幸せの評価制度

幸せの評価制度

last updateLast Updated : 2025-09-27
By:  桃口 優Completed
Language: Japanese
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 ここは、自分や他人が幸せかどうかが一目でわかる制度がある現代とはちょっとだけ違う世界。  坂井 穂乃果はその制度をよいものと思っていましたが、あることがきっかけでその制度について疑問を抱くようになり……。    

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Chapter 1

一章 「幸せの評価制度」

 冷たい風が、吹いている。

 遊歩道には風を遮るものはなく、風の勢いは衰えることはない。

 その風が、体に突き刺さっていく。

 私、坂井 穂乃果は今の自分の『幸せ度合い』を確認している。

 例えではなく、私は本当に寒さを痛みとして感じている。

 それは鈍い痛みというよりは、絶え間なくやってくる鋭い痛みだ。

 確かに髪の長さはショートボブと決して長いとは言えない。でもこの髪型が気に入っているから、変えようとは全く思わない。

 子どもの頃から、少しでも寒くなるとすぐに風邪を引いていた。だから一年に何度も風邪を引いていた。

 今もコートを着て、耳当てとマフラーと手袋を身につけているけど、全然痛みは和らがない。寒くて辛い。私は今でも寒さに苦しんでいる。

 本当は目も鼻も頬もすべて、暖かいもので包み込みこんでしまいたいと思っている。でもさすがにそこまではしていない。そんな防寒グッズはどこを探しても売っていなかったから。

 すれ違う人が、私のことをちらちらと見る視線を感じた気がした。

 どうしてかな。

 確かに今の季節はまだ秋で、一般的にはそこまで寒い時期ではない。

 だからといって私のどこかおかしいかな?

 考えても一向にわからないから考えるのをやめた。

 乾燥のため唇が切れてかさぶたができていたので、私はその一つを力を込めてちぎった。そして、一つちぎると止まらなくなってどんどんちぎった。血が出てきて、またやってしまったと私は思った。

