レイモンドが隠れ家を後にし、最終決戦の地へと向かったあの日以来、アメリアの日常は、まるで色褪せてしまったかのようだった。彼の存在が、彼女の生活の全てを彩っていたことを、アメリアは痛感した。残された手紙を何度も読み返し、彼の決意と、そこに含まれた深い優しさに触れるたび、胸の奥が締め付けられるようだった。 数日後、レイモンドから協力者を通じて、連絡が入った。彼の抱える「重大な問題」は、無事に解決したという。敵の首謀者たちは捕らえられ、古文書も完全に奪還された。レイモンドは、約束通り、アメリアの家族の生活を全面的に保障すると伝え、アメリア自身も、元の屋敷に戻って侍女の仕事を続けることになった。 アメリアは、再び侍女の日常に戻った。朝早くに起き、庭の手入れをし、部屋を掃除し、他の侍女たちと共に食事の準備をする。かつては、質素ながらも勤勉なこの日常に、小さな幸せを感じていたはずだった。しかし、今は、何をしていても、心にぽっかりと穴が開いたような虚しさを感じていた。 屋敷の庭に出るたび、アメリアは、かつてレイモンドと二人で過ごした時間を思い出した。彼が窓から庭を眺めていた書斎の窓、彼が座ったベンチ、そして、彼と指先が触れ合ったあの露店街。彼の面影が、あらゆる場所に宿っているように感じられた。(レイモンド様は、今頃、どうしていらっしゃるかしら…) 彼の無事は喜ばしい。彼が貴族としての使命を果たし、輝かしい未来へと進んでいるのなら、それで良いのだと、アメリアは自分に言い聞かせた。しかし、心の奥底では、彼の声を聞きたい、彼の姿を見たい、彼の温もりに触れたいと、常に願っていた。 仕事の合間、アメリアはよく、思い出に耽るようになった。レイモンドの怪我を介抱した日々、共に秘密を共有し、危険な情報収集に赴いた時間、そして、あの嵐の夜のキス。どれもが、アメリアにとってかけがえのない宝物だった。彼の冷徹な表情の裏に隠された優しさ、孤独、そして、自分への「溺愛」。それら全てが、アメリアの心を深く満たしていた。 他の侍女たちと他愛もない会話を交わす時も、アメリアの心は、どこか遠い場所に漂っていた。彼女は、以前のように笑顔を見せることはできるが、その笑顔は、どこか空虚で
Last Updated : 2025-08-20 Read more