All Chapters of そよ風の中、また君に: Chapter 21 - Chapter 24

24 Chapters

第21話

涼太は慌てて帰国し、山田が問題を起こしたことを知った。 山田は涼太の幼なじみで、山田家も名家だった。早川家には及ばないが、無視できる存在では決してない。 あの日からオケで、涼太が「葵を好きにしろ」と言った時、真っ先に葵の服を引き裂こうとしたのが山田だった。 涼太が戻ってきた時、目の前が真っ赤になり、山田を集中治療室送りにした。今では退院したものの、足は不自由になった。 山田家がこの屈辱をどうして甘受できよう? 山田家はあらゆる手段で早川家に圧力をかけ、涼太の父親も噂を聞きつけ、国外から戻ってくるらしい。 しかし今の問題は両家の争いではない。山田が直接「葵さんのプライベート写真を持っている」と宣言し、ネットに公開すると脅してきたのだ。 涼太は急いで山田の病室へ向かった。 ドアを蹴破り、怒鳴った。「山田!その写真はどこから手に入れた!」 ベッドに横たわる山田は、涼太を見る目に憎悪をたたえていた。 「どこからだと思う?」 冷笑しながら続けた。 「お前は寮で毎日のように自慢してただろ?『今日は葵をどこどこに連れて行った』って。適当な場所を予め調べて写真を撮るなんて簡単だったよ」 涼太の顔は鉄色に変わった。拳を固く握りしめ、「死にたいのか!」と叫ぶと、山田に殴りかかろうとした。 しかし山田が廃人同然になった今、山田家が無防備なわけがない。 複数のボディーガードが飛び出し、涼太を押さえつけた。 「やっぱりな」 山田は冷ややかに笑った。 「お前が葵さんに本気だって噂は本当だったのか。どうした、玲奈さんはもう要らないってか?今度は葵さんのために命懸けか?残念ながら、俺が持ってる写真を公開すれば、葵さんは確実に人生終了だ!あの合成写真とは違って、本物のネタだぜ?ははは、写真の中の葵さんは本当に魅力的だった。お前が本気になるのも無理ない。味見できなかったのが残念だがな……このクソ野郎が!」 下品な言葉に涼太はさらに激怒し、訓練されたボディーガードを振り切り、山田の首根っこを掴み上げた。 山田は恐怖に叫んだ。「警告する!殴れば即座に写真を公開する!」 涼太の拳は空中で止まった。 山田は涼太を手中に収めたと悟り、さらに得意げに笑った。 「葵さんの写真が公開されるのが怖い?簡単だ。今すぐ跪
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第22話

山田は一瞬呆然とした。「涼太、お前マジで……」 山田は涼太と長年付き合いがあり、涼太がどれほど浮気性か知っていた。 これまで涼太が本気になったのは黒木玲奈くらいだが、彼女のために跪くことなど絶対にあり得なかった。 なのに今、涼太は白石葵という女のために本当に跪いた! 山田は状況を理解すると、哄笑を上げた。 「ははは!涼太め、まさかこんな姿を見られるとはな!さあ!『俺が悪かった』と言え!『俺はお前の犬だ』と言うんだ!」 涼太の拳は固く握られ、爪が掌に食い込んでいた。 目は充血し、山田を殺そうとする衝動に駆られたが、葵の顔を思い出すと堪えた。 結局、葵がこんな目に遭うのは自分のせいだ。もし彼女の名誉を本当に傷つけたら、男として失格ではないか? そう考え、涼太は深々と頭を下げた。 「俺が悪かった!殴ったのが間違いだった!葵を許してくれ! 俺はお前の犬だ!」 尊厳をズタズタにされるような言葉が、高慢な涼太の口から次々と零れ落ちた。 「バカめ!」 山田は笑いで涙を浮かべた。 「跪けばそいつを許してくれるとでも?結局俺の足が不自由になったのはそいつのせいだ!絶対にぶっ潰してやる!」 そう言いながら、山田はスマホの送信ボタンに指をかけた。 「やめろ!」 涼太は理性の糸が切れ、立ち上がると傍らの花瓶を掴み、ためらわず山田の頭に叩きつけた。 血しぶきが飛び散った。 ボディーガードが止めようとしたが、間に合わなかった。 ほかの人が駆けつけた時には、既に手遅れだった。 山田は涼太に花瓶で撲殺され、ボディーガードも気絶していた。 涼太は全身血まみれで、顔も血に染まっていたが、それでも山田のスマホを握りしめ、必死に削除を続けていた。 削除しても不安は消えない。今の技術なら復元可能だ。 山田が他にバックアップを取っていないとも限らない。あらゆるクラウドを確認しようとしていたが、 警察が彼を押さえつけた。 「放せ!放せ!」 最後の最後まで抵抗した。 「写真を全部消さなきゃ!」 だが警察は聞く耳を持たない。 カチャリ。 手錠がかけられた。 涼太は連行されていった。 その頃、地球の反対側。 葵は母と家具店を回っていた。 「もうすぐ母さん帰国するから、
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第23話

