All Chapters of カノ女と僕の幽霊塔~殺戮の神、大黒天の一族、マハー・カミラに監禁された少年の運命は?: Chapter 21 - Chapter 30

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~第四部③~ マハー・カミラさんに感謝

 後ろの壁に激突! 頭が割れるか首の骨が折れて天国へ旅立ってるはずだった。 天国への階段で、小夜ちゃんや笹岡君、浜島君と落ち合うはずだった。 でも僕のすぐ前にはマハー・カミラさんの顔があった。 またまたお姫様抱っこされていた。 「残念だったな。少年・悠馬」 マハー・カミラさんの声は、まるで氷のように冷たかった。 「お前は自分の意志で死ぬこともできないのだ。わたしの生贄になるまではな」 小夜ちゃんや笹岡君、浜島君の笑顔を思い浮かべた。 一緒に頑張ろうって誓いあっていたんだ。 涙が噴水のように飛び出し、猿轡をはめられた口で泣いた。 僕の顔って、きっと情けなかったって思う。 僕って、本当にダメな人間なんだ。 春奈ちゃんの言葉を思い出した。「ユウちゃん。ユウちゃんは心が優しくていい子だよ。だけどね。それだけじゃ生きていけないんだよ」 春奈ちゃんの優しい表情が、心でハッキリ見える。「いつもわたしがそばにいてあげたいけど、そうならないときだってあるの。本当はこんな世の中、いけないと思う。ユウちゃんのような子が苦しむなんてこと」 そう言って、僕のこと抱きしめてくれた。「だけどね。わたしだってどうにもできないの」 春奈ちゃんの言う通りなんだ。 小夜ちゃんたちを助けられなかった。 そしていまの僕って、ただ泣くことしかできないんだ。 マハー・カミラさんが中腰になった。 床の上。 白い布包みがひとつ、転がっている。 白い布包みの中身が見えた。 布が開いていた。 エエーッ? だけどこれって? どう考えても……。 考えなくても……。 マハー・カミラさんって、なんだか気まずそうな顔。 僕から没収したスマホ取り出す。 返してくれないだろうな。 スマホいじって、 ニュースなんか見てる‼︎ 心は別の場所らしい。 なんだか困った顔。 「次のニュースです。新しく青森県知事に就任した渋谷きょう子知事は、就任の記者会見で……」 そうか‼︎ マハー・カミラさんだってこんな顔するんだ‼︎ なんだか可愛らしい。 これって幻? マハー・カミラさんったら、僕が見つめていることに気がついたらみたい‼︎   だってプイッて横向いたんだもん。 僕、見たんだ。 どう考えたって白い布包みの中身は……。 マネキン人形の頭部。 髪の毛
last updateLast Updated : 2025-08-04
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~第四部④~ マハー・カミラさんからのプレゼント

 赤い壁と床に囲まれた部屋。 部屋の中央には白の円テーブル。 赤と白のにステキなコントラスト! 僕らふたりが隣同士で座ってた。 マハー・カミラさんがハーモニカを二本、テーブルに置く。「このハーモニカでよいな」「はい。Cっていうハーモニカで、たいていの曲はこれで吹けるんです。 もうひとつがC♯といって♯専用のハーモニカなんです」 ハーモニカを手に取る。驚いたことに、有名ブランドの高額な商品だった。。 マハー・カミラさんがわざわざ買ってきてくれた。「こんな高いものを、本当にありがとうございます」 僕がお礼を言うと、ぷいと横を向いた。「わたしは親切ではない。土曜日、病院から帰ったらお前は死ぬ」 マハー・カミラさんが現実を突きつけてきた。「だけどやっぱり嬉しいんです。本当にありがとうございました」 まだ横向いたまま。「わたしにお世辞を言って、助かろうと思ってもムダだぞ」  そのまま立ち上がって、テーブルから離れようとした。 でもすぐ僕の方を振り返ってくれた。「ハーモニカの練習がしたいだろう。そうだな」「はい」「毎日、三時間でどうだ?」「それだけいただければ……」「ロープはほどいてやる」 マハー・カミラさんが小声で云った。「本当にありがとうございます」 僕は大声でお礼を返した。 でも僕の感謝の気持ちは、マハー・カミラさんに伝わっているだろうか?「一日三時間だけだ。土曜日に、お前は死ぬのだ。わたしの生贄になるのだ」 マハー・カミラさんが怖い顔を向けてきた。 でも細くて柔らかい指で、僕の手足のロープほどいてくれた。「三時間経ったらまた来る。部屋から逃げ出そうとしてもムダだからな」 マハー・カミラさんがゆっくりと歩き出す。「待ってください」「少年・悠馬。命乞いしてもムダだぞ」 命乞いなんかじゃない。僕はしっかり首を振った。「マハー・カミラさんへ贈ります」 僕の大好きな唱歌を演奏した。 『もみじ』の歌。 柔らかくて優しくて明るいんだけど、ちょっとだけ寂しさが漂う。 たけど心が安らぐ美しいメロディ。 マハー・カミラさんは不機嫌そうな表情でテーブルに戻った。 でも最後まで練習につきあってくれた。 練習が終わったらまた手足を縛られた。 細く柔らかい指で僕の手首を縛りながら、マハー・カミラさんったらこ
last updateLast Updated : 2025-08-04
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~第四部⑤~ 青森県の怪事件

