ティン王国のデッカとリザベル The Happy Lovers

ティン王国のデッカとリザベル The Happy Lovers

last updateLast Updated : 2025-11-17
By:  霜月立冬Ongoing
Language: Japanese
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異星マサクーンには「ティン王国」という有角人の国が有った。そこでは頭部に生えた角を「ティン」と呼んでいる。女性の場合は二本生えているので「ティンティン」という。 ティンには特殊な力が宿っており、その威力はティンの大きさに比例した。その為、王国では「ティンの大きさこそが人の価値を決める」と信じられていた。 この物語は、「史上最大のティン」を持つ王国の王子デッカと、「史上最大のティンティン」を持つ王国辺境伯貴族令嬢リザベルとの、愛と勇気と力と技と、勢いと思い付き、行き当たりばったりで構成するラブ×∞+コメディである。

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Chapter 1

第一話 ティンティンが、どうにかなっちゃうっ!!

Colin Mathers finally arrived.

I asked him, "Why did you stop Elsie's medication?"

He frowned impatiently. "That illness of hers is a bottomless pit. Ariana's son is about to start elementary school. That's what actually matters."

I stared at him, unable to say a single word. In his eyes, my daughter's desperate fight to live had never mattered at all.

I held Elsie Mathers' memorial portrait against my chest. In the photo, she had her hair in two little pigtails and was beaming at the camera. It was her favorite picture of herself, because Colin had taken her to the amusement park that day, which almost never happened.

He had only stayed for 20 minutes. As soon as Ariana Lisle called, he pushed Elsie into my arms and rushed off. Even so, Elsie was happy for a long time afterward. She told me her daddy had held her that day, and that he smelled like sunshine.

Now that same father stood beside her body, and his eyes had not even turned red.

The eye bank coordinator opened the folder and spoke in a hushed voice. "Mrs. Mathers, your daughter has not been cremated yet. Mr. Mathers signed a statement of intent to donate earlier, but our procedure still requires a second confirmation from you."

I saw Colin's name on the signature line. The date on it showed that he had signed shortly before Elsie died.

At the time, I was kneeling beside her hospital bed, refusing to let go of her hand. Colin never showed up. It turned out he had known Elsie was gone all along. He had simply been too busy signing a donation agreement on her behalf.

I looked up at him. "You knew the whole time?"

Colin avoided my eyes. "The doctor said it was a match. A chance like that doesn't come often."

I gripped the portrait so hard that the edge of the frame dug into my fingertips until they throbbed and went numb. "What gives you the right to sign that?"

Colin's brow furrowed. "I'm her dad."

I laughed. When Elsie was alive, he had never once remembered that he was her father.

During Elsie's first round of chemo, he was at Ariana's house celebrating Noah Lisle's birthday. When Elsie had a fever and went into seizures, I called him, and he told me Noah was crying too and that I should stop using our child to compete for his attention.

When Elsie was in so much pain that she writhed all over the bed, she asked me when her daddy would be back with her medicine. Meanwhile, he had stopped her medication.

Now that Elsie had closed her eyes for good, he suddenly remembered he was her dad.

I pushed the documents back. "No donation."

The coordinator paused for a moment, then quickly nodded. "If you don't consent, we'll stop the process."

Colin's expression darkened. "Laura, don't let your emotions get the better of you. Elsie's already gone."

That line again. She was already gone. And now, he wanted to take away the very last part of her too.

I looked at him as my voice slowly grew hoarse. "Who are you trying to save?"

Colin did not answer.

His phone rang just then. He glanced at the screen, and his expression changed instantly. The contact name read "Ari."

The moment he picked up, Ariana's tearful voice spilled out of the phone. "Colin, Noah's eyes are hurting again. He keeps asking when he can have the surgery."

Colin turned away on instinct. "Don't worry. I'll be right there."

I stood in a room full of white flowers as a chill crept through my whole body.

So it was Noah. Noah had received the medicine Elsie had waited for in vain before she died. Now he wanted her corneas too.

I reached for the confirmation form. Colin grabbed my wrist. "Laura, Noah is just a kid."

I looked up at him. "And Elsie wasn't?"

His fingers stiffened.

The viewing room was eerily quiet. Elsie lay small among the white roses, wearing her favorite pink dress. I had bought it for her, but she had never wanted to wear it until her dad came home. She had been saving it to show her dad when he came home, but Colin had never truly looked at her.

