All Chapters of 突然妻がとびっきり甘えてきて、困っています」: Chapter 11 - Chapter 20

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十一章 「花火大会」

 僕は彼女と一緒にお互いに両親に挨拶にしに行った時のことを思い出すことで、あることに気づいた。 彼女は、あの時僕を試した。 直接言うこともできただろうに、あえてその方法をとった。 彼女は不安だったのに、ただひたすら待っていてくれた。 それは、僕を信頼してくれているからできることではないか? もしそうなら、僕は今回も彼女のその思いに応えたい。 さらには、無理やり言わされた言葉ではなく、僕の本心からの言葉だからこそ、彼女は安心できるのではないだろうか。 きっとなんで『きゅんとさせて』と言い出したのか聞くと、優しい彼女は答えてくれる。 でも、求められるままの言葉を言うことが正しいわけではない。いや、彼女が求めているものは、本当はそのようなものではない。 結婚の報告の話を思い出すことで、僕がこの『イベント事』の日を通して、自分で何かを見つけ出し、彼女を安心させないといけないと改めて思った。 太陽が燃え上がるような夏が訪れてきた。 僕たちは、今隅田川に花火を見にきていた。 なぜ来ているかは、少しだけ時間を巻き戻す必要がある。 七月に入り、夏の暑さにすでにやられている時のことだ。 写真を撮るのが好きな彼女なら、花火も写真に撮りたいと思うかもと僕は考えた。最近の僕は、彼女にもっと喜んでもらいたいと思うようになってきている。  だから「近々花火でも見にいかない?」と僕は彼女に話しかけた。 「行きたい行きたい!」と彼女からかなりのハイテンションの返事が返ってきた。 さらに、「行くならやっぱ日本一のところがいい」と彼女は早口で続けて言ってきた。 僕はきっとその言葉にも、何か意味があるんだろうと思った。 『言葉』について、僕は今までその言葉を言う理由を深く考えることはなかった。 でも少しずつ、考えられるようになってきた。これも彼女が『イベント事』の日を作ってくれたおかげだ。 だから「いいよ、そこに行こう」と言って、今に至る。 僕たちは浴衣を着て、花火大会に来た。 僕は浴衣を着るのは初めてだ。 彼女が浴衣を人に着させることも自分で着ることもできるから、準備は全て彼女に任せた。 僕は普段は自分のことは自分でしている。だから、準備を完全に任せることはないので、なんだか不思議な感じだった。少し落ち着かない気分だ。 でも、それをしていた時の彼女
last updateLast Updated : 2025-08-09
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十二章 「初めてのケンカ」

 晩ごはん前に、二人で楽しく会話していると、彼女はさらっと「明日は『イベント事』の日だから」と伝えてきた。 普通に返事をしたけれど、「えっ、事前告知しちゃうの?」と僕は内心びっくりしていた。 「突然だから、この『イベント事』の日はサプライズ感があっていい」と彼女は前に言っていた。 それなのに、今回はどうしたのだろう。「明日は、二人にとって大切な料理の日よ」「料理の日。そんな日あったかな?」 僕は目の前にあるカレンダーをじっと見た。 僕は記念日を前よりかなり意識するようになってきていた。 八月にそのような祭日はもちろんないし、カレンダーの余白部分に小さく書かれていることもなかった。「カレンダーを見ても無駄よ。だって私が今作ったオリジナルの日なんだから」 彼女は楽しそうにしていた。「それは、都合良すぎるよ」 僕はつい強い声で言ってしまった。 声の大きさと冷たさに自分ですら驚いた。 今まで彼女にもやっとしたりイラッとしてしまったことを思い出し、僕が日々感じている世の中や人への不満までも彼女に全てぶつけた。 僕にとって世の中はそんなに優しいものではないし、そんなに都合よく何でもかんでも変えることもできない。 苦しくても、ただ耐えるしかできないものだ。「ごめん。どこかすごく嫌な気分にさせちゃったのかな」と彼女は焦りながら申し訳なさそうにしていた。 そこまで彼女の感情がわかっているのに、僕は彼女のことを許すことができなかった。「明日は『イベント事』の日だということはわかったよ。僕はもう寝るから。ほっといて」「えっ、あっ、ちょっと待って⋯⋯」という彼女の声に僕は振り向くことなく寝室にスタスタと向かっていった。 彼女とケンカをしたのは、この日が初めてだった。  次の日になって、自分のしたこととを少し冷静に考えられるようになった。 彼女の発言でイラッとはした。でも、あそこまで言うこともあんな態度をとることも明らかにひどかった。 今まで誰かに怒りを直接ぶつけたことすらなかったから、どんな風に怒るのかさえわからなかった。 さらに言うなら、ケンカした時の仲直りの仕方もわからない。 どんな風に話せばいいかと考えると足が震えた。 怖かったけど、このままの状態にしておきたくないなといい思いのほうがギリギリ勝った。 彼女が起きてから、僕は
last updateLast Updated : 2025-08-10
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十三章 「十一月一日 結婚記念日」

