All Chapters of ティン王国のデッカとリザベル The Happy Lovers: Chapter 11 - Chapter 20

31 Chapters

第十一話 流石は私の未来の旦那様

 オーティン通りから東側に数えて四本目の街道沿い、その途中に空いた空間に、奇妙な五人の男女の姿が有った。  それぞれ男女のペアと、三人の男達とに分かれて対峙していた。  人数的には三人組の方が有利。しかし、現況は全く真逆だった。 男女のペアの方は、余裕の笑みを浮かべながら自然体で立っていた。  対して三人組の方は、それぞれの厳めしい顔に引きつった表情をしながら、奇妙な片足立ちをしていた。  何の意味が有ってか、男達は右腕を真上に突き上げて、左手を胸元に添えていた。更に右膝を曲げて、足の裏を上向きにしながら左脚に重ねていた。彼らの格好を見ていると、「シェーッ」という幻聴が聞こえた。  そのポーズの意味は「驚き」だった。彼らは「人生最大級の奇跡(或いは絶望)」に遭遇していた。彼らの視線は「それ」に釘付けになっていた。  三人組の視線は、男女のペアの「頭部」に集中していた。 そこには「角」が生えていた。  角。彼らの国、ティン王国では「ティン」と呼称する。 尤も、ティンならば三人の男達の額からも「指の第二関節から先程の大きさ」のものが一本ずつ生えていた。「ティンが有る」程度のことならば、驚くに値しない。  しかし、三人組は驚いた。恐怖した。その理由が、彼らの脳内に何度もリフレインしていた。 デカい、絶対にデカい。デカ過ぎるっ!! 男女のペアの内、男性(実年齢十五の男子)の方、そ額に生えたティンは「大人の男性の腕、その肘から先」と思えるほど長大だった。その先端から中ほどまでが「金属的な光沢を持つど漆黒」に染まっていた。  女性(実年齢十五の女子)ほう、その両蟀谷辺りから生えたティン(二本有るので『ティンティン』)は、「大人の女性の腕、その肘から先」と思えるほど長大だった。その先端部分から中ほどまでが、「金属的な光沢を持つ紅蓮」に染まっていた。 こんなデカいティン、見たこと無い。 三人組の男達の常識が、それぞれ音を立てて崩れ掛けた。さもありなん、宜なるかな。  ティン王国の歴史に於いて、「最大」と言われたティンの大きさは「手」と表現されていた。  しかし今、三人の男達の目に映っているティンは「腕」なのだ。歴史を逸脱するほどのデカいティンを目の当たりにして、「目と常識を疑うな」と言う方が無理な話だろう。  しかし、男
last updateLast Updated : 2025-07-19
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第十二話 この人は、何をしているのだろう?

 王都オーティンの「路地裏迷宮」。縦横に入り組んだ隘路の中を、五人組の探検隊が二列横隊(前『三』、後『二』)で進んでいる。  探検隊となればチームワークの乱れは命取り。しかしながら、五人の内後列を歩く男(齢十五の男子)は現況に疑念を覚えていた。 何故、表通りに出ないのだろう? 王都城下町の構造は、南北を貫く複数本の街路を中心に「碁盤の目」を形成していた。例えるなら古代中国の都市、日本では京都、或いは「平安京」といったところ。態々面倒な隘路を進む必要は、全く無い。そのはずだった。  ところが、前を行く三人組の男達は、何故か表通りには出ず、路地裏の隘路ばかりを突き進んでいた。デッカやリザベルが疑問を覚えるのも当然だろう。宜なるかな。  しかし、三人組には彼らなりの理由が有った。 三人組、「王都参事会の保安委員」達にとって、「この道」が慣れ親しんだホームグラウンドだった。  三つ子の魂百までも。幼少期の癖が、そのまま現状に反映されていた。 しかしながら、ゲスト(デッカとリザベル)を連れて歩く場所としては、不適当であることは否めない。普段の保安委員達ならば、その事実に気付けただろう。  しかし、「今」の彼らは全く余裕が無かった。 デッカ殿下、リザベル辺境伯令嬢を、参事会本部にお連れせねば。  急がねば、急がねば。  ああ、デッカ殿下。ああ、リザベル伯爵令嬢様。 保安委員達は極度の緊張状態にあった。  三人とも厳めしい顔をこわばらせながら、「手と足が同時に出る」という不自然な歩き方をしていた。しかも、全身が固まっているかのように、手足は真っすぐ伸びたままだった。その様子は、見る者に「玩具の兵隊」を彷彿とさせた。  人間ではない。少なくとも正常ではない。そのような状態で真面な気遣いができるはずもない。彼らは、それぞれの体に染み付いた「幼少期の記憶」を無心でトレースし続けているだけだった。 三人を追いつめた理由、原因は、彼らの後ろを歩く二人の男女に有る。より正確に言うならば、「今は奇妙な帽子に隠されたデッカ達の巨大なティン(或いはティンティン)」だった。 あんなに「デカいティン」見たこと無い。あんなにデカいティン見たこと無い。あんなにデカいティン――…… 史上最大のティン(或いはティンティン)。その空前絶後の長大さに、保安委員
last updateLast Updated : 2025-07-20
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第十三話 お役に立てて、何よりですわ

