないのだから――」 大きな手が私の視界を塞ぎ、何も見えないくなる。 ああ…… 蛇が絡みつくように、御堂《みどう》は私をとらえて離さない気なんだわ。 ****「あっ、茶柱が立ってる。ふふ、ラッキー。 今日は良いことありそう!」 朝食用に淹れた暖かい緑茶に、茶柱が立っているのを見つけて朝からいい気分になる。 私はおばあちゃんっ子だったせいもあり、昔から朝食に飲むのは緑茶と決めているのだけど茶柱が立った日はいつも良いことが起きていた。 用意した朝食を食べながらテレビのニュースををボーっと眺める。 テレビに懐かしい景色が映る。 ああ、子供の頃にお祖母ちゃんとよく散歩した公園じゃない。 変わらないなあ、あの滑り台。 よく幼馴染の男の子と、どっちが先に滑るかで喧嘩したっけ? いつの間にか引っ越して行ったあの子は今も元気にしてるだろうか? あまりに昔の事で、もう名前も出てこないけれど、子供の頃の大切な思い出よね。 そう言えば、骨折した課長の代わりが今日から来るって言ってような。 どんな人だろう、仕事が出来て何でも相談しやすい人だといいな…… そんな事を考えながら支度を終えると、私はバッグを持って今日も元気に部屋の玄関を開ける。 ほら、今日もいい天気! 私の名前は長松《ながまつ》 紗綾《さや》。 二十九歳の仕事が生きがいのOLだ。
Terakhir Diperbarui : 2025-07-05 Baca selengkapnya