 次の日に、僕は彼女に謝ろうと思った。 『イベント事』の日があんな感じになるのを彼女を求めていないことはわかっているから。「『イベント事』の日なのに、怒った気持ちをずっと引きずっていて、ごめんなさい」「いいよ。大丈夫」と彼女はあっさりと許してくれた。「今後はもっと花音ちゃんに楽しんでもらいたいから、しっかり『イベント事』の日に集中するから」「そうじゃないのだよね」 彼女は寂しげな顔をしていた。 そして、彼女は頑なにどういうことか教えてくれなかった。 それから九月と十月は『イベント事』の日がないまま過ぎていった。 今まで、最低でも一ヶ月に一回は『イベント事』の日があった。 それがないのは、本当にたまたまなんだろうか。 心は正直穏やかではない。でも、今僕ができることをしようと思った。 今までの僕ならネガティブな気持ちを引きずって何もできなくなっていた。 彼女が、僕を変えてくれた。 人を変えるのは、簡単なことではない。 彼女はたくさんの時間と労力を僕のために使ってくれているだろうと今ならわかる。 そんな彼女の力に、今度は僕が力になりたい。 だから、僕はなぜ彼女が突然『きゅんとさせて』と言ったかを答えを見つけようと思った。 彼女はただ単にむちゃくちゃなことを言う人ではない。 これまで、僕をきゅんとさせる為、『幸せ』に関係していることと僕は予想を立ててきた。 しかし、改めて考えてみると『イベント事』の日は、『二人で』会話して、心を通わせ、時には心の距離をさらに縮めていた。 僕がきゅんする行動をした後に、彼女が毎回お礼を言うことには、別のことに対して言っていたとしたら? という疑問が確信になった。 それらのことから、僕はある一つの答えに辿り着いたのだった。  今日は初めて迎える結婚記念日だ。  彼女はあれからも前の『イベント事』の日のことを話すことはなかったけど、僕といつもの同じように接してくれている。 彼女には彼女の考えやタイミングがきっとあるし、それを僕は尊重したいと思っている。 だから、前の『イベント事』の日について積極的に僕からも触れないようにした。 そして、僕自身も一人で辿り着いた答えを言う準備をしていた。 必ず今日は彼女の『イベント事』の日に該当する。でも、もし今日「『イベント事』の日だね」と彼女が言い出さ
last updateLast Updated : 2025-08-11
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十四章 「十二月二十五日 イルミネーションデート①」

