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七年目の裏切り――私は身代わりだった
七年目の裏切り――私は身代わりだった
Author: 狼天薄雲

第1話

Author: 狼天薄雲
「お姉ちゃん、この前紹介してくれたあの人……やっぱり会ってみたい」

電話の向こうで、結城美沙(ゆうき みさ)は少し驚いたように声を上げた。「どうしたの、急に?この前まで、『一生、桐谷司(きりたに つかさ)以外と結婚しない』って言ってたじゃない」

数日前の大げさな宣言を思い出し、結城結衣(ゆうき ゆい)は胸の奥がひどく滑稽で、情けなくなる。

「夢から覚めたと思ってくれればいいよ」

「わかった。その人、ちょうど来月の初めに帰国するみたい。日にちが決まったら連絡するね」

電話を切ったあと、結衣はスマホにリマインダーを入れた。

来月初めまで、あと半月。

夢から覚めたのなら、そろそろ現実に戻るときだ。

そう思った矢先、寝室のドアが開いた。

司が柔らかな笑みを浮かべ、小さなケーキの箱を手渡してきた。「三時間並んで買ってきたんだ。食べてみて」

結衣は受け取って箱を開けた。

やっぱり、ショートケーキだった。

結衣はそれを机の端に置き、淡々と告げる。「今日はケーキの気分じゃない」

司は隣に腰を下ろし、彼女をそっと抱き寄せた。「また誰かが結衣を怒らせた?俺が懲らしめてあげる」

結衣は小さく苦笑した。

三年も付き合ってきて、何度も「チョコレートケーキが好き」と伝えてきた。

けれど、彼が買ってくるのはいつもショートケーキだった。

最初は、ただ売り切れていたのだと思っていた。

一週間前の夜までは。

その日、司が風呂に入っている間に、テーブルの上のスマホが光った。

画面に表示されたのは、【ゆいふふふ】というアカウントの投稿通知。

【いろんなスイーツを試したけど、やっぱり桜並木通りのショートケーキが一番!】

そのアカウントは、彼が通知までオンにしている相手だった。

名前を見た瞬間、胸の奥に嫌な予感が走る。

自分の名前と、あまりにも響きが似ていたから。

結衣はすぐにそのアカウントを検索し、この三年間の投稿を貪るように遡った。

彼女は明るくて社交的で、世界中を旅していた。写真に映る姿は、美しく、そして華やか。

今は海外にいるようだったが、もうすぐ帰国するらしい。

プロフィールには「浅川唯(あさかわ ゆい)」とある。

結衣と唯、漢字は違えど、読みは同じ。

この時点で、結衣はもう薄々気づいていた。

さらに数日後、司のSNSアカウント名が「ショートケーキ」なのを偶然目にする。

大の男がそんな名前を付けるのは奇妙だ。しかも、司の性格には合わない。

だが、唯の投稿を思い出した瞬間、すべてが繋がった。

彼女の「一番好きなスイーツ」がショートケーキ。

司は、唯の「お気に入り」になりたくて、その名を名乗っていたのだ。

三年前、わずか一度会っただけで熱心にアプローチしてきた理由。

三年間、言葉を交わすたびに「結衣」と口にしながら、いつもショートケーキばかり買ってきた理由。

それらすべてが、唯の存在に行き着く。

彼が呼んでいたのは「結衣」じゃなく、「唯」だった。

司は何も気づかず、甘やかすように声をかけてくる。「もしかして、生理で機嫌が悪い?甘いもの食べたら気分も良くなるよ。この店のショートケーキ、本当においしいから、一口だけでも」

胸の奥に重い石を押し込まれたような息苦しさのまま、結衣は言った。「だから、ショートケーキは好きじゃないって言ってるでしょ!」

司は一瞬だけ固まり、予想外の反応に目を見張る。

その時、電話が鳴った。

彼は出てすぐ、驚きから喜びへと表情を変える。「うん、すぐ行く」

電話を切る彼の手が、小さく震えていた。

靴を履いて出ていくとき、慌てて鉢植えにぶつけるほどだった。

テールランプが遠ざかるのを見送りながら、結衣はスマホを開き、唯のSNSをチェックする。

そこには、空港前で撮った写真とコメント。

【やっと帰ってきた!ショートケーキ、会いたかったよ!】

今日が、唯の帰国日だったのか。

結衣は画面を消し、そっと息を吐いた。

自分という「代用品」は、そろそろ退場の時だ。
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