だが、言い終えた文哉は、背筋に冷たいものを感じた。鼻眼鏡を直しながら視線を上げると、斜め向かいに座る渡と目が合う。文哉は礼儀正しく微笑み返した。渡に対する文哉の印象は、大学時代に見かけた「顔だけはいいが態度の悪い金髪のガキ」というものだった。今の彼は黒髪に戻り、落ち着いた雰囲気を纏っているとはいえ、その美貌はより攻撃的な鋭さを増し、威圧感も段違いだ。ただ一つ変わらないのは……やっぱり性格が悪そうだということか。文哉は気まずさを誤魔化すように、手元の茶を啜った。景凪の脳裏に、先日の記憶が蘇る。研究センターの地下駐車場で、しつこく絡んでくる深雲を振り払おうとしていた時、突如として渡が現れたあの瞬間――そういえばあの日、車田教授が「重要な来客がある」と言っていた。あれは渡のことだったのだ。それにしても、まさか渡がグリーンウォール計画の出資者になるとは。もっとも、国家予算を圧迫しかねないほどの巨大プロジェクトだ。財閥の支援を仰ぐのは理にかなっているし、黒瀬財閥ほど盤石なパトロンもいないだろう。理屈では分かる。景凪は伏し目がちにため息をついた。ただ、これで彼との接点がまた増えてしまうとは……「景凪くん、せっかくの旧知の仲なんだ。こっちへ来て黒瀬社長と積もる話でもしたらどうだ?」車田の無邪気な提案に、景凪は慌てて手を横に振った。「いえ、滅相も――」断りの言葉を紡ごうとしたその先を、渡が遮った。「車田先生。残念ながら、私はこの先国内に滞在する時間が限られています。プロジェクトに関しては、主にアシスタントを常駐させるつもりです」渡は無感情な瞳で景凪を一瞥し、淡々と言い放つ。「ですので、穂坂リーダーが私個人と関わる機会はそうないかと」その表情には、余計な感情など微塵も浮かんでいない。まるで景凪のことなど、ただの記憶の彼方にいる同級生の一人に過ぎないとでも言うように。車田も「ああ、それなら仕方ないな」と納得し、話題を変えた。景凪は心の中で悟った。まただ。また彼に助けられた。彼女はテーブルの下でスマホを取り出し、短いメッセージを送った。【ありがとう】向かいの席で、渡が震えたスマホを手に取る。画面を一瞥しただけで返信もせず、それをロックして脇へ置くと、何食わぬ顔で車田との会話に戻った。こちらを見ようともしない。
Read more