All Chapters of 幸せの評価制度: Chapter 11 - Chapter 20

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十一章 「謎の光景の変化」

 彼の後ろ姿をゆっくりと私は見つめた。 彼のパジャマの側面にハートの半分の形の模様がついている。 これは、私と二人でくっついて並ぶとハートの形になるデザインをしたおそろいのパジャマだ。 そのハートの色は、『ピンク』だ。 私の頭は、また『ピンク』に自然と反応していた。「これがあれば……」「わかる……」「いや、うまくいくか……」「なにもかも……」 会話なのかどうかさえわからない単語の集まりが、次から次に聞こえてきた。 声のする方に目をやると、私がその場所で立っていた。でも、その私が何かしゃべっているわけではなさそうだ。 その私の前に次から次に知らない人が入れ替わりやってきていた。本当に数えれないぐらいの人数だ。 そのさらに隣りには、いつもの光景に出てきていているあの年老いた男性がいた。 その私は拘束されていたりはしなくて、言動を制御されている様子はなさそうだ。 でも、感情を読み取りとりにくい顔をしている。 今そこにいる私はどんなことを思っているのだろうかと私は思った。でもやはり全くわからない。 年老いた男性は代わる代わるくる人の様子を見て、何かをまたタブレット端末に入力している。 その様子に私はデジャヴを激しく感じ、ゾクッとした。「これだけ試せば大丈夫だろう」 その声とともに、突然その場に強い光りが当てられた。 目を開けると、目の前にいる私は白いベッドで横たわっていた。 場面がいつの間にか変わったようだ。 そのベッドが家のベッドでないことはすぐにわかった。 私がいつも使っている肌触りのいい毛布がそこにはなかったから。 ボロくなってきていたけど、それじゃないとぐっすり寝れないから今も使っている。 そこにいる私は体を動かそうとしていたけれど、起き上がったりすることはできず手足を激しくバタバタさせていた。 口も大きく開けているけど、そこから声が聞こえてこないからきっと声も出ないようにされているだ。 そんなにまで拘束して、これから何をされるのだろうかと体が震えてきた。 でも、全身麻酔はされていないようだ。目はしっかり開いていて、意識もあるから。 年老いた男性ではなく、別の誰かわからない人がその場にいる私に近づいていく。その私は何かされていたけど、動きが早くて何をされているか私には一切わからなかった。 「これで終わりで
last updateLast Updated : 2025-09-09
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十二章 「色や形で何がわかるの?」

 私は、『幸せ度合い』の色と形について改めて考えてみることにした。 なぜなら、謎の光景にも色と形が出てきたからだ。 今は昼間で、家事も終わり自由な時間だ。 私はいつも朝早くから家事を始めて、昼頃になんとか全て終わっている。 スティックタイプのミルクティーをマグカップに入れてホッと一息ついた。 甘くて熱いのが心をほぐしていく。 換気のために開けたベランダの大きな窓からは太陽の光りが差し込んできていて気持ちがいい。 色は紙にささっと塗り、形は同じ紙の色の下に絵で描いた。 色と形の二つともを同じ紙に書くことが今回は重要そうだから。 色は『幸せ度合い』が高い方から、ピンク、イエロー、グリーン、ブルー、ブラックがある。 形は、色と同じように高い方から十字架、星の形、四つ葉のクローバー、ひし形、ハートがある。 まず私は、色や形単体でわかることは何があるか考えることにした。 それぞれの色や形の一般的なイメージや印象はどのようなものがあるか考えた。 私の感性は多くの人とずれていることが多いので、今回はあくまで一般的な考え方を優先することにした。 感性がずれていることを、コンプレックスだと思ったことはない。 ただ物事を知るためには、変わった考え方よりも、万人がよくする考え方を当てはめた方がいい。 私も少しぐらいなら他の人が考えそうなことはわかる。 さっそく色について考えてみるために、紙を眺めた。 ピンクは温かみがあり、かわいらしくもあり華やさかな印象がある。 イエローは元気そうな感じで、明るいイメージを抱く人が多い気がする。 グリーンは、優しさがある色で、落ち着いた印象だ。 ブルーやブラックは、暗いイメージで、どちらかというとあまりいい印象をもつ人は少ないと思った。色自体の明るさも他のに比べてかなり暗めだ。 さらに、形について見ていくことした。 十字架は、まじめで厳しいイメージがある。もしかしたら宗教性を感じる人もいるかもしれない。形的にはバランスもとれていてきれいな形だ。 星の形は実際の星の形とは違うもので、多くの人が星のイラストを描くときに描かれる簡易的な形だ。その形は光っているようで、明るい印象もある。 四つ葉のクローバーは、見つけると幸運があると言われることも多く、なんだか運気が上がりそうなイメージがやはりある。形としても、
last updateLast Updated : 2025-09-10
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十三章 「私は今本当に幸せ?」

