朝霧澄華(あさぎりすみか)の三十歳の誕生日の願いは、海外出張中の久遠雅彦(くおんまさひこ)に会うことだった。窓の外では、まるで壊れた堰から一気に水があふれ出すような豪雨が叩きつけている。雨脚は強く、その勢いも激しかった。澄華は胸の奥に広がる寂しさを必死に押し殺し、ろうそくの火をそっと吹き消すとリビングが闇に包まれた、その瞬間──玄関の扉が勢いよく開いた。声を上げる間もなく、澄華は誰かに窓ガラスへ押し付けられた。雨の匂いに混じって、懐かしいシダーウッドの香りがふわりと鼻先をかすめ、胸の鼓動が一気に速くなる。「飛行機が欠航で、帰れないって言ってたじゃない?」そう口にしたときには、もう雅彦の手が彼女の腰のラインをなぞるように滑り降りていた。「お前の三十歳の誕生日だぞ。俺が来ないはずがない。どんなことをしてでも、祝うために帰ってくるさ」「雅彦……」振り返った澄華は、息を詰めながら彼を見上げた。「……私、三十歳になったのよ……」雅彦は彼女の柔らかな唇を親指でそっとなぞり、そのまま抱き上げて寝室へ向かう。「三十になっても十分若いさ。俺はお前より五つ下だけど、小さいのは年齢だけで、それ以外はもう負けないよ」男はそのまま彼女を求め、熱く結ばれた瞬間、澄華の白い首筋にダイヤのネックレスをかけた。「誕生日おめでとう、澄華」愛を交わしたあと明かりをつけると、リビングには贈り物が山のように積まれていた。すべて雅彦が持ってきたものだ。澄華は首にかけられたダイヤのネックレスにそっと触れ、感動を込めて隣で煙草をくゆらす男を見つめた。「雅彦、私たち……もう三年付き合ってるわよね。結婚したいの」雅彦は煙草を吸う手を止め、火をもみ消すと澄華を強く抱き寄せた。「澄華……俺の事情は分かってるだろ。家の決めた政略結婚には、できるだけ逆らうつもりだ。でも、今はまだタイミングじゃない。安心しろよ、俺はお前なしじゃ行きていけない。それだけは、ずっと変わらない」澄華がさらに何かを言おうとしたとき、雅彦の携帯が鳴った。「雅彦さん、いついらっしゃいます?詩乃様がもうお待ちです」その声に、雅彦の口調がわずかに軽くなる。「もうすぐ着く。あと十分だけ待たせてくれ」電話を切ると、ソファの上に置いてあった特別包装の豪華なギフトボックスを手に取
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