咲夜が3度電話を切った後、彼女は江口家の正門で陸斗を見かけた。大空は正門の中に立ち、門前に立ち塞ぎながら陸斗に容赦なく皮肉を言った。「おやおや、これは妹を閉じ込めた雨宮じゃないか?」陸斗は大空の嘲笑を気にせず、早速本題に入った。「入れてくれ。咲夜に話がある」「ダメだ!」「兄さん……」妹の声を聞くと、大空は一瞬驚き振り返り、咲夜がいつの間にか背後にいたことに気づいた。咲夜は陸斗に会うつもりはなかった。彼が晴香を守る姿を思い出すと、彼女は胸が痛んで一晩中眠れなかったからだ。しかし彼女はあのデザイン画を諦められなかった。執事から陸斗が来たと知らされ、彼女はついて出たのだ。陸斗の視線は大空を越え、後ろにいる咲夜を見つめた。その深い瞳に珍しく戸惑いの色と謝罪の気持ちが浮かんだ。「すまない……」彼がそう言いかけると、咲夜は何を言おうとしているかすぐにわかった。「破れたの?」陸斗は少し哀れに思いながらも、頷いた。空気は張り詰め、静寂に包まれた。咲夜は急に疲れを感じ、この瞬間、もう隠すのをやめようと思った。彼女は、政略結婚であったことや、名ばかりの5年間の結婚生活だったこと、さらに自分が死んだふりをした理由を陸斗に正直に打ち明けたいと思った。月明かりの下で、咲夜の表情は悲しみではなく淡々としていた。「初恋」は破れてしまった。彼女は彼を愛していた証拠さえ何一つ残せなかった。だから、過去の咲夜は本当に死んだんだ……咲夜は大空に先に中に入るよう促し、自分が陸斗と話すために残った。大空はこの提案に反対だったが、咲夜には逆らえず、捨て台詞を残してから素直に屋内へ入った。咲夜と陸斗は正門越しに向かい合った。月明かりの下で、あまりにも冷静な咲夜に、陸斗は次の瞬間、彼女が消えてしまいそうな気がした。胸が何故か一瞬ざわついた。彼は正門越しに咲夜の手を掴んだ。今度は咲夜は抵抗せず、自ら口を開いた。「陸斗、どうしてあの手稿をそんなに大事に思っているかわかる?それは3年前、私があなたのために描いたものだから。あなたは知らないかもしれないけど、あなたは私の初恋だったの……私たちは政略結婚だったけど、私は雨宮家だけが選択肢じゃなかったの。でも、私は兄を脅してまで、あなたと
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