Semua Bab ティン王国のデッカとリザベル The Happy Lovers: Bab 21 - Bab 30

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第二十一話 何て綺麗なティン玉でしょう

 ティン王国首都オーティンは「白」を基調とした城塞都市である。その白い世界の中に在って、一際目立つ「灰色の山」が有った。 王立オーティン大学。建築当時そのままの巨大建造物は、汚れ、くすみ、嘗ての白さは見る影もない。しかしながら「全てが灰色」という訳ではなかった。 真紅の女子寮。そして、白亜の学生食堂。 どちらも最新鋭の建造物だ。その真新しさと相まって、大学構内では一際目立っている。取り分け女子寮は「無彩色中の有彩色」ということで、「王都で最も目立つ場所」と評判になっていた。  しかしながら、それも過去の話。「最も目立つ場所」という評価は、もう一つの最新鋭、「学生食堂」に奪われつつあった。 今日も、(不幸にして)学生食堂は目立っていた。例によって、或る特定の箇所が異様な空気に包まれていた。  その空気の発信源は、食堂の「庭」、白い石畳が広がるカフェテラスだった。より解像度を上げて探ってみると、テラス中央に位置した「例の」テーブルと判明した。 後年に於いて「呪われたテーブル」として語り継がれることになる場所に、「四つ」の人影が有った。 三名の女性と、一名の男性。 女性の内、二名はドレスをまとっていた。一見簡素だが、実は王国内でも「最高級」の素材を使用している逸品だ。明らかに「やんごとない身分」の女性達。  これに対して、残りの一名は「大学指定の制服」だった。誰が見ても「大学の学生」と思うだろう。  因みに、男性の方も制服姿。同じオーティン大学生であることは、予想に易い。 オーティン大学生と、やんごとない身分の女性。  四人は、それぞれの所属ごとにペアを組み、向かい合って着席していた。その様子を、不幸にして居合わせた学生達が、遠巻きに、端っこの席から眺めている。 一体、何をしているのだろう? 四人組の内、大学生の方は兎も角、ドレス姿の女性達は部外者なのだ。学生達が首を捻るのも致し方無し、宜なるかな。  尤も、気になるならば尋ねれば良い。しかし、「「「「「…………」」」」」 誰も尋ねなかった。誰も動かなかった。全員、体を硬直させたまま成り行きを見守っていた。  四人の男女は、「そこに存在している」というだけで学生達を怯えさせた。 一体、何者なのか? 四人組の内、大学生の外観には「誰でも正体が分かる特徴」が有った。  その男女の頭
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-29
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第二十二話 遠山左衛門のお嬢様、ご出座

 ティン王国で、最も有名な建造物といえは、殆どの者が「王都の王城」と答えるだろう。王城の威容を見た者は、「ピタラ山脈の一部」と錯覚する。  それほど大きな建造物だと、中の部屋もそれなりの大きさになる。その中でも、一際広大な部屋が有った。 王城「謁見の間」。  白いピタラ石製の空間は、そこに足を踏み入れた者に「無限」を直感させた。全ての王都民を詰め込んでも、未だ「空き」が有るかもしれない。 その広大な空間に、二人の男性の姿が有った。 壮年、或いは中年と思しき男性と、十代と思しき若者。  二人は、広間中央部を貫く赤絨毯のど真ん中で、向かい合って立っていた。  どちらも目を見張るほどの美形だ。それぞれ白を基調とした簡素な衣装をまとっている為、本体の美しさ、「イケメン振り」が一層際立っていた。  しかし、二人の顔に見惚れる者は存外に少ない。この二人と出会った者は、その殆どが二人の「額」を見た。 そこには、一般人(ティン族)が息を飲むほどの、巨大な角――ティンが生えていた。 年配の男性のティンは「大人の手」と錯覚するほど大きかった。  年若い男性のティンは「大人の腕」と錯覚するほど大きかった。  それぞれのティンは、「二人がやんごとない身分である」と、雄弁に語っていた。 そう、二人は王族だった。 年配の男性はティン王国国王、ムケイ・ティン。  年若い男性はティン王国第一王子、デッカ・ティン。  ティン王国の「ツートップ」と言える存在が、彼ら以外誰もいない謁見の間で何をしているのか? その答えは――「全くの偶然」だった。  一方が呼び出した訳でも、呼び出された訳でもない。二人とも、偶々気が向いて、謁見の間に足を踏み入れただけ。 今は「親子」として、四方山話に花を咲かせているところ。この機会に、より一層親子の縁が深まれば、二人にとって僥倖だろう。 しかし、二人ともそれなりに有名人であるが故に、かかわる者も多い。親子水入らずの機会に「水を差す者」も、残念ながらそれなりにいた。  今日もまた、無粋な輩が一人、「大甕一杯の水」と錯覚するほどの面倒事を持って、二人の許にやってきた。 デッカ達が談笑していると、開きっ放しの大扉から白いサーコートに身を包んだ「近衛騎士」と思しき男が飛び込んできた。  若い男性だった。長身痩躯で、デッカと同い年くら
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-30
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第二十三話 ティンティン見ぃ付けた

