私の婚約者の真宮湊(まみや みなと)は、清廉な仏弟子だった。付き合って二年になるけれど、彼は一度たりとも私に触れたことがない。かつて仏の前で「戒を破らぬ」と誓ったからだと言う。湊はさらに、妊娠するまでは籍を入れるつもりはないと、人工授精を先に受けるよう求めてきた。ようやく妊娠がわかったとき、湊は静かに微笑んで、私に盛大な結婚式を約束してくれた。けれど、結婚式当日、私は彼に九十九回電話をかけたが、彼はとうとう現れなかった。代わりに届いたのは、彼の義姉香月紗良(こうづき さら)からの一通のメッセージ。添付されていた動画に映っていたのは、ベッドの上で彼女と絡み合う湊の姿だった。あの清廉な彼の面影など、そこには微塵もなかった。その瞬間、私の中で何かが音を立てて崩れた。戒を破れなかったんじゃない。私が、愛される相手じゃなかっただけ。しばらくして、湊からメッセージが届いた。【昨日の夜、紗良が熱を出してね、放っておけなかった】【君も知ってるだろう。兄貴はもういない。今、彼女には俺しかいないんだ】【結婚のことは、彼女の体調が落ち着いてから、改めて考えよう】私はスマホの画面を見つめたまま、ただ黙って涙をこぼした。そして父に電話をかけた。「お父さん、決めたよ。政略結婚、受けることにした」「ほんとか!本気で考え直してくれたのか」電話口から聞こえた父の声が急に大きくなった。抑えきれないほどの高揚が、言葉ににじんでいた。その声を聞いた瞬間、胸がじんと熱くなった。少し、申し訳なさも込み上げてくる。あの頃、私が湊と付き合い始めたとき、父は頑なに反対していた。「家柄も釣り合わないし、あの男は仏門だの戒律だのと言ってる変わり者だ。お前が苦労するのが目に見えてる」と。でも当時の私は、恋に目がくらんでいた。父の忠告なんて聞く耳も持たず、ただ湊と一緒になることしか考えていなかった。それが今、恋に裏切られ、心も身体もぼろぼろになって、ようやく父の言葉の意味がわかった。電話では少しだけ父と話し、私は三日後に家へ戻って政略結婚に応じると約束した。そして通話を切った、その直後だった。湊から電話がかかってきた。「陽菜(はるな)、なんでずっと返信してくれないんだ?今日は本当に悪かった。ちゃんと盛大な結婚式を挙げて、
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