「離婚したいんです」結婚して四年、月島ルビー(つきしま ルビー)はこの結婚生活に終止符を打つことを決めた。しかし、向かいに座る弁護士は、彼女がただの悪ふざけに来たのだとでも思ったのだろう、眉をひそめるだけだった。「お嬢ちゃん、離婚ってのは片方だけの意思で出来るもんじゃないよ」弁護士が相手にしてくれないのも無理はない。なにしろ、ルビーは大学から直行してきたばかりで、スウェットにジーンズという格好でそのまま来たのだ。どう見ても離婚調停を起こそうとしている人間には見えなかった。だが、彼女はここに来る前に万全の準備を整えていた。落ち着いた口調で切り出した。「離婚協議書を作成していただければ結構です。夫の署名は私がもらいますから」彼女と月島遥斗(つきしま はると)の間に子供がいない。財産分与も一切不要。協議書はたった二枚の紙に収まるほどシンプルなものだった。家に帰ると、玄関のドアを開けた途端、鼻をつく強烈な匂いが押し寄せてきた。目をやると、天野晶(あまの あきら)と遥斗がなれ寿司を食べているところで、テーブルの上には半分に割られたドリアンまで置かれている。何を話しているのか、二人は顔がくっつきそうなほど笑い合っていた。遥斗はルビーが入り口に立っているのに気づくと、すぐに表情を引き締め、真面目腐った顔で尋ねてきた。「ルビー、この時間に帰ってくるとは思わなかったから二人分しか頼んでないんだ。何が食べたい?追加で注文しようか?」「いらない。学校で食べてきたから」ルビーはなれ寿司にちらりと目をやり、静かに視線を落とした。この数年間、彼女は匂いの強いものを食べるのをずっと我慢してきた。遥斗が鼻炎持ちで、家で変な匂いがするのが嫌だと言っていたからだ。ルビーはバッグから離婚協議書を取り出し、遥斗にペンを差し出して言った。「大学で安全責任承諾書に家族の署名が必要なの。ここにサインして」ルビーは孤児であり、夫である遥斗は、確かに彼女にとって唯一の家族だった。「どれ、見せてみろ」遥斗は軽く眉をひそめ、書類を受け取ろうと手を伸ばした。ルビーは遥斗がまじまじと見ようとするなんて、思ってもみなかった。これまでルビーのことに関心などなかったのだ。一ヶ月前に晶が離婚して帰国してからは、なおさらだった。離婚協
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