Semua Bab 海に散る星、届かぬ夢: Bab 11 - Bab 20

喜びが真也の胸にこみ上げ、なぜ美玲が晴香の行方を知っているのかを考える余裕もなく、思わず身を乗り出した。「どこにいる？晴香はどこだ！」美玲は深く息を吸い、ゆっくりと言葉を落とした。「……亡くなったの。晴香は、もうこの世にいないわ」真也の顔から血の気が引いた。「美玲……君を傷つけたのは俺だろう。どうして晴香を呪うようなことを言うんだ」美玲は小さく首を振り、残酷な真実を口にした。「呪ってなんかいない。本当に亡くなったのよ。あの日、あなたが事故に遭った日に、彼女があなたに角膜を提供したの」真也の体は大きく揺らぎ、今にも崩れ落ちそうになる。「そんなはずはない……嘘だ……晴香が死ぬなんて、ありえない……」けれど、あの日、手術室で聞いた言葉が何度も何度も脳裏に響いた。――角膜移植手術は成功……ドナーの晴香、死亡……――角膜移植手術は成功……ドナーの晴香、死亡…………「じゃあ……あの日のことは、幻じゃなかったんだ……」真也は頭を抱え、拳で自分の頭を打ちつけた。次の瞬間、口から鮮血を吐き、そのまま床に崩れ落ちる。唇はかすかに動き続け、ただ同じ言葉を繰り返した。「俺が……俺が晴香を殺したんだ……」美玲は慌てて救急車を呼び、真也は病院へ搬送された。懸命な救命処置の末、一命は取り留めたが、真也はまるで魂を抜かれたように、ベッドの上で虚ろな目を開くだけだった。美玲は涙に目を赤く染め、彼の手を強く握りしめて言った。「真也、しっかりして……晴香が死んだのは、あなたのせいじゃないの。彼女は最初から長く生きられなかったのよ」その一言が、かろうじて真也を現実へ引き戻した。ゆっくりと顔を上げ、美玲を見つめる。「……どういう意味だ、それは」美玲の声は嗚咽に震えていた。「あの日、晴香は病院に駆け込んできて、あなたに角膜を提供するって言ったの。最初は康太先生が『生きている人間から角膜を取ることはできない』って断ったわ。すると彼女、自分の首にメスを当てて言ったの。『死んでからでないと提供できないのなら、今ここで死んでみせる』って……結局、彼女は免責同意書にサインして、手術が行われたの。けれど、その途中で心不全を起こして命を落としたのよ。亡くなるとすぐに葬祭センターの人がやって来て、遺体を引き取っていった。十日前、つまりあなたと再会

浩司は、真也の突然の言動に思わず息を呑んだ。その異様さに気づき、慌てて立ち上がる。「真也社長、いったい何をおっしゃってるんです？今日の契約は、これでは進められそうにありません。私はこれで失礼します」吐き捨てるように言い、踵を返した。だが出口にたどり着いた瞬間、ドアが施錠されていることに気づく。次の瞬間、全身から力が抜け、膝が震えてその場に崩れ落ちそうになった。真也はゆったりと腰を上げ、手の中で鋭いメスを弄びながら、浩司に向かって歩み寄ってくる。浩司は背を壁に押しつけ、怯えきった目で見返した。「真也社長、落ち着いてください。何かの誤解じゃありませんか？」「誤解？」真也は両手を軽く打ち合わせた。その瞬間、正面の壁に大きな晴香の肖像画が垂れ下がる。「浩司……お前がかつて、自分の息子の心臓を俺に提供する代わりに、差し出したあの条件を覚えてるか？晴香はお前の研究所で三年間も、生き地獄のような日々を味わわされた。その結果を、今さら誤解だと言うつもりか？」肖像画を見上げた浩司の脳裏に、あの日の記憶が甦る。資金は底をつき、被験者も足りず、臨床データが集まらず研究は行き詰まっていた。そのとき、一人の若い女性が訪ねてきた。彼女は土下座して懇願した――植物状態の息子の心臓を、恋人に提供してほしいと。そして「一生、あなたに尽くします」と。自分は、その代わりに研究所の被験者になることを条件として突きつけた。結局、彼女は長期の人体実験で体を蝕まれ、臓器は徐々に機能を失い、試験に耐えられなくなったとき、ようやく自分の許可を得て研究所から解放されたのだ。真也の口元に、冷たく歪んだ笑みが浮かぶ。目の前まで歩み寄ると、いきなり刃を振り下ろし、浩司の肩口に深々と突き立てた。「ぐあっ！」浩司は絶叫し、その痛みでかろうじて理性を取り戻す。「真也社長、あれは……あれは彼女が自ら望んだことなんです！私は無理やりなんて……」真也はメスをさらに押し込み、瞳を狂気に染めた。「彼女が望んだ？だが俺は望まなかった。死を選んでも、あんな方法で救われたいと願ったことなど、一度もない！」浩司は冷や汗を垂らし、ついに脚の力を失って床に崩れ落ちる。「真也社長、どうか……命だけは……」真也はメスを引き抜いた。「俺が、お前を生かすと思うか？あの時、お前は晴香を生かしたのか