I lowered my head and signed my name in the refusal box. I wrote it letter by letter, my hand shaking so badly that I could barely hold the pen.

Colin stared at the paper with eyes as cold as ice. "You'll regret this."

I handed the form to the coordinator. "I'm saying no for Elsie."

Colin shook off my hand and headed for the door. "Ariana's counting on this to save a life. If you insist on being this selfish, there's nothing I can do."

He pushed the door open. A cold wind swept in and set the white roses swaying gently.

I held Elsie's portrait tighter and stayed where I was, making no move to follow him.

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第一話 ティンティンが、どうにかなっちゃうっ!!
 麗らかな春の陽射しが射しこむ白亜の城。  姦しい小鳥の合唱に煽られながら、簡素な黒いドレスにエプロン(メイド服)をまとった女性達が忙しく動き回っていた。「今日の掃除当番は、私の班――」 「洗濯物はうち――」 「こっちは今からお昼の準備だよ。大変だ――」 全員、城詰めの侍従(侍女)だった。彼女達の仕事は、午前中が最も過酷だった。それでも、余計なことを喋っている余裕はあった。  外から聞こえる小鳥達との鳴き声と相まって、和やかな雰囲気を醸し出していた。その光景を目にすれば、自然と笑みが零れる。  しかし、笑っていられたのは、侍女達の姿を遠目に眺めていたときまで。近くに寄って見てみると、彼女達の頭から「奇妙なもの」が生えているのに気付く。  侍女達の額、左右の蟀谷辺りから、それぞれ「大人の指ほどもある突起物」が生えていた。 有体に言えば、それは「角」だ。 それぞれ形や大きさは違えども、共通して先端部分が「真っ赤」に染まっていた。しかも、金属のような光沢があった。  実際、先端部分は金属並みに硬質化している。侍女達から頭突きを食らえば、痛いでは済まない。 頭に凶器を持つ侍女、「鬼メイド」と呼ぶべきか。  しかしながら、頭部以外は至って普通の少女達。「只の城詰めのメイド」として、忙しいながらも、毎日楽しく過ごしていた。  侍女達の誰しもが、「これからも、きっと楽しい日々が続く」と想像して、それを信じていた。  しかし、今日、この瞬間(午前十時半頃)、侍女達の日常は破壊された。(((駄目っ、ダメダメ駄目ですぅっ!!))) 「「「「「!?」」」」」 突然、城の奥から「女性の絶叫」が轟いた。それを聞いた侍女達の顔から笑みが消えた。「何?」「今の?」 互いに顔を見合わせて、一斉に首を傾げた。その間も、城の奥から女性の声が轟き続けていた。(((嫌っ、駄目っ、ダメええええっ!!))) 「「「「「!!」」」」」 (((これ以上は、無理です、駄目ですっ!!))) 「「「「「――――っ!?」」」」」 声が聞こえる度、侍女達の顔から色が失われた。「一体――」「何が起こっているの?」 侍女達は様子を探ろうと耳を澄ませた。  すると、少女の声に混じって「男性のもの」と思しき低音の美声が聞こえてきた。(((大丈夫だ。もう少し――))) 年
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第二話 私のティンティンがデカくなってる