 王都参事会本部。王都城下町に並ぶ家屋群同様、基本カラーは「白」であった。  本部の中も、財務委員会の部屋も白かった。デッカもリザベルも初見であったものの、いい加減見慣れていた。今更目を惹くものは無い。そう思っていた。  ところが、財務委員長に案内された部屋に入った瞬間、「「!」」 二人は思わず息を飲んだ。  その部屋は、やはり白かった。しかし、それ自体が輝いていると錯覚するほどの「驚きの白さ」だった。 部屋を囲む白い漆喰の壁は光沢を帯びるほど磨き抜かれていた。  その中に置かれた調度品も「電飾でも付いているのか」と錯覚するほど白く輝いていた。  部屋の中央に置かれた木製の長卓も、西奥の窓の下に置かれた木製の執務机も、それぞれ「金属製」と錯覚するほど輝いていた。  長卓を東西に挟む白い革製のソファも、執務机の背もたれ付き白い革製の椅子も、それぞれ「絹製」と錯覚するほど輝いていた。  デッカ達が潜った部屋のドアも、その内側は「ワックスでも掛けたか」と錯覚するほどピカピカだった。  部屋の隅々まで磨き抜かれていた。その成果が「驚きの白さ」となって、デッカ達の視界に映っていた。 しかし、唯一点、薄暗い個所が有った。  西奥に設置された「窓」。その向こう側は、別の建物によって陽光が遮られていた。 現在地は、王都参事会本部一階、西北端奥。部屋の名前は「参事会委員長室兼、賓客用応接室」。最奥であるが故に、窓の向こう側は路地裏になっていた。  余談だが、「西北」という表記は土地建物に関するもので、方角の際は「北西」となる。ややこしい。  余計な豆知識は兎も角、現在地は目が痛くなるほど真っ白な部屋だった。  何故にそこまで白さに拘ったのか? その理由は、路地裏の暗い雰囲気に飲まれまいとする参事会委員達の「意気込み」だった。その努力と成果は褒めてやりたい。  しかし、全てのゲストが「これは凄いですな」と褒めてくれる訳ではない。デッカ達には余り良い印象を覚えさせなかった。 目が痛い。  目が痛いですわ。 二人とも「視界を塞ぎたい」という衝動に駆られていた。それに耐えながら、現在二人は部屋中央に置かれた長卓のソファ(窓側)に腰掛けていた。  出入り口から見てデッカは右(北)側で、リザベルは左(南)側だった。二人の関係性を鑑みれば、このまま「いい
last updateLast Updated : 2025-07-21
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第十四話 ちょおっと良いですか?

