All Chapters of 本当はあなたを愛してました: Chapter 11 - Chapter 20

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番外編 幼き日の二人

「ねぇ、ルーカス、早く早く!」 今日は父の所にお弁当を届けに行く日。 お弁当を仕事場に届けるのは大好き。だってお手伝いをして偉いねって、みんなが褒めてくれるの。何よりお父さんに会えるのが嬉しい。 お父さんは最近忙しくて疲れてるらしくて、帰ったらすぐに寝てしまうの。 だから、いつも寂しい…。 「リナ、そんなに走ったら転ぶよ。」 ルーカスは最高の遊び友達。まぁ近くに同じくらいの子がルーカスしかいないんだけどね。 ルーカスは見た目も綺麗で、最初は女の子かと思ったくらい。だから一緒に並ぶのがちょっと苦手。私は平凡な顔だから。 だからいつも私が走って追い越すの。 ルーカスは私より1センチくらい背が低いし、体力的には私のが勝ってると思うんだ。 「あっ」 いけない、考え事してたから段差にきづかなかった。これは、転ぶわ。 私は地面への衝撃に備えて目を瞑る。お弁当の入った籠を必死に抱きしめながら。 「うわっ」 「きゃっ」 地面にうつ伏せになったと思い、慌てて上体を起こす。 一ムギュッ。一 ん?柔らかい。 「へ?ルーカス?なんで?」 「へへへ。リナ、重い…」 私は数歩は後ろにいたはずのルーカスの上にいた。 猛ダッシュで私を抱き止めようとしたのだろう。勢いあまり一緒に転んでしまったが、私はルーカスの上に馬乗りの体制になっていた。 「ごめん!ルーカス大丈夫?」 私は慌てて立ち上がろうとして、急ぐあまりに尻もちをついた。 「もう、リナ、せっかく受け止めたのに。転んだら意味ないだろ。」 ルーカスは起き上がり私の方を見る。 お互いに目が合うと、なんだか急におかしくなった。 「ハハハ。」 「あはは。」 私達は同時に笑っていた。何をしても一緒にいるから楽しかった。 「それにしても、ルーカス、早く走れるのね。ちょっと悔しい。絶対、私の方がルーカスより速いと思ってたのに。」 私は負けず嫌いなのでむくれる。 「あれは、リナを助けたい一心で…」 ルーカスは言いながら俯いたので、最後の言葉が聞き取れなかった。 ルーカスを見ると顔が赤かった。どうしたのだろう。 「でも、さすが私。見てルーカス、お弁当は無事よ。お父さんが待ってる。行かなきゃ」 私はルーカスを置き去りにして先に一人で走り出そうとした。 「リナ!」 グイッとルーカスに腕を掴
last updateLast Updated : 2025-08-20
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番外編 バレンタインの思い出

あれは学園でのこと。 ルーカスの背丈は私より頭一つ分は高くなっていた。背丈のことでからかうことは出来なくなっていた。 今日は廊下や教室でも女子が固まって密談をしている所をよく見かける。 ルーカスと共に教室に入ると、それぞれ自分の席に着いた。 授業の用意をしようと、鞄から荷物を出している時も周囲が気になって仕方がない。 私は斜め前の席のメグの背中をつつく。 『メグ、メグ、ねぇ、今日なんかあったの?』 メグは私の声で振り返ると、一緒に話していたローラと顔を見合わせる。 「おはようリナ」 「リナ…まさか今日が何の日か知らないの?」 2人は信じられないといった顔つきで不思議そうに私を見つめる。 『え?』 2人はもう一度顔を見合わせるとため息をつき、ローラは私の隣へと座った。3人で輪になり、こそこそと話し始めたのはメグだった。 (あぁ、メグとローラとは学園の時によくこうして話していたわね。卒業してからは仕事に忙しくて、疎遠になってしまった。2人とも元気にしてるかな) 「もう、リナ、今日はバレンタインでしょ!」 「リナは贈る相手がルーカスと決まっているからね~」 2人はクスクスと笑う。 『へ?あ~そっか、それでなのね。どうりでそわそわした雰囲気だと思った。でも私は誰にも贈らないわよ』 「は?」 「なんで?」 2人は同時に詰め寄ってきた。 そう、バレンタイン。年に一度のこの日は女の子が好きな男の子に手作りの贈り物をする日。 主にクッキーを渡すことが多くて、手芸が得意な方はハンカチに刺繍をして渡したりもする。 ハンカチは学園で使われると、刺繍の出来栄えが他の子に見られるから腕に自信のある人しかしない。 逆に言うと自信のある人はハンカチを渡して、敢えて使ってもらい、ライバルを牽制するのだ。 そう、ハンカチを使うということは交際を承諾したという証。クッキーなどお菓子は食べたらなくなってしまうので、何人にも配る子もいる。 私は、そういうの苦手だし、そもそもクラスの男子とは必要以外話したことない。 「なんでって、別に私とルーカスはただの幼馴染みだし。贈りたい相手もいないから」 私は笑って答える 「はあ、リナはほんとにもう…. あのね、ルーカスは素敵でしょ?そこにいるだけでオーラが違うし。そんなことしてるとルーカスがとられちゃう
last updateLast Updated : 2025-08-20
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第二部 娘