 ティン王国の王子が侍女のティンティンを弄っている間に、少しだけ「惑星マサクーン」、及び「ティン王国」に付いて説明したい。 惑星マサクーンは、元・地球人の神が「俺流ファンタジー」を企図して創造した、神(人)工惑星である。  造物主が「元・地球人」であるが故に、マサクーンにも地球と同じく「海」と「陸」が有った。 星の七割を占める大海「リバイアス」。そのど真ん中に鎮座する大陸「アゲパン」。 海と陸には、それぞれの環境に適した生物が住んでいる。その中で、万物の霊長である人間種はと言うと、殆どが陸、アゲパン大陸に住んでいた。 アゲパン大陸には、人間種が建てた様々な国が有った。その中に有角人の国、「ティン王国」が有った。   ティン王国は、他国から「辺境の大国」と呼ばれていた。その異名は伊達ではなかった。王国には「異名を保証する好条件」が幾つか有った。 ティン王国は、アゲパン大陸の北東部、北の際に位置している。そこには「ピタラ」と呼ばれる峻険な山脈が有った。それを超えて海に出ることは至難の業。逆に海から大陸に上がるのも至難の業だった。  神が創りし天然自然の城壁ピタラ山脈。その山裾には「モリッコロ」と呼ばれる大森林地帯が有った。それがティン王国の領土だった。 ティン王国の地理的好条件は、中世日本の鎌倉幕府を彷彿とする。 マサクーンに住む人間種の文明レベル「地球の中世期」で停滞中である以上、王国には「絶対無敵」と言えるほどの地の利が有った。  しかし、他国視点で「最も厄介」と言える要素は、地の利ではなく、ティン王国の国民、「ティン族」だった。 有角人であるティン族は、その額に生えた角、「ティン」に不思議な力、「ティン力」を宿している。 ティン力がティン族に「他種族を圧倒する戦闘力」を与えていた。その優位性を、ティン族達は良く心得ていた。彼らはティンを崇め、敬い、拘った。 取り分け執着していたティン要素は、「大きさ」だった。 何故ならば、ティン力の出力の大きさ(威力)はティンの「大きさ」に比例していたからだ。その事実は、ティン族にとって僥倖ではあった。しかし、同時に「差別」と言う呪いをもたらしていた。「ティンのデカさこそが、人の優劣を決める絶対的な基準」 所謂「ティンのデカさ至上主義」。これを体現し、強力に推奨したのが建国の王、初代ティン王国国
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第三話 あああああああああああっ、デッカ様っ
 ティン王国王城内にいるデッカ・ティンが、彼の許嫁リザベル・ティムルへの対応に頭を抱えていた頃、当のリザベルはと言うと、とある場所の豪華な「個室」に置かれたベッドに俯せで横たわって――「ああああああああああああっ、デッカ様っ」 枕に顔を埋めながら叫んでいた。その声がデッカの耳に届くことは無かった。しかし、二人の距離は存外に近かった。 リザベル・ティムル。彼女は、「辺境の雄」の異名を持つアズル・ティムル辺境伯の娘、二人姉妹の長女である。  リザベルの生家、アズル領は王国領西南端、モリッコロの際、隣国との国境沿いに位置していた。 デッカがいる王都までの距離は、他の領土と比べるべくもなく遠い。最長だ。 リザベルが「王都に行きましょう」と思い立ったとしても、軽々に行き来できる距離ではない。早馬を走らせて十日、天候によっては二週間ほど掛かった。彼我の生家は余りに遠い。  しかし、今やそれも過去の話。リザベルがその気になれば、デッカにかかわる情報は、「その日の内」に彼女の耳に入れることができた。  何故ならば、リザベルは今、王都に住んでいるからだ。 今春、リザベルは王領の教育機関、「王立オーティン大学」に入学した。そこに通う為、彼女は「大学女子学生寮」に住んだ。 女子寮は、嘗ての辺境伯屋敷と比肩するほど大きかった。ティンティンの色に因んで、赤褐色のレンガと、モリッコロに群生する「リョウタロ」という赤みを帯びた杉を使った、赤いハーフティンバー式の巨建造物だ。 尤も、学生が占有できる場所は、建物内の一室に過ぎない。「その点」に関しては、辺境伯令嬢と言えども例外ではなかった。 今のリザベルは「オーティン大学一年生」であった。大学に入る年齢となると、地球に於いては「十八歳以上」と言うのが一般的だろう。  しかし、惑星マサクーンに於いては「満十六歳から」というのが一般的だった。 リザベル・ティムルは未だ十五歳。同い年のデッカも、実はまだ十五歳だった。 十五歳。「子ども」と言っていい年齢だ。しかし、二人とも、他人から「年齢通り」に見られた試しは殆ど無かった。  二人は、やんごとない立場にいる人間だ。その為、人前では「傲慢」に思えるほど堂々と振舞う必要が有った。その為、二人とも二十代くらいに見られがちだった。 それでも、二人は未だ十五歳。落ち着き払っている