晴香は真也の手を振りほどき、すねたように言った。「男って、女の子に夢中になると友達のことなんて忘れちゃうのね。真也が彼女を作ったら、私のこともすぐに置いていくんでしょ。だってこの前、校内で一番きれいな子が真也に告白してるの、私見ちゃったんだから……」真也はもう一度晴香の手を取り、穏やかに言った。「でも、ちゃんと断ったよ」晴香は横を向いたまま口を尖らせる。「橘さんは断ったかもしれないけど、そのうちまた別の誰かが現れるに決まってる。真也はきっと、いつか誰かの気持ちを受け入れちゃうんだわ」そのときの晴香は、十八歳になったばかり。恋を知り始めたばかりの年頃で、心の奥ではもう真也への想いが揺るぎなく根を張っていた。けれど真也が向けてくるのは、いつも兄が妹に向けるような優しい気遣いばかり。彼の本当の気持ちがどこにあるのか分からず、聞くのも怖い。もし本当に誰かに奪われてしまったら――そう思うだけで胸が張り裂けそうだった。真也は晴香の言葉の裏にある思いを悟り、笑みを浮かべて言った。「じゃあさ、いい方法がある。これなら将来もし俺に彼女ができても、君を絶対に手放さないで済む」晴香はむっとして彼の腕を軽く叩いた。「なにそれ。やっぱり彼女を作る気なんだ。ひどい、もう知らない！」ぷいと背を向けて歩き出そうとする晴香を、真也が慌てて引き止める。「最後まで聞いてくれよ」晴香は泣きそうな顔で叫んだ。「いや！とにかく彼女なんて作っちゃだめ！」真也はぐっと身をかがめ、晴香を抱き寄せた。「晴香……俺の彼女になってくれないか。そうすれば、家族以上の存在になれる。いつか同じ戸籍に名前が並んでもいいだろ？」その言葉に、晴香は呆然とした。けれど最後には、顔を真っ赤にして小さく頷いた。心を通わせた二人は、もともと互いにとって唯一の存在だったことを改めて知った。真也は本当は大学に入ってから告白するつもりで、早すぎると驚かせるかと思っていた。しかし、焦ったのは晴香の方だった。あの時言葉にしなければ、きっと泣き出していたに違いない。真也はからかうようにその理由を明かすと、晴香は恥ずかしさと悔しさで顔を赤らめ、彼の胸を小さな拳でとんとん叩いた。二人が初めてキスをしたのは、大学のキャンパスにある白鳥の湖のほとり。その日はクリスマスで、真也は夜遅くまでアルバイトをし