 私は今本当に『幸せ』? そんな疑問が、一気に頭の中を占めていった。まるで、他の感情が頭の中にいることができないぐらいにその疑問だけになった。 確かに私の『幸せ度合い』は、一番高い『ピンク』だ。 一般的に見れば、私は『幸せ』と呼べる。 でもそれは一般的考え方で、絶対的ではないかもしれない。 それに私は『幸せ度合い』について、知らないことがあまりにも多かった。 それってどこかおかしくないかな? 『普通』がどんなものでできているはわからないけど、このことはなんだか変だと感じた。 毎日生活していると、たくさんのことにつまづき、心が痛くなる。 そんな私が本当に『幸せ』と呼べる? そして、『幸せ度合い』のせいで、私は他人や彼にまで嫌われているだと確信ができた。 だって、さっきの彼の態度は明らかに変だったから。 ある時を境に人に嫌われないようにずっと意識してきたのに、私は知らないうちにまた何かをやらかしてしまっていたようだ。 本当に私の人生は、失敗ばかりだ。 そんな風に思っていると、人生のどん底にいたあの時のことが頭に浮かんできた。 今とあの時があまりにもシンクロしていたからだろう。 どん底にいた時とは、私が救急車で病院に運ばれ入院した時だ。 その時、そこの医者が早口で話していたことぐらいしか私は覚えていない。 ただ救急車で運ばれたぐらいだから、私の体に大きな何かが起きたのだろう。 でも、入院してからが本当の地獄だった。 突然これまでできていたことが、急にできなくなった。 体がどうしてかいつものように動かせなくなったのだ。 それからの毎日は、惨めで情けなくてどうしようもないものだった。 自分のことすらろくにできなくなった私は何を楽しみに生きていけばいいかわからなくなった。 このまま一人では何もできないまま、ここから出ることもできず一生誰かの世話になって生きるのかと思っていた。 でも、それよりも辛かったのは、ここには本物の優しさはどこにもなかったことだった。 看護師の人が私に毎朝声をかけるのも仕事だから、私の体調を気遣うのも仕事だからだ。 私でもわかるぐらい彼らは冷たく業務的だった。 そこに温かさは一ミリもなかった。 むしろ、私はそこにいる人全員に嫌われていた。 私が一体何をしたのだろうと考えたけど、それは一切わからな
last updateLast Updated : 2025-09-11
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十四章 「疑問から違和感へ」