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第四話 俺のティンを握ってくれ
 王立オーティン大学の学生食堂カフェテラス。その場所を知っている者にとって、「あそこ」、或いは「カフェ」で通じるだろう。  しかし、行ったことの無い者、初耳の者が聞いたならば、「どこだよ?」と首を捻るのも致し方無し、宜なるかな。  オーティン大学が有る場所「王都」、及び王都を要する「王領」の位置を確認したい。 先ず、王領の位置に付いて。  王領は、アゲパン大陸北東端に聳える峻険な山脈「ピタラ」麓に幅広く展開していた。 次に、王都。  王都オーティンは、王領北東端、ティン王国最奥に位置している。そこは「国王の在所」と言うことで、大量の資金、資材を投入して、最高の景観と最強の防衛機構を誇っている。  都市の地面は白い石畳、ピタラ山脈にある「ピタラ石」と呼ばれる白い石を四角く切り出し、それをたを隙間なく、定規で測ったかのように敷き詰められていた。  都市を囲む城壁もまた、雪山のように白く、高く、分厚い。それを見た者に「ピタラの一部」と錯覚させた。そのような高壁が、王都最全体と、王城の敷地の周りを二重に囲んでいる。  因みに、王都民達は最外縁の城壁を「外壁」、王城の敷地を囲む内側の城壁を「内壁」と呼称している。  外壁から内壁までの間が、所謂「城下町」。「王立オーティン大学が何処に有るか」と言うと、実は内壁の中、王城の敷地内に立っていた。 王立オーティン大学。その外観は、ゴシック調でありながら「地球の学校」を彷彿とする四角四面の長方形型。その色も真っ白――だったものが、今は汚れて灰色になっている。 そもそも、オーティン大学の歴史は古く、王国の教育機関では「最古」だった。 大学を建てた(建てるよう命じた)者が、建国の王オーティン・ティンなのだ。その所以も有って、ティン王国では「随一の権威」を誇る教育機関となっていた。  王国内で学問を志すならば、「第一志望」から絶対外せないだろう。正に「名門中の名門」。ここに入れたならば将来安泰。一家の繁栄は約束されたも同然だった。  だからこそ、王領内は元より態々他の領土から受験する者は存外に多い。その内訳は、貴族八割、一般二割。王族となれば立場上在籍必須だった。 王国第一王子(下に弟が一人)、デッカ・ティンの名前も学生名簿に書き込まれていた。 デッカが大学構内を一人で歩き回っていたとしても、誰も不思議に
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第五話 私のティンティンをお握り下さいませっ
 王立オーティン大学食堂カフェテラス。そこには生粋の王都民しか知らない「伝説」が有った。「カフェテラスで告白し、それを受けて貰えたならば、二人は結婚し、幸せな余生を過ごすことができる」 一体、誰が言い出したことか。残念ながら、その曰くを知る者はいない。説明できない以上、信ぴょう性は皆無。その伝説を他の領土(或いは都市)から来た者に話すと、首を傾げられたり、眉に唾を付けられたりした。  しかし、生粋の王都民にはメジャーな伝説だった。それを信じ、肖ろうとする者は存外に多い。  ティン王国第一王子デッカ・ティンも、その内の一人だった。 麗らかな春の日差しに照らされた野外昼食場(カフェテラス)のど真ん中でデッカは「愛の言葉」を告げた。「俺のティンを握ってくれ」 爽やかにして優しげな美声だった。それが届いた者の耳に、真綿が水を吸い込むようにスルリと染み込んだ。  史上最大のティンを持つ男の愛の言葉。例え対象が自分でなくとも、それを聞いた全ての者の心臓が「トゥンク」と音を立てて跳ねた。  その中で、一際デカい弾音――いや、火山の噴火を彷彿とするほどの「爆音」が、デッカの至近から響き渡った。  その直後、爆音の発信源から、より以上にデカい叫び声が上がった。「ななななな――何を、何お仰っておられるのですかっ!?」 デカい声だった。それを聞いた者に伝説の魔獣「ドラゴン」を想像させた。 しかし、爆音の発信源は、子どもと錯覚するほど小さな少女だった。  その少女、リザベル・ティムルは、咆哮を上げながら立ち上がった。その様子は、カフェテラスにいた全ての者に視界に映っていた。