 苔むした「灰色」の大噴水。それを囲む「灰色」の石畳。石畳の上には古ぼけた木製のベンチが幾つか置かれていた。 王立オーティン大学講堂、中庭。 講堂の中心に位置する場所であるが故に、それなりに人が通る場所だ。  だが、汚い。大噴水にへばり付いたコケや、石畳を覆う雑草が、灰色に余計な緑を加えている。いい加減、「ちゃんと掃除しとけ」と言いたくなるところだ。 しかし、学生の本分は飽くまで勉強。この大学の学生達も、「掃除する暇が有ったら本の一冊でも読んでいる」という、本の虫ばかり。そのような状況にあって、「外で遊びまくっている学生」がいたならば、それは――目立って当然だった。 時刻は正午過ぎ。  年代物のベンチに、見目麗しい女子学生が座っていた。 アリアナ・ティルト。ティン王国南方の大領主、シムズ・ティルト侯爵の娘(長女。下に弟と妹が一人ずつ)。 アリアナは「超」が付くほどの真面目な学生だ。今は静かに本を読んでいた。  何を読んでいるかと言えば、「ティン力工学概論」。少なくとも、表紙にはそのように表記されている。しかし、実はそれ、中身が違う。  工学概論のカバーの下は、巷で流行している「恋愛小説」だった。 私も、もう少し殿方のことを勉強しておきませんと。 いつぞやの「男は皆おスケベ事件」以降、アリアナの恋愛学習に拍車が掛かっていた。勉強熱心なのはいいことだ。  しかし、「真面目」という評価は、今後考えた方が良いかもしれない。  それはそれとして、アリアナ本人としては時間が許す限り読書し続けているつもりだった。  ところが、アリアナが本を読んでいると、彼女の耳に「楽しげな声」が飛び込んできた。「逃げろ、逃げろ」 「掴まっちゃ駄目」 「逃しませんわっ」 アリアナは「追いかけっこ」を想像した。それを確認しようと、彼女は声が上がった方向に視線を向けた。 手入れの行き届かない石畳の上で、駆け回っている三つの人影が有った。それぞれ「子ども」と直感するほど小柄だった。  三人内、二人は十歳にも満たないほど幼かった。二人の衣装は、市井の子ども達の者と大差ない。それぞれの額と蟀谷から生えたティンも「一般ティン族並み」だ。その事実を直感して、アリアナは一つの可能性を想像した。 大学関係者のお子様かしら? 国内最高峰の大学となれば、子連れの学生もいる
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-31
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第二十四話 この俺が見極めてやる

