恭平は振り返ると、詩織が涙目で彼を見つめているのに気づいた。咳き込んだせいで、その顔は赤く上気している。「恭平さん......」彼女の目には希望の色が宿り、声は低く、か弱かった。「すごく、苦しいの。そばにいてくれたら、だめ......?」恭平は無意識に断ろうとしたが、ふと医師の言葉を思い出した。「大きな感情の起伏を与えたりしないようご注意ください......」詩織は若く美しく、愛華と同じ特殊な血液型を持つ、最も健康な「血液の供給源」だ。彼女は、愛華の血液にとって最高の保障なのだ。考えが瞬時に切り替わり、恭平は詩織のそばに残って看病することを決めた。彼は会社の会議をすべてキャンセルし、病院に専念して付き添い、詩織の情緒が次第に安定するのを見守った。詩織が喉の渇きを覚えれば、その手元には常に恭平が前もって用意したぬるま湯があった。注射や点滴が必要な時には、恭平は詩織を腕の中に抱きしめ、大きな手でそのまぶたを覆った。「いい子だ。怖いなら見なくていい。すぐに終わるから」夜中にふと目を覚ますと、隣にはいつも恭平の静かな寝顔があった。詩織は、丁寧にみかんの筋を取ってくれる恭平を見つめながら、昔に戻ったかのような錯覚に陥った。あの、彼女だけを見ていた恭平に。詩織は撮りためていた写真を、手慣れた様子で編集し、愛華のスマホに送信した。詩織は、愛する者がいかにして絶望の淵に突き落とされるかを知っていた。愛華が、7年間愛し続けた夫が別の女性に甲斐甲斐しく世話を焼いている姿を目の当たりにしたら、どんなに燃え盛る愛も冷めてしまうだろう。「社長、こちらが時田様の今日の昼食です」詩織の三度の食事は、恭平が手配して届けさせていた。アシスタントが弁当箱を開けると、中からほうれん草と豚レバーのスープの匂いが立ち上った。詩織は眉をひそめ、恭平に甘えるように言った。「もう何日もレバーばかり。この味、好きじゃないの。次からはやめてくれない?」恭平は聞く耳を持たず、スープの椀を手に取り、彼女の口元へ差し出した。詩織は、彼の仕草が既に答えを示していることを知っていた。入院して数日、彼女がどれだけ食事を拒否したか分からない。出てくるのは、血を補うための、ありとあらゆる動物のレバーばかり。詩織は元々そういったものが嫌
Read more