All Chapters of 「この誓いは、秘密のままで」と告げた騎士様が、なぜか私を離してくれません: Chapter 21 - Chapter 30

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第21話:それぞれの新たな日常

 レイモンドが隠れ家を後にし、最終決戦の地へと向かったあの日以来、アメリアの日常は、まるで色褪せてしまったかのようだった。彼の存在が、彼女の生活の全てを彩っていたことを、アメリアは痛感した。残された手紙を何度も読み返し、彼の決意と、そこに含まれた深い優しさに触れるたび、胸の奥が締め付けられるようだった。 数日後、レイモンドから協力者を通じて、連絡が入った。彼の抱える「重大な問題」は、無事に解決したという。敵の首謀者たちは捕らえられ、古文書も完全に奪還された。レイモンドは、約束通り、アメリアの家族の生活を全面的に保障すると伝え、アメリア自身も、元の屋敷に戻って侍女の仕事を続けることになった。 アメリアは、再び侍女の日常に戻った。朝早くに起き、庭の手入れをし、部屋を掃除し、他の侍女たちと共に食事の準備をする。かつては、質素ながらも勤勉なこの日常に、小さな幸せを感じていたはずだった。しかし、今は、何をしていても、心にぽっかりと穴が開いたような虚しさを感じていた。 屋敷の庭に出るたび、アメリアは、かつてレイモンドと二人で過ごした時間を思い出した。彼が窓から庭を眺めていた書斎の窓、彼が座ったベンチ、そして、彼と指先が触れ合ったあの露店街。彼の面影が、あらゆる場所に宿っているように感じられた。(レイモンド様は、今頃、どうしていらっしゃるかしら…) 彼の無事は喜ばしい。彼が貴族としての使命を果たし、輝かしい未来へと進んでいるのなら、それで良いのだと、アメリアは自分に言い聞かせた。しかし、心の奥底では、彼の声を聞きたい、彼の姿を見たい、彼の温もりに触れたいと、常に願っていた。 仕事の合間、アメリアはよく、思い出に耽るようになった。レイモンドの怪我を介抱した日々、共に秘密を共有し、危険な情報収集に赴いた時間、そして、あの嵐の夜のキス。どれもが、アメリアにとってかけがえのない宝物だった。彼の冷徹な表情の裏に隠された優しさ、孤独、そして、自分への「溺愛」。それら全てが、アメリアの心を深く満たしていた。 他の侍女たちと他愛もない会話を交わす時も、アメリアの心は、どこか遠い場所に漂っていた。彼女は、以前のように笑顔を見せることはできるが、その笑顔は、どこか空虚で
last updateLast Updated : 2025-08-20
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第22話:レイモンドの婚約話

 契約が終わり、レイモンドが秘密裏に活動していた隠れ家から去って以来、アメリアの日常は、まるで色彩を失ったかのようだった。侍女の仕事は変わらず忙しく、日々の勤めをこなすことに追われていたが、心は常に、彼の面影を探し続けていた。彼がいた空間、彼の声が響いた廊下、そして彼と交わした言葉の数々。全てが鮮明な記憶として蘇り、彼女の心を締め付ける。レイモンドから贈られた青いペンダントは、肌身離さず身につけ、彼女にとって唯一の心の支えとなっていた。 一方、レイモンドもまた、表向きは貴族としての職務に復帰し、失墜したヴァルター家の名誉回復と、国の秩序を取り戻すために奔走する日々を送っていた。彼の功績は王宮内外で高く評価され、彼は瞬く間に、以前にも増して輝かしい地位を確立していった。しかし、その華々しい活躍の裏で、彼の心は満たされない孤独に苛まれていた。アメリアのいない日常は、どれほど栄光に満ちていても、彼にとっては色褪せたものにしか感じられなかった。 そんなある日、アメリアの耳に、衝撃的な情報が間接的に入ってきた。それは、レイモンドに関する、あまりにも現実的な話だった。 休憩時間、侍女たちが集まる部屋で、いつものように他愛もない噂話に花を咲かせていた。アメリアは、手元の裁縫道具に目を落としながら、ぼんやりと彼女たちの会話に耳を傾けていた。「ねぇ、聞いた?ヴァルター様のところに、また縁談の話が来てるんですって」 「ええ、私も聞いたわ。今度は本当に決まりみたいよ。何しろ、お父様が自ら乗り出しているんですから」 アメリアの手が、ぴたりと止まった。裁縫針が、指先に刺さる感覚があったが、痛みを感じないほど、彼女の心臓は激しく高鳴っていた。レイモンドの縁談。以前も一度耳にした話だが、今回は「決まりそう」という言葉が、アメリアの心を深く抉った。「今回は、かなり有力な家門のお嬢様らしいわよ。王家とも繋がりが深い、ドール公爵家のご令嬢なんですって」 「まあ!ドール公爵家となると、これはもう文句なしね。まさか、あのヴァルター様が、あんな身分の高いお嬢様と……」 ドール公爵家。その名前を聞いた瞬間、アメリアの全身から血の気が引くのが分かった。ドール公爵家は、王家にも
last updateLast Updated : 2025-08-21
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第23話:アメリアに迫る危険

