真也はそっと晴香を腕から離し、名残惜しそうにその顔を見つめて静かに言った。「晴香……俺だよ」晴香の胸がざわついた。頭に浮かんだのはただひとつ――彼が知ってしまった。だめ、逃げなきゃ。彼女は慌てて真也を突き放し、背を向けて走り出そうとした。だが視力を失った身体は思うように動かず、数歩も進まぬうちに床に倒れ込んでしまう。真也はすぐに駆け寄り、痛ましげに彼女を抱きしめた。声には押し殺せない恋しさと悔しさが滲んでいた。「晴香……いつまで俺を遠ざけるつもりなんだ?」晴香は必死に首を横に振った。「あなたはここに来るべきじゃない……神原市で、美玲と結婚式を挙げているはずでしょ。どうしてここに……」「晴香、俺は君を愛してる。片時も忘れたことなんてない。お願いだ、もう拒まないでくれ……」「でも、私は……」「愛してる。君だけを、ずっと……」真也にとって、ほかの言葉はもう要らなかった。ただ胸の内に渦巻く愛を、すべて彼女に伝えたかった。三年間押し殺してきた想いが堰を切ったように溢れ出す。晴香は両腕を伸ばし、必死に彼を抱きしめた。涙がとめどなく流れ落ちる。「でも……私はもうすぐ死ぬのよ、真也……もうすぐ……」彼のそばに長くはいられない。死にゆく姿を見せたくなかった。死んだあとまで、彼に罪悪感と未練を背負わせたくなかった。真也は彼女の頬をそっと撫で、溢れる涙を拭った。「晴香、俺は君を死なせたりしない。天の果てでも地の底でも、二度と離さない」そう言うと、彼は晴香を横抱きにして抱え上げた。来る途中ですでに最高の名医へ連絡を入れていた。――必ず彼女を死の淵から奪い戻す。そのまま車に乗り込み、病院へ急ぐ。検査を終えると、医師は報告書を見つめながら重く息を吐いた。「臓器は限界まで傷んでいます。しかも長い間、正体不明の薬を飲んできたせいで、深刻なダメージが……今日まで生きてきたこと自体、奇跡なのです」真也は信じられず、医師の手から報告書を奪い取った。「最先端の医療があるはずだろう!救えるなら金はいくらでも払う!」「真也さん……本当に申し訳ありません。私たちの力ではどうにもできません。彼女の身体はもう限界で……いつ呼吸が止まっても……」言葉を最後まで聞かずとも、その意味は分かる。それが胸をえぐるように突き刺さった。真也は
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