 参事会委員長室兼、賓客用応接室。  参事会本部の建物の中で、最も白く輝く白金の間に、ファイルケースの山がそびえ立っていた。それを四人の男女が囲んでいる。 西側のソファに若い男女のペアが座っていた。  東側に中年男性のペアが座っていた。  それぞれの前には「山」がそびえ立っている。それが目に入らなないはずはなかった。  しかし、誰も「山」を見ていなかった。彼らの視線の先は、男女のペアの男性、その手に握られた一冊ノートだった。 ノートのタイトルは「各種類別税収まとめ」。男女のペアの男性、デッカがページを捲ると、そこには王都に出回っている商品の名称と、それに掛けられた税金の情報が総括して記載されていた。「これは――」 デッカの口から小さな声が漏れた。それは無意識に零した独り言だった。誰かに聞かせるもものではなかった。  しかし、他の三人が無言だった為、デッカの独り言は全員の耳にハッキリ聞こえていた。  すると、デッカの対面、斜め前に座った中年男性、トニィが反応して声を上げた。「どうです?」 トニィの顔には満面の笑みが浮かんでいた。その表情を見ると「自信満々」という印象を覚えた。見る人によっては「傲慢」と思われるかもしれない。  デッカにとっては前者、納得の表情だった。「これは、本当に有り難いです」 デッカは視線をノートに釘付けにしながら、トニィに向かってペコリと頭を下げた。 各種類別税収まとめには、今年度分の種類別税収総額だけでなく、何と「前年度比」も記載されていた。それらの情報は、デッカの目的、「王都税収率低下の謎の解決」に有用なものだった。 本当に凄い。参事会が担当した王都の税収状況が手に取るように分かる。 デッカにとって望外の便利アイテムだった。その内容を読むほどに、「これで謎が解明できる」と思えた。デッカの顔に笑みが浮かんだ。  ところが、途中からデッカの表情は曇り出した。それに併せてページを捲る速度も下がっていった。終には――ピタリと止まった。  デッカの変調は、他の三人の目にもハッキリ映っていた。「「「?」」」 リザベルも、オガルタも、トニィも、デッカを不思議そうに見詰めながら、揃って首を傾げた。そのタイミングで、デッカはノートから視線を外して顔を上げた。  デッカ以外の三人は、デッカの顔を見た。そこには「渋柿
last updateLast Updated : 2025-07-22
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第十五話 より多くの人が幸せになるとすれば

 白い参事会委員長の部屋は深海の底に沈んでいた。そのように錯覚するほど、重苦しい雰囲気に包まれていた。  国王による不正行為。その可能性が、部屋の空気をこれ以上なく重くしていた。 この問題、如何にして解決すべきか? 部屋の中にいる四人の男女は、ファイルの山が乗った長卓を囲みながら、白いソファの上で「あれやこれや」と想像を巡らせていた。しかし、解決方法を考えれば考えるほど、それぞれの脳ミソは鏡石並みに重くなった。それに併せて場の空気が質量を増した。 一体、どうすれば良いんだ? ティン王国第一王子デッカ・ティンは懊悩していた。頭を抱えたくなる衝動を必死に堪えていた。 デッカの隣に座ったリザベルは、既に頭を抱えていた。  デッカの対面に座ったオガルタは、遠い目をしていた。  三人とも諦め掛けていた。心折れ掛けていた。そこに、「ちょおっと良いですか?」 一人の中年勇者が声を上げた。 トニィ・タニティ。今年で四十一歳。参事会財務委員長にして、三姉妹(十二歳、十歳、八歳)の父。特技は計算と演奏。  激務の財務課の中では最も仕事が早い。だからと言って、空いた時間を遊び(ソロボン演奏など)に使っているのは如何なものか?  その悪癖のせいで、部下を含めた周囲の者から「不真面目な奴」と陰口を叩かれている。  しかし、トニィが有能であることは、参事会委員の誰もが認めているところ。参事会の最高責任者オガルタ・ケインツから「どこにでも良そうで、どこにもいない男」と評されている。  そんな禅問答を体現したような男が、誰もが「打つ手なし」と諦め掛けていた難問に挑もうとしていた。 勇者トニィ。  その姿を「三対の目」が見詰めていた。  それぞれの視線に込められた想いは三者三様だった。 オガルタは殆ど涙目で、不安げだった。  リザベルは、本人的には真面目モード全開だった。しかし、彼女の視線は余りに鋭利だった。トニィの顔をズバズバ切り刻んでいた。    滅茶苦茶痛い。 トニィの目に薄っすら涙が浮かんだ。その様子は、対角線上に位置するデッカの視界に映っていた。 頑張って。頑張って下さい、トニィさん。 デッカは心中でトニィを激励していた。この場で最もトニィに期待を寄せている者は、間違いなくデッカだった。 三者三様の期待を一身に背負
last updateLast Updated : 2025-07-23
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第十六話 おスケベなのでございますか?