あれから6年の歳月が流れた。 私はエミリオと共に隣街へと移り住んでいた。ルーカスの商会を辞めた後、父の許しを得て私はエミリオと一緒に住み始めた。 エミリオは今は式は挙げられないけど、結婚しないかと言ってくれた。 そう、私が商会を辞める時に終身雇用契約解除の為に違約金が必要で、エミリオの貯金を借りた為に、式を挙げる余裕がなかったのだ。私もそんなに貯金がある訳ではなないから、すぐに働き口を探した。 幸い食堂の給仕の求人に応募した所、採用されて少しづつエミリオとの生活に馴染んでいった。 私自身は、知人を呼んで盛大に式を挙げることに抵抗があったので、エミリオには申し訳ないけれど、ひっそりと2人で婚姻届のみ提出をした。父には商会を辞める時のことも含めて伝えてあったので、私の気持ちを尊重してくれた。 エミリオの両親は他界していたので、墓前に結婚報告をさせてもらった。 1年ほど経った頃に、エミリオは隣街に異動することになった。隣街の勤め先の近くの家を借りられるので、私達は急遽引っ越すことになった。 引っ越しをして、新たな働き口を探そうとしていた頃、私は立ちくらみや吐き気があり体調不良で寝込むことが多くなった。 そう、この頃私のお腹の中には赤ちゃんが宿っていた。エミリオとの子供が。 妊娠が分かった時、エミリオはとても喜んでくれて、私のことも気遣ってくれた。 しばらく働くことができない私の代わりに、エミリオは一生懸命働いてくれた。 診療所からの帰り道、風に乗って金木犀の匂いが流れてきていた。妊娠のせいなのかとても匂いに敏感だった。 金木犀の香りに包まれて、とても穏やかな気持ちだった。 素敵な花の匂いのように、みんなを惹きつける魅力的な子供になるようにとの気持ちをこめて、私達は娘に ''カオリ'' と名付けた。 早いものでカオリももう5歳になった。 カオリの誕生日のケーキを買いに2人で買い物に出かけていた。
last updateLast Updated : 2025-08-20
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再会 ①