 レイモンドとの契約が終わり、それぞれの道を進むことになったアメリアとレイモンド。アメリアは、貴族の婚約話が持ち上がったレイモンドの幸せを願いながらも、胸の奥で痛む想いを抱え、侍女としての日常に戻っていた。レイモンドもまた、表向きは輝かしい貴族としての職務に復帰していたが、アメリアのいない日常に満たされない感情を抱え続けていた。 王都は、レイモンドが政敵を打倒したことで、表面的には平穏を取り戻したかのように見えた。ヴァルター家の名誉は完全に回復し、レイモンドは若き侯爵として、その手腕を発揮し始めていた。しかし、彼が解決した問題の背後には、まだ深い闇が潜んでいた。レイモンドの政敵や、彼らが抱えていた過去の因縁は、完全に消え去ったわけではなかったのだ。そして、彼らは、レイモンドの秘密、つまりアメリアの存在を、まだ危険視していた。 アメリアは、そんな王都の裏側でうごめく影を知る由もなかった。彼女は、日々、屋敷の侍女として勤勉に働いていた。庭の手入れをし、掃除をし、食事の準備を手伝う。忙しい日常の中に身を置くことで、レイモンドへの募る想いを、少しでも忘れようとしていた。 しかし、ある日を境に、アメリアの身の回りで、不審な出来事が起こり始めた。 最初は、些細なことだった。  庭で花の手入れをしていると、視線の端で、見慣れない男が屋敷の周りをうろついているのが見えた。男は、アメリアと目が合うと、すぐに物陰に隠れるように姿を消した。アメリアは、気のせいかと気に留めなかった。屋敷の警備は厳重なはずだし、まさか自分が狙われるなど、考えもしなかったのだ。 その数日後、王都へ食材の買い出しに出かけた時のことだ。賑やかな市場の人混みの中を歩いていると、アメリアは、ふと背後から奇妙な視線を感じた。振り返ると、また、あの時の男によく似た人物が、物陰からじっと自分を見つめている。男は、アメリアが気づいたことに慌てたように、すぐに人混みの中へと消えていった。 アメリアの胸に、漠然とした不安が広がった。偶然だろうか。それとも、何かの間違いだろうか。しかし、同じ人物が、二度も自分の周りに現れるのは、あまりにも不自然だった。 夜、自室に戻ると、アメリアは、窓の外の闇を見つめなが
last updateLast Updated : 2025-08-22
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第24話:再会