 青い空、白い雲。その直下、雲より尚白い王城の敷地内に、観客席を要した「巨大な円舞台」が有った。 その舞台の名を「ティン王国御前試合場」という。 基本的には国王の主催する格闘大会の会場である。国王の呼び掛けに応じた王国の猛者達が集い、個人戦、或いは団体戦で戦闘の技を競い合う。  しかしながら、「大会意外では使わないのか」というと、そうでもなかった。ごく稀に、騎士達の揉め事の決着の場として利用されている。その場合、観客席に閑古鳥が鳴くのは仕方が無い。さもありなん、宜なるかな。 今は大会期間ではなかった。それでも、円舞台の上には「二つの人影」が有った。  どちらも王国騎士団の鎧をまとっていた。その井出達を見て「決闘」を想起する者は、ティン族に於いては多数派だ。その発想は大当たりだった。 舞台上の二人は王国の近衛騎士だった。 一方は長躯痩身、十代後半の男性騎士。一方は中肉中背、二十代前半の男性騎士。それぞれの背中には、鞘に入った「大曲剣」が括り付けられていた。 大曲剣。いや、「超大曲剣」と呼ぶべきか。地球の武器に例えるなら「特大の青龍刀」といったところ。その反り返った刀身は、大人の男性ほども有った。 その巨剣の名を「ティン弧剣」という。 ティン王国の騎士や戦士にとって、「標準装備」と言えるほど使用頻度の高い人気武器だ。それほどまでに支持されている理由は「ティン弧剣を用いた剣術は格闘最強」と思われているからだ。  ティン王国には、「格闘最強」を信じ込ませるほど達人を輩出してきた「二つの流派」が有った。 一つは「ツィンコ流」。もう一つは「ゲイツ流」。 王国で格闘術大会を開けば、優勝者はどちらかの流派の門下になる。王国最強の軍隊、ティン王国の近衛騎士団員も、全員どちらかの流派に所属していた。  今現在、円舞台で対峙している二人の若き騎士も、この二つの流派の門下だった。それどころか、二人とも「流派の開祖の直系」だった。 長身痩躯の騎士は、王国第一王子デッカの竹馬の友、「ブラリオ・ツィンコ」。彼と対峙している中肉中背の騎士の名は「オッタマン・ゲイツ」という。  それぞれ最強流派の直系となれば、「他流試合の枠を超えて、特別な意味が有る」と考える者がいたとしても、それは致し方無し。宜なるかな。  しかし、円舞台の周りには審判も、検分人の姿
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-01
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第二十五話 貴様に決闘を申し込む

 王城敷地内の建造物は、王族の趣味で、その殆どが優美にして華麗な外観をしている。しかしながら、オーティン大学のように異質な建物も、幾つか有った。  その内の一つに、違和感を覚えるほど無骨な長方形の巨大建造物が有った。その外観を地球の建造物で例えると、「石製の体育館」といったところ。その例えは的を射ていた。 建物の中には、幾人もの軽装姿の若き騎士達がいた。彼らは、それぞれ特大木剣を両手に握って、素振りしたり、試合をしたり、己の体と剣術の技を鍛えている。  王国騎士団修練場。それが、この建物の名前だ。その名前の通り、王都に詰める騎士、即ち「近衛騎士団」が切磋琢磨する場所だ。  偶に騎士見習いや、守衛(衛士)も使用することもある。しかし、それは飽くまで特例、部隊長クラスの近衛騎士が許可した場合のみ。基本的には「近衛騎士専用」なのだ。 今日も、室内にいるのは近衛騎士ばかり。暇を持て余した――いや、非番の連中が集い、対戦したり、肩を確認し合ったり、四方山話に花を咲かせたりしていた。  顔見知り達との暇潰し。そのような状況だからこそ、「緊張感が漲る場所」に衆目が集まった。 室内の中央部で対峙する二人の騎士。そこだけ「ピン」という擬音が見えるほど空気が張り詰めていた。その周りだけ、ポッカリ空間が開いている。他の騎士達は、二人の様子を遠巻きに眺めていた。 渦中の二人は、それぞれ巨大木剣を両手に握って、それを正眼に構えていた。  どちらも長身瘦躯。顔付きまでも似ている。構え方も全く同じ。それ以外にも、普通の剣士にはあり得ない「摩訶不思議現象」までもが、全く同じだった。 それぞれの特大木剣の傍に、小型(普通サイズ)の木剣が「浮かんで」いた。 浮遊する小剣。通称「浮遊剣」。その二振りによる変則的な二刀流こそが、ティン弧剣術最強流派の一つ、「ツィンコ流」の極意だった。  ツィンコ流の開祖「オッタテ・ツィンコ」は、この技を用いて最強の戦士(当時)、初代国王オーティン・ティンとの非公式試合に勝利した。その際、オーティンに「でも、俺のティンの方がデカいもん」と、負け惜しませている。「ツィンコ流は、ティン力の差をも覆す」 ツィンコ流が流行ってしまうのも致し方なし。宜なるかな。王国近衛騎士団員の半分は、このツィンコ流の門下生だった。  対峙する若き二人の騎士も同門だ。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-02
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第二十六話 葉の裏に虫が付いていたのか