パタパタとせわしなく走り回るカオリ。お買い物が大好きで色々な物が気になる年頃だ。 『カオリ、ほらそんなに走り回ると迷子になるよ~。手をつないで、ね」 「大丈夫だよ、お母さん、ねぇ、ケーキ、ケーキ、あそこのお店でしょ」 カオリはケーキ屋さんを見つけて駆け出していた。あまり人通りは多くないとは言え、街中なのでそれなりに人の行き交いがある。案の定カオリは前を歩いていた男性にぶつかった。 「わっ」 ぶつかった反動で転ぶカオリ。 『カオリ、すみません』 私は慌ててカオリに駆け寄り、立ち上がらせた。ぶつかった相手の方にすぐさま謝る。カオリの怪我を確認して、かすり傷程度なことに安心し、汚れを払っていた。そして立ち上がり、改めて男性に向き合う。 『!』 「!」 目を合わせた瞬間身体中に電流が流れたかと思った。それくらい衝撃で動けなかった。そこには-- 思い出の中のあの時と何一つ変わらないルーカスが佇んでいた。 『ルーカス…』 もう、決して2度と会うことはないと思っていたのに… 一瞬そよ風が通り過ぎて、ルーカスの黒い髪がサラサラと揺れた。少し疲れた様子ではあるけれど、乱れた髪を整える仕草も懐かしい。 あぁ…ルーカス… 本当にあなたなのね こんな風に再会するなんて 「リナ」 ルーカスに名前を呼ばれたのはいつ以来だろう。 リナ…ただ自分の名前を呼ばれただけなのに、何故こんなにも胸が締め付けられるの…。 心に折り合いをつけて、やっと前を向いていけそうだったのに。 あなたの声を聞いただけでこんなにも心が揺らぐなんて… 「お母さん?どうしたの?ねぇケーキ買いに行こうよ」 カオリは先程転んだことも忘れたのか、私の手をぐいぐい引っ張る。 私の顔を見て、引っ張る手を止めて私のスカートを掴んできた 「お母さん…泣いてるの?」 カオリがスカートをちょんちょんと引っ張りながら、心配そうに見上げてくる 自分が通りに佇んでいる事も忘れて、私は答えることもできずに、声を出せずにただただ涙を流していた。 ルーカスから目を逸らすことも出来ずに。 ルーカスはカオリを見ると、カオリに向かい微笑んでいた。 カオリはすぐさま私のスカートの後ろに隠れた。 「あ、嫌われちゃったかな」 私のスカートを掴みながらヒョコっと顔を出すカオリ。 ルーカスを見て照れて
last updateLast Updated : 2025-08-20
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再会 ②

私とカオリが隣り合わせに、ルーカスが向かい側の席に着いた。 私達はお店のおすすめのケーキセットを注文した。紅茶は先に運ばれてきた。 ティーポットがテーブルに置かれて、カップがそれぞれの前に用意される。カップの紅茶がなくなると、ティーポットから各自のカップへと注ぐのだ。 カオリは紅茶が少し苦手なので、砂糖を少し入れる。 「リナにそっくりだね。 それにしても…こんな所で会えるなんて驚いた」 「うん……」 頷いて一言声に出すのが精一杯だった。ドクンドクンドクンドクンと心臓の音が盛大に聞こえる。落ち着いて、落ち着いてと自己暗示をかけて、平静を装う。 ルーカスは少し光沢のある、仕立ての良いグレーのスーツを見に纏っていた。紅茶を飲む仕草にも、見惚れる人は多いのではないだろうか。年齢を感じさせない美貌は、周囲の視線を集めていた。遠慮がちにではあるけれど、テーブル席のあちこちからチラチラとこちらを窺う女性達が視界に入る。 きっと、平凡な容姿の私と一緒なのが不思議なのだろう。周囲からは私達はどういう風に見えているのだろうか。 もしかして家族に見えているだろうか……。 カオリは私にそっくりで、黒い髪にゆるくウェーブがかかっている。私も幼い頃はこういう感じだった。だから、ルーカスのサラサラとした髪が羨ましかった。今はくせ毛はだいぶ落ち着いている。まぁ、結ぶことが多いから目立たないだけかもしれないけれど。 こうして子供と一緒にルーカスと過ごす日々をどれだけ夢見ていたことか……。 私はまた感情が昂り、知らず涙がでそうになるのを必死にこらえる。 「お名前聞いてもいい?」 ルーカスはカオリに話しかけていた。カオリは声をかけられたことに照れてしまい、黙って俯く。それでもルーカスの視線に気づくと慌てて私に助けを求めるように抱きついてきた。 そんなカオリの背中を優しく撫でて、名前を答えるように促す 「カオリです」 名前を言い終えるとギュッと私に抱きついて顔を隠していた。 「カオリちゃん。そう、名前も可愛いね。」 ルーカスに名前を褒められたことが嬉しかったのか、カオリは顔を上げて姿勢を元に戻した。 「おじさんは?ねぇ、おじさんの名前は?」 「僕はルー…」 『#ルーク__・__#』 私はルーカスの言葉を遮った
last updateLast Updated : 2025-08-21
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再会③

