「お前たち、いつから付き合ってるんだ?」司の顔色が一瞬で青ざめる。「彼女がもう君を想っていないと確信して、僕を考えてくれると分かったあとだ」慎一は隠すことなく答えた。だが司は受け入れられず、目を血走らせて怒鳴る。「それを『つけ込む』って言うんだ!」「君たちはそのときもう別れてた。君の気持ちはちゃんと伝えたが、彼女は振り向かなかった」「そんな話、三歳児でも信じるか!甥の女を横取りして、よく言えるな……!」慎一の声が冷たく響く。「司、僕のやり方は知ってるだろう。君が甥じゃなければ、結衣はもうとっくに僕の妻になってる」その言葉に司の拳が振り上がる。慎一は身をかわしたが、頬骨をかすめられた。そこから二人はもつれ合い、殴り合いになる。モモは慎一が素早くリードを近くの木にかけていたおかげで無事だったが、興奮して足元をうろつき、戦いには近づけなかった。騒ぎは長引き、近所の住民が集まり始める。その中には、仕事中だった結衣の姿もあった。彼女は上着を羽織る間も惜しみ、全力で駆け下りると、勢いよく慎一を引き離した。互いに譲らなかった二人は、ようやく引き離される。「結衣!」司は彼女の名を叫び、駆け寄ろうとする。だが次の瞬間、結衣はまっすぐ慎一のもとへ向かっていた。結衣は慎一の頬の擦り傷を見つけ、不安そうに指でそっと触れた。「大丈夫?ほかにケガはない?」「平気だよ、ちょっと擦りむいただけだ。モモを見てやってくれ、きっと怖がってる」結衣は頷き、すぐモモのもとへ。慎一は殴り合いの最中も、真っ先にモモを安全な場所に移していた。リードを手に取り、結衣は再び慎一の隣へ戻る。最初から最後まで、司には一度も視線を向けなかった。司の顎の青あざは慎一の拳によるものだった。触れるたびに鋭い痛みが走る。――こんなはずじゃない。以前なら、彼がいる場所では結衣の視線は必ず自分に向けられていたのに。今、その瞳は別の男を映している。司は現実を受け入れられず、一歩踏み出して結衣へ近づこうとした。自分が間違っていたことを伝えたかった。だが、その前にモモが飛び出して彼を遮った。「ワン!ワン!」背を丸め、防御の姿勢で吠え立てる。このまま進めば、主人を守ろうとして噛みつきかねない勢いだ。司は深く息をつき、しゃがみ込んでモモに
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