 こんな子どものようなことをしているけど、私は今二十七歳と立派な大人だ。

 でも、子どもの頃からこの行為をずっとやめられない。

かさぶたがくっついていると、気になってしまうのだ。

 『幸せ度合い』とは、幸せかどうかを評価する制度の中心となるものだ。

 つまり、『幸せ度合い』を確認しているとは、今自分が『幸せ』かどうか確かめていることと同じ意味なのだ。しかもこれには何の道具もいらず、すぐに確認ができる。

 それができるようになったのはいつだったかは、なぜか私は覚えていない。思い出そうとしても、そのことに関する記憶などは頭の中からいつも見つけられない。

 とにかく『幸せ度合い』により、自分が今どれぐらい幸せなのか段階的にわかるようになった。

 度合いという言葉を使っているけど、それは実際に目で見ることができる。

 どう見えるかというと、心臓がある部分に『幸せ度合い』の高さによって、それぞれあるものが見えるようになっている。

 あるものとは、『色』と『形』だ。

『幸せ度合い』は、色と形によって五段階分けされている。それらによって『幸せ度合い』の高さが決まっている。

 『幸せ度合い』が一番高いのはピンクだ。次がイエロー、グリーン、ブルーとなっていて、一番低いのがブラックだ。

 また形も色に対応して五種類ある。ピンクは十字架、イエローは星の形、グリーンは四つ葉のクローバー、ブルーはひし形、黒はハートだ。

 色と形の組み合わせが違うことはない。

 また、自分の『幸せ度合い』だけでなく、他人の『幸せ度合い』も見えるようになっている。

 他の人の心臓がある部分を見れば、自分のと同じように色と形が見えるようになっている。

 この制度について、私はいいことだと思っている。

 誰かと比べなければ、自分が今どれぐらい幸せなのかわからないから。

自分が今『幸せ』かどうかを判断することはなかなか難しいような気がする。

 だから、色や形で分ける制度はとてもわかりやすくていいと思っている。

 またそれぞれの形も、なんだかかわいくていい。

 制度が難しいとややこしいし、五段階というシンプルな制度の方がいいとも感じている。

 『幸せ度合い』は、一日や二日でがらっと変わるものではないとされている。

 それはわかっているけど、私は毎日『幸せ度合い』をこうして確認している。むしろそうすることがルーティンのようになっている。見ることで安心ができる。

 心臓のある部分を見て、いつも変わらずピンクの十字架が見えて、ホッとした。

 私は最近ずっと『ピンク』なんだけど、やはり確認した時に、『ピンク』だとテンションが上がる。

 なぜなら五段階評価制度の上から二番目のイエローの人はたまにいても、ピンクの人はなかなか街中に見つからないから。

 私が『幸せ度合い』の一番高いところに分類されているかと思うと、素直に嬉しくなる。

 今すごく幸せなんだなとわかるから。

 私の『幸せ度合い』がなぜ『ピンク』かというと、夫の蒼が一番関係していると思う。

 彼が、私をとあるところから救い出してくれたから。

 彼に出会えたこと、あの日救ってくれたこと、今も彼と一緒にいることから私の『幸せ度合い』はきっとずっと『ピンク』なのだと思っている。

 誰かにそう言われたわけではないけど、なんとなく思っている。

 彼が私にしてくれたことは、本当にたくさんある。

 ある理由から人生のどん底にいた私を、助けてくれた彼には本当に感謝してもしきれないぐらい感謝している。

 でも、その彼のことで悩み事もあった。

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一章 「幸せの評価制度」
 冷たい風が、吹いている。 遊歩道には風を遮るものはなく、風の勢いは衰えることはない。 その風が、体に突き刺さっていく。 私、坂井 穂乃果は今の自分の『幸せ度合い』を確認している。 例えではなく、私は本当に寒さを痛みとして感じている。 それは鈍い痛みというよりは、絶え間なくやってくる鋭い痛みだ。 確かに髪の長さはショートボブと決して長いとは言えない。でもこの髪型が気に入っているから、変えようとは全く思わない。 子どもの頃から、少しでも寒くなるとすぐに風邪を引いていた。だから一年に何度も風邪を引いていた。 今もコートを着て、耳当てとマフラーと手袋を身につけているけど、全然痛みは和らがない。寒くて辛い。私は今でも寒さに苦しんでいる。 本当は目も鼻も頬もすべて、暖かいもので包み込みこんでしまいたいと思っている。でもさすがにそこまではしていない。そんな防寒グッズはどこを探しても売っていなかったから。 すれ違う人が、私のことをちらちらと見る視線を感じた気がした。 どうしてかな。 確かに今の季節はまだ秋で、一般的にはそこまで寒い時期ではない。 