 レイモンドとの契約が終わり、それぞれの道を歩み始めたアメリアとレイモンド。アメリアは、迫りくるレイモンドの婚約話に胸を痛めながらも、彼の幸せを願う日々を送っていた。しかし、その裏で、レイモンドの過去の因縁が、再びアメリアの身に危険を迫っていた。不審な男たちの視線、奇妙な物音、そして見慣れない呪いの人形。アメリアは、自分が狙われていることを確信したが、レイモンドに迷惑をかけるまいと、一人で耐え忍んでいた。 アメリアの身に危険が迫っていることを、レイモンドは間接的な情報網から察知していた。契約は終了した。彼女を危険な目に遭わせるわけにはいかないと、理性では分かっていた。だが、アメリアの身に、再びあの者たちの手が伸びていると知った瞬間、彼の理性は吹き飛び、いてもたってもいられない衝動に駆られた。彼は、多忙な公務を無理やり切り上げ、密かにヴァルター侯爵邸を抜け出した。 その日の午後、アメリアは、買い出しのために王都の市場へと向かっていた。侍女仲間の一人が病で倒れたため、アメリアが代理で出向くことになったのだ。いつもは賑やかな市場も、今日はどこか閑散としているように感じられた。アメリアは、周囲に不審な人物がいないか、絶えず警戒しながら歩いていた。ここ数日の不気味な出来事が、彼女の心を深く蝕んでいたのだ。 目的の店で食材を受け取り、帰り道を急いでいたその時だった。人通りの少ない裏路地に入った瞬間、アメリアの背後から、複数の足音が近づいてくるのを感じた。振り返ると、そこには、フードを深く被った三人の男が立っていた。彼らの纏う雰囲気は、以前アメリアが見た不審な男たちと酷似していた。そして、その中の一人の男の腕には、あの不気味な紋章が、はっきりと見えた。「おい、小娘。少し、俺たちに付き合ってもらうぞ」 男の一人が、低い声でアメリアに迫る。アメリアは、恐怖で体が硬直した。逃げなければ。しかし、足がすくんで動かない。男たちは、じりじりとアメリアに詰め寄ってくる。彼女は、逃げ場のない路地で、絶望的な状況に追い込まれていた。「何を、している?」 その時、背後から、氷のように冷たい声が響いた。その声に、アメリアの心臓は激しく高鳴った。この声は…! 男たちが驚い
last updateLast Updated : 2025-08-23
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第25話:真実の告白

 レイモンドとの予期せぬ再会は、アメリアの心に激しい嵐を巻き起こした。彼が危険を顧みずに自分を助けに来てくれたこと、そして、あの時交わした熱い抱擁と視線。それは、アメリアがどれほど彼に愛されているかを、まざまざと突きつけるものだった。しかし、彼の婚約話が現実味を帯びている今、この再会が何を意味するのか、アメリアには分からなかった。 レイモンドは、アメリアを救い出すと、そのまま人目につかない場所へと彼女を連れて行った。そこは、王都の裏路地にある、古びた倉庫だった。彼は、周囲を警戒しながら、アメリアを倉庫の奥へと促した。「ここなら、しばらくは安全だ」 彼の声は、安堵と、まだ残る緊張でかすかに震えていた。アメリアは、彼の隣に座り込み、呼吸を整えた。あの恐怖と、彼への再会の喜びと、そして、胸の奥で渦巻く複雑な感情で、まだ心臓が激しく鳴っていた。 レイモンドは、アメリアに背を向け、倉庫の入り口の方を見張っていた。彼の背中は、以前にも増して大きく、そして頼りがいがあった 。その肩幅の広い背中を見ていると、アメリアは、これまでの全ての出来事が、走馬灯のように脳裏を駆け巡った。彼が深手を負って裏庭に倒れていたあの日から、共に秘密を分かち合い、危険を乗り越えてきた日々。彼が隠していた優しさ、そして、あの嵐の夜のキス。全てが、アメリアにとって、かけがえのない宝物だった。「レイモンド様……なぜ……」 アメリアは、絞り出すような声で尋ねた。なぜ、契約が終わったのに、婚約話まで進んでいるのに、彼は自分を助けに来てくれたのだろうか。 レイモンドは、アメリアの問いに、すぐに答えることはなかった。彼は、静かにアメリアの方へと振り返った。彼の深い琥珀色の瞳が、アメリアの顔をじっと見つめる 。その瞳は、これまで見たことのないほど、感情に満ちていた。苦悩、後悔、そして、アメリアへの抑えきれない愛情。それら全てが、彼の瞳の中で渦巻いていた。「なぜ、だと……?」 レイモンドの声は、低く、そして、どこか自嘲するように響いた。 「お前が危険に晒されていると聞いて、俺がじっとしていられるとでも思ったか、アメリア」 彼の言葉は
last updateLast Updated : 2025-08-24
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第26話:身分を越えるための決意