 季節は初夏。果てしなく澄み切った青空には「ギラギラ」と擬音が聞こえるほどの太陽が優しく、時折激しく地上を照り付けている。その眩い輝きは、人々の目に白いものはより白く、黒いまで白くなっているかのように錯覚させていた。  白く眩しい石畳に並んだ白い丸テーブル群もまた、テクスチャを剥がした3Dモデルのように白く輝いていた。 王立オーティン大学食堂カフェテラス。  何かと「曰く」が有る場所だ。今日も、何やら不穏な空気が流れていた。  その「象徴」、或いは「原因」と言えるものが、カフェテラス中央に位置した白い丸テーブルだった。 そこには雪のように白い「大パラソル」が立っていた。それがテーブルに影を落として、仄かな黒に染め上げていた。その様子は「白いシャツに付いた墨汁のシミ」を彷彿とした。  実際、周りのテーブルは「ガラガラ」と閑古鳥が鳴いていた。その為、「シミ」は一層目立っていた。その周りを見れば、無人と錯覚する。しかし、カフェテラステーブル群の縁、外周には人だかりができていた。 一体、これから何が始まるのだろう? 不幸にして現場に居合わせた学生達は、遠巻きに「墨汁のシミ」を眺めていた。すると、「シミ」の方から声が上がった。「デッカ殿下は、『おスケベ』なのでございますか?」 白いテーブル群の間に、冷たくも爽快な涼風(美声)が吹き抜けた。それが居合わせた全ての者の耳を存分に弄った。  その直後、学生達の目が、漏れ無く、一様に、大きく開いていた。 え? えっと――え? オーティン大学生にとって「涼風ボイスの意味」は易門だった。しかし、理解できたからこそ困惑した。 今、「おスケベ」とか――いや、そんな言葉、言っていないよな? 学生達は聞いた耳を疑った。その真偽を確かめるべく、全員「涼風ボイス」の発信源に注目していた。  涼風ボイスの声主は「見目麗しい美少女」だった。しかし、残念なことに可愛げが無かった。  少女の美貌は全くの無表情だった。それは彼女を見る者に「人形」のような非生物的な印象を覚えさせた。しかし、人形ではなかった。 その少女の名は「アリアナ・ティルト」という。ティン王国南方領を支配するシムズ・ティルト侯爵の娘、侯爵令嬢だ。「とても、やんごとない身分」と言える。その上、本人に愛想が無い。同級生からも、上級生からも敬遠されがちだ。
last updateLast Updated : 2025-07-24
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第十七話 このティンどころが目に入らぬか

 王立オーティン大学大講義室。  大学構内に於いて「最大」と呼び名の大広間。その全体像は、最奥の講壇を中心にした「扇形」。その広大さも相まって、見る者に「劇場」と錯覚させた。  そこに今、劇場さえも狭く思えるほどの大人数が押し寄せていた。現況に付いて「誰が? 何をしに?」と問われたら、現在地に相応しい回答が返ってくるだろう。 劇場を埋めている者は、その殆どがオーティン大学の学生だった。彼らは講義を受けに来ていた。 大学生なのだから、講義を受けることに不思議はない。しかし、現場の学生達をよく見てみると、奇妙な状況であることに気付く。  学生達は、それぞれ異なる学年、異なる学科の者ばかりだった。その為、立ち見が出るほどの超満席になっていた。 因みに、現在行われている講義の対象学年は「一年生」。しかも、「選択科目」だった。 必修でないならば、他の講義を受ける手段も有った。一年生以外の者が受講する必要も無かった。実際、現場にいる半数以上の学生にとっては既に「履修済み」の教科だった。  それでも、学生達は大講義室にやってきた。彼らにとって、「この講義」は特別、別格だった。 その講義の名を「ティン力工学」という。略称は「ティン工」。 現況が示す通り、ティン力工学は大学内の講義の中で「最人気」と言えるものだ。  大学構内にいると、至るところから「ティン工」と聞こえてくる。オーティン大学生、いや、ティン王国で学問を志す者にとって、「大声で叫びたい言葉第一位」と言っても過言ではない。  それほどまでに好かれる理由は、ティン工学が「今日のティン族の栄光と繁栄」を支える基盤になっていたからだ。 そもそも「ティン力工学」とは何なのか? 簡潔に言うならば、「ティン力を活用して、生活をより良いものにする」となる。  より具体的に言うならば、「ティン力に反応する機器『ティン力機』に付いて学ぶ」となる。  尤も、一口に「ティン力工学」と言っても、様々な分野が有った。大別すると「三つ」。 ティン力機のしくみを学ぶ「基礎」。  ティン力機の利用、及び活用方法を学ぶ「機械」。  新しいティン力機器の理論、及び製造を考える「開発」。 オーティン大学に於いて、ティン力工学の「基礎」と「機械」は選択科目になっている。それ
last updateLast Updated : 2025-07-25
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第十八話 私の王子様を侮らない方が宜しくてよ

