電話を切った後、紬は丁寧に携帯電話を他の遺品と一緒に置いた。 時間を確認すると、葬儀社との約束までまだ少し余裕があった。 外来へ向かう途中、ちょうど心臓外科の入院病棟の前を通りかかる。 なぜか足が止まり、中へ入っていった。 白衣を着た紬を見て、静葉は少し驚いた。「どうして……」 口に出してすぐ、間違いに気付いた。 この体の元の持ち主は紬を知らないはずだ。 紬は優しく微笑んだ。「深水さん、今何かおっしゃいました?」 「いいえ」 静葉は首を振り、「午前中に検査は終わったはずですが、また先生が来るんですか?」と尋ねた。 周囲の深水家の人々も心配そうな表情を浮かべていた。 手術後の経過が良くないのではないかと心配しているようだ。 紬は慌てて首を振り、手のひらを揉みながら説明した。「私は……回復状況を見に来たんです。心臓を提供してくださった方が、私の患者さんでしたので。あなたが元気そうで、安心しました。彼女も……知ることができましたら、きっと喜ぶでしょう」 生前の静葉のことを思い出し、紬の目がまた赤くなった。 この言葉に、静葉が反応するより早く、佳梨の父と母が紬を椅子に座らせた。 熱心にお茶を淹れ、果物を勧める。 佳梨の母も提供者が若かったことを聞き、ため息をついた。「先生、提供者の方の情報を教えていただけませんか? そんなに若くして亡くなって、ご両親の負担は大丈夫でしょうか。佳梨の父とできればお礼がしたいのですが、お金やその他の面で、何かお手伝いできることがあれば力になりたい」 「彼女は……」 紬は静葉の事情を知っていた。俯きながら言った。「ご家族はいませんでした……ですから、お手伝いが必要な方もいないのです。それ以上は、病院の規定で申し上げられません。ご理解ください」 佳梨の母は鼻をすすった。「じゃあ、その子も大変でしたね……」 「ええ、本当です」 紬が立ち上がり、帰ろうとした時、静葉が声をかけた。 「先生、提供者の遺体はもう引き取られたんですか?」 「まだです」 紬は唇を舐めながら首を振った。「でも、彼女自身が生前にすべて手配していました。葬儀社の方がすぐ来ますので、これからお見送りに行きます」 その言葉に、静葉の
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