「今日の『イベント事』の日で、私たちの『イベント事』の日は最後だよ」 彼女は、はっきりとそう告げたのだった。 彼女がこの発言をした背景を知るためには、時間を少し戻す必要がある。 それは十二月に入った日のことだ。 ベットで、二人で寝る前にお話をしている時に、クリスマスがある月になったので、僕は「クリスマスに、どこか行きたいところある?」と彼女に聞いた。 僕たちは、最近寝る前にお話をする時間をとるようになった。 そんな時間をとり始めると、お話する時間は、僕にとって一日の中で重要な時間になった。 彼女と話するのが、一番楽しかった。 もっと前からこの時間をとっておけばよかったと、少し後悔している。 僕たちは、基本インドア派だけど、二人ならどこかにたまに出かけるのもいいかなと思った。 彼女は「きれいなイルミネーションが見たいなあ」と目をキラキラさせていた。「イルミネーションか。やっぱり近場で有名なところだと、読売ランドかな」「読売ランド! ねぇ、そこに決めちゃう?」 彼女はなぜかこの場で即決しようする勢いだ。 彼女は元々そんなに悩むタイプではないけど、ここまですぐに決めるのは珍しい。「えっ、いいの? まだ時間あるし、二人でどこかにいいところがないか調べることもできるよ」「いいの。『場所』は、そんなに重要じゃないから」「ん? どういうこと??」「瑞貴ちゃんと一緒にイルミネーションが見れるなら、そこはどこだって一瞬で素敵な時間になるから」 さらっと甘い言葉を彼女が言ったから、僕はふにゃっと笑顔になった。 こうして、クリスマスに読売ランドに行くことが決まった。  僕たちは十八時に、読売ランドに到着した。 太陽はすでに沈んでいて、空には月がきれいに浮かんでいる。 読売ランドのイルミネーションは、世界初の宝石の色をイメージしたLEDを使ったイルミネーションだ。アトラクションなどもイルミネーションで飾られる。しかも、それを見るだけではなく、アトラクションに乗り、自分たちがイルミネーションに加わることができる。 これを知ったら、彼女は驚くだろうなあと僕楽しい気分になっていた。 読売ランドに一歩入ると、そこは別世界だった。 光の中にいる感覚におちいった。 彼女の方を見ると、彼女は小さな子どもを連れた他のお客さんを儚げにに見ていた。 
last updateLast Updated : 2025-08-12
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十五章 「十二月二十五日 イルミネーションデート②」

「お礼を言うのは、僕の方だよ」 僕は深呼吸した。 正直、かなり緊張している。 イルミネーションは変わらずキラキラと光っている。 僕も同じぐらい光り輝けたらどんなにいいだろうか。でも、それはできる気がしなかった。「なんで、瑞貴ちゃんがお礼を言うの? 私こそ、何かしたかな?」 彼女は、何か思い当たるところを探してるようだったけど、特に見つからなかったようだ。「それは、『イベント事』の日を一緒にしたおかげで、僕は花音ちゃんのことを知ることができたからだよ。本当にありがとう」「私のことを? それは普通のことじゃない??」 彼女はやはり話についてこれていないようだ。 確かに一般的にはごく普通なことを僕は言っている。 彼女が戸惑うのも当たり前だ。 時間と共に、好きな相手のことをどんどん知っていくことは、至って普通のことだ。 ただ僕にとっては、その普通のことに気づくことが他の人よりうまくできない。 「いや、おかしな話だと自分でもわかっているけど、今までの僕は花音ちゃんのことを積極的に知ろうとしていなかった。うーん、正確には『好き』と言う思いで、満足していたと言うべきかな。花音ちゃんの優しさに、『好き』に、甘えていた。そして、『好き』という感情は一人では完結させることができないと花音ちゃんは教えてくれた。二人ででするから楽しいこともあるとわかった。だから、その、花音ちゃんとの時間をこれからも大事にしたい」 僕は話し出すと、自分でもどうすることもできないぐらい次から次へと言葉はでてきた。 でも、それらには全然まとまりがない。「ゆっくり話してくれたらいいよ。大丈夫、瑞貴ちゃんの話を私はちゃんと最後まで聞くから」 胸がちくりと痛くなった。 僕は彼女のことを今まで考えてなかった。そんな僕が彼女に優しくされる資格なんてないから。 頭を一度振って、気持ちを切り替えた。 今は僕がネガティブになっていてはダメだ。 伝えたいことは山ほどあって、感謝したいこともたくさんある。 思いを伝えるのって、難しいなとつくづく感じる。 それでも、僕は伝えることを諦めたくない。「僕は『イベント事』の日のおかげで、花音ちゃんをもっと理解したいと思い、ちゃんと向き合うことができるようになったから、そのお礼が言いたかったのだよ」 本当は謝罪もしたかった。 僕は今まで
last updateLast Updated : 2025-08-13
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十六章 「『きゅんとさせて』と言った理由①と②」