ルーカスの藍色の瞳の中には、物欲しそうな顔をした私が映っていた。全てのしがらみを捨てて、あなたの胸に飛び込めたら。 ううん、強引にでも連れ去ってくれたら……。 そんな邪な考えを持った醜い自分が映っていた。なんて愚かな人間だろう。 透き通ったルーカスの瞳の中に映る醜い自分の姿から目を逸らす。 「ルーカスは、どうしてここへ?」 正直、もしも偶然に出会うことがあったとしても、こんな風に普通に話しが出来るとは思ってもいなかった。別れ話の時以来、ずっとまともに口を聞くこともなく、逃げるように辞めたから。 「ああ、出店の交渉に来たんだ。リナと来たのは、6年前か」 そっか、そういえば交渉の時期なのね。 あの時は全く会話することもなかったよね。本当につらい思い出。 「あれから毎年交渉役として訪れてる。リナは……あ、いや、なんでもない」 「……」 「……」 私達はお互いに知りたいこと、確かめたいことが沢山あるのに、口に出すことは憚られた。 言葉にしてしまうと、何かが変わってしまうのではないかという不安がお互いの頭にあった。 だから、敢えて核心の質問はせずに察することしかできなかった。 ルーカスは私がこの街に住んでいるのか尋ねようとしたのかもしれない… 私は交渉役として誰と一緒に来たのか気になっているけれど……。 私にそっくりなカオリは、誰の娘なのか、私が誰と結婚したのか尋ねたいかもしれない。 恐らくエミリオと予想はしているだろうけれど、そのことを口に出すそぶりはなかった。 私は、後ろめたさが大きかった。 「みんな、元気にしてる?」 当たり障りのない質問をする。 「あぁ、商会の皆は変わりないよ。リナ……」 「うん?」 昔から口数の少ないルーカスが、何かを話し出した時はこうしてゆっくりと続きを話してくれるのを待っていた。 今の私はルーカスにどのように映っているのだろう。 裏切り者の、自分を捨てた、白状な人間と思われているだろうか。 「どうして、そんな不安そうな顔をするの?」 『それはっ、私、そんな顔してる?』 「あぁ」 私達はケーキに夢中なカオリに聞こえないように、テーブルに少し身を乗りだしお互いの距離を縮めた。 「さっきも……」 先程泣いていたことを言ってい
last updateLast Updated : 2025-08-21
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ルーカスside

「リナ、幸せにできなくてごめん」 誰に聞かせるつもりでもなく、思わず口からこぼれた言葉だった。 幸せにできなくて、 いや、幸せにしたかった。 もしくは、自分が幸せになりたかったのかもしれない。 思い浮かぶのはリナの悲しそうな顔。 ずっと気がかりだった。 ある日突然リナがいなくなっていた。 散々突き放しておきながら、いざ目の前からリナの姿が消えてしまうと、絶望感に苛まれた。 ほんとは怖かった。リナが自分の元から去っていくこと、二度と会えなくなってしまうことが… 僕の心は醜い。 リナを、自分の都合の良いように側に置きたい気持ちがあった。 サラとの事を打ち明けようと何度迷ったことか….…。 リナは優しい。 きっと、自分の側にいようとする。 僕も側にいてほしいから。 だが、リナを巻き込むことは出来ない。 リナには、真っ直ぐに堂々と日向の人生を歩んでほしい。 いつだって、リナは僕にとって特別な人だった。笑顔が眩しくて、僕の心を明るく照らしてくれた。 だからこそ、冷たく接するしかなかった。 そうしなければ、リナを手放すことができなかった。そうしなければ、自分の気持ちに歯止めが効かなかった。 いつだってリナを目で追い求めていた。 カオリちゃん……。 その可愛い面影は、あの頃のリナを思い出す。 何のしがらみもなかったあの頃が懐かしい。 一つリナと違うところを挙げるとすれば目元だろう。彼に似たのだな。 彼は、約束を果たしてくれたのだろう。 彼もリナのことを本気で想っていたのか。 自分で頼んでおきながら、複雑な気持ちだ。 手渡されたハンカチを胸元のポケットに戻す。 入れる時、懐かしいリナの香りがした。 カオリちゃんか……。 歳月の流れを痛感した。
last updateLast Updated : 2025-08-21
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帰宅