「リザベル様が立った、お立ちになられたっ!!」 「これから何が始まるの?」 「戦争――いや、この国の滅亡かっ!?」 カフェテラスにいる者の中で、正確に状況を把握している者は、当事者達を含めて一人もいなかった。  それでも、「絶望的な窮地に立っている」という最悪な現実だけは、全ての者、その本能が理解していた。 リザベルの反応次第で、全員の命が消えて無くなる。 学生達は死の恐怖に怯えながら「リザベル」という名の破壊神を見詰めていた。彼らの視線には、「助けて」と悲痛な想いが籠っていた。それを浴びたリザベルは、頭部に生えた「女性の腕ほどもあるティンティン」を振り上げて――「ごほん」
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第六話 どちらのティンの方がデカいのか?
 ティン王国第一王子、デッカ・ティン。そして、王国西南端最前線を守護するアズル辺境伯の長女、リザベル・ティムル。  二人が出会ったのは、現在を遡ること十年ほど前のこと。 当時、二人は六歳。それぞれ健勝なのだから、出会う可能性は有るには有った。  しかしながら、彼我の生家は余りに遠い。膝栗毛(徒歩)など論外、馬車を使うにしても無茶が過ぎる。  何の用事が有って、こんな無茶を通したのか? 有体に言えば、「我が子のティンを誇示したい親の自己満足、或いは虚栄心を満たす為」だった。 そもそも、両家の当主達はデッカ達が0歳の頃から、二人を出会わせたくて仕方が無かったのだ。それを六年も待ったのだから、「よく我慢したね」と褒めて貰いたい。と、本人達は思っている。 六年.「諦めても良い」と思えるほどの長期間。それを耐え続けていた理由は、我が子の頭に生えた「余りにデカいティン」だった。 史上最大、空前絶後、「母体を突き破らなかったことが奇跡」と思えるほどデカいティン(ティンティン)。  ティン族ならば、羨ましがらずにはいられなかった。誇らずにはいられなかった。語らずにはいられなかった。例え王侯貴族であっても、狂喜乱舞せずにはいられなかった。  デッカの父ムケイも、リザベルの父アズルも、「世界中に知れ渡れ」とばかりに喧伝した。両家の領民達も、領主に倣って喧伝しまくった。 騒ぐ者が増えれば、必然的に声も大きくなる。 デッカとリザベルの話は、それぞれの領内に止まらず、領外へと拡大していった。  そもそも、ティンに拘るティン族が無視できる話ではなかった。王国中に広まるのに、それほど多くの時間を要しなかった。  当然、両家の親達の耳にも入った。  このときから、両家の親達の心には「全く同じ想い」がはち切れんばかりに膨れ上がっていた。「どちらのティンの方がデカいのか?」 我が子が最大なのか? それとも、あちらの子の方が大きいのか? 気になって仕方が無かった。その目で確かめずにはいられなかった。 ムケイも、アズルも、それぞれの親族も、領民も、ティン王国の全国民、全ティン族が、デッカとリザベルの出会いを希求した。  しかし、実際に二人が出会えたのは「六年後」なのだ。そこまで時間を費やさなければならない、或いは待たなければならない理由が「当時」には有った。 当時、
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第七話 ティンを――握らせたのですかっ!?
 ティン王国国王領。現国王ムケイが直接治める、所謂「直轄地」。王国領領内最奥に位置する最も安全な場所にして、南方領(シムズ・ティルト侯爵領)に次ぐ資源の宝庫だった。  当然のように人が集まり、その人口は全王国領中「不動の第一位」を誇っている。 しかし、不思議なことに税収は下落傾向にあった。それも、ここ数年に限っての話だ。その事実は、王城の税務課の資料に記載されている。由々しき事態だ。  しかし、王城の会議に於いて、その話題が出た例は無い。そもそも、税務課の職員達も、大臣達も、国王ムケイですら、その事実を問題視していなかった。  何故なのか? その謎を解明すべく、デッカは今日も執務室に籠っていた。 デッカの執務室は王城の最奥に有った。そこまで続く石の回廊は、洞窟と錯覚するほど暗く冷たい。  しかし、執務室のドアを開けた先は「眩い光の世界」だった。その奇跡の光景の理由は、ティン力でもなければ魔法でもなかった。 ティン王国の王城には、それは大きな「中庭」が有った。 デッカの執務室は、中庭の際に位置していた。