涼太はこれまで、山田の持っていた写真に他のバックアップがないか、あの悪友たちが写真を持っていないかと気になっていた。たとえネットに流されなくても、下品な男たちが葵の姿を見ていたと思うだけで、腹が立って仕方なかった。 しかし今、それらの写真がすべて偽物だと知り、やっと安心した。山田はただ、以前のあのデブより上手に写真を合成していただけだった。当時、涼太は興奮しすぎていて、削除する時に偽物だとは気づかなかったのだ。 父親はこの話を聞き、怒りで声も出ないほどだった。 「どうして俺がこんなバカ息子を……」 冷たい目でそう言い放ち、「お前は弟とは比べものにならない」 涼太の表情が一瞬でこわばった。 世間は涼太を早川家の唯一の後継ぎと思っていたが、彼は知っていた。父親にはもう一人、外で産まれた弟がいることを。その弟は彼よりいくつか若いのに、すでに海外の名門大学に通い、優秀で評判も良い。 ただ、涼太が正妻の息子である以上、弟がいくら優秀でも後継ぎにはなれなかった。 だが今、すべてが変わる瞬間だった。 父親は冷たく言い切った。 「お前の母親への配慮で、これまでお前を後継ぎにしようとしていた。だが、殺人未遂の犯罪者を跡継ぎにはできない。山田家への説明も必要だ。これからは弟を正式に認め、早川家を継がせる」 涼太の顔が真っ青になった。 自分はもう捨てられたのだと悟った。 父親はため息をつき、最後に言った。 「それでもお前は俺の息子だ。最低限の生活費は保証する。だが、それ以上を期待するな」 そう告げると、父親は振り返りもせずに去っていった。 月日は流れ、葵の海外生活は順調になっていた。 涼太が連絡してこなくなったことに、彼女はすぐ気づいた。だが特に驚きはしなかった。元から涼太は遊び男だった。彼女が去ったことで一時的に執着しただけだろう。時間が経てば、きっと新しい女性を見つけて興味を失うに違いない。 葵はそのことに何の感慨も抱かなかった。 彼女は真面目に勉強し、無事に卒業するとすぐに帰国して働き始めた。そして努力が実り、一流のファンドマネージャーとして成功していた。 そして、10年後。 涼太は刑務所から出所した。 「外に出たら、真面目に生きろよ」 看守が所持品を渡すと、涼太
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第24話

車が急停車した。涼太は目の前の広告看板を見て、信じられない表情を浮かべた。そこには葵が映っていた。 スクリーンの中の葵はスーツ姿でインタビューを受け、自信に満ちた笑顔を浮かべていた。 涼太の運転手は彼が小さい頃から面倒を見てきたため、涼太が刑務所に入った理由も知っていた。 涼太の様子を見て、運転手は複雑な表情で言った。「葵さんは卒業後すぐに帰国され、今では国内有数のファンドマネージャーとして活躍されています。これは金融関係のインタビューでしょう」 涼太はうつむいた。 やはり、彼女はうまくやっていた。 当然だ。学生時代から、葵は何でも完璧にこなす人間だった。 家族と外見以外、何一つ彼女に及ばない自分とは違って。 涼太は自分の姿を見下ろした。10年の刑務所生活で、若き日の鋭さはすっかり消え失せ、今の彼はただの信託基金で生きる敗残者でしかなかった。 30分後。 涼太の車は中心街のオフィスビル前に停まった。 車内で涼太は不安でたまらなかった。 このビルが葵の職場だと知っていた。 長いしゅん巡の末、それでも彼女に会いたいという気持ちに勝てなかった。 もう完全に釣り合わないとわかっていても、ただ一度会いたかった。 ふと見ると、ビルからなじみのある人影が駆け出してくるのが見えた。 葵だ! 涼太の目が輝き、無意識にドアを開けようとした。 しかし次の瞬間、黒いベントレーが止まり、中から男性が降りてくると、葵はその腕に飛び込んだ。 二人は楽しそうに笑い合っている。 さらに次の瞬間、車のドアが開き、5歳ほどの女の子が飛び出してきて葵に抱きつき、嬉しそうに叫んだ。 「ママ!ママ!」 涼太のドアを開けようとした手が完全に固まった。 そして、彼は力なくうつむき、自嘲的に笑った。 そうだ。10年という時間は、彼にとっては刑務所での単調な日々だった。 しかし他の人にとっては、真実の愛を見つけ、結婚し、子をもうけるのに十分な時間だった。 葵はとっくに自分の人生を歩んでいた。 涼太はかつて深く愛した女性をもう一度見つめると、最後に運転手に言った。「行こう」 車は再び動き出した。 こうして、涼太と葵の人生は永遠に交わることなく、遠ざかっていった。
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