 夏。四季の内、最も太陽の恩恵を受ける季節。惑星マサクーンに於いても、そのように設定されていた。アゲパン大陸最北東端に有る王都オーティンも、その例に漏れていなかった。 王都オーティンの夏の空は、突き抜けるような蒼天だった。そのど真ん中でふんぞり返っている光の玉、太陽は「ギラギラ」と擬音が聞こえるくらいに熱く、地上をコンガリ照り付けていた。  地上の「太陽エネルギー充填率」は百二十パーセントを超えた。その過剰なエネルギーを快適に思えるほど、人の体は便利にできてはいなかった。 茹だるような暑さの中に在って、「さあ、今日も仕事を頑張ろうか」と、一層ヤル気になる者は、存外に少ない。それは、王都の市民達も同様だった。「こんな暑いのに働いていられるか。遊びに行きたい」 太陽の拷問に耐えかねて、海へ、山へ、海外、果ては宇宙へ――と、遊びに出掛けたくなる衝動に駆られても無理はない。宜なるかな。 しかし、現実は非常だ。  人々の欲求を社会が許すとは限らない。人々の希望に為政者達、或いは会社が応えるとも限らない。殆どの人が「諦める」という選択肢を選ばざるを得なかった。  ティン王国に於いても、殆どの領地が「夏季特別就業時間」など無かった。「夏も変わらず働け」だった。  ところが、王都オーティンは違っていた。「夏季中、休日は倍増」  国王ムケイの計らいによって、王都民の就業時間は大幅に減少した。そのせいで、生産効率が下がった――かと思いきや、実は上がっていた。  何故なのか? 態々理由を尋ねずとも、王都民達は毎日のように口に出していた。「休みが増えて、ヤル気マックス」 皆、夏の茹だるような暑さに疲労困憊していた。普段通りの仕事をしようものなら、倍以上の疲労感に襲われた。それが、休みを増やしたことで十分以上の慰労時間を取ることができた。仕事には万全の体調で臨むことができた。  これはもう、「流石ムケイ」と称賛されるほどの成果だろう。 しかし、残念ながらムケイの功績を知る者は、ティン王国に於いては王都に暮らす人々だけ。王国の他領土には全く伝わっていなかった。むしろ、ムケイに対して「真逆の評価」を下す地方領主が多かった。  何故なのか? その理由は――「王都の税収状況の改ざん」。 王都の税収は、王城にいる「誰か」の仕業で、態と低く記録されていた。その内容は地
last updateLast Updated : 2025-07-26
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第十九話 お止めなさあああああああああああいっ