その為、中庭側に設置された窓が陽光を招き入れ、室内を宝物庫のように輝かせていた。  本を読むには十二分の光量が確保できた。その恩恵を存分に生かして、デッカは執務机に乗せた資料を読み漁っていた。  今日も一人で飽きもせず、よくやる。 尤も、デッカには「単独で調査しなければならない理由」が有った。その制約も有って、それなりに手間や労力が必要だった。  しかしながら、調査を始めてから既に一週間ほど経っている。デッカの立場(王国第一王子)や能力(史上最大のティン)を鑑みると、いい加減手掛かりを得ても良い頃だろう。ところが、「何――だろうな?」 情けないことに、デッカには全く皆目見当も付かない状態だった。  そもそも、王都税務課から借りた資料そのものが「謎」なのだ。謎を漁っても、中から出てくるものは「謎」以外無い。  読めば読むほど、考えれば感がるほど謎は深まるばかり。デッカの脳内には「徒労」の二文字が閃いていた。「何――だろうな?」 デッカの口から、再び益体の無い愚痴が零れた。只の独り言だった。応える者などいないはずだった。ところが、「何――なのでしょう?」 デッカの独り言に「重低音の声」が応えた。  デッカのそれとは全く違う声。実際
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第八話 俺と結婚して下さい
 王都オーティン。中心に白亜の王城を頂くティン王国最古にして最大の都市。  王城の荘厳さは言うに及ばず、城下町もまた、王城に比すほど荘厳にして美麗だった。その為、他の領土の人々からは「白い美術品」と呼ばれている。 王都城下町の地面は、王城の敷地と同じくピタラ石製の白い石畳が広がっていた。どこぞの大学と違い、市民達が毎年補修、掃除、点検を行っている。その為、「表通り」は白さを保ち続けていた。 その白い石畳の上に、白い家屋群が整然と立ち並んでいた。 王都城下町の建物は、殆どが白い石(ピタラ石)と白い木材(モリッコロ原産の針葉樹、『ゲッパク』)を組み合わせたハーフティンバー式。それら白い二階建て、或いは三階建ての建物が、背中合わせの二列縦隊で街路沿いに軒を連ねていた。  建物群に挟まれた街路は、その殆どが同じ幅になっていた。それもまた、城下町の美観を高める要因だった。  しかし、唯一本、他より遥かに太く、大きな街路が有った。 内壁の城門と、外壁の城門を貫く大道、王都メインストリート。通称「オーティン通り」。 王都を人間の体と例えるならば、オーティン通りは「大動脈(或いは大静脈)」になるだろう。  毎日市民(都民)達が集まり、商売、食事、談笑、散歩――と、様々な活動が行われる「王都で最も活気の有る場所」だった。その賑わい、盛況振りは、遠目からでもハッキリ確認することができた。 ティン王国第一王子、デッカ・ティンは「内壁城門前」にいた。そこから正面に伸びる大道、オーティン通りの様子を眺めていた。 ああ、王都の城下町は、こんなにも素敵な場所だったのか。 大河の如き大道が人々の活気で溢れている。その様子を見るほどに、デッカの胸にポカポカと春の陽射しのような暖かな気持ちが広がっていた。そんな彼の姿を、首を傾げながら見詰める者が四人ほどいた。  城門前を守る衛兵達だ。「何だ、あれ?」 「変な格好だな」 「痛い奴だ」 「目を合わせるな。かかわるな」 衛兵達は、デッカのことを悪し様に言い合っていた。不敬罪に問われかねない無礼だった。  しかし、デッカを含めて、現況で衛兵達を咎める者はいなかった。そもそも、彼らが見詰めている男性(デッカ)は、王子様には見えなかった。 デッカは「市井の衣装」を身にまとっていた。その姿を見れば、「首から下」は市井の民そ
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第九話 ここに何をしに来たのだったか?
