深夜、千浬は離婚協議書を手に、ソファに腰掛けて真言の帰りを待っていた。だが夜が明けるまで、彼女の姿は現れなかった。電話をかけて、なぜあんなに簡単に署名したのか問いただしたかった。しかし結局、意地が邪魔をして出来なかった。体調が戻ればきっと戻ってくる――そう思い込み、一日が過ぎてしまった。彼は知らなかった。真言はすでに死んでいたのだ。意識が戻ったとき、彼女の魂は宙に浮いていた。眼下では、一人の男が彼女の死体をスーツケースに押し込んでいる。血と衣服は固まり、鼻を突く鉄の匂いが漂っていた。死んでからどれほど経ったのか?一日か、それとも二日か?あの男は?なぜ自分の亡骸をスーツケースに入れる?千浬は?彼は病院に連れて行くと言ったはずなのに、どうして自分は死んで、こんな場所にいる?男は悪戦苦闘しながら、ようやく真言の死体を押し込んだ。「ちっ......めんどくせぇ。時間ばっか食いやがって。さっさと埋める場所探さねぇとな」ジッパーを閉めながら、吐き捨てるように呟いた。「恨むなよ。俺は頼まれてやってるだけだ。あんたの死体が必要だって言われたんだ。どうせ死んでんだから、俺が稼がせてもらう。安心しな、墓標ぐらいは立ててやるよ」真言は男の顔を見つめ、唇を震わせた。「誰が?千浬?それとも中畔?」だがその声は、男には届かない。「死んで正解だ。生きてても邪魔者でしかねぇ。あいつら二人は結婚するんだよ」「......結婚?」真言の眉がひそむ。「可哀想だから見せてやるよ」男はスマホを取り出し、彼女の屍斑の浮かんだ顔の前にかざした。画面にはネット上に溢れる動画――千浬がパーティで「真言と離婚し、琉雅と結婚する」と発表する映像。彼は優しく琉雅の肩を抱き、キスを落としていた。周囲の歓声。幸せそうな笑顔。それを見ても、真言の心には痛みすら湧かなかった。「どう?納得したか?もう人の道を塞ぐな。俺が黄泉へ送ってやる」言葉と同時に、男は死体を抱えて階段を下り、車のトランクに押し込んだ。真言は淡々とその光景を見ていた。もしかすると、あの男の言う通りなのかもしれない。自分は千浬の愛の道を塞ぐ石だったのだ。ならば、消えるべき。虚ろなまま立ち尽くす彼女を、突然、強烈
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