 塩気を帯びた風が、デッカとリザベルの肌を弄った。規則的に刻まれる「波」の音が、二人の鼓膜を震わせていた。 今、二人の目の前には「無限」と錯覚するほど広大な「青」が有った。 その青は「水」だった。それも「無尽蔵」と錯覚するほど大量の水だ。そのような圧倒的な水量を誇る「湖」など、ティン王国には無い。惑星マサクーン上にも、「湖」ならば無い。  一体、二人は「何」を見ているのか? その答えが、二人の口を衝いて零れ出た。「「これが――『海』」」 デッカ達は海に来ていた。二人の目の前には、地表の七割を占める大海「リバイアス」が広がっていた。それを見詰める二人の足下には、白い砂浜が広がっていた。その白い砂粒の地面を、二人は裸足で踏み締めていた。 デッカ達は「水着姿」だった。 デッカは「青みを帯びた白いトランクス」を履いていた。  リザベルは「ほんのり桃色の白いワンピース(フリル付き)」を身に着けていた。  二人は、リバイアス海が広がる「南側」を向いて、砂浜の上で並んで(デッカの右側にリザベル)立っていた。 因みに、「白」はティン王国のナショナルカラー。デッカ達は、それぞれ「高貴な出自」であるが故に、衣装も白に拘っている。 二人にとって「白い衣装」は馴染み深いものだ。着慣れている。しかし、「水着」となれば話は別。殆ど身に着けたことは無かった。  より正確に言えば「水着を選ぶ際の試着時と、今日このとき」、その二回限り。  二人は「着慣れていない衣装にして、見慣れていない衣装」を身にまとっている。ぎこちなさが否めないのも、致し方なし、宣なるかな。  二人とも、人前で水着姿を晒すことに躊躇いを覚えていた。相手の水着姿も真面に見られなかった。それでも、互いに身に着ける必要が有った。 何故ならば、二人は「海水浴」に来ているからだ。夏だもの、海水浴くらいするだろう。したくなっても仕方がない。さもありなん、宜なるかな。  しかしながら、ここで疑問が一つ。 ティン王国に「海は無い」のでは? ティン王国の海(リバイアス)は王国北部に広がっている。しかし、その前には峻険な「ピタラ山脈」が立ちはだかっていた。  ピタラ山脈を越えて海まで出ていく「もの好き」は、王国内にはいなかった。そもそも、デッカ達の前に広がる海は、アゲパン大陸の「南」側に位置していた。 一体
last updateLast Updated : 2025-07-27
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第二十話 こんなに綺麗なティン玉、見たこと無いですっ

 空に聳える白亜の城、ティン王国王城。その深奥、中庭に面した執務室に二つの人影が有った。  人影は、白いタキシードとドレス(それぞれ夏期バージョン)をまとった、見目麗しい男女だった。この二人に出会えば、視線を奪われれても致し方なし、宣なるかな。  しかし、人々の視線が真っ先に向かう先は、二人の衣装でもなければ顔でもない。絶対に「頭」だ。  男女の頭には、それぞれ「人の腕」と錯覚するほど巨大な角が生えていた。そのような人間は、この世界(惑星マサクーン)には男女一人ずつしかいなかった。 男性の名は「デッカ・ティン」。女性の名は「リザベル・ティムル」。 二人は今、デッカの執務室にいた。それぞれ、大きな執務机の前に椅子を置いて、互いに向かい合って座っていた。  中庭から射す真夏の陽光が、二人のデカいティンを黒鉄の如く、或いは炎のように輝かせていた。 暦は「八月」に突入したばかり。  八月。地球の日本であれば、一年の内で最も暑い月になるだろう。  それは兎も角として、八月の「八」という字はカタカナの「ハ」に似ている。  八月八日ならば、「ハ」が二つ並んで「ハハ」となる。その言葉を聞いて、「母」を想起する地球人は、恐らく一億二千万人ほどいる。 八月八日は、惑星マサクーンに於ける「母の日」。  母の日。地球では馴染みの祝日だ。「何故、地球の祝日があるのか」というと、マサクーンの造物主が「元地球人」だからだ。彼(あるいは彼女)の思い入れがある記憶や出来事は、そのままマサクーンにも組み込まれていた。 尤も、地球(日本)の母の日は「五月」に行うのが通例だ。  ところが、マサクーンの造物主(恐らく元日本人)は「語呂で分かり易いから」と、この日に設定していた。彼(或いは彼女)が落語家であったなら、座布団を全部没収されているだろう。  しかし、日にちの違いはあれど、内容は同じ。惑星マサクーンに於いても、母の日は「母を敬い、贈り物をする」という習慣が有った。  デッカも、リザベルも、母の日には、それぞれの母に贈り物をしていた。その事実に加えて、今年からはリザベルが王都に住むようになっている。それらの事実を鑑みて、デッカはリザベルに声を掛けた。「今年は、お互いに同じものを贈るのはどうだろう?」 「良いですわね。是非、ええ、是非」 デッカの提案に、リザベルは
last updateLast Updated : 2025-07-28
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