 一つの疑問が、突然心に波紋をもたらした。 心にぽたりと一滴落ちてきた。 どうして他人の『幸せ度合い』が見えるのか。 自分の『幸せ度合い』が見えることは、幸せの評価制度としておかしくはない。むしろ、見えなければ制度が機能してるとは言えない。 まだ五段階評価制度になっている理由は全然わからないけど、この点に疑問を抱くことはおかしくないはずだ。 もちろん、五段階評価制度になっている理由もこれからしっかり解き明かしたいと私は考えている。この謎は、私に関わる何か大きなことが隠されている気がしてならないから。 他人の『幸せ度合い』が見えることについては、今まで私は自分と誰かを比べてどれぐらい幸せか考えられるからと思っていた。 そう信じて疑うことをしなかった。 でも、最近前より考えるようになり、それもおかしさが含んでいることがわかった。 色や形として見えるなら、五段階のそれぞれの色と形を知っているだけで自分が今どれぐらい幸せか十分わかることができる。わざわざ誰かのを見て、比較する必要性はないのだ。 他人のが見えることには、何か別の特別な意味があるのかな。 そんな気がしてきた。 一つ浮かぶと、どんどん疑問は頭の中からあふれてきた。 こんなに疑問だらけのことって他にあるかな? 普通はわかることの方が多いはずだ。 幸せの評価制度がいつできたか私は一切知らないこと。誰も『幸せ度合い』の話をしてこないこと。謎の光景と『幸せ度合い』の関係性の有無。 さらに、『幸せ度合い』が低い『ブラック』の人への救済措置は一切ないとされていると最近調べてわかった。 そうであるなら、一番低い『ブラック』の人はなかなか現状から変われないということになる。    変わりたくても変われないことは辛いことだ。 その気持ちは私も今まで何度も味わってきた。私の人生は挫折ばかりだったから。あれもこれできないと、自分を責めてきた。 私がもっとしっかりしていれば違うのかなと何度も思った。 そして、『ブラック』の人に救済措置がないことは、『幸せ割引』を今全く受けられないどころか、今後『幸せ度合い』をあげるのがすごく大変だということも意味している。 これのどこが平等なのだろう。むしろ、どう見たら平等と見えるのだろう。 どうして救済措置を作らなかったのか。 誰にでもチャンスを与えるべ
last updateLast Updated : 2025-09-12
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十五章 「謎の光景の真実」

 私は一人で家から出た。 遠くに行くわけではなく、電車で一駅先の駅に歩いて行くだけだ。 どこかに出かけることは、私にとっていろいろな面からかなり体力のいることだから。 とにかく気分転換のためにあえて外に出た。 他の人は、もしかして簡単に気分転換することをできるのかな? もやもやは、まだ心に残っている。 でも、空は晴れていて、心は少しだけほっこりとしてきた。 晴れていると、優しい感じが空気に混じっている気がして、好きだ。 太陽の眩しさは痛いけど、この空気感のようなものは嫌いじゃない。 駅を出るとすぐに小さなアーケード街が広がっている。 今日は何だか頭がクリアな感じがしている。いつもは考えがまとまらず頭の中が様々な考えでごちゃごちゃしている。 このアーケード街は小さいけれど、カラオケや漫画喫茶やカフェなど子どもから大人まで遊べるところがたくさんある。 また飲食店も結構ある。 土日だと、駅の近くに保護猫がいることがあるけど、今日は平日だからいなかった。 猫が好きな私は残念だと思いながら、保護猫がいつもいる場所をゆっくりと歩いていった。 今日はどこか行きたいところがあるわけではない。 私にとって目的がないことは不安要素になる可能性があるけど、頑張って今歩いている。 アーケード街の奥に向かっていると、とある場所が目に留まった。 そこは白と赤の大きな旗がいくつも揺れていた。 よくは見えないけど、奥にはたくさん人がいそうだ。 そこは、簡易的な献血ブースだった。 たまにここで献血をしていることは知っていた。 でも、どうしてだろう。なんだかどこかと似ていると脳が感じた。 たくさん人がいて、全体が見えなくて、少し暗い。 そう感じた瞬間、謎の光景の情報がすごい勢いであふれてきて、頭の中で小さな爆発がいくつも起こった。 私はその場でうずくまった。実際に体のどこかに痛みはでてないけど、頭の中に大量の情報があふれてきてうまく処理できなかった。頭のキャパをあと一歩で超えそうなところまできた。 でも、なんとかパニックにはならなかった。 私は荒い息をなんとか整えた。 その爆発は、ずっと謎だった光景が何だったのか私に教えてくれた。 それは、正直信じたくないものだった。 だって、信じてしまったら、私が『人間』として扱われていないことを肯定する
last updateLast Updated : 2025-09-13
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十六章 「幸せの評価制度とは」

