「お姉ちゃん、この前紹介してくれたあの人……やっぱり会ってみたい」電話の向こうで、結城美沙(ゆうき みさ)は少し驚いたように声を上げた。「どうしたの、急に?この前まで、『一生、桐谷司(きりたに つかさ)以外と結婚しない』って言ってたじゃない」数日前の大げさな宣言を思い出し、結城結衣(ゆうき ゆい)は胸の奥がひどく滑稽で、情けなくなる。「夢から覚めたと思ってくれればいいよ」「わかった。その人、ちょうど来月の初めに帰国するみたい。日にちが決まったら連絡するね」電話を切ったあと、結衣はスマホにリマインダーを入れた。来月初めまで、あと半月。夢から覚めたのなら、そろそろ現実に戻るときだ。そう思った矢先、寝室のドアが開いた。司が柔らかな笑みを浮かべ、小さなケーキの箱を手渡してきた。「三時間並んで買ってきたんだ。食べてみて」結衣は受け取って箱を開けた。やっぱり、ショートケーキだった。結衣はそれを机の端に置き、淡々と告げる。「今日はケーキの気分じゃない」司は隣に腰を下ろし、彼女をそっと抱き寄せた。「また誰かが結衣を怒らせた?俺が懲らしめてあげる」結衣は小さく苦笑した。三年も付き合ってきて、何度も「チョコレートケーキが好き」と伝えてきた。けれど、彼が買ってくるのはいつもショートケーキだった。最初は、ただ売り切れていたのだと思っていた。一週間前の夜までは。その日、司が風呂に入っている間に、テーブルの上のスマホが光った。画面に表示されたのは、【ゆいふふふ】というアカウントの投稿通知。【いろんなスイーツを試したけど、やっぱり桜並木通りのショートケーキが一番!】そのアカウントは、彼が通知までオンにしている相手だった。名前を見た瞬間、胸の奥に嫌な予感が走る。自分の名前と、あまりにも響きが似ていたから。結衣はすぐにそのアカウントを検索し、この三年間の投稿を貪るように遡った。彼女は明るくて社交的で、世界中を旅していた。写真に映る姿は、美しく、そして華やか。今は海外にいるようだったが、もうすぐ帰国するらしい。プロフィールには「浅川唯(あさかわ ゆい)」とある。結衣と唯、漢字は違えど、読みは同じ。この時点で、結衣はもう薄々気づいていた。さらに数日後、司のSNSアカウント名が「ショ
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