「告訴を取り下げてほしいの?いいわよ」景凪は唇の端を吊り上げ、冷ややかな嘲笑を浮かべた。「じゃあ、あなたが母親の雪華と一緒に今すぐ死んで、あの世で私の母に許しを請うてきて。もし母が私の枕元に立って『二人を許してやれ、克書を見逃してやれ』って言ったら、すぐに取り下げてあげる」「……」姿月は言葉を失い、悔しそうに下唇を噛み締めた。深雲はまるで知らない人間を見るような、失望に満ちた眼差しを景凪に向ける。「景凪……君は、昔は誰よりも優しい女性だったはずだ……」「優しければ、あなたたちに殺されるまで黙って耐えていろとでも?」抱き合う二人を見下ろす景凪の瞳に、どす黒い皮肉の色が濃くなる。「鷹野深雲、そういうあなただって、結婚式では『心から愛している、一生裏切らない』って誓ってたじゃない」深雲の顔色が変わった。痛いところを突かれ、言葉に詰まる。これ以上、この茶番に付き合うのは時間の無駄だ。景凪は無言のまま車に乗り込むと、アクセルを強く踏み込み、急発進でその場を去った。取り残された姿月は、すがるように深雲の胸に弱々しく身を預けた。「ねえ、深雲……お父さん、もうダメなのかな。本当に刑務所行きに……」深雲は彼女の華奢な背中を優しくさすり、なだめるように言った。「公判前にもう一度、俺から彼女に掛け合ってみるよ。それより、落ち着くんだ。一昨日に避妊手術を受けたばかりだろう?まだ体も本調子じゃないんだから」この事実を深雲が知ったのは、昨晩のことだった。逮捕された克書を案じて眠れないという姿月の看病に行った際、睡眠薬を取ろうとして偶然、手術の明細書を目にしてしまったのだ。「結婚しても自分の子は生まない。辰希と清音を実の子として大切に育てる」以前、姿月がそう言ったとき、深雲はそれを単なる機嫌取りの口約束だと思っていた。だがまさか、卵管結紮という不可逆な手段を選んでまで、その愛を証明してみせるとは思いもしなかった。なんて愚直なほどに健気な女なのか。克書の悪事により、小林家全体に対して不信感を抱きかけていた深雲だったが、この診断書と、腕の中で震える可憐な姿を見て、その心は完全に絆された。過去の真実がどうあれ、克書と長楽の間に何があったにせよ、それは親世代の因縁に過ぎない。姿月自身には、何の罪もないのだ。「深雲、私を捨てたりし
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