だからといって私のどこかおかしいかな? 考えても一向にわからないから考えるのをやめた。 乾燥のため唇が切れてかさぶたができていたので、私はその一つを力を込めてちぎった。そして、一つちぎると止まらなくなってどんどんちぎった。血が出てきて、またやってしまったと私は思った。 こんな子どものようなことをしているけど、私は今二十七歳と立派な大人だ。 でも、子どもの頃からこの行為をずっとやめられない。かさぶたがくっついていると、気になってしまうのだ。 『幸せ度合い』とは、幸せかどうかを評価する制度の中心となるものだ。 つまり、『幸せ度合い』を確認しているとは、今自分が『幸せ』かどうか確かめていることと同じ意味なのだ。しかもこれには何の道具もいらず、すぐに確認ができる。 それができるようになったのはいつだったかは、なぜか私は覚えていない。思い出そうとしても、そのことに関する記憶などは頭の中からいつも見つけられない。 とにかく『幸せ度合い』により、自分が今どれぐらい幸せなのか段階的にわかるようになった。 度合いという言葉を使っているけど、それは実際に目で見ることができる。 どう見えるかというと、心臓がある
last updateLast Updated : 2025-09-01
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二章 「私とあなたの『幸せ度合い』」
 家に帰ってきて、私は彼の寝顔を眺めていた。 私は朝三十分間散歩にいくと目がすっきり覚めるから、毎日行っている。 習慣化していて、特に面倒だと思うこともない。 彼はいつも私より起きるのが少し遅い。 私は、彼の茶色の髪色を見ながら自然と笑顔になっていた。「寝顔までかわいらしい人なんてなかなかいないから」といつも思っている。 私の髪色はチョコレートブラウンで、彼のより少し明るい。でも色も結構似ている気もするから、なんだかおそろい感があっていいから。 どんな夢を見てるのかな? 私が出てきていると嬉しいな。 そんなことを想像するだけで楽しい気分になった。 何の申し分もなくとびっきり素敵な彼だけど、私は一つだけ彼に対して思うところがある。 それは、私と彼の『幸せ度合い』の色が違うことだ。 私は『ピンク』だけど、彼は上から三番目の『グリーン』なのだ。 そのことがいつも頭に引っかかる。一日一回は必ず考えてしまう。 もちろん『幸せ度合い』は、愛情だけでは決まらないと思う。 でも、つい同じ色だったらいいのにと考えてしまう。 私と結婚したことで、彼の『幸せ度合い』が前より上がったらよかったのに。私が彼を少しでも幸せにすることができていたら嬉しいのにとも思う。 それに、どんなことであれ、夫婦だから一緒であれば嬉しいと私は考える。 だから、違うことは寂しい。 私にとって、彼は一番信頼できる人だから。 考えすぎて疲れたので、私は彼のいいところを考えることにした。 彼は今大手の会社で、システムエンジニアをしている。誰もができる仕事ではない。元は私が働いていた職場に新卒で入ってきたのだけど、少ししてから今いる会社にヘッドハンティングをされた。 その話の経緯を彼は詳しくは話してくれないけど、彼の能力が誰かに認められたことは素直に嬉しかった。 彼は私がいた職場に入ってきた時から、他の人とはかなり違っていた。 私はというと、彼と結婚してから仕事を辞めて今は専業主婦だ。 働くことは嫌いではなかった。でも、働くことは、私にとって予想以上に大変なことだった。 彼を支えることに専念したいと思った。 また、私と彼は基本的に性格や考え方など似ているところが多い。 だから、幸せにたいする考え方も同じように思っていてほしいと思った。 どうにも気持ちが切り替えら
last updateLast Updated : 2025-09-01
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三章 「『幸せ割引』①〜ショッピングや遊び代」
 『幸せ割引』とは、自分の『幸せ度合い』の高さによって、様々なものを割引価格で買えたり、サービスを優遇して受けられたりする制度のことだ。 確か『幸せ度合い』が見えるようになってしばらくしてできた制度だと思う。 私は『幸せ度合い』と同様に、『幸せ割引』もいい制度だと思っている。 だって、幸せであればあるほど、優遇されるなんて幸せの相乗効果だから。 私は今日はどこにデートに行こうと考えた結果、カラオケにしようと思った。 起きた彼にそのことを言うと、「いいよ。カラオケに行こうか」と垂れた目を細めて笑顔でそう言ってくれた。 私はどちらかというとつり目だから、二人を足して二で割るとちょうどいい感じになりそうだといつも思っている。 でも、彼のその垂れた目も、笑顔も彼をふわふわとした雰囲気にしていてまたかわいらしい。 私は急いで、服を着替えることにした。