「まずは、私が『きゅんとさせて』と言った理由の一つ目は、さっき瑞貴ちゃんが言った『日常』の時間を二人で一緒に楽しみたい』だよ」「うん。それはあってるのだよね」 僕は、心の中は穏やかではないけど、なんとか返事ができた。 彼女は静かに理由の説明をしだした。「特別な時間って素敵に感じるけど、長い人生から見たら、すごく短いことだと思う。他はざっくり分けると『日常』に分類されると思う。結婚して人生を共にすると考えると、その長い時間の方が大切だと私は思う。だからこそ、その時間を二人で楽しいものにしたい。苦しいより楽しい方がいいから。一緒に小さなことに対しても、喜びをわかち合える二人でいたい。そして、二人で楽しめば、小さなこともきっと素敵なものになるから」「なるほど、それはその通りだね。僕も同じように思うよ。でも、どうして僕の言葉だけじゃ完全に正解ではないの?」 僕は彼女に勇気を出して聞いてみた。 聞くことでさえ、僕にとっては本当は勇気のいることだ。 でも、彼女と向き合うためには、僕は自分の殻を破る必要がある。「それは、この理由から、『ただ優しい』のと『自己犠牲』を私は望んでいないということを伝えたいからだよ。瑞貴ちゃんは本当に優しいよ。でも『ただ優しい』のと『優しい』のは違う。瑞貴ちゃんは、よく自分の気持ちを犠牲にしてまで、私に優しくしてくれる。それは『ただ優しい』に分類されると、私は思う。例えば前に「今後はもっと花音ちゃんに楽しんでもらいたいから、しっかり『イベント事』の日に集中するから」と瑞貴ちゃんが言ったことと、『瑞貴ちゃん、今楽しい?』と私がさっき聞いたこと覚えてる??」「もちろん、覚えてるよ」 最初の方のは、ケンカをした次の日に言った言葉だ。 どちらも、僕が言葉を言った後に、彼女は寂しそうな顔をしていた。 それが、『きゅんとさせて』と言った理由と、どう関係しているのだろうか。「どちらも、瑞貴ちゃんは私が楽しければそれでいいと言っていた。それが私はどうしょうもなく寂しかった。優しいことは、悪いことじゃないよ。でも、『ただ優しい』のは、何があっても優しくしてるだけで、なんだかちゃんと私のことを見てくれていない気がする。また、自分を犠牲にしてまで、私のために何かをしてほしくない。それを私は望んでいないよ。私たちは夫婦だよ。夫婦とは『対等』なのだ
last updateLast Updated : 2025-08-14
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十七章 「『きゅんとさせて』と言った理由③」

「『きゅんとさせて』と言った三つ目の理由は、まずこれが一番大切な理由だからよく聞いてね。それは二人に合った夫婦の形を見つけたいからだよ」 彼女は珍しくはっきりとした口調だ。「夫婦の形を見つけたい?」 彼女の言葉に、驚かされるのはいつものことだけど、今回のは今までと比へものにならないほどのものだった。 『イベント事』の日を通して、相手の気持ちを理解することや愛情を伝えることの大切さはわかった。 しかし、僕には、『イベント事』の日に『夫婦』に関して、深く考えることはなかった。 僕は改めて『夫婦』という言葉について考えてみたけど、何も言葉が浮かんでこなかった。 なせ夫婦に形を求めるのだろう。そもそもそんなに色々な形があるのだろうか。 僕たちは結婚して、『恋人』から『夫婦』になった。 それは特別で、大きな変化であったを でも、僕は彼女のことが好きで、彼女も僕のことを好きでいてくれている。 それで、いいのではないか。 それ以上に、何が必要なのだろうと僕は頭を悩ませるた。「夫婦に形なんて求めなくていいんじゃない? と今思ってるでしょ」 彼女自身満々に聞いてきた。「えっ、何でわかったの?」 僕は一瞬心の中を読まれたのかと本気で思った。「私が、瑞貴ちゃんのことをどれだけ思っているかまだまだわかっていないね。それぐらい瑞貴ちゃんの顔を見ればすぐにわかるよ」「それはすごいね」 驚いたけど、同時にそれは嬉しいことでもあった。 その言葉一つで、彼女が僕のことを思ってくれているのが瞬時にわかったから。 彼女の言葉って、本当に思いがつまっている。 彼女に比べたら、僕はまだまだ彼女のことをわかれていないだろう。 僕も、もっと彼女のことを知りたい。「じゃあ聞くけど、瑞貴ちゃんにとって『夫婦』とは、何?」 彼女は真剣な顔で、質問してきた。「愛し合う二人が、ずっと一緒にいる証?」 僕は迷いながら答えた。 迷ったのは、自分の言葉に自信がないからと、まだ自分の中で夫婦について確かな答えが出ていないからだ。「うーん、間違っていないけど。瑞貴ちゃん、それはちょっと甘いよ。夫婦とは、意味的には婚姻関係のある男女のことを指しているにすぎないのよ。そこには二人を結ぶ絶対的なものはない。私にしたら少し現実的な発言と思うかもしれないけど、私たちは元は他人だとい
last updateLast Updated : 2025-08-15
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十八章 「過去編 夫婦になった日」

