結婚して三年、斎藤智也(さいとうともや)はずっと私・田中美優(たなかみゆう)と入籍していない。今日は彼にとって千回目のフライト成功という節目であり、私との入籍を十七回目に約束した日でもあった。なのに祝賀会の席で、私が直属の上司に無理やり酒を飲まされている時、彼は自分の女の弟子・清水花音(しみずかのん)と料理を取り合い、酒を飲ませ合っていた。高熱を押して飲み続け、ほとんど気を失いかけても、彼は私に一瞥すらよこさなかった。会社の多くの同僚がため息をつき、舌を鳴らし、私を見る目には「報われないね」という色が濃く滲んでいた。誰のために、体調を押してまで杯を重ねているのかなんて、少し目の利く人間ならすぐに分かった。だが祝賀会が終わっても、本来なら一緒に戸籍課へ入籍の手続きに行くはずの智也は、またしても約束を破った。彼は車を店先へつけ、片手で乗り込もうとした私を制した。「花音がさっき俺の代わりに飲みすぎた。送っていくから、お前はタクシーで帰って。午後の入籍はもう間に合わないな。別の日にしよう!」そう言うなり、私の反応など気にも留めず、彼は慌ただしく車を降り、花音を抱えて助手席に乗せた。交際五年、結婚三年。智也が花音のせいで私との入籍を延期したのは、これで十七回目だ。いつもなら、私はもう崩れ落ちて大泣きし、彼に食ってかかっていただろう。「いったい誰があなたの妻なの?さっき誰があなたの盾になって飲んだの?」と。けれど今回は、私はほんの少し笑ってみせた。「うん、気をつけて」智也は一瞬きょとんとし、今日の私の静けさに意外そうな顔をしたが、すぐに冷えた声に戻った。「夜に戻ったら、プレゼントで埋め合わせする」そう言ってそのまま車を出し、去り際にはわざわざ花音のために窓を閉め、酔った彼女に風が当たらないよう気を配った。以前の彼は、車内に酒の匂いが残ることを絶対に許さなかった。私が彼の代わりに酒を飲んだ後は、真冬でさえオープンにして走っていたくらいで、窓を閉めるなんてあり得なかった。いま思えば、乗っていたのが私だったからに過ぎない。桜川町の真昼は全身を汗まみれにするほど暑いのに、私の心だけは妙に冷え切っていた。大きく息を吸い、戸籍謄本をバッグへ戻した。この八年の感情も、そろそろ手放す時だと、私は分か
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