「行かせて」瑛司は目を逸らさず、胸が締めつけられるのを必死に押さえた。長い沈黙のあと、乾いた笑いが漏れる。「そうか。お前が俺のところに戻ったのは、あの男を守るためだな。無理だ。お前が俺から離れられるのは、お前が死ぬか、俺が死ぬかのどちらかだけだ。この一生、絶対に離れない」かれんは瞳を動かしもしない。静かに、彼の背後の拳銃を抜き、自分のこめかみに当てた。「死ねば、解放してくれるの?」瑛司は肩で息をしながら、彼女を見つめた。「ああ。撃てよ!俺を撃て!」賭けていた。――彼女は撃てないと。だが、かれんは一瞬の迷いもなく銃口を彼の肩へ向け直した。パンッ!鮮血が肩から噴き上がる。すぐに彼女はまた銃口を自分のこめかみへ戻した。「やめろ!」瑛司は最後の力で彼女の腕をはじき、弾丸は天井にめり込んだ。数歩よろめいて膝をつき、血に濡れた床に手をつく。「かれん……容赦ないな……でも俺は、お前を愛してる。一度も後悔してない」かれんは無言のまま銃を落とした。広がっていく血、駆け込む救急隊、遠くで鳴くサイレン――それらをただ見届けると、振り返らずに歩き出した。「藤原瑛司。これで帳消しよ」ヘリの轟音が頭上を切り裂く。黒服の一団が別荘に雪崩れ込み、先頭の年長者が瑛司の頬をひっぱたいた。「藤原グループのトップが、女ひとりのためにこんなざまになるとはな!国内の持株が51%を切ったのが分からんのか?このままだと、藤原家の基盤はお前のせいで崩壊だ!すぐに戻って会社を立て直せ!」返事はない。瑛司はすでに意識を失っていた。黒服たちは大げさに瑛司を担ぎ出し、ヘリへと運んでいった。かれんは顔についた血をぬぐい、瑛司が連れ去られるのをただ見上げていた。それから静かに南の方角へ歩き出す。――もう、交わらない。別荘を出ると、背後で急ブレーキの音がした。オープンカーの運転席で、サングラスの男が笑う。「奇遇だね、かれん。ちょうど通りかかったんだ。送るよ」かれんはエリオに目を向け、小さく礼を言った。瑛司の続報を聞いたのは、3か月後だった。国際ニュースでは、藤原グループのトップの瑛司がICUに3か月横たわり、いまだ昏睡だと伝えた。同時に、グループは空白のまま揺れ、短期間で海外の無名口座が約51%を買い集
Baca selengkapnya