 ティン王国王領。国王が治める、所謂「直轄地」。王国領の中で最も豊かであるべき場所だろう。実際、人口も王国内最大を誇っている。 しかし、不思議なことに税収は下落傾向にあった。 何故なのか? その謎を解明すべく、王国第一王子、デッカ・ティンは秘密裏に調査を開始した。今日は「何をするのか」と言えば、「納税者である市民(王都民)に直接話を聞こう」 デッカは一般市民と同じ格好(『規格外にデカいティンケース付きの奇妙な帽子』以外)をして、侍従達が使う通用口から王都オーティン城下町へと繰り出した。  その際、デッカは一人だけ供を連れていた。 デッカの供は、一見、見目麗しい美少女だった。彼女は華奢な体に、市井の童女が着るような簡素なワンピースをまとっていた。それだけならば、未だ市井の民に紛れることはできた。  しかし、彼女「も」頭に「奇妙な帽子(鍔が大きく、規格外にデカいティンティンケース付き)」を被っていた。 その少女、リザベル・ティムルは、その小さな左手でデッカの大きな右手を掴み、その美貌に満面の笑みを浮かべながら、「さあ、デッ――『貴方』様、デートですわ、デートをしますわよ」 デッカを引っ張って、王都城下町、その真ん中を貫く大道、「オーティン通り」へと飛び出した。  因みに、デッカを「貴方」と呼んだ理由は、事前に「正体がバレないよう、互いの名前を呼ばないこと」と打ち合わせていた為だ。 王都のメインストリートであるオーティン通りは、今日も人々で溢れ返っていた。 一体、人々は何をしに来ているのか? その問いに関しては、オーティン通りに軒を連ねる建造物群を見れば察することができた。  そこには一般市民(都民)の学校、病院、王都建設以来の老舗大店、それらを統括する同業者組合(ギルド)の本部――と、「市民生活に必須、或いは有用」といえる重要施設が幾つも集中して立ち並んでいた。デッカの調査対象も、この通り沿いにあった。 先ずは「組合(ギルド)」からかな? それとも、参事会(王都民の自治会)本部か? デッカの目的は、民間組織に保管されている「納税に関する資料の確認」。それを「アポ無しで秘密裏に行おう」というのだ。無茶が過ぎる。相手にしてみれば青天の霹靂、「迷惑千万」と、デッカに塩を撒きたくなるほどの暴挙だろう。  しかし、デッカはやる覚悟を決めていた。や
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第十話 そんなに見たいのであれば、見せてやる
 王都オーティンに於いて「最も人が集まる場所はどこか?」と問われれば、誰もが王都メインストリート、通称「オーティン通り」を上げる。  人々が大道を行きかう様子は「大河」に例えられた。何人も、その流れを妨げることはできない。そう思われていた。  ところが今、大河の流れをせき止める猛者達が現れた。 猛者達はたった五人。三人の屈強そうな男達と、一組の見目麗しい男女のペア。前者と後者で向かい合って対峙していた。 前者、三人組の男達は厳しい顔付きをして、周囲に威圧的な空気を撒き散らしている。  後者、男女のペアの方は「キョトン」と擬音を鳴らしながら、首を傾げて不思議そうに男達を見ていた。  その周囲にいた者は、後難を恐れて急いで距離を取っていた。しかし、そのまま立ち去る者は存外に少なく、殆どの者は野次馬根性を発揮して、遠巻きに五人の猛者達の様子を窺っていた。 一体、何が起こっているのだろう? これから何が起こるのだろう? 不安、恐怖、興味――と、様々な感情が入り混じった視線が、五人の背中に突き刺さっていた。その刺激は、当人達も意識していた。  五人の猛者の内、三人組の方の顔に、「拙いな」と言いたげな渋い表情が浮かんだ。それと似たような表情が、男女のペアの男の顔にも浮かんでいた。 場所を変えた方が良さそうだ。 男女のペアの男――デッカは、三人組の男達に「移動」を提案するつもりだった。  しかし、現況(王都城下町)に慣れていない為、直ぐに「行き先」を決めることはできなかった。それでも、「現在地から離れることが第一」と考えて、適当な場所を探すべく、周囲に視線を巡らせた。  その最中、デッカ達と対峙する三人組の内、真ん中に立つ「リーダー格」と思しき年長の男が声を上げた。「ここでは何だ、付いて来い」 男は顎を真横に捻った。その顎先を辿ると、オーティン通りに並んだ家屋の「隙間」を指していた。 王都城下町の家屋群は、背中合わせの二列縦隊で並んでいた。隙間の向こう側は、家屋の背中の間、所謂「路地裏」だった。  王都の町並みの裏の顔。整然と並ぶ表通りとは打って変わり、路地裏は存外に入り組んでいた。その為、陽光の恩恵を受け損ねている。  薄暗い隘路など、鼠や猫などの小動物なら兎も角、人が好んで入る場所ではない。それを見詰めるデッカの心中に、嫌な予感が過った。
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