 体の中心で、何かがパラパラと溶けるの感じた。 溶けた何かはとてつもない速度でドクドクと血液の中を流れていく。 私は知らぬうちに何かを飲まさせていた? でも今までずっと消化されることなく体の中に固形のままあった?? そんなことって、可能なのだろうか。 むしろいつからこの状態だったのかわからないことに一気に寒気がした。 わからないことだらけだけど、物事は止まってくれずどんどん進んでいく。 あなたは、さらなるステージに上がりました。 あなたは幸せの評価制度についてたくさん疑問に思いましたよね。 そして、さらなるステージに上がったからこそ我が社が作った特殊なカプセルが溶けてこのような形で私の声が聞こえているわけですから。 あなたに飲ませたカプセルはある条件を満たすと溶けるように作られています。 その条件とは、幸せの評価制度について一定量の疑問を感じることです。 薬を飲ませた当時のあなたの関心が0だとしたら、今のあなたは8あります。 条件を満たしたあなたには、幸せの評価制度の本当の姿をお教えします。 いや、幸せの評価制度なんてものはそもそも存在しないのです。 存在すると、『ピンク』の人たちに信じ込ませる為に様々なことをしました。 順を追って話します。 まず、誰にも聞いた覚えがないのにあなたが『幸せ度合い』や『幸せ割引』という言葉をなぜ知っているかというと、『私たち』が何度も覚えさせたからです。 ちなみに『私たち』とは、幸せの評価制度を存在するかのように思わせる為に様々なことをした人たちの総称です。その代表は私で、大塚と申します。 次に、あなたには、『幸せ度合い』の形や色が見えていますよね? 他の人にも同じように見えていると当然のように思っていますよね?? でも、そうではないのです。 『幸せ度合い』の形や色が見えているのは、『ピンク』と判断された人だけです。 でも、指の形の登録もしたとあなたは今きっと思っていますよね? 指の形の登録はどこにもされていません。全て嘘です。偽の登録手続きも『ピンク』の人たちしかしてません。『幸せ割引』を受ける為に様々なお店で指の形を見せるのも形だけで、お店の人は何もしてません。 どうしてそんな大それた嘘がどこからももれることなく普通に行われているかというと、『ピンク』以外の人は幸せの評価制度の全容を
last updateLast Updated : 2025-09-14
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十七章 「『申告制』という試み」

 しかし、残念ながらすぐに今の幸せの評価制度になったわけではありません。 声は、まだ頭に伝わってくる。 幸せの評価制度の前に『申告制』という試みをしました。 申告制とは、その名の通り自分に病気や障害があると本人などから申告してもらうという内容のものです。 しかし、申告制は、残念ながら失敗に終わりました。 なぜなら、申告してくる人がほとんどいなかったからです。 自分でだけでなく、その家族や知人からも申告されることはなかったのです。 申告することで様々な特典もつけたのですが、それ以上に病気や障害があることを恥ずかしく感じている人の方が多かったのでしょう。 この世界の『恥』の意識の高さを、私たちは少し測り違えていました。 また、自分が病気や障害だと気づいていない人もたくさんいるような気もしました。 どこかが悪くても、いつものことだと思ったりゆっくりとすれば大丈夫と思う人がいますよね? 私たちは、そのような人たちの中にも、なんらかの病気や障害を患っている人がいると考えています。 とにかくデータがとれないのでどうにもできませんでした。 でも、この企画を提案した人は、自分の考えた企画が失敗したとどうしても認めませんでした。私たちには失敗は許されないのです。だから企画ではなく病気や障害のある人自体が悪いとしました。 せっかく手を差し伸べているのにどうしてその手を掴まないのかと不思議でした。 そして、申告制よりももっと強制力がある管理体制が必要だと訴えました。 私たちは『ピンク』の人たちををかわいそうだと思っています。本当に同情してます。 だから、相手には悟らせず私たちのところに来た人の感情などをコントロールする方法を考えました。 私たちのいる建物内の空気中に感覚を麻痺させる強い気体を含ませました。それは味や色や匂いは全くないものです。空気と一緒に吸い込まれることで体の中で化学反応を起こし、脳が誤作動を起こします。脳の誤作動は、いくつか理由までしっかり解明されていて、それを利用する方法を私たちは知っています。 その誤作動が起こった体に私たちがあることをすることで、一時的に感情が完全になくなるようにしました。また、部屋自体を暗くしたのも、たくさんの装置があるのを見えないようにするためです。あなたたちはすぐにパニックになりますよね? 詳しい仕組
last updateLast Updated : 2025-09-15
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十八章 「求めていたもの?」

