地下水路での一件は、アメリアの心に深い傷痕と、それ以上にレイモンドへの確かな想いを刻み込んだ。激しい痛みで腫れあがった足首は、アメリアが侍女としての務めを果たすことを困難にしていた。しかし、その不自由な日々の中で、レイモンドはこれまで以上にアメリアの傍にいてくれた。毎晩、人目を忍んで彼女の部屋を訪れ、慣れない手つきで薬を塗ったり、氷で熱を持った部分を冷やしてくれたりした。彼の指先が触れるたび、アメリアの胸は温かい甘さに満たされる。普段の冷徹な仮面の下に隠された、不器用ながらも深い優しさに触れるたび、アメリアは彼への恋心を募らせるばかりだった。 ある日の夜更け、手当てを終え、いつものように沈黙が二人の間に流れていた。しかし、その夜の沈黙は、普段とはどこか違っていた。重く、そして、何かを予感させるような緊張感が漂っていた。レイモンドは、窓の外の闇を見つめるように虚ろな瞳で、ぽつり、ぽつりと言葉を紡ぎ始めた。その声には、深い苦痛と、そして、これまで誰にも明かすことのなかった、重い過去を背負っている者の影が宿っていた。「アメリア……俺が抱える『重大な問題』について、お前に話しておかねばならないことがある」 アメリアは、彼の言葉に、ごくりと唾を飲み込んだ。彼女は、彼がどれほどの重荷を背負い、どれほどの闇を抱えているのか、その深淵を覗き見る覚悟をした。彼の瞳が、この部屋のどこでもない、遠い過去を見つめているようだった。「俺の一族、ヴァルター家は、古くから王家に仕え、国の根幹を支える役割を担ってきた。特に、父は代々受け継がれてきた『古文書』の守護者だった。その古文書には、この国の建国の秘密と、王家の血筋にまつわる、極めて恐るべき情報が記されている」 レイモンドの言葉は、まるで古い物語のようだったが、その背後にある真実の重みに、アメリアは息を呑んだ。古文書とは、単なる書物ではない。この国の運命を左右するほどの、計り知れない力を持つものなのだ。「しかし、その古文書の存在を知った、ある勢力がいた。彼らは、国の秩序を裏から操り、自分たちの都合の良いように変えようと画策していた。父は彼らの目論見を阻止しようとしたが、彼らは巧妙な罠を仕掛けた。父は、国家反逆の濡れ衣を着せられ、無実の罪で監
Last Updated : 2025-08-10 Read more