真也のまつげにはまだ涙が残り、ぼんやりと彼女を見つめてつぶやいた。「パパとママに会いたいな……」「でもね、もうパパとママは、あなたのことを必要としていないのよ」小さな晴香の心には、親に捨てられた子どもだけが孤児院に送られる――そんな思い込みがあった。その言葉で、真也の涙はさらに止めどなくあふれ出した。晴香は仕方なく、大切に取っておいたミルク飴を取り出し、包み紙を破って彼の口に入れてやった。彼はようやく泣きやんでくれた。それが二人の友情の始まりだった。後になって晴香は知る。真也は両親を事故で亡くし、孤児院に来たのだと。自分たちのように、生まれたときから捨てられた子とは違う。けれど心の奥では、同じだと思ってしまう――だって、どっちにしろ親はいないのだから。真也は晴香に、孤児院の外の、彼女が一度も見たことのない世界の話をたくさん聞かせてくれた。そのおかげで、晴香は真也と一緒にいるのが大好きになり、外の世界への憧れも強くなっていった。孤児院での十一年間、二人は互いにとって唯一の家族であり、支え合う存在だった。十八歳のとき、真也は晴香に告白し、二人は同じ大学に合格した。大学に入ると、真也はさまざまなアルバイトをして二人の生活費を稼いだ。晴香も支えたいと申し出たが、いつも真也にやんわりと断られた。「俺は君の彼氏だから。お金を稼ぐのは俺の役目だ」「晴香、どんな嵐が来ても俺が全部受け止める。君はただ、俺の後ろに立って、ずっとそばにいてくれればいい」真也は彼女を守る翼となり、外で吹き荒れる嵐に自ら立ち向かい、晴香に一滴の雨も触れさせなかった。大学三年のとき、真也はプログラムを書いて初めてまとまった収入を得、小さな三部屋の家を買った。それは、二人だけの新しい居場所となった。その家で、二人は互いにとって初めてを分かち合った。その後、晴香は真也の胸に身を寄せ、夢に描くウェディングドレスの話をした。真也は真剣に額に口づけを落とし、誓った。「晴香、君の望みは全部かなえてあげる」二人は卒業と同時に結婚し、やがて可愛い子どもを授かり、四人家族の幸せな暮らしを築くはずだった。だが、運命は残酷だった。十五年もの間、二人は寄り添い合い、真也は晴香のすべてだった。もし天国に行くことがあっても、真也がいなければ、晴香は幸

昨日、真也は飛行機に乗る前に美玲へ電話をかけ、晴香を探しにプロヴァンスへ向かうと伝えた。結婚式に関しては、自分が助手を通じて自身のアカウントから中止を発表し、そうすれば、ネット上の誹謗や噂のすべてが自分に向かう。美玲には決して影響が及ばぬようにすると告げた。だが美玲は首を横に振り、彼には晴香を探すことだけに集中してほしいと告げた。結婚式のことは自分でなんとかするから心配はいらないと。最後まで自分の愛を貫くために、美玲は大好きな純白のウェディングドレスを身に纏った。たとえ式が叶わなくとも、人生で一度は彼のためにウェディングドレスを着たと言えるのだから。晴香に向けた真也の思いには、どうしても敵わない。それでも――自分の愛が劣ると思われることだけは、どうしても許せなかった。美玲は上品な微笑みを浮かべ、毅然と語った。「先ほどのご質問は、女性を軽んじているように聞こえますね。そもそも私は、これをそこまで重大な発表だとは思っていません。自分で十分対処できることだと考えています」「それに、真也にはもっと大切な使命があります。それは命よりも重いものです。友人として、私は全力で彼を支えるつもりです」父親は家族とともにステージに上がり、美玲を支えた。その迫力に、記者たちは次第に言葉を失い、会場は静まり返った。家族の温かなまなざしを受け、美玲の胸には熱いものが込み上げてくる。そして彼女は心の奥で、ひそかに祈った。――どうか真也が晴香を見つけ、今度こそ二人が決して離れぬように、と。これまでずっと、真也が晴香をどれほど強く思い続けてきたかを見てきた。その愛は痛々しいほどだった。けれど今になって、美玲は知った。晴香もまた、同じくらい切なく苦しい思いを抱いてきたのだと。二人の愛は、初めから両想いだった。――どうか天がこの恋人たちを憐れみ、これ以上の試練を与えませんように。配信が終わると、紗夜が堪えきれず口を開いた。「いやぁ、私にははっきり分かりましたよ。あの美玲さんって人、まだ真也のこと好きですよね」「やっぱり昔から言うじゃないですか？尽くす女に薄情な男って。あそこまでしてまだ真也をかばうなんて」「どう見たって真也が心変わりしたんですよ。完全にクズ男じゃないですか。ね、晴香さんもそう思いますよね？」けれど晴香の頭の中は、真也