基本私は行動をするのになぜかすごく時間がかかる。 少しでも彼に「かわいい」と思ってもらえる格好はどんなのかなと気分が急に上がってきた。 少しでも彼にドキドキしてもらいたい。 身長も153センチと中途半端で、スタイルも特別よくない私だから、服装で少しでもかわいく女性らしく変身したい。こうやって鏡を見るたびに、彼の顔は小さくていいなといつも思う。私の顔も特別大きいわけではないけど、彼の顔は男性にしたらかなり小さいと思う。 私は歌を歌うことが好きだ。デート先として『カラオケ』は、私たちの間では結構定番のものだ。 もう恋人同士じゃないけど、私たちは二人で遊びに行く時、『デート』という言葉を使う。 夫婦になったからといって、デートしちゃダメなことはないと思っているから。彼もその考え方はいいねと言ってくれている。 そもそも彼とどこか遊びに行けるなら、私にとってそれだけで素敵な時間だから。 私は走っていき、「行こうかっ!」と明るい声で彼の顔を見上げて言った。彼の身長は170センチ以上あるので私からしたらだいぶ背が高い。 家を出て、手を繋いで歩くだけで一瞬で楽しい気分になってきた。どうして彼と手を繋ぐだけでこんなにテンションが上がるのかな。 それから彼とたくさんお話をしながらカラオケ屋さんまで向かっていった。 彼とお話するだけで、さらにワクワクしてきた。 カラオケは、『幸せ割引』の中でショッピングや遊び代
last updateLast Updated : 2025-09-01
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四章 「『幸せ割引』②〜高額とされるお買い物〜」
 私たちは、カラオケの自分たちの部屋に着いた。 カラオケの部屋は結構広いけど、私たちはいつもぴったり隣同士に座る。そして、いつも片手を繋ぎながら歌を歌う。 私は高額とされるお買い物について、頭の中で思い出してみることにした。 高額とされるお買い物は、その物によって割引率が違う。 でも、世の中に高額とされるものは、そこまで多くはない気がする。 私はいくつか例えを思い出してみた。 車の購入の場合は、ピンクは二割引き、イエローとグリーンとブルーは一割引きとなっている。車の購入だけがなぜか割引率が他のに比べてかなり低いからよく覚えている。 また、家の購入の場合は、ピンクは六割引き、イエローは三割引き、グリーンは二割引き、ブルーは一割引となっている。 ちなみに家を賃貸として借りた場合の家賃も『幸せ割引』が適応され、『幸せ度合い』が高いほど同様に安くなる。 私たちは家を購入するかアパートを借りるかのどちらにしようかと考えた時、六割引きという驚きの割引率に惹かれて思い切って家を購入をした。 もちろん、一括でなくローンで購入した。このローンの利息までも、『幸せ割引』が適応されることには私もさすがに驚いた。「穂乃果?」 彼にそう声をかけられて、ハッとした。 私はあることにたいしてよく集中しすぎるところがあるらしい。自分ではわからないけど、たまに急に声をかけられてびっくりする時があるから。 私は頭を左右に振り、机の上にあるタブレットで真っ先に採点モードを入れた。 それはいつも私がしていることだ。彼がしてくれる前に私が先にしたいと思う。 歌って高い点数が出ると気持ちがいいし、点数の高さで彼と勝負するためだ。 私は一曲目に何を歌おうか考えた。 一番最初に点数が高くとれると、その後も楽しく遊べることが多いから一曲目は大事なのだ。 彼は「穂乃果が、先に曲を入れていいよ」といつも言ってくれる。 私は、歌う歌が決まり、歌い始めた。 これは私もいつもしているけど、歌い終わると彼が小さく拍手をしてくれた。私たち二人はハイテンションではしゃぐタイプではないから、これぐらいがちょうど心地がいい。 点数はなかなかよくて、私はまた気分が上がった。 それから交互に歌を入れながら、歌っていった。 彼の声は男性にしたら少し高い。でも、女性の歌も普通に歌えるのはすごい
last updateLast Updated : 2025-09-02
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五章 「よく頭に浮かぶ光景」