 後で僕は、マハー・カミラさんから、ニュースの内容を聞かされることになった。「臨時ニュースです。名産として知られる青森県のリンゴに奇妙な現象が起きました」 奇妙な現象とは何だったかというと……。 あるニュース番組は男女のキャスターが次のように伝えた。「青森県のリンゴの木になっていたリンゴの実がすべてミカンに変わっているという不思議な現象が起こり、地元農家では頭を抱えています。この不思議な現象は、青森県内のリンゴの木、すべてで発生し、青森県産のリンゴが青森県から一個もなくなるという事態になっています。東京大学農学部研究所の話では、リンゴの実がミカンに変化したという現象は、これまでにまったく事例がないということです」「事態を受けて渋谷京子《しぶやきょうこ》知事は、今回の事態を短時間で報告書にまとめ、直ちに上京し、農林水産大臣や官房長官に面会すると表明しました」「この問題について、元農林水産省事務次官で、三重県立大学農学部教授の刈干多作《かりぼしたさく》さんに伺ってみました。刈干さんにお聞きします」「はい」「ごく一部の意見ではあるのですが、リンゴがミカンに変化したなら、ミカンを出荷すればよいのではという声があるのですが?」「そう簡単な話ではありませんね。青森産のミカンといっても市場評価は低いので、農家への打撃は避けられません」「現在、政府では松阪牛が短時間のうちに他の品種に変化していた問題も含め原因究明のための緊急会議を開く方向で調整しています。会議に出席する予定のジャーナリスト、獅子内俊次さんにお伺いします」「なんなりと」「松阪牛、青森りんご……一連の出来事にはなにか関係があるのでしょうか?」「僕はそう考えています」「一体、なにが起きているのですか?」「恐らく我々の常識をひっくり返すような出来事でしょう。実はある行方不明事件が起きているのですが、この事件に謎を解くヒントがあるかもしれません」 この出来事が確認されたのは、マハー・カミラさんが長い時間、玉山病院に行っていた時間だった。「マハー・カミラさん。どうして、こんんな出来事が……」「さあな。ごくまれに神でも分からぬことがあるからな」 そして僕は知らなかったけれど、日本各地で不思議な出来事が起こっていた。  
last updateLast Updated : 2025-08-05
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~第五部 悠馬の手記・マハー・カミラさん大変身①~ これって慈悲ですか? 