 決闘。額面通りに受け取れば「命を懸けた殺し合い」になる。しかし、ティン王国では飽くまで揉め事の決着方法の一つ。運悪く落命する場合も否定できないが、そうならない工夫が施されていた。 ティン弧剣士の場合、双方「刃の潰れたもの」を使用する。地球(日本)の時代劇でいうところの「峰打ちセーフ」である。 尤も、命は賭けずとも「名誉」は掛かっている。敗者には、それなりの代償が有った。「勝者の言うことを『何でも』一つ聞く」 何でも。仮に命を要求されたならば、それを差し出さねばならない。拒否したならば、名誉が大きく損なわれる。その事実に対して「命を奪われた方がマシ」と断言する者は、貴族達の中には存外に多い。 ブラリオ・ツィンコは貴族だった。しかも、近衛騎士で、流派の直系だ。その出自の宿業からは、生涯逃れることはできないだろう。  絶対に拒否はできない。その事実は、オッタマン・ゲイツも熟知している。その上で、彼は非情な条件を告げた。「俺が勝ったら、『デッカ殿下の護衛の役目』を代わって貰うぞ」 デッカの護衛。ブラリオにとって、デッカは「竹馬の友」といえる存在だ。その役目を仰せつかった際、「身命を賭して完遂する」と誓約した。ブラリオの脳内には、「他の者に譲る」という選択肢など微塵も無かった。 絶対に、譲れない。だけど、決闘を回避することはできない。「承知」 ブラリオは、オッタマンの条件を受け入れる他無かった。彼には「オッタマンと戦って勝つ」以外の選択肢は無かった。  その日から、ブラリオは有休をとって「森」に籠った。 王都後背に広がる針葉樹林帯、通称「モリッコロの森」。群生する白と赤い樹木の間を、痩身の人影が駆け回っている。それも、早朝から夕方まで、休むこと無く延々。 ブラリオは、ご飯を食う暇を惜しんで修行を続けていた。しかし、その甲斐は残念ながら無い。彼には「勝ち筋」が見えていなかった。 闇雲に動いても、無駄に疲れるだけだな。 修行開始から三日目。ブラリオは、現況に対する「徒労」の可能性を覚え始めていた。だからと言って、軽々に休めなかった。 ブラリオが動きを止めた瞬間、彼の脳内に「オッタマンの戦う姿」が閃いた。すると、ブラリオの心臓が「肋骨を折る」と錯覚するほど跳ね回った。 ゲイツ先輩の「ゲイツ流」――恐るべし。 ゲイツ流。オッタマンの曾祖父、「
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-03
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第二十七話 葉裏剣――です

 ブラリオ・ツィンコがオッタマン・ゲイツに決闘を申し込まれてから一週間が経った。 ティン王国時間、午前九時。  王城の敷地内に設けられた石製の巨大円舞台、「ティン王国御前試合場」の上に、二つの人影が有った。 ブラリオとオッタマン。  どちらも王国騎士の鎧に身を包んでいた。それぞれティン弧剣」を背負っていた。 二人は今日、決闘する。その理由が、オッタマンの口から飛び出した。「勝った方が殿下の護衛だ」 ブラリオは、返事代わりに静かに頷いた。 どこまでも青い空の下、色の無い風が「ビュウ」と音を立てて二人の体を薙いだ。その瞬間、どちらともなく右手を掲げてティン弧剣の柄を握った。「ブラリオ。貴様がデッカ殿下の専属護衛に相応しいか否か――この俺が見極めてやる」 「宜しくお願いします、ゲイツ先輩」 二人は同時にティン弧剣を抜いた。その直後、オッタマンが飛んだ。 ゲイツ流の極意、超身体能力強化。 オッタマンは、人の領域を超える速度で円舞台を駆けた。その際、ブラリオも前に出ていた。  ブラリオは、オッタマンよりも身長が高く、腕も長い。その分だけ剣の間合いが広かった。必然的に先手が取れた。 オッタマンが間合いに入った瞬間、ブラリオのティン弧剣が宙を薙いだ。  真上から、真下へ。その長い身体を存分に活かした豪快な縦一文字切り。ティン力も加わっている為、常人では受けとめ切れない。  しかし、オッタマンは常人ではなかった。 オッタマンは、両手握ったティン弧剣を「左腕に添える」ように構えていた。それを左腕と同時に押し出した。  二振りの孤剣が重なった。その刹那、鈍い金属音が鳴った。その直後、ブラリオの孤剣の軌道が変わった。いや、「変えられた」と言うべきか。 ブラリオの孤剣は、オッタマンの孤剣の刃に沿うように「斜め下」へと流れていった。その現象が起こった瞬間、ブラリオの背筋が凍り付いた。 拙いっ!? 現況は「オッタマンの間合い」だった。  オッタマンの孤剣が、ブラリオの腹に迫った。ブラリオは、即座に浮遊剣で防御した。しかし、アッサリ弾かれてしまった。「くっ!」 ブラリオは、即座に後ろに飛んで間合いを開けた。その際、追撃は無かった。 オッタマンは、その場に立ち尽くしていた。無言でブラリオを見詰めていた。彼が追撃していたならば、その時点で勝負は付
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-04
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第二十八話 全てオツパインなのですか?