 私はトイレに行くため、部屋を出た。 しばらく歩いて、女性用トイレを表すピンク色のイラストを見て、あることが自然と思い出された。 それは、前からずっとふとした時によく思い出す光景だ。「これからあなたにいくつか質問します。わからないことやできないことがあれば、教えてください」 その人は、年老いた男性でスーツを着ている。 その人以外にも、数人の男性と女性が近くにいる。 そこにいる私以外は、この場所の関係者かな。なんとなくだけど、そんな風に感じた。 不思議な感じだけど、今私自身が別の時間の私を見ている状態なのだ。 でも、人がたくさんいることがなぜか怖かった。みんな同じスーツを着ているからかな。 その場所はかなり広く、全体的に白を基調としている。照明の形はシンプルだけれど、オレンジできれいな色をしている。 でもその明かりは小さく、部屋全体がどんな感じかはわからない。 温かみを感じそう色合いなのに、そこからは全然温度を感じられない。そんなこともアンバランスというか、違和感を感じる。 シーンは突然変わり、私は、そこで『できない』と答えていた。 その度にその人は手に持っているにタブレット端末に素早く何かを入力をしている。 その光景は、なぜかヒビが入ったようにゆがんで見えている。 いつの間にか「今日はこれで終わりです」と、その人が言っている場面に変わっていた。 目の前にいる私はその場からすぐに出るように促されている。 「『ピンク』だ!」や「『ピンク』よ!!」いう声が中からどんどん聞こえてくる。 その声は、どんどん勢いを増していく。 一方、そこにいる私の姿は、どこか弱々しかった。 そして、その場所を出て、長椅子に座ってる私の姿が万華鏡の中のようなきれいな模様ように浮かび上がってくる。 万華鏡をゆっくりと傾けるしゃららという音が聞こえてきそうなぐらいリアリティがある。 その中の私は、突然顔を上げた。 あなたは、ここがどこかわかる? そんな声が聞こえた気がした。 私はそこでハッと我に返った。 周りを見回して今ここはカラオケ屋さんのトイレの前だとわかり、私は安心した。 やっと私は、あの光景から抜け出すことができた。 この始まり方をすると、毎回一ミリも違わない光景で終わる。夢を見ていないのはわかるけど、それに似た感覚だ。怖い夢を見た時
last updateLast Updated : 2025-09-03
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六章 「『幸せ割引』③〜医療保障や経済的支援〜」
 帰り道彼と手を繋ぎながら、『幸せ割引』のうち優遇されることついて一人考えていた。 様々ものやことが、『幸せ度合い』の高さによって優遇される。 その中でも特に変わったものとしては、医療費が『幸せ度合い』の高さによって安くなることだ。 医療費は基本的に、国民は医療費の三割を負担し、残りの七割は国が負担するようにする制度が前からある。 その制度を適応した上で『幸せ度合い』の高さによって、その三割負担からさらに負担額を減らすことができる。 ピンクは無料に、イエローは一割負担に、グリーンとブルーは二割負担になる。 生活費の中で医療費が高すぎると、お金がすぐになくなったちゃうからかな。 でも、今ある制度にさらに優遇されるのはかなり珍しいと思う。 また、他の優遇として、経済的支援もある。 経済的支援とは、すごくざっくり言えばお金の支援や貸与のことだ。 例えば、画家志望の人がいれば、美大や芸術系の専門学校に行く学費を全額支援という形や貸してくれたりする。 支援したもらったお金はあとで返す必要もない。 『支援』という言い方をしているだけで、つまりはお金をくれているのだ。 ちなみに『貸与』ではなく全額支援してもらえるのは、ピンクだけだ。 イエローとグリーンとブルーは支援ではなく、一部貸与だ。その額が『幸せ度合い』によって上限が違う。 なぜ経済的支援までしてくれるのか、私は考えてみた。 人生においてお金は全てではないけど、お金がなければ生活することもしたいこともなかなか自由にできないからかな。 家のお金ことは彼に任せているから、我が家の金銭事情はよくはわかっていないけど、そう思った。 そもそも私はそれほどお金に興味がないし、執着心もない。 だから、たくさんほしいともあまり思わない。 また、たぶん夢を叶えることを無条件で素敵だとする考え方がこの世界にはある気がする。 夢を支援したいという人がいたり、応援する団体があるぐらいだから。 夢とは、そんなにキラキラしているかな? 私にはいまいちピンとこない。 私の夢は何かな? もう大人にもなっているから、何かになりたいという大きな夢もない。だからといって、小さな夢もない。 どんな人間になりたいかと誰かに聞かれても、すぐに答えられる自信もなかった。 さらには、『幸せ割引』の考え方には、日常生活
last updateLast Updated : 2025-09-04
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七章 「『幸せ割引』④〜二人以上で『幸せ割引』を使う場合〜」