 これが私がずっと探し求めていた答えだった。 こんな答えなら、知りたくなかった。 そして、人が人の記憶に干渉することができるなんてとても恐ろしいことだ。私が知らないだけでこれと同じようなことがもっと他にもあるのだろうか? また、私は過去の辛かったことが頭によぎった。 なぜかはわからないけど、いつもいくら頑張っても予想している結果よりいい結果にならない。 本当にどうして私はこんなのなんだろう。 うまくいかない時ばかりだ。 一方で、もし『困難』に私がもっと立ち向かうことを選択したら、どう変わるのだろうかとも思った。その方法はまだ全然わかっていないけれど、そんな考えがふと頭に浮かんだ。 でも、一つだけわかったことがあった。 『現実』をただ受け入れているだけでは、幸せどころか何にも変われない。 どうしてこんなことに今まで気づかなかったのだろう。 確かに忘れたり見落としてばかりの私だけど、あまりにも大きすぎることだ。 また、私は『幸せ』に興味を持ち始めてきていた。 最初は興味がなかったのに、いつの間にかどうやったら掴むことができるのだろうかと考えるようになっていた。 あと、驚くことは他にもあった。 脳に直接伝わってきた声は、『大塚』という名前を教えてくれた。 『大塚』という名前を、私は以前聞いたことがあった。 彼が働いている会社の社長の名前も『大塚』だった。 ありふれた名前といわれればそうだけど、なぜか私にはこのことが偶然には思えなかった。 私の感覚が、同一人物だとガンガンに訴えてきた。 自分の感覚は嘘をつかないと私は思っている。 私は信じられることが極端に少ない。 信じるということは、自分を全てさらけだすことと同じ意味だから。また信じることで、どうしても相手に求めることが大きくなってしまう。 それは相手に負担となると今までの経験からなんとなくだけどわかっている。 私の感覚を信じるなら、彼が働いている会社が幸せの評価制度を作ったということだ。 彼は、この事実を知っていたのだろうか? それとも知らないだろうか?? もし知っていたのならこんなに私が悩んでいる中、毎日何食わぬ顔で働きにいき私と接していたということになる。 いや、むしろ家族としてこの検査と実験と手術をすることを許可した可能性もある。 でも、私にはそんなことを
last updateLast Updated : 2025-09-16
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十九章 「私は遊ばれていただけだった」