 アゲパン大陸の中央部に「オニクランド共和国」という国が在る。  君主制の国が多い惑星マサクーンに於いて、「珍しい」といえる国民主権の国だ。地球の歴史を鑑みれば「将来有望」と言える。その主要民族は、やはり普通の人類種――ではなく、「オニク族」という亜人種だ。 オニク族。その外観は豚面で大柄、太っちょだ。地球で言うところの「オーク」に近いだろう。その戦闘能力も、オークに勝るとも劣らない。 実際、オニクランドの軍隊は他国が一目置くほど精強だ。新しい戦法を練ったり、武器を開発したりしている。いつでも、どことでも戦争をする準備は整っていた。  しかし、実際にオニクランドから喧嘩を吹っ掛けたことは、建国以来一度も無かった。彼の国には、それを躊躇う「地政学的理由」が有った。  オニクランドは「大陸中央」に位置している。「全方位他国に囲まれている」のだ。  何れかの国と揉めれば、それ以外の国が「これ幸い」と攻め入ってくることは、予想に易いだろう。 戦争する訳にはいかなかい。他国に戦争の口実を与える訳にはいかない。 オニクランドでは「富国強兵」と「他国との友好」は絶対的な国是なのだ。文字通り「国の支柱」だ。どちらかが折れれば国はアッサリ傾く。だからこそ、国民に選ばれし為政者達は、何を措いても「支柱の維持」に腐心する。その為に有効な手段が有れば、迷わず飛び付く。「何か凄い強化してくれるカップルがいるぞ」と聞けば、試してみたくもなる。「では、呼びますか?」 「「「「「そうですね」」」」」 オニクランドの評議会で「デッカとリザベルを国賓として招待する」という議案が賛成多数で可決された。 かくして、デッカ達は二名のお供を従えて国境を渡ることとなった。勿論、それを実現する為のオニクランド側の努力も抜かりなし。 ティン王国との軍事同盟の締結。  デッカ達が外遊中、オニクランド大統領(国家元首)の子ども達(兄妹)が(人質として)ティン王国首都オーティンに滞在する。  今回の件に対する賂、無表情で有名なアリアナ・ティルト侯爵令嬢がにんまり微笑むほどの大量の「黄金色の菓子」——等々。 ティン王国の為政者達が揃って「うむむ」と唸り声をあげるほどの旨味が、湯水のように提供された。それ等を目の当たりにして、ティン王国側でも「オニクランドと仲良くしよう」とか、「
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-06
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第二十九話 オツパインも見たいです

