All Chapters of 魔力ゼロの無能令嬢は、竜王の長い孤独を溶かして溺愛される: Chapter 21

21 Chapters

21:未来へ

 元首エイベルの就任式は、再建された王都の中央広場で行われた。広場は、晴れやかな顔をした民衆で埋め尽くされている。  簡素ながらも威厳のある元首の錫杖を授けられたエイベルは、民衆に向かって語りかける。それは権力を誇示する言葉ではなく、共に国を支える仲間たちへの感謝と、未来への責任を語る、誠実な演説だった。 演説の最後にエイベルは深く息を吸って、北――禁断の森がある方角へと向き直る。広場の喧騒が、水を打ったように止んだ。  彼は誰よりも深く、長く頭を垂れた。「我らに二度目の機会を与え、この大地を癒やしてくださった、森の賢明なる守護者たちに、深き感謝を」 元首の言葉と姿に、民衆もまた森の方角へと一斉に頭を下げる。それは傲慢な過去と決別し、謙虚さと感謝の上に新しい国を築いていこうという、国民全体の無言の誓いだった。◇ ヴァルフレイドの宮殿の水鏡には、歓声に沸くアルテア共和国の就任式が映っている。  その活気ある様子を見て、私はそっと微笑んだ。「彼らは、自分たちの物語を見つけたようね。もう、ゲームの英雄はいらないわ」 ヴァルフレイドは水鏡ではなく、私の横顔だけを愛おしそうに見つめている。  彼は私を抱き寄せると、水鏡から離れ、宮殿の奥へと誘った。「彼らの物語は、彼らのものだ。さあ、俺たちの物語に戻ろうか、ロザリア」 世界が新しい希望を見出した一方で、楽園では人だけの、永遠に続く幸福の時間が流れ始めている。◇ アルテア共和国の就任式から、さらに十年ほどの時が流れた。  私が過ごす楽園の日常は、穏やかで満ち足りた喜びに包まれている。  その日も私は宮殿の広大な書庫で、古代竜族の言語で書かれた石板を読み解いていた。その集中を破ったのは小さな足音だった。「おかあさま!」 私のもとへ駆け寄ってきたのは、燃えるような赤髪と私の紫の瞳を持つ、私たちの小さな息子。  幼子は私に飛びついて、膝の上に登ろうとする。この子はいつも元気いっぱいだ。元気すぎて突拍子もない動きをするので、私もヴァルフレイドもしょっちゅう振
last updateLast Updated : 2025-09-18
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