 『幸せ割引』を夫婦または血縁関係のある人と一緒に使う場合、その人たちの『幸せ度合い』を合算して、平均化することができる。 もちろん、合算して『幸せ割引』を受けるかどうかは個人の自由だ。そもそもそこまで決められていては、まるで誰かに私たち自身を管理されているかのようだから。 実際、今回のカラオケ代のように私は合算して『幸せ割引』を受けないことを、毎回自分の意思で選んでいる。 決して彼と一緒が嫌なわけではなく、これは自由の問題なのだ。 自由の保障は、『幸せ割引』ではほぼ優遇措置はないけれど、同じぐらい大切なことだと私は思っている。 人は何かをしたいと思った時、誰かに多くのことを制限されるとなかなか満足感は得られないから。 どうして『幸せ割引』に、自由の保障が含まれていないのかな? とにかく二人以上で合算して『幸せ割引』を受けるなら自分の『幸せ度合い』が上から何番目か数え、合算したい人の数にその数を足し、合算する人の人数で割ったものがその人たちの『幸せ度合い』の高さとなる。所謂平均値の出し方と同じだ。 具体的に言うと、私はピンクで上から一番目のもの、彼はグリーンで上から三番目のものだから、足すと四になる。二人なので、その数を二で割ると二になる。だから、私たち二人の『幸せ度合い』は二番目のイエローになる。 私たちは二人だから計算しやすいけど、人数が多いくなると計算も結構大変になりそうだ。 一方で、一緒にいる人の間に血縁関係がない場合、合算することはできない。 どんなに大勢でも、いくら偉い人でも、例外なく『幸せ割引』を合算して使うことはできない。 どうやって血縁関係がある人がわかるかというと、まず人差し指の指紋のある方の指の形を国民全員が登録している。 その形をデータ化し、血縁関係があるか判断するのだ。 ここでも『幸せ度合い』と同様に、形が登場してきた。 私は今まで形にこだわったことがほとんどないし、国に自分の指の形を登録することにも、そんなに抵抗感はなかった。 登録自体すぐに終わったし、大変でもなかった。 確かに指紋の登録だとなんだかやましい感じがするけど、形なら多くの人も私と同様に気にしないかと感じている。 ちなみに膨大なデータの中から、その人たちに血縁関係があるかどうかを瞬時に判断できる機械を、どのお店も導入しているから判断する側
last updateLast Updated : 2025-09-05
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八章 「過去編 私とあなたの出逢い」
 彼と出逢ったのは、今からニ年前のことだ。その日も今日のように寒い日だった。 彼は私が働いている会社の同じ部署に、新卒の正社員として入社してきた。 彼に出会って、私は一瞬で心を奪われた。 基本他人に興味を示さない私が、誰かに心丸ごと奪われたのだから、それはもう自分でも衝撃的なことだった。 だから、記憶力が悪い私が今でもその時のことは、はっきりと覚えている。 その時とは、彼を含めた数名の新入社員の挨拶があった時だ。 彼に会ったのもその時がもちろん、初めてだった。 新入社員の挨拶では、いつもすごいことを言う人もいなくて、正直楽しさも新しさもない行事であった。 例年通り彼以外はありふれたような内容のことを言っていた。でも、彼はしっかりと自分をもっていた。そのキラキラしていたところに、心がぐらぐらと揺らされた。 彼は「この会社でたくさんのことを学び、将来は必ず社会を支えるものづくりの仕事に携わります」と堂々言っていた。 その目には確かに強く炎が灯っていた。 内容は違うけど、私も同じように夢をずっともっている。 でも私は心が折れて、その夢もいつの間にか諦めてしまった。 私より三歳も年下なのにしっかりとしていてすごいなと思った。 私は、仕事が終わるとすぐに彼に話しかけに行った。 「お疲れ様。今日は仕事大変だったでしょ?」と聞くと、「ちょっと疲れましたね」と彼から返事が返ってきた。 私は職場で、容姿から気が強そうとかキツそうと言われることがよくあるから、できるだけフランクに話しかけた。会社の人にそう思われてることは全然気にならなかったけど、彼にはなんとなく気を使わせたくないと思った。 そして、それだけ言って、私はその日帰っていった。私にしたらかなり言葉を選んで話しかけたなと今でも思う。 その日からちょくちょく仕事終わりに彼に話しかけにいくようにした。「わからないことはない?」とか「仕事慣れてきた?」とか色々なことを聞いた。 彼も返事を返してくれた。 それから彼はどんどん仕事を覚えていった。そんな有言実行なところもかっこいいと思えた。 いつも私よりも後に入社した人が、どんどん仕事ができるようになっていくことを、私は複雑な思いになっていた。 もちろん、新人が育つことはいいことだしすごいとは思うけど、私は自分に任された仕事をするのでいっぱ
last updateLast Updated : 2025-09-06
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九章 「あの日から変わっていない」