 互いの真実の愛を確かめ合ったレイモンドとアメリア。危険な裏路地の倉庫で交わした告白とキスは、彼らの心を深く結びつけた。レイモンドの「溺愛」が契約とは関係のない真実の愛であることを知り、アメリアもまた、彼への揺るぎない想いを伝えたことで、二人の間に横たわっていた壁は、一度は取り払われたかのように思えた。しかし、彼らの愛を阻む、もう一つの大きな障壁が、依然として存在していた。それは、彼らの間に厳然と存在する「身分差」だった。 夜が明け、王都に朝の光が差し込む頃、レイモンドはアメリアを連れ、再び人目を忍んで隠れ家へと戻った。倉庫での夜明けは、彼らにとって、新たな未来の始まりを告げるかのようだったが、同時に、現実の厳しさを突きつけるものでもあった。 隠れ家に戻った二人の間には、昨日までの切なさとは異なる、静かで、しかし確かな温もりが満ちていた。レイモンドは、アメリアを腕の中に抱き寄せ、その髪を優しく撫でた。「アメリア…」 彼の声は、昨夜の激しい感情とは打って変わり、落ち着いていたが、その中には、アメリアへの深い愛情が溢れていた。 「昨夜は…混乱させてしまってすまなかった」 アメリアは、彼の言葉に顔を上げた。 「いいえ…レイモンド様のお気持ちを知ることができて、私は…本当に嬉しかったです」 アメリアの瞳は、まだかすかに赤く、だが、その奥には、彼への真実の愛が輝いていた。 レイモンドは、アメリアの頬にそっと触れると、深呼吸をした。 「愛している。それは、決して嘘偽りのない、俺の本心だ」 彼の真剣な眼差しに、アメリアの心臓は大きく鳴った。 「はい…私もです」 二人の間に、再び静かな時間が流れる。互いの存在を確かめ合うように、強く抱きしめ合った。しかし、この幸福な瞬間にも、レイモンドの頭の中では、現実の問題が巡っていた。 レイモンドは、アメリアを抱きしめたまま、静かに語り始めた。 「お前を愛している。だからこそ、俺は、お前との未来を諦めるわけにはいかない」 アメリアは、彼の言葉に、胸が高鳴るのを感じた。「だが、お前も知っている
last updateLast Updated : 2025-08-25
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第27話:障壁への挑戦

 互いの真実の愛を確かめ合い、身分差という大きな障壁を共に乗り越える覚悟を決めたレイモンドとアメリア。レイモンドは、アメリアとの未来のために、貴族としての地位を捨てることも辞さないとまで言い切った。その彼の決意は、アメリアにとって何よりも心強く、彼女もまた、どんな困難な道であっても彼と共に歩むことを誓った。しかし、彼らの愛が直面する現実の壁は、想像以上に高く、そして冷酷だった。 レイモンドは、アメリアと未来を誓い合った翌日、すぐに行動に移した。彼は、自邸に戻ると、多忙な公務の合間を縫って、父親であるヴァルター侯爵に面会を求めた。書斎に足を踏み入れたレイモンドの表情は、いつも以上に真剣で、彼の決意が滲み出ていた。「父上。申し上げたいことがございます」 ヴァルター侯爵は、息子が何か重要な報告に来たのかと思い、資料から目を上げた。彼にとって、レイモンドはヴァルター家の再興を成し遂げた誇り高き息子だった。「何だ、レイモンド。改まって」 レイモンドは、深呼吸をした。 「私には、結婚を望む女性がおります」 侯爵の表情が、一瞬にして凍りついた。彼は、ドール公爵家との縁談が順調に進んでいることを知っていたからだ。「何を言うか。お前には、ドール公爵家のご令嬢との婚約話が進んでいるはずだ。この期に及んで、何を戯言を…」「戯言ではございません、父上。私は、ドール公爵家のご令嬢とは結婚できません。私が愛しているのは、別の女性です」 レイモンドの言葉に、侯爵は激怒した。彼の顔は、みるみるうちに赤くなった。 「馬鹿なことを言うな!どこの出の女だ!?まさか、あの侍女の娘ではあるまいな!?」 侯爵の言葉に、レイモンドは身構えた。やはり、アメリアの存在は、既に嗅ぎつけられていたのだ。「…はい。彼女の名はアメリアと申します。彼女こそが、私が愛し、生涯を共にしたいと願う女性です」 レイモンドの言葉に、侯爵は、持っていた書類を音を立てて机に叩きつけた。「ふざけるな、レイモンド!お前は、ヴァルター家の嫡男だぞ!この家が、どれほどの苦境を乗り越えてきたか、忘れたとでも言うのか!?
last updateLast Updated : 2025-08-26
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第28話:未来への光

