LOGIN異星マサクーンには「ティン王国」という有角人の国が有った。そこでは頭部に生えた角を「ティン」と呼んでいる。女性の場合は二本生えているので「ティンティン」という。 ティンには特殊な力が宿っており、その威力はティンの大きさに比例した。その為、王国では「ティンの大きさこそが人の価値を決める」と信じられていた。 この物語は、「史上最大のティン」を持つ王国の王子デッカと、「史上最大のティンティン」を持つ王国辺境伯貴族令嬢リザベルとの、愛と勇気と力と技と、勢いと思い付き、行き当たりばったりで構成するラブ×∞+コメディである。
View Moreアゲパン大陸の北東にそびえ立つ天下の険、ピタラ山脈。その麓に広がる白い城塞都市、王都オーティン。その中心に立つ白亜の王城で、ちょっとしたファッションショーが行われていた。 場所は王城最大の広間、謁見の間。 ピタラ石が敷き詰められた白亜の空間(中心)に、四人の男性が立っている。 国王ムケイ、第一王子デッカ、第二王子フルイ。 王族男性揃い踏みである。その中に混じって、長身痩躯の男性、デッカ専属声騎士のブラリオがいた。 それぞれの立場や身分は、当然違う。しかしながら、今はそれぞれ一人の男として同じ「土俵」の上に立っている。 土俵と言えば「力士」を想起する者は存外に多い。実際、四人とも力士っぽい格好をしていた。 有り体に言えば「殆ど全裸」である。唯一身に着けているものは、腰から垂れる「長い白布」だけ。その布の意味と正体が、ムケイの口から飛び出した。「どうだ? ジポング土産の『|褌《ふんどし》』の履き心地は?」 褌。極東の島国「ジポング」に於ける一般的な男性の衣装である。その眩しい白さに、ムケイは心底惚れ込んでいた。 ムケイは、その鋭い瞳をキラキラ輝かせながら、息子達(幸運にして巻き込まれたブラリオを含む)に感想を要求(立場的に強要)した。すると、デッカが反応した。「ふむ」 デッカは、感想を言う為に、先ずは自身の体を見回した。 このとき、デッカは堂々としていた。堂々と褌姿を晒していた。殆ど全裸という状態でも、何ら恥じることは無い。 しかしながら、「この場の全員が、褌姿に自信満々」という訳ではなかった。 国王の意に反する不届きな言葉が、デッカの|弟君《おとうとぎみ》(『おとうとくん』とルビを振りたいところだが)の口から飛び出した。「僕は、少し恥ずかしいです」 フルイは右腕で胸を隠し、左腕で股間を隠そうとしている。その言動は、当然ムケイの|耳目《じもく》に入っている。「恥ずかしい?」 ムケイの端正な顔が、ピシリと音を立てて強張った。その喉下まで「ばっかもーん」という怒鳴り声が込み上げた。心中には説教を垂れたい気持ちも沸いている。 しかしながら、|王偉《おうい》をものともしない不届き者が、もう一人いた。 ブラリオは、その痩身を存分に晒しながらも、頻りに首を捻っている。「陛下。何故、フンドシ――ですか? これ一枚しか身に付
アゲパン大陸東端に位置する島国は、他国から「ジポング」と呼ばれている。 しかしながら、それは飽くまで他称。ジポング国民は、自国を「帆本」と呼称している。 何か、こう、火山噴火と同時に「ひょっこり」しそうな名前である。これもまた、島国故の感性か。 そもそも、ジポング――帆本は島国故、他国からの影響が少ない。帆本内では「帆風」という独自の文化が発展している。 王都「江都」の構造も、その内の一つ。 江都を上から見ると、川と見紛う大きな堀が「右巻きの渦状」になっている。江都城の城下町は、その間に挟まるように展開していた。 渦の中心に将軍の居城「江都城」。その御膝下に「武家街」。更に外側を「町人街」――と、いう順番だ。江都城には、真っ直ぐ辿り着けない構造となっている。 一応、城下町にはメインストリートが有る。しかし、それらは途中で建物、壁、なんやかんやの障害物にバッサリ遮られている。支道も袋小路ばかり。初見で江都城まで辿り着くことは難しいだろう。それ以前に、迷子になること間違いなし。 そんな「迷宮」のような場所で「祭」が開催されている。それも、全宇宙に名を轟かせている奇祭、「褌祭」だ。 