 ホテルに宿泊して、昼頃に家に帰ってきた。 僕は『夫婦になった日』のことを思い出すことにした。 それが『夫婦』について考える第一歩となると僕は思ったからだ。 時間は、去年の十月一日までさかのぼる。「ねぇ、瑞貴ちゃん。婚姻届をいつ出しに行くかそろそろ決めない?」 僕たちは、すでに両家の親に結婚の挨拶をしに行って、引っ越しの準備なども終わっている。 結婚準備は、残すは婚姻届を出すだけだ。 そうすれば、毎日一緒にいられる。 僕は、想像しただけで頬が緩んだ。 彼女とずっといられるなんて、他に変えようもない幸せなことだ。 今までは、何かしらの方法で毎日連絡はしていた。それでも会えるのは、デートの日だけだった。お互いに働いていたから、どうしても二人の休みの日しか丸一日一緒にいられなかった。 いくら頻繁に会っていても、彼女に会いたい気持ちは満たされることはなかった。  僕は相当彼女にほれているらしい。 確認したことはないけど、彼女もそうだと嬉しいな。 とにかく僕はいつも彼女に会える日が、待ち遠しかった。楽しみで仕方なかった。「うん、そうだね。本当にこの日が来るのを楽しみに待っていたよ。出しに行く日、いつがいいとか花音ちゃんはある?」 心のワクワクも隠さずに、彼女に伝える。 嬉しい気持ちは、きっと人を幸せにする魔法があるから。 彼女と過ごしてきてそう思うように、僕は変わった。 そして、僕は彼女の意思を第一に尊重したいと思っている。 もちろん、二人の大切な日だということはわかっているけど、それでも僕は大好きな彼女の意見をできるだけ聞いてあげたいと思う。「そうねー。あっ、十一月一日がいい! むしろ十一月一日じゃなきゃ嫌」 彼女は何かを思い出したようだ。「花音ちゃんが、そこまで言うなんて珍しいね」 彼女が甘えたり駄々をこねるなんて、本当に珍しいことだ。むしろ、初めてかもしれない。 いつもの彼女は、控えめで自己主張するタイプではない。 そんな彼女がそこまで言うのだから、きっとそれだけ大切な何かがあるのだろう。「ねぇ、十一月一日に出しにいける?」 僕が考えていると、彼女はさらに甘えた声で言ってきた。「うん。じゃあ十一月一日しよう」「やった。じゃあその日が、私達の『結婚記念日』になるね」 僕は、元々この日にしたいというのがなかった
last updateLast Updated : 2025-08-16
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十九章 「理想の夫婦像とは?」