 レイモンドが自身の家族と貴族社会の重鎮たちに、アメリアへの真剣な想いを打ち明けて以来、彼が直面する反対と抵抗は、日を追うごとに激しさを増していた。侯爵家は、ドール公爵家との縁談を強引に進めようとし、王宮内の貴族たちも、レイモンドの行動を「身分違いの恋に現を抜かす愚行」として非難した。しかし、レイモンドの、アメリアを守り抜くという強い意志は、何者にも揺るがなかった。 レイモンドは、日中は貴族としての職務をこなしながら、夜はアメリアの件で父親や縁談相手の使者との議論に明け暮れていた。彼の疲労はピークに達していたが、その瞳の奥の決意は、少しも曇ることがなかった。「父上、何度申し上げればお分かりいただけますか。私が結婚するのはアメリアだけです。他の女性と婚姻を結ぶなど、ありえません」 侯爵邸の書斎で、連日繰り返される父親との押し問答。侯爵は、息子がここまで頑なであることに、苛立ちを隠せない。「レイモンド!貴様はヴァルター家の嫡男だぞ!私情で家名を貶めるような真似は許さん!」「家名を貶めるのは、私情に流されることではございません。愛のない婚姻を結び、心を偽ることこそ、家名を汚す行為です!」 レイモンドの声は、侯爵に負けないほどの強い意志に満ちていた。彼の言葉は、貴族社会の常識とはかけ離れていたが、そこには真実の愛を貫こうとする、騎士としての揺るぎない魂が宿っていた。 その頃、アメリアは、レイモンドが激しい戦いの渦中にあることを肌で感じ取っていた。屋敷の侍女たちの噂話は、日を追うごとにレイモンドの縁談話と、その進捗に関するものへと変化していった。どうやら、レイモンドがその縁談を頑なに拒否しているらしい、という情報も、アメリアの耳に届くようになった。(レイモンド様…) アメリアは、彼の苦悩を思うと、胸が締め付けられた。自分が、彼にどれほどの重荷を背負わせているのか。それでも、彼女は彼を信じ、遠くから彼の無事と成功を祈り続けていた。彼女にできることは、直接彼を助けることではない。しかし、彼が自分を愛してくれているという事実を胸に、強く、そして健気に日々を過ごすことが、彼への最大の支えだと信じていた。 そんなレイモンドの努力と、アメリアの献身的な支えが、少しずつ周囲の理解を得始める兆候が現れ始めた。 ある日、レイモンドの旧友であり、彼がかつて命を救った騎士の
last updateLast Updated : 2025-08-27
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第29話:新たな誓い