褌祭を見学しようと、外宇宙から異星人までもがやって来るとか来ないとか。 まあ、仮に「やってきた」としても、現地民は無視する。発祥の地である地球の人々であろうとも、江都の都民達であろうとも、全力で無視する。 何しろ、褌祭の開催期間中は何かと忙しいのだ。それこそ人の心を亡くすほど。「今、正に開催中」となれば尚更だ。 些事に構っていられるほど、皆は暇ではない。例え異星人を見付けたとしても、「祭」以外に興味関心を覚えられる状態ではなかった。 今、江都城下町人街のメインストリートには、江都中の都民達が大勢詰め掛けている。それなりの広さが有る大道が、黒山の人だかりで埋め尽くされている。宛ら「満員電車の鮨詰め状態」と言ったところ。蟻の這い出る隙間もない。そのはずだった。 ところが、蟻より遥かに大きな物体が「ぬっ」と湧いて出た。 人海のど真ん中に、「屋根付きの箱」が覗いている。それを押し上げているものは、「半裸の男達」だった。 男達が担いでいる箱は、ジポングの「神輿」という。 男達の格好
武士の国ジポングの首都(王都)を「江都」という。他国の王都同様、王(ジポングで言うところの『将軍』)の居城を中心に、城下町が広がっている。 王城――江都城の周りには堀が有ったり、城壁が有ったりする。しかし、城下町には何の防衛機構も無い。「平和だね?」と、いう訳ではない。 実は、城下町自体が江都城の防衛機構なのだ。城下に暮らす領民は、ちょっとだけ涙目になっても良い。 尤も、そこは武士の、武士に因る、武士なりの考え。元より籠城戦となれば、領民を城に押し込めるつもりなのだ。城内には領民を匿う設備や、備蓄がタンマリ有った。まあ、それはそれとして。 現在、江都城内、他国でいうところの「謁見の魔」に、奇妙な「男女」の姿が有った。 歳の頃五十代――もしかしたら四十代後半と思しき男性と、十代前半――もしかしたら十歳未満と思しき女性。 二人は一見、親子。しかして、その実態は夫婦。しかし、只の夫婦ではない。二人の額から「大人の手」と形容できるほど大きな「角」が生えていた。 明らかにティン族。それも、王侯貴族級にデカい。さもありなん、宜なるかな。二人は王族だった。 ティン王国国王ムケイ・ティンと、その妻、王妃マルコ・ティン。 そんなやんごとない身分の二人が今、畳敷きの広間のど真ん中で、武士達に囲まれながら平伏していた。 何してんねん? 居合わせた武士、ジポングの為政者(将軍の近習)達は、二人の正体を知らない。それでも、「絶対に只者ではない」と直感して、二人をジト目で見詰めていた。彼らの主である将軍、徳下良月も「何かトンデモナイのが来ちゃってるぞ」と思いながら、引きつった笑みを浮かべていた。 そんな異様な雰囲気の中、平伏していた男女の内、男性の方が声を上げた。「余――いや、我が王ムケイ陛下から、将軍様宛の『親書』を預かっております」 親書。そこには現況の理由や意味が書いてある――かもしれない。居合わせたジポングの為政者達は、親書の内容に期待した。それを確かめたい気持ちも沸いた。 しかし、その前に「ちょっと気になること」が有った。 今、「余」って言ったよな? 余。とても偉い人が使う一人称である。それを許されている存在は、惑星マサクーンに於いては「王」、ジポングに於いては「将軍」唯一人。その事実は、将軍良月を含め、
奇妙な広間だった。藁を編んだ「畳」という床の上に、髪を結った複数名の中高年男性が座っている。その男達は、それぞれ「裃《かみしも》」と呼ばれる東方の民族衣装をまとっていた。 ここは異国。アゲパン大陸の東端に在る島国。その名も「ジポング」という。 現況は「ジポングの支配者」の居城だ。その中に有る大広間、他国で言うところの「謁見の間」であった。 一見、「変わった謁見の間」である。しかしながら、構造や機能は他国のそれと同じだ。 広間の最奥は「厚畳」と呼ばれる一段高い場所になっている。そのど真ん中に、歳の頃四十後半、或いは五十か? よほど苦労しているのか、年齢を特定し難い老け方をした男性が胡坐を掻いて座っていた。 その男――よく見ると、ちょっとイケメン。「若い頃はさぞやオモテになられた」とは、想像に易い。 しかし、実は一途な愛妻家。