 目が覚めたらベッドの上。まだ縛られたまま横たわってた。 甘い香りがした。 目を開けた僕が見たのは思いがけない光景。 すぐ隣にマハー・カミラさんが体を横たえていた。僕の胸に手を乗せていた。  マハー・カミラさんはもう起きていた。 じっと僕のこと見つめていた。「目は覚めたか。少年・悠馬」  マハー・カミラさんが、おごそかに呼びかけてきた。「ハイッ」「お前は助からない。土曜日に死ぬ」「分かってます」 また同じことを言ってくる。そんなに僕のことを怖がらせたいんだろうか? マハー・カミラさんの言葉を聞いて、また涙があふれてきた。「ハーモニカのコンサートと英語の学習会をさせて頂き、ありがとうございます。一生懸命やります。少しでも病気の人たちの力になるように……」 僕の声って、やっぱり涙声になっていた。「お前が最後を迎える前に、神の慈悲で春奈に会わせてやる」 そっけない口調。 でもびっくりする言葉を聞かされた。「そのかわり、わたしも一緒に行くからな」 マハー・カミラさんはそう言って、ベッドから起き上がった。「分かったな。少年・悠馬」 ベッドから離れようとして、ハッとしたように振り返る。「一緒に寝ていたのは、お前が逃亡しないように見張るためだ」 そう言うと意地悪そうに僕のこと、にらみつけた。「これで逃げられないだろう」 離れようとして、ハッとして僕の顏を見つめる。「口元に何かついてるぞ。昨日の食事の食べ残しか?」(えっ、ホントに?) マハー・カミラさんが僕に近づくと僕を抱き上げた。 そっと口づけをしてきた。 僕を下ろすと、何事もなかったように赤い杖を振った。 僕の目の前。壁一面くらいある巨大な画面のテレビ。「わたしが戻るまで、テレビでも見ているがよい」 そう言い残し、サッサと部屋を出ていった。 僕はポカンと見送るしかない。 ふと気がつくと、テレビの画面に異様な光景が映っていた。 どう見ても四十代以上(七十代の人もいる)の男女が画面を埋め尽くしていた。 背後に国会議事堂が見える。国会前広場だ。 僕等から見ると年をとった人たちが、変なかっこうでダンスらしきものを踊っていた。 ミュージックが流れなかったら、なんのダンスか分からなかったろう。 ワイドショーの司会者が、スタジオから沈痛な声で叫んでいる。「
last updateLast Updated : 2025-08-06
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~第五部②~ マハー・カミラさんだって着替えをします

 朝食後。 僕はマハー・カミラさんと向かい合って立っていた。 マハー・カミラさんが僕のスマホを取り出す。 取り上げられたまま、ずっと返してくれない僕のスマホ。 突然、スマホのロック画面を僕に見せつけてきた。 春奈ちゃんと僕、ふたりで並んで自撮りした写真。「調べたら、この中に不愉快な写真がたくさん入っていた。わたしはこのようなものを見るのは好まない」「返してください」「わたしが好まないものを、どうしてこのままにしておくのか。わたしは神だ」「お願いです」 僕は深く頭を下げた。「少年・悠馬。お前をこの城に連れて来てから、なにがあったか知っているか?」 マハー・カミラさんの不機嫌な顔。「春奈という女から、ひっきりなしにスマホにLINEが来ていた。実に不愉快だ」「スマホには、春奈ちゃんと僕の思い出がたくさん入ってるんです。返してください」「いいだろう。返してやる」 スマホが床に投げ捨てられた。 すぐ赤い杖が振り下ろされた。 次の瞬間! 床には粉々になったスマホ。 二度と戻らない春奈ちゃんとの思い出。 やっぱりまた涙が流れた。 粉々になったふたりの思い出に涙が落ちた。「僕たちふたりの思い出が入ってたんです」「少年・悠馬。お前の思い出だろう。わたしのものではない」 マハー・カミラさんがおごそかに言った。「わたしを不愉快にするものはこうなるのだ。覚えておけ」 マハー・カミラさんが赤い杖で宙に大きな円を描いた。 何度も円を描いた。 マハー・カミラさんの高い声。 マハー・カミラさんの鋭い声。 そしてマハー・カミラさんの氷の声が円と共に響く。「マハー・カーラは偉大なり マハー・カーラは夜を治め マハー・カーラは欲望を憎む 人は黄金を望み 万民の喜びを願わず 人は黄金を望み 己《おのれ》の血肉が流れるのを見る 人は黄金を望み 己《おのれ》の血肉の沼に沈む マハー・カーラは偉大なり」 マハー・カーラさんが杖を放り投げた。 「キャーーーーーーーーーーーーーーッ」 女性の悲鳴のような声。 一瞬の後。 赤い髪に赤い肌。赤いドレスにミニスカ。赤いショートブーツのマハー・カミラさんが、部屋から消えていた。 僕の目の前。 燃えるような赤色のセミロングの髪。 白い肌。 大きな目に赤い瞳。 赤のブレザーと
last updateLast Updated : 2025-08-07
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~第六部 悠馬の手記・恋敵?の対決① マハー・カミラさんは強引