 デッカとリザベルは、現在「国賓」として、オニクランド共和国の特産品「オツパイン」の群生地を視察していた。  二人にとっては異国の地。二人の身を守る手段は、ティン王国内とは比較にならないほど少ない。 だからこそ、「護衛役」は頑張らなければならなかった。 デッカ専属護衛役、ブラリオ・ツィンコは、その全身に緊張感御漲らせながら、デッカの一挙手一投足に意識を集中していた。その視界には、デッカの隣にいる「イケメン豚面大男」の姿も入っていた。 イケメン豚面大男、オニクランド共和国大統領サイゼル・ポーク。 サイゼルは「デッカ達の案内役」として、オニクランドに付いて、あれやこれやと説明している。  今も、デッカの求めに応じるまま、オニクランドの独産品「オツパイン」に関する情報を提供し続けていた。その会話の内容は、ブラリオの聴覚にシッカリ捉えられている。「オツパインは、私も大好物でして。冬の間は食後のデザートの定番にしているのです」 「そんなに美味しいのですか?」 「はい。それだけでなく、見た目も素晴らしいのです」 「見た目――ですか?」 ブラリオの視界の中で、白い防寒服の貴公子(デッカ)がオツパイン樅を見上げた。その様子は、デッカの隣にいるサイゼルの視界にも映っていた。「樅木の下からでは分かり難いでしょう。宜しければ――」 サイゼルは、牙が突き出た口に微笑みを浮かべた。その僅かに吊り上がった口の端から、表情に見合った優しげな声が漏れ出た。「オツパインもご覧になりますか?」 「はい。オツパインも見たいです」 サイゼルの提案に、デッカは即応で食い付いた。  ここまでの会話に対して、ブラリオは全く違和感を覚えなかった。  ところが、デッカが「オツパインも見たいです」といった直後、異変が起こった。その様子は、リザベル専属護衛役、シア・ナイスの視界にも映っていた。 シア・ナイスは、極度の緊張状態にあった。心の中では戦闘態勢に入っていた。  そもそも、辺境伯量の騎士(騎士団副団長)である彼女にとって、外国とは即ち「敵国」なのだ。脳内で「相手は同盟国」と分かっていても、心は容易に受け入れ難い。 いっそ、斬り捨ててしまおうかしら? シアの心中では、戦闘狂の悪魔が「斬っちゃえ。斬っちゃえば楽になれるよ」と、散々シアをけしかけていた。  そんな折、シア
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-07
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第三十話 仲良くやっていけそうだね

 惑星マサクーン最大の陸地、アゲパン大陸。その「臍」というべき中央部に在る国、オニクランド共和国。その領土の中心に聳える山脈、オツパイン樅帯。その頂上部に群生するオツパイン樅の木の下で、白い革コートを羽織った貴公子と淑女の姿が有った。 貴公子の名はデッカ・ティン。淑女の名はリザベル・ティムル。 リザベルは、大きな樅木に背中を預けるように立っている。デッカは、リザベルの真正面に立っている。  うら若い男女が大きな樅木の下で向かい合っている。その現場に出くわしたなら、脳内に「仲良く遊びましょ」と、楽しげな幻聴が響き渡ったとしても致し方無し、宜なるかな。  しかし、その幻聴は一瞬で雲散霧消する。現況が醸し出す空気は「ラブラブ」ではなく、どちらかといえば「修羅場」に近い。 二人の間に剣呑な緊張感が漂っていた。しかしながら、それを醸し出しているのはリザベルだけ。デッカの方はと言うと、「訳が分からない」と言わんばかりの困惑顔で首を傾げている。 デッカの視線の先には、彼の右手が有った。それは、リザベルの左手に握られていた。その行為に関しては、デッカ側には何の疑念も無かった。問題は、「その奥に控えた物体」に有った。 二人の手は「リザベルの胸」の辺りに掲げられていた。その行為は、リザベルの方から仕掛けたものだった。デッカには意味が分からなかった。  デッカの頭上に「?」が浮かんだ。そのタイミングで、リザベルが謎の呪文を唱えた。「どうぞ、『お揉み』下さいませ」 「え?」 デッカの首が一層傾いだ。頭上の「?」の数も増えた。しかし、混乱しているのは彼だけではなかった。  この場には、デッカ達の他に、樅の影から二人を見守る護衛者、護衛隊、オニクランド共和国大統領夫婦がいた。彼らの首も一斉に傾いでいた。その困惑の空気は「元凶」にも届いていた。「あ、私としたことが」 マスクに隠れたリザベルの目に、正気の色が戻った。彼女は冷静になった。その上で、現況に対する「彼女なりの最適解」を告げた。「繋いでいては、お揉みできませんわ」 リザベルは、直ぐ様デッカと繋いでいた手を解いた。その行為によって、デッカの右手は解放された。その事実を直感した瞬間、リザベルは頬赤らめながら胸部を突き出した。「どうぞ」 「えっと?」 一体、何が「どう
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-08
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