僕はいつの間にか、赤に囲まれた部屋にいた。 どす黒い血の色の赤。 赤の天井、壁、床。 そして赤を背景に無数の顔に囲まれていた。 部屋中に色々な人の顔が並んでいる。どの顔も笑っていなかった。恐怖と苦痛の表情だった。 部屋中、絶望と悲痛な叫びが響き渡った。 なんて恐ろしい光景だろう。 僕はといえば、手足を縛られ壁にもたれて座っていた。 僕の足元に長い髪の女の子の顔があった。年齢は僕ぐらいだろうか。 顔を歪めた泣き顔。大きく開けた口からは悲鳴が聞こえてきた。「助けて! お母さん。もう一度会いたい」 その隣には、若い女の人の顔。 目を白目にして口から舌を出していた。「ギエーーーッ、ウェーーーーーッ。祟りじゃあ」 横を向けば……。 壁には苦痛の表情の男の人たちの顔。 天井を見上げる。 まだ小学生くらいの子どもたちの泣き顔が、天井いっぱい並んでいる。 殴られたのか、目や頬が腫れあがった顔もあった。 鼻が潰れた子が悲しそうな顔で、僕を見下ろしてくる。「怖いよ、暗いよ」「だれか助けに来て。いい子にします」 髪の毛の少なくなったしわくちゃのおじいさんの顏が虚ろな目で叫ぶ。「やめてけれ、やめてけれ。おおーっ、助けて」 そして僕の目の前には……。 赤の女性が仁王立ちしていた。 ミニブーツを履いた足下の床。 床には赤ん坊が目を潤ませた顔が浮かび上がっていた。 横には女性の悲しそうな顔があった。 ふたりは母子なんだろうか。 赤の女性は足元に浮かび上がった顔を、ブーツを履いた足で強くこすった。 赤ん坊の泣き声。母親の叫び。 赤の女性がブーツでふたりの顔を蹴る。「ギャーーーーーーーッ」「やめてください」 赤の女性が残忍に笑った。「死ね」 ブーツが床を踏みつける。 うめき声が聞こえて静かになった。 赤ちゃんと母親の顔が浮かび上がっていた床には、赤い肉がところどころ残った頭蓋骨が浮かんでいた。「半世紀前。この塔はわたし、マハー・カミラのものとなった。この者たちはそのときに、永遠の奴隷となった」 マハー・カミラさんという女性がおごそかな口調で言った。「それから五十年。太陽が沈んでから赤の森に近づく者は、わたしの生贄として、この塔の中で死んだ」 マハー・カミラさんが僕の顔をのぞきこんだ。 「この部屋でな」 僕
Last Updated : 2025-08-01 Read more