 僕の周囲から赤い壁と床が消えた。 一瞬のうちに、春奈ちゃんのマンションに移動していた。 三〇五号室のドアの前。 セミロングの赤の髪。大きな目に燃えるような赤い瞳。 赤のブレザーに赤のミニスカート。 白くて流れるような曲線美の脚。赤のハイソックス。赤のシューズ。 女子高生の姿のマハー・カミラさん。 僕の右手をしっかり握ってる。 僕は遠慮がちに声かける。「逃げたりしません。ひとりで会います。マハー・カミラさんといたら誤解されます」「わたしはいま、お前とずっと一緒にいるんだ。誤解でもなんでもない」「だけどですね」 僕は、もっと遠慮がちに小さな声で声をかける。「わたしは神だ。人間の指示を聞く気はない」 マハー・カミラさんはそう言って、舌なめずりした。「どうだ? お前の夢に出てきた春奈を最初に血祭りにあげてやろうか?」 僕の右手を握る力が一層強くなる。 マハー・カミラさんったら、ドアに向かって大声。「少年・悠馬が参上した。さっさとドアを開けないか?」 ドア越しに足音が聞えた。 すぐにドアが開く。 なつかしい顔が出てきた。 学校から帰ってきたばかりなんだ。 まだブレザーの制服姿。 春奈ちゃんって長い髪に優しい目。色白で男子の人気だってトップ1! だけど脚が太いこと気にしてた。僕、そんなこと全然気にしない。 ちょっと膝から上の肉付きがいいだけなんだ。黒のハイソックスに包まれて、ちょっと窮屈そうなところが、なんだか可愛らしかった。 僕らはしっかり見つめ合う。 春奈ちゃんが手を伸ばしてくる。 マハー・カミラさんが僕の前に立ちふさがった。「少年・悠馬の幼馴染を名乗る三神春奈だな」 なんてストレートに上から目線の態度! 優しい春奈ちゃんがこわい顔になった。「あなた、だれなんです。わたし、ユウちゃんのことよく知ってるけど、あなたみたいな不審者、見たことない」「お前など関係ない。文句を言うならさっさと消えろ」 マハー・カミラさんったら、春奈ちゃんのこと、完全にバカにした表情。 けれど待ってください。消えちゃったら、春奈ちゃんにお別れが言えないじゃありませんか。「消えろ? ハア? ここ、わたしの家だからね」「では、いますぐこの家、消してやろうか。口数の多いお前と一緒にな」 マハー・カミラさんが口元を曲げた。
last updateLast Updated : 2025-08-08
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~第六部②~ マハー・カミラさんの思いって……