奥さん以外の女性に指一本触れていない。 その「貞操観念の権化」というべき男の名は「徳下良月《トクシタ・ラツキ》」という。 良月はジポングの武士を束ねる総大将であり、それ故にジポングを支配する「王」だ。ジポングでは、王のことを「将軍」という。良月は二十二代目の将軍だ。 その良月の前に、奇妙な二人組が平伏していた。 良月と同年代の男性と、十代前半と思しき少女。 それぞれ、ジポング的に「異国の衣装」をまとっている。しかし、奇妙なのは意匠だけではなかった。 男女の頭には「角」が生えていた。それも、「大人の手」と形容するほどデカいやつが。そのデカさは――そう、「王侯貴族級」なのだ。一目瞭然なのだ。 ところが、当人達は全力で身分を偽っていた。「我々は、ティン国王ムケイ陛下から遣わされた使者に御座います」 五十代男性が自己紹介した際、良月を含めた武士達が一斉に首を傾げた。 それ、絶対嘘だよね? 皆、男女の頭に生えた角――「ティン(或いはティンティン)を見ていた。実際、「それ」が一番分かり易い。しかし、例えティンが無かったとしても「普通の使者」とは思わなかっただろう。 ティン族の使者(自称)達の体から、抑えきれないほどの威厳が漂っている。それも、自分達の王(将軍)をも凌ぐほど。 このような偉人が、只の使者のはずが無い。 誰もが「これ、ほんとマジヤバいやつ」と直感していた。そして、「それ」は正鵠ど真ん中を深
惑星マサクーン最大の陸地、アゲパン大陸。その「臍」というべき中央部に在る国、オニクランド共和国。その領土の中心に聳える山脈、オツパイン樅帯。その頂上部に群生するオツパイン樅の木の下で、白い革コートを羽織った貴公子と淑女の姿が有った。 貴公子の名はデッカ・ティン。淑女の名はリザベル・ティムル。 リザベルは、大きな樅木に背中を預けるように立っている。デッカは、リザベルの真正面に立っている。 うら若い男女が大きな樅木の下で向かい合っている。その現場に出くわしたなら、脳内に「仲良く遊びましょ」と、楽しげな幻聴が響き渡ったとしても致し方無し、宜なるかな。 しかし、
苔むした「灰色」の大噴水。それを囲む「灰色」の石畳。石畳の上には古ぼけた木製のベンチが幾つか置かれていた。 王立オーティン大学講堂、中庭。 講堂の中心に位置する場所であるが故に、それなりに人が通る場所だ。 だが、汚い。大噴水にへばり付いたコケや、石畳を覆う雑草が、灰色に余計な緑を加えている。いい加減、「ちゃんと掃除しとけ」と言いたくなるところだ。 しかし、学生の本分は飽くまで勉強。この大学の学生達も、「掃除する暇が有ったら本の一冊でも読んでいる」という、本の虫ばかり。そのような状況にあって、「外で遊びまくっている学生」がいたならば、それは――目立って当然だった。 時刻は正午過ぎ
ティン王国で、最も有名な建造物といえは、殆どの者が「王都の王城」と答えるだろう。王城の威容を見た者は、「ピタラ山脈の一部」と錯覚する。 それほど大きな建造物だと、中の部屋もそれなりの大きさになる。その中でも、一際広大な部屋が有った。 王城「謁見の間」。 白いピタラ石製の空間は、そこに足を踏み入れた者に「無限」を直感させた。全ての王都民を詰め込んでも、未だ「空き」が有るかもしれない。 その広大な空間に、二人の男性の姿が有った。 壮年、或いは中年と思しき男性と、十代と思しき若者。 二人は、広間中央部を貫く赤絨毯のど真ん中で、向かい合って立っていた。 どちらも目を見張るほど
塩気を帯びた風が、デッカとリザベルの肌を弄った。規則的に刻まれる「波」の音が、二人の鼓膜を震わせていた。 今、二人の目の前には「無限」と錯覚するほど広大な「青」が有った。 その青は「水」だった。それも「無尽蔵」と錯覚するほど大量の水だ。そのような圧倒的な水量を誇る「湖」など、ティン王国には無い。惑星マサクーン上にも、「湖」ならば無い。 一体、二人は「何」を見ているのか? その答えが、二人の口を衝いて零れ出た。「「これが――『海』」」 デッカ達は海に来ていた。二人の目の前には、地表の七割を占める大海「リバイアス」が広がっていた。それを見詰める二人の足下には、白い砂浜が広がっていた