「ただいま~」 「カオリ手を洗ってね。」 「はーい。わっ」 誰もいないと思っていたのに、台所からエミリオが現れてカオリを抱き上げる。 「おかえり、二人とも。」 カオリを床に下ろすと、カオリは洗面所へと向かう。 エミリオは私を軽く抱きしめ額に口づけを落とす。 「リナ、お疲れ様」 「おかえりなさいエミリオ。早かったのね」 「あぁ、今日はかおりの誕生日だし早めに仕事を終わらせたんだ。カオリのケーキは買えた?」 「うん。冷やしておかないと。」 私はケーキを冷蔵庫に仕舞う為に台所へ向かった。 「お父さん、ケーキ買ってもらったし、食べたの」 カオリが手を洗い戻ってくると、今日の出来事を嬉しそうにエミリオへ話し始める。ケーキをゆっくりと仕舞いながら、エミリオとカオリの会話に耳をすます。 「うん?もう食べたの?」 「違うの。お店でね、食べたの。」 「ハハ。そっかぁ。カオリはケーキが大好きだもんな。お母さんと食べたのかぁ。良かったなぁ」 「うん。お母さんと、おじさんと食べたの」 カオリは無邪気に話しだす。エミリオは嬉しそうにカオリの話しを聞いていた。私は、背中に妙な汗がつたうのを感じていた。 「おじさん?」 「うん、えっとね、ルークお兄さんって言ってた。お母さんの知り合いだって」 「そっかぁ。お母さんの知り合いかぁ。ちゃんとご挨拶できたかな?」 「うん。」 「そっかぁ、カオリも大きくなったなぁ」 エミリオに褒められて頭を撫でられ喜ぶカオリ。 夕飯の支度をする為にエプロンを取ろうとと振り返ると、パチリとエミリオと視線が合う。 無意識に顔がこわばる。 何か尋ねられるかもしれない、と身構えていた。 「こっちにも知り合いがいたんだ?」 「え、あ、偶然学園の同級生にあったの」 名前以外に嘘はついていないけれど、普段通りに話せているかしら。 「そっかぁ。それは懐かしいなぁ」 「う、うん」 エミリオとは学園が違うし、私があまり過去の話しをしないので、交友関係は知らない。過去の話をすると、必然的にルーカスのことに触れることになるので、どうしてもお互いに避けてしまう。 エミリオは、なんでもないというように、またカオリの話に耳を傾ける。 結局、それ以上
last updateLast Updated : 2025-08-22
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回想