 塔の寝室に戻ったら、またマハー・カミラさんに手足を縛られた。 その後、マハー・カミラさんは、ひとりでどこかへ行ってしまった。 僕はベッドの上で、ずっと嗚咽していた。 涙が止まらなかった。 春奈ちゃんとなにも話せなかったこと。 そしてなんの関係もない人たちが犠牲になったこと。 僕は春奈ちゃんと最後にもう一度だけ会いたかった。 だけどこんなことになるなら、最初から会わなければよかったのかしら。 僕のために、たくさんの人が……。 ごめんなさい。本当にごめんなさい。 スーッとドアが開いた。 女子高生姿のマハー・カミラさんだった。 僕のこと見ると、気まずそうな顔で横に座った。「少年・悠馬。お前の前ではずっとこのかっこうでいたいが、これも神術のひとつでな。一日に三時間から四時間が限度だ」 そっと手を伸ばしてきて、僕の右手を握る。「夕食はどうする? お前の好きなもの、なんでも用意するぞ」 僕の顔を見たら、制服の赤いリボンで僕の目をぬぐってくれた。「ごめんなさい。いま、食べたくありません」「アイスクリーム食べるか?」「本当にごめんなさい。いま、なにも食べたくないんです」 マハー・カミラさんったら困った顔。 僕の髪をやさしくなでてくれた。 涙がドッと流れ落ちた。声をあげて泣いていた。「すまん。わたしのことが憎いか?」 マハー・カミラさんが僕の顔、のぞきこむ。 僕、首を横に振った。「マハー・カミラさんっていい人なんです」 僕の本当の気持ちを伝えた。 よく考えたら、マハー・カミラさんって、いろいろと僕のこと考えてくれてたんだから。 新しく買って貰ったハーモニカの音色、思い出す。 僕のために用意してくれたアイスクリームの美味しさ。「お前を土曜日に生贄にするというんだぞ」 マハー・カミラさんがあわてたように言った。「いい女性のはずないだろう」 マハー・カミラさんが気まずそうな顔をする。僕から顔をそむける。「少年・悠馬。お前は土曜日に死ぬんだ。どうしてそんなこと言うのだ。わたしはお前を殺そうというんだぞ」 なぜだか僕にだって分からない。 僕って、マハー・カミラさんを心の底から憎まなきゃいけないのかもしれない。 だけどいまの僕は、マハー・カミラさんの胸に顔を埋めたかった。 マハー・カミ
last updateLast Updated : 2025-08-09
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~第七部 日本の危機①~ 聖徳太子登場

 読者のみなさん。 ここで物語は、一旦上杉悠馬少年の手記から離れます。 日本では大黒天の名前で知られるインド由来の神、マハー・カーラをめぐるお話をしましょう。 聖徳太子はご存知でしょうね。厩戸皇子というのが正式な名称です。 用明天皇の第二皇子です。推古天皇のもと、天皇を補佐する摂政の任務に就き、天皇を中心とした中央集権国家をつくるために努力しました。 教科書で習いましたよね。仏教や儒教を日本に伝えたともされています。 聖徳太子の守護神こそ、インドに始まり、ヒンズー教、仏教の神として君臨したクビラなのです。 日本では毘沙門天の名前で知られていますね。 毘沙門天ことクビラの神の部下こそ、鬼神のヤクシャ。日本では夜叉の名前で知られています。インドの神話によれば、ヤクシャは男神、女神はヤクシニイと呼ぶのだそうです。ただいまでは男女平等。男女の関係なくヤクシャと呼ばれることが多いということです。太子は度々、毘沙門天の加護を受け、反対派との戦争に勝利し、政治上のアドバイスを受けたとされています。 さてここ、マハー・カーラの黒の宮殿は、建物全てが黒一色でした。 宮殿のあちこちに置かれた黒い燭台の黒いロウソクが、椅子に座ったマハー・カーラの巨大な姿をぼんやりと浮かび上がらせているのです。 マハー・カーラの足下。 我々人間と同じくらいの高さのマハーの一族のひとりが控えています。 皮膚は黒く黒い布を体に巻きつけ、マハー一族の他の神と同じく額に三番目の目がありました。「マハー・カーラ様。クビラの神の名代として聖徳太子殿が参られています」  マハー・カーラは椅子より体を乗り出します。 高さ十メートルはありそうな巨大な体。黒い皮膚の持ち主。生贄の頭蓋骨を首飾りとして首にかけ、腰に巻きつけているのです。 額の三番目の目は大きく見開かれ、気にいらぬ者を見つければ、直ちに血肉を奪い取るのです。「クビラは来ないのか?考えてみればもう五百年は会っておらぬ。聖徳太子と会うのも二百年ぶりになるか」 重々しい声が響き渡ります。 やがて別の神に案内され、聖徳太子がマハー・カーラの前に現れたのです。 日本の飛鳥時代の高貴な身分の人間
last updateLast Updated : 2025-08-10
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~第七部②~ 国会の特別対策会議で何が起きるのか?