 息を深く吸って、気持ちを落ち着かせようとする。 辛かったことは過去のことであり、現在には関係ないことなのだからと心に向けて言葉を投げかける。 過去の失敗を今成功に変えることは大抵の場合困難だから。 完全に忘れることをしなくても、自分を守ることも大切なことだと思う。 私は今まで自分を守ることをあまり重視してこなかった。 我慢すればいいと思っていた。 いや、守り方がわからなかったという方が正しいだろう。何も方法が思いつかなかった。 本当に私はわからないことだらけだ。情けなくなってくる。 でも、幸せについて考えるようになってから、自分をことも大切にしたいと思う気持ちが浮かんでくるようになった。 わからなくても、その気持ちを無駄にはしたくなかった。 少し落ち着いたけど、現在にも関係がある幸せの評価制度のことは依然としてもやもやが残っている。私ははっきりしないことを「まあいいか」と流せないのだ。 頭が固くて、融通が効かない。 そんな私をおかしいと決めつけてしまうのは、簡単だ。 でもそんな私も、私であることには変わりないはずだ。 私は大多数の健康な人の『おもちゃ』じゃないと思った。 まるでゲームでキャラクターを育成するかのように、私を含めた『ピンク』の人たちは扱われている。うまくいかなければ、次の方法を考えればいいとでも思っているのだろうか。 遊ばれていただけ……。 その言葉は、私に激しいパニックを起こさせた。 体が急に重くなって動かなくなった。頭が痛くて、息もうまくできない。 死の恐怖が、ゾクゾクっと感じた。『どうして誰も私のことをわかってくれないの?』 心の中にある本当の思いが、口から自然と出た。 本当は誰かに理解してほしいと私は思っている。私がそう願うことで、相手を困らせたり迷惑をかけることはなんとなくわかっている。何度も何度も自分なりに考えて行動するけど、その度に行動は全て裏目に出て人を傷つけ自分も傷ついてきた。 でも、もしかしたら拙い私の言葉でも誰かはわかってくれるかもしれないと希望を抱いている。そんな人を待っていると言った方がいいかもしれない。自分の気持ちを理解してもらうことを諦めることはできなかった。 理解し、こんな私を少しでも認めてもらいたい。 そして、パニックは私にある嫌な記憶を思い出させた。 それは、心
last updateLast Updated : 2025-09-17
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二十章 「私に関する真実」

「蒼、今時間少しある?」 居間のソファでくつろいでいる彼の元に私は近づいていった。 前回は話を逸らされてしまった。 今回はそんなことをされないために準備をしっかりした。 言葉を選ぶこともできない私だけど、私なりにどうしたらいいか考えてみた。 「きっと大丈夫」と心の中で自分の背中を押す。 胸がドキドキと早く鼓動している。「うん。大丈夫だよ」 相手の感情はやはり読み取れないけど、話はまだ聞いてくれている。そこにホッとした。もう話すらできなかったらどうしようと不安だったから。「今から聞くことは、私にとってすごく大切なことだよ。でも蒼には蒼の気持ちがあるだろうから、無理になら答えなくていいから」「うん。わかった」 彼の気持ちを聞いてから、私はまた話し始めた。「私には重い病気か障害があるの?」 少しだけ沈黙が流れた後、「どうしてそう思うの?」と彼は私の顔をまっすぐと見つめてきた。「それは、幸せの評価制度が教えてくれた。でもどうにも私には理解できない」「そうだったんだね」と彼は私を抱きしめた。 私にはなぜ彼が今抱きしめたのかわからなかった。 そして、彼はいつもよりかなりゆっくりと声をかけてくれた。「穂乃果には、『障害』がある」「やっぱりそうなんだ」 夫でありかつ信頼している人にはっきりと事実を言われると、やはり心に堪える。 あれは嘘じゃなかったんだと、わからされるから。「でも、大丈夫だよ。穂乃果には僕がいるから、」「どんな障害か教えて」 私は彼の言葉を強引に遮って大きな声で言った。 そんな私に対して、彼は驚くそぶりを全く見せなかった。「『発達障害』という障害だよ。まずは、ある日突然『発達障害』になることはなく、『発達障害』は先天性の障害なんだ。穂乃果は何も悪くはないよ。治療薬はあるけれど、それを飲んだら困り事が全てなくなるわけじゃない。正直困りごとに直面する度にその対処法を考えていくしかない。僕が想像できる以上に辛いことがきっと今までたくさんあったと思う。『発達障害』とは、ざっくりといえばできることとできないことにかなりの差がある障害なんだ。今ざっくりと言ったのは、めんどくさいからではなく『発達障害』は、人によってどんなことで苦しんでいるかは違う障害だからだよ。人によって様々な症状が出るから『発達障害』を定義することはすごく
last updateLast Updated : 2025-09-18
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