 恋人になってから、私たちが結婚するまでの日数はかなり短かった。 ある日、とある会社にヘッドハンティングされたという話を彼が伝えてきた。 その会社は、世間のことに興味がない私でも聞いたことがあるほどの超大企業だった。テレビをつけるとCMなどもよく流れている。 私は子どものように喜び、彼に抱きついた。 そして、「蒼はどうしたの?」と聞いた。 彼は「その会社に行きたい」とはっきりと言った。 その言葉に確かに強い意志を感じた。 話自体は私も彼の夢を応援したいし、いいと思った。 問題は、彼が当時住んでいるところから通えないところにその会社があることだった。 所謂都会の中心にその会社はあって、私はその時すぐ「離れたくない」と駄々をこねた。 一生会えなくなるわけじゃないけど、遠距離恋愛をする自分が想像できなかった。 会いたい時に会えない関係は、嫌だった。 今まで寂しがり屋じゃなかった。子どもの頃から一人でも平気だった。 もしかしたら彼といて少し弱くなったのかもしれない。 すると、彼は突然「僕と結婚してくれない?」と言った。 ずっと一緒にいられることは私にとってもいいことだし、恋愛=結婚というイメージだった私にとって最高の言葉だった。 だから、その言葉をしっかりと受け止めた。 結婚するまでの期間をそんなに私は重視しなかった。 二人が愛し合っていれば、問題はないと思っているから。 私の親も彼の親も、結婚に反対しなかった。 彼の家に挨拶に行った時も「二人とももう大人なんだし、自分たちで決めたことならその意思を尊重する」と言ってくれた。 彼の親は大切な一人っ子が結婚することにたいして、文句一つ言わなかった。私にきつい言葉も言わなかった。それは本当にありがたいと今でも思っている。 私は自分の感情や思いを人に伝えるのが苦手だから。 そうして、今に至る。 彼と離れ離れにはならなかったけど、気になることが一つずっと残っている。 それは、彼の『幸せ度合い』が、初めて出会った時からずっと『グリーン』だということだ。 私と結婚が決まった時も色が変わることもなく、今まで一度も変わっていない。 彼にとって私といることは、『幸せ度合い』が上がることではないのかな? 気になっているけど、何かあっても変わらないことが普通のことなのか珍しいことなのかを私
last updateLast Updated : 2025-09-07
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十章 「『ピンク』なのに」
『幸せ度合い』により、自分や他人が今幸せかどうかはわかるようになった。 それは、確かなことだ。 でも、当たり前かもしれないけど、私にもわからないことがあった。 いや、普段生活をしていても、それはよくある。 そんな時私はいつもただへこんでしまう。 でも、頭に浮かぶあの光景はかなりの異様さがあった。 私は過去に記憶したことを頭の中から引き出すのが苦手だ。私にとって記憶とは、一つ一つ独立したものでつながっていない。むしろ、頭の中にある記憶をつなげることも苦手なのかもしれない。 だから、あれが何かわからなかった。 『幸せ度合い』が一番高い『ピンク』なのに、どうしてこんなにわからないことだらけなのかな? 本当に私は幸せなのか疑問に思えた。 わからないことがあることと幸せかどうかに関係性があるかはわからない。でも私は今そんな風に感じた。 その気持ちで心の中が一瞬でいっぱいになった。なんだか幸せじゃない気がしてきた。 さらに、あることが頭に浮かんできた。 それは、他人だけでなく、彼からも『幸せ度合い』について私に話をしてきたことが今まで一度もなかったということだ。 どうして誰も『幸せ度合い』の話をしないのかな? 私はまたわからないことが増えて、頭はキャパオーバーになったのだった。「ただいま」 遠くからそんな声が聞こえてきた。 窓から外を見ると、もう暗くなっていた。私はいつの間にかソファで寝ていたようだ。「あっ、おかえり」 私は慌てて立ち上がり、玄関まで走っていった。 いつも彼が仕事から帰ってきたら玄関まで迎えに行くようにしているからだ。 きっと今は彼が帰ってくる十八時だろうけど、時計も見ずに彼の元に走っていった。「穂乃果、どうかした?」 彼はそんな風に聞いてきた。「あっ、うん。大丈夫。ただメッセージでも送ったけど、蒼に話したいお話があるの」 私はまた早口になっていた。「お話? 何か特別なことが起きた??」 彼は、私のほっぺに優しく手をあてた。 彼の手はいつも温かくて、触れられるとホッとした。 どうしていつもこんなに手が温かいのかと不思議に思っている。「うーん、たぶんそうじゃないかな。まあとにかく早くニ階で着替えてきてよ〜」 私は彼の肩を少し揺らしながら、そう言った。 彼は返事をしながら、二階にすたすたと上がってい
last updateLast Updated : 2025-09-08
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