 日本の政治の中枢、国会議事堂内にある大会議室。 「特別対策本部 関係者以外立ち入り禁止」と案内。ふたりの警官がドアの前に立っています。 大会議室の前の廊下のはずれ。 「令和日報」の獅子内記者が、スマホで通話の最中です。「分かった。その県は特別対策会議で発表する、すぐにデスクに報告して準備の方を頼む」 獅子内記者がスマホを切ります。 ふと振り返ると、そこには涼やかな笑顔がありました。「ご苦労ですね」 グレーのスーツに身を固めた紳士が立っていました。 年齢は四十代でしょうか。長身でスマートな体格。鼻眼鏡をかけた彫りの深い顔立ち。少しあごヒゲを伸ばしています。「失礼ですがあなたは?」「電話の相手は『令和日報』の作吉記者。腕利きの報道記者。なかなかの逸材と見た」 紳士はあごヒゲをさすります。「なぜそのことをご存知ですか?」 冷静沈着の獅子内記者が珍しく驚きの表情。紳士は平然とした表情。「一を聞いて十を知る。それがわたしの仕事だ。貴兄もなかなかの人材と敬服している次第」「もしや、あなたは天福鳥生師の……」「まさしくその通り。代理としてまかりこした。師は高齢ゆえ、貴兄の頼みを聞き入れることがはなはだ困難な様子」 紳士はそこで言葉を切ります。獅子内記者はハッとした表情で紳士を見つめていました。「貴兄もご承知かと思うが、師の守護神は毘沙門天ことクビラの神。そこでわたしが天福鳥生師の代理を務めることを申し出た。久しぶりに日本の土を踏みたしいと思ってね」 獅子内記者の表情に緊張が走りました。「もしやあなたは?」
last updateLast Updated : 2025-08-10
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~第七部③~ 獅子内記者の大論陣

 国会議事堂大会議室は緊張感がピリピリ漂っています。 机がロの字型に置かれ、石田総理大臣、大泉副大臣らの閣僚。 野党各党からは野田代表、大島代表、藤本代表。 知事連合会の代表として東京都の大池知事。 日本新聞協会からは「令和日報」の甲賀次郎編集局長。 そして各界から大学教授など各界の有識者が集まっています。 警察庁長官、警視総監も列席に連なり、警視庁の名警部、松山警部も参加していました。 窓側の反対側の壁には、壁半分を占める大きさのテレビが設置されています。 テレビの前には獅子内記者が立っていました。「いま、獅子内記者が説明した通り……」 獅子内記者の隣の席の松山警部が口を開きます。「日本各地で不可解な現象が相次いで起こっていることは確かです。今回、『日本新聞協会』『知事連合会』などからの強い要請もあって、このような会議を催すことになった次第です」 獅子内記者が一同を見回します。「詳しい内容についてはレポートを参照願います」 野党の野田代表がバカにしたように肩をすくめます。「おかしなことが起きていることは確かだが、それを日本の危機と大げさに騒ぐのはどうなのかな」 傲慢な表情で獅子内記者を見すえます。「危機をあおって、国会の論戦を妨害する!『令和日報』さんって政府寄りじゃないの」「まったくです」 女性ながら「論客」として大臣からも恐れられている大島代表が冷笑を浮かべました。「日本で大変なことが起きてるから、国会で議論なんかしている場合じゃないという世論誘導が狙いでしょう。この大島!騙されませんよ!」「青森県のリンゴの木にリンゴではなくミカンがなった一件は、渋谷知事の迅速な対応で騒ぎは沈静化していると聞いている」「鹿児島の桜島大根が、突然普通の青首大根に変わった件だって、大騒ぎしなくても、そのうちに解決する問題だろう」  野党の野田、大島両氏は、松山警部に視線を向けます。「松阪牛が一斉に神戸牛や飛騨牛に変わった件も含めて、遺伝子学的に解明しようと、昨日プロジェクトが結成されたはずです」「遺伝子の突然変異くらいあるだろう。大騒ぎして、僕ら野党を黙らせるつもりか!そうはいかんぞ。バカモノ!7」 野田代表が勝ち誇ったように石田大臣を見すえます。「内閣総辞職だ。土下座してあやまれ」「みなさん」 石田総理大臣
last updateLast Updated : 2025-08-11
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