 僕は夫婦になった日を思い出すことで、気づきがあった。 彼女は夫婦になる前から、甘えていた。 僕が、ただそれに気づけていなかっただけだ。 彼女の気持ちを考えると、胸が痛くなってきた。 彼女は僕にいつも心を開いているのに、僕からは何の反応も返ってこないのだから。 寂しいという言葉で、とても現れないほどのものだったと思う。 僕は今こたつに入っている。 彼女とまったりとおしゃべりをしたいところだけど、今日は「理想の夫婦像について、一人で考える時間をもらいたい」と彼女に声をかけていた。 僕は話し合いをし、早く彼女ともっと心を通わせたい。 彼女は「わかったよ。終わったら声かけてね」と穏やかな声で返事をくれた。 「ありがとう」と伝え、僕は一人で考え始めたのだった。 まず彼女はお互いにどんな夫婦を理想像としているか改めて考える時間を各自でとってみようと彼女は言った。 そもそもなぜ各自で時間をとるのかと僕は考えると、考えるのに時間がかかる僕のためだとわかった。 彼女には本当に敵わない。 僕は一体どんな夫婦になりたいと思っているかという話に、思考を戻した。 正直、前までの僕なら迷うことなく、『彼女が常に幸せだと感じられるような夫婦』を理想像とする。僕がいくら大変でも彼女にひたすら尽くして、彼女が幸せそうな顔をしてくれたら、それで僕のことはどうでもいいと思っていたから。 でも、『イベント事』の日を一緒にしていく中で、僕は彼女の考えや望むことをわかってきた。 『ただ優しい』ことと『自己犠牲』を彼女を望んでいない。 僕は、夫婦であるなら二人で同じ方向を向きたいと思っている。僕あるいは彼女が望んでいないことを続けても、僕たち夫婦にとっての幸せにはつながらないから。 そうであるなら、僕はもう一度白紙の状態で、どんな夫婦になりたいか考える必要がある。 僕は『イベント事』の日のことを思い返すことにした。 『イベント事』の日を彼女がわざわざやってくれたことを、僕は無駄にしたくない。 『全てのことには意味や起源がある』とら彼女は十二月の『イベント事』の日に言っていた。 まず、自分が彼女のことを知らないとわかった。そこから、彼女の気持ちをちゃんと考えるようになった。彼女の気持ちを知ることは、彼女と向き合うことであった。 また、今まで僕にとって曖昧だった『
last updateLast Updated : 2025-08-17
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二十章 「話し合い①〜夫婦とは?〜」

 今日は一般的にはなんの『イベント事』もない、普通の日だ。 でも、今日は、僕たちには大事な『話し合い』の日だ。 いつものように隣同士で仲良くこたつで座るのたけど、今日は少しだけ緊張している。 僕は温かいコーヒーと紅茶を用意してもっていった。 コーヒーを飲む時間を一人でとるのではなく、その時間も二人で楽しみたいと思うように僕は変わった。 最初に話し出したのは、彼女の方だった。「話し合いをする前に、一つ約束をしてほしいことがあるの」「約束?」「うん。たとえ相手の考え方が、自分の考え方と違っても相手を『否定』しないことを約束してほしい。誰かや何かを否定することはすごく簡単で、楽だよ。でも、本当に大切な人に何か一つでも否定されたら、それはすごく辛いことだから」「わかった。約束する」 僕は元から彼女のことを否定したりはしないけど、今回はより一層否定しないことを意識するようにした。「ありがとう」 彼女はホッとしたような顔をした。 彼女はたまにそのような表情をする。 僕はそのことについて、どうしたのかずっと聞きたくても聞けなかったから、今回は頑張って聞いてみることにした。「あのさ、花音ちゃんでも、不安になることあるの?」「当たり前でしょ。瑞貴ちゃんは、私をなんだと思ってるの?」 彼女は怒っていないけど、びっくりしていた。「やると決めたら、なんでも完璧にこなす人」 さらに言うなら、僕みたいにネガティブで、悩み出すとなかなか抜け出せない人ではないと思っている。「えっ、あはは!」 彼女は突然笑い始めた。「えっ、どこかおかしかった?」「これだけ話していても、まだまだ伝わっていないことってたくさんあるのだなー」「伝わっていないこと?」 僕はまた間違った認識をしていたのだろうか。心の中からまた暗い感情がゆっくりと湧き上がってこようとする。「そう。私は全然『完璧』なんかじゃないよ。実は、私は年上の瑞貴ちゃんの相応しい人になるためにいつもギリギリなのだよ。それがたまたま瑞貴ちゃんにはさも完璧のように見えただけだよ。いつもちゃんとできてるかなと不安だらけなのだから」「そうだったのだね。花音ちゃんのことまたわかってなかったね。ごめんね」「いいのよ。私がしたくて、やっていることだから」「でも、無理はしないでね」 彼女の努力を知ることができて
last updateLast Updated : 2025-08-18
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