 レイモンドが自身の家族と貴族社会の重鎮たちにアメリアへの真実の愛を打ち明け、猛烈な反対に遭いながらも、彼の揺るぎない決意は、少しずつ周囲の心を動かし始めていた。旧友や元部下といった協力者の存在、そして、失われた古文書から見つかった「功績による身分の向上」という歴史的先例。それらの光が、レイモンドとアメリアが共に歩むための、新たな道筋を照らし始めたのだ。 レイモンドは、父親であるヴァルター侯爵との連日の話し合いを続けた。侯爵は、息子の頑なな態度と、彼が示す揺るぎない決意に、徐々に根負けしていく様子を見せ始めた。特に、古文書に記された先例と、レイモンドの類稀なる功績を前にしては、侯爵も反論の余地がなくなっていったのだ。「レイモンド…そこまで言うのなら、もう好きにするがいい。だが、この選択が、お前自身の首を絞めることにならぬよう、肝に銘じておけ」 侯爵は、まだ完全に納得したわけではなかったが、息子の強い意志を認めざるを得ない状況だった。それは、侯爵にとって、息子への信頼と、ヴァルター家の未来への懸念が入り混じった、複雑な決断だった。 レイモンドは、父親の言葉に深く頭を下げた。「ありがとうございます、父上。必ず、父上の期待を裏切りません」 侯爵家からの理解を得る見通しが立ったことで、レイモンドは次の段階へと進んだ。彼は、王宮に正式な謁見を求め、国王陛下に直接、アメリアとの婚姻を願い出たのだ。 謁見の間で、レイモンドは、国王陛下と、その場に居合わせた有力貴族たちの前で、アメリアへの真実の愛を、そして、彼女が自らの命を顧みずに彼を支え、国家の危機を救う手助けをしてくれた功績を、全て語った。そして、古文書に記された「功績による身分の向上」という先例を提示し、アメリアに貴族としての身分を与えることを懇願した。「陛下。彼女は、王宮の侍女という身でありながら、私と共に国家の危機を救うため、命の危険を顧みずに行動してくれました。彼女の献身と勇気がなければ、国家の秩序は揺らぎ、多くの民が苦しむことになったでしょう。この功績は、如何なる貴族にも劣らぬものと信じております」 レイモンドの声は、謁見の間に響き渡った。彼の言葉には、アメリ
last updateLast Updated : 2025-08-27
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第30話:エピローグ・二人の愛が紡ぐ未来

 あの日、王宮から発せられた布告は、王都に大きな衝撃を与えた。平民の侍女が、名門侯爵家の嫡男と婚姻を結ぶ。それは、厳格な身分制度の中で生きる人々にとって、前代未聞の出来事だった。しかし、レイモンド・ヴァルター侯爵の類稀なる功績と、国王陛下の強い意志が、その不可能を可能にしたのだ。 そして、その布告から数週間後、王都の教会で、レイモンドとアメリアの結婚式が執り行われた。質素ながらも温かい式には、王室関係者や有力貴族、そして、アメリアがかつて仕えた屋敷の侍女たちも招待された。レイモンドは、白い軍服を纏い、誇らしげにアメリアの手を取った。アメリアは、手作りのシンプルな白いドレスを身に纏い、幸福に満ちた笑顔で、レイモンドの隣に立っていた。二人の瞳には、互いへの揺るぎない愛と、共に困難を乗り越えた者だけが持つ、強い絆が宿っていた。 それから、数年の月日が流れた。 王都の一角にある、小さな、しかし温かい侯爵邸には、アメリアとレイモンド、そして彼らの間に生まれた二人の子供たちの賑やかな声が響いていた。長男はレイモンド譲りの琥珀色の瞳と、アメリアの情熱的な赤毛を受け継ぎ、好奇心旺盛な男の子に育った。そして、末の娘は、アメリアに似た優しい眼差しと、レイモンドを彷彿とさせる凛とした佇まいを持つ、愛らしい女の子だった。 アメリアは、侯爵夫人となった今も、かつての侍女時代と変わらず、質素で勤勉な日々を送っていた。高価なドレスを身につけることはあるが、彼女はそれを飾るものとは考えておらず、日々の家事や子育てにも積極的に関わった。彼女は、自ら庭の手入れをし、子供たちのために手料理を作り、そして、夫であるレイモンドの帰りを温かく迎えることを何よりも大切にした。 レイモンドは、ヴァルター侯爵として、以前にも増して多忙な日々を送っていた。彼は、国の行政改革に尽力し、民の生活を向上させるための政策を次々と打ち出した。彼の公正な判断力と、民を思う心は、王宮内外で高く評価され、彼は「公正なる侯爵」として、多くの人々に慕われる存在となっていた。 どんなに忙しい日でも、レイモンドは必ず、夕食の時間には家に帰った。彼の帰りを待つのは、温かい食事と、愛する妻と子供たちの笑顔だ。書斎で疲れた一日を終え、リビングに戻
last updateLast Updated : 2025-08-28
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