朝彦の怪我は主に背中だった。取っ組み合いの最中、下駄箱に強くぶつかり、広い範囲が赤く腫れていた。医者に診てもらっている間、彼は一言も声をあげなかったのに、診察が終わった途端、私の肩にぐったりともたれかかり、わざとらしく「痛い痛い」と唸り始めた。その仕草に、私は突き放すこともできず、されるがまま。医者はその光景を見て、慣れた様子で笑った。「まったく、若いカップルは仲がいいね」私は顔を赤らめ、慌てて朝彦を連れて病院を出た。なのに、家に着いても彼はずっと私にくっついて離れない。「朝彦、ちょっと離れて!」思わず声を荒げた。彼は私の顔をじっと見つめたあと、不満げに「わかった」と呟き、ほんの指二本分だけ横にずれた。「もっと!」睨みつけると、ようやく手のひら一枚分離れ、口を尖らせて小声でぼそっと。「薄情……」聞こえないふりをしようとしたけど、距離が近すぎて全部聞こえた。「そうよ。もしかしたら、いつかあなたのことも忘れちゃうかもね」投げやりに言い返した。すると彼は身を乗り出し、真剣な目で問い詰めてきた。「忘れる?あの夜のことまで、忘れたって言うのか?本当に、何も?」思わず視線を逸らした。困ったことに、私は細部まで鮮明に覚えている。以前の私なら、きっと忘れていただろうに。「じゃあ、もう一度思い出させてやろうか?」彼の視線が私の唇に落ちた。ドキリとして立ち上がるが、すぐに追い詰められ、背中は壁。逃げ場がない。「それで……好きか、好きじゃないか、どっちなんだ?」胸に手を当て、必死に押し返した。「どうせ、数日後には忘れるんだから」その瞬間、彼の口元に笑みが広がった。「答えになってない。つまり、好きってことだな」「なっ……!」顔が一気に熱くなった。「でも、大丈夫さ。もし忘れちゃったら、俺が思い出させてあげる」「じゃあ、もし私があなたのことも忘れちゃったら?」朝彦が本当に私のこの状態を受け入れられるかどうか、確信が持てなかった。考えなくても分かる、これがどれほど大変か。毎日びくびくして、愛する人がいつか自分を忘れてしまうんじゃないかと恐れるなんて。朝彦はためらいもなく言った。「それなら、また君に俺のことを好きになってもらうまで」「もし何度も
Baca selengkapnya