「リナ、ただいま、はい、これはお土産。 あぁ、ルーカス坊ちゃん。いつもリナと仲良くしてくれてありがとう。 ルーカス坊ちゃんが毎日リナを気にかけてくれるから、安心して仕事に集中できたよ。 旦那様もルーカス坊ちゃんのことをいつも褒めてるよ」 隣街の交渉から帰ってきた父を、嬉しくて真っ先に玄関へと出迎えた。それまで部屋で一緒に課題をしていたルーカスを残して。 慌てて部屋を飛び出した私の後ろを、ゆったりと付き添ってきていたルーカス。 そう、私の後ろに間隔をあけていたはずなのに、いつの間にかすぐ近くに接近していることに驚いた。歩幅が違うからかな。私だけバタバタしていて恥ずかしい。 「もぅ、お父さん、私ももう子供じゃないんだから、一人で留守番出来るし、ルーカスを買い被りすぎなんじゃないの~。 私だってルーカスを気にかけてるし…というか私のが……」 お父さんよりもルーカスのことを分かっている、と本人を前にして言えなくて口籠る。 「ははは、リナ、分かったから、お土産をルーカス坊ちゃんと開けておいで。お父さんは、ゆっくり休ませてもらうよ、ルーカス坊ちゃん、ではまた」 「隣街への交渉、お疲れさまでした」 「もぅ、お父さんっ」 ポンポンっと私の頭を撫でて父は自室へと向かった。 「いっつも子供扱いして~!」 撫でられた頭の上に手を乗せてむくれる私。 「子供扱いしたくなるよ。毎日朝起きれないみたいだし、いつもバタバタしてるよねリナは」 「ちょ、もぅルーカスまで」 頭上に乗せた私の手の上を、ポンポンっと撫でるルーカス。 「朝は苦手なのっ!というか関係ないじゃない。もうすぐ卒業するし、十分大人に近づいてるんですけどっ」 ぶつぶつ文句を言いながらも、お土産が楽しみで、部屋へと戻る。 そんな私の後ろをルーカスは黙ってついてきていた 「いつまでも子供じゃないから、心配なんだよ…… 僕もね」 「ん?ルーカス何か言った?」 何か話しかけられた気がして、振り向いて問いかけたけれど、ルーカスは澄ました顔をしていた。 空耳?気のせいかな? 部屋へ戻ると、先程と同じ位置に座る。 父からのお土産を開けてみると、りんごの詰め合わせだった。 「わぁ、良い匂い」 「これは美味しそうだね。」 「ルーカスも果物好きだもんね。さっそく剥くね」 テーブルを片付けて、果
last updateLast Updated : 2025-08-22
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疑惑①

「お母さん、コレ」 『なーに?あ、ありがとう』 カオリから回覧板を受け取る。 目を通すと、恒例の草取りのお知らせだった。 この辺りはエミリオの務めるロッキー商会に近いので、必然的に同じ商会に勤めている方が多い。 自分達の住んでいる付近は自分達で綺麗にしようという思いから、グループのようなものができている。 当たり障りなく穏やかに過ごしたいと思うのは皆一緒で、グループには必然的にロッキー商会に勤める人達が多い。勤め先が違う方は、面倒だからとグループに入らないようだ。 私も面倒だなと思うけど、噂好きの奥様方もいるし、エミリオに迷惑かけないように、参加している。 付近の清掃などは、カオリにもそろそろ手伝ってもらい、社会勉強になればいいなとも思う。 『カオリ、回覧板をお隣の方に渡さないといけないから、一緒に行く?』 「うん。じゃあ、私が持つ~」 『じゃあ、お願いね。ちゃんとお隣の人にどうぞって渡してね』 「は~い」 カオリは嬉しそうに回覧板を持つと、私と一緒に玄関へと向かう。 『じゃあ、行こうか、カオリ』 カオリと手を繋ぎお隣のお家へと向かった。 お隣といっても、隣接しているわけではなく、歩いて五分ほどの距離にある。 お隣のお家が見えてくると、玄関前で数人が話し込んでいた。 あぁ、よく見かける井戸端会議だな。 誰々の所に赤ちゃんが産まれたとか、誰々の息子が結婚するらしいとか、一体何がそんなに気になるのかと思う。 いつも遠巻きに見ているだけなので、最初の頃は先輩奥様方が世話を焼いてくれて、強引に長話に参加させられたりしたけれど、どうも苦手で……。 カオリを言い訳にして、いつも用事が済んだらすぐに帰宅していた。 そのせいなのか、私のことは ''ちょっとお高くとまった余所者''というレッテルを貼られているみたい。 ''今どきの若い者は…'' とかなんとか 一応清掃などはきちんとお手伝いしているし、まぁいいよねと開きなおっている。 こういう風に段々とメンタル強くなっていくのかな。 一応ご挨拶はしないとだよね 『こんにちは。回覧板を…』 あれ…? 「じゃ、また」 「あらいけない、用事を思い出したわ」 「今日はこれで失礼しますわね」 私が声をかけると、そ
last updateLast Updated : 2025-08-22
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