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22 Chapters

第21話 失ったもの

 机の引き出しに、使わなくなったスマホが眠っている。 あれから一週間。 私は機種変更として、新しいスマホを買ってもらったけれど、SNSのアプリは一切入れていない。ネットの世界には、もう戻らないと決めたのだ。 朝、目が覚めると、真っ先にスマホを手に取る習慣が抜けない。拓翔からメッセージが来ていないか確認しようとして、ハッと我に返る。もう、拓翔からのメッセージが来ることはないのだ。 学校に行く準備をしながら、鏡の前に立つ。相変わらず、そこには醜い自分が映っている。でも、なぜか少し違って見える。拓翔が「優しそうな表情をした女の子」だと言ってくれた顔。本当にそう見えるのだろうか。 そんなことを考えている自分に気づいて、慌てて頭を振る。もう、彼の言葉にすがるのはやめよう。「紀子ー、朝ごはんよー」 母の声に返事をして、階下に向かう。食卓に着くと、母が心配そうに私を見つめていた。「最近、元気がないみたいだけど、大丈夫?」「大丈夫だよ」 嘘だった。全然大丈夫じゃない。胸に空いた穴は、日に日に大きくなっているような気がする。「友だちと、なにかあった? 最近、スマホもあまり見てないみたいだし」 母の優しい問いかけに、思わず涙が出そうになる。でも、説明することはできない。ネットで出会った人との恋愛なんて、理解してもらえるはずがない。「ちょっと疲れてるだけ。心配しないで」 母は納得していない様子だったけれど、それ以上は聞いてこなかった。 学校に着くと、彩音が意地悪な笑みを浮かべて近づいてきた。「あら、神林さん。ネットの彼氏とはうまくいってる?」 その言葉に、クラスメイトたちがこちらを見る。あの日から、私はクラス中の好奇の対象になってしまった。「もう、そんな人はいません」 私の答えに、彩音は満足そうに微笑んだ。「そうよね。所詮、ネットの関係なんて虚しいものよ。現実を知れば、みんな逃げていくのよ。傷が浅いうちで良かったんじゃない?」 胸に刺さる言葉。でも、違う。
last updateLast Updated : 2025-07-22
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第22話 拓翔の行動

 僕は、もう一週間も眠れない夜を過ごしていた。 スマホの画面を何度も確認するけれど、紀子からの返信は来ない。当然だった。彼女は最後のメッセージで、もう連絡しないでと言ったのだから。 それでも僕は、諦めることができなかった。 あの日、紀子の写真を見たときの気持ちを思い出す。確かに驚いた。でも、それは彼女が思っているような嫌悪感ではなかった。むしろ、ほっとしたのだ。 紀子は、ずっと自分のことを醜いと言い続けてきた。だから僕は、相当な容姿の人を想像していた。でも実際の写真は、ごく普通の、むしろ優しそうな表情をした女の子だった。「なんだ、全然大丈夫じゃないか」 それが、僕の率直な感想だった。 自分だって、身長が低いことで散々からかわれてきた。人の容姿をどうこう言えるような立場ではない。それに、紀子の魅力は見た目ではなく、その優しい心や、物事を深く考える知性、そして純粋さにあった。 写真を見たあとも、彼女への愛情は微塵も揺らがなかった。むしろ、やっと実際の彼女を知ることができて、嬉しかったのだ。 でも、紀子には信じてもらえなかった。『もう連絡しないでください』 あの言葉が、何度も頭の中で響く。紀子の気持ちもわかる。容姿にコンプレックスを持つ彼女にとって、写真を見られることは、心の奥の傷をえぐられるような体験だったのだろう。 でも、だからといって諦めるわけにはいかない。彼女が誤解したまま関係を終わらせてしまうなんて、あまりにも悲しすぎる。 僕は、パソコンの前に座り、新しいアカウントを作成した。名前も、アイコンも、すべて変えて。そして、紀子が使っていた掲示板にアクセスする。 紀子がもう戻ってこないことはわかっている。でも、もしかしたら、気が変わって覗きに来るかもしれない。そのときのために、メッセージを残しておこう。 本名を晒すわけにはいかないから、ハンドルネームで。『NORIへ。君がこれを見てくれるかはわからないけれど、どうしても伝えたいことがある。僕の気持ちは、君が思っているようなものじゃない。君は美しい人だ。外見的な美しさ
last updateLast Updated : 2025-07-22
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