魔力ゼロの無能令嬢は、竜王の長い孤独を溶かして溺愛される

魔力ゼロの無能令嬢は、竜王の長い孤独を溶かして溺愛される

last updateDernière mise à jour : 2025-09-18
Par:  黒兎みかづきComplété
Langue: Japanese
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侯爵令嬢ロザリアには前世の記憶がある。それは、この世界がゲーム「ドラゴンズブレイド」にそっくりだということ。ロザリアは魔力を持たない無能として追放されるが、計画通りだった。ゲーム知識で知っていた、森の奥に眠る竜王を呼び覚まして対話を試みると、竜王は類まれな魂を持つロザリアに一目惚れ。彼の庇護下の元、溺愛される生活が始まった。 一方でロザリアの婚約破棄をして追放した王子は、贅沢三昧で国民を顧みない。国が傾いたところに隣国に攻め入られ、追い詰められた王子はロザリアに助けを求めるが――?

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01:追放という名の解放
 王宮の豪奢な一室に、イグニス王子の声が響く。 私との婚約破棄を発表するための、壮麗な舞台だ。「ロザリア・シュヴァリエ! 本日をもって貴様との婚約を破棄する!」 王族らしい艶やかな金髪。まあまあ整った貴族的な顔立ち。 けれどその緑の瞳から滲み出る傲慢さが、すべてを台無しにしていた。(ついに来たわ! 婚約破棄よ、婚約破棄!) 心の中で私は盛大なガッツポーズを決めた。 もちろん、表情にはおくびにも出さない。今は完璧な悲劇のヒロインを演じきる、大事な場面なのだから。「……どうして、ですか?」 か細く、今にも消え入りそうな声。 驚きと悲しみで大きく目を見開き、潤んだ瞳で彼を見上げる。 うん、我ながら完璧な演技だわ。「決まっているだろう! 貴様が魔力を持たない『出来損ない』だからだ!」 イグニスは勝ち誇った笑みを浮かべた。「我が隣に立つ者は、国で最も聖なる魔力を持つ者でなくてはならん!」 ほら来た。 魔力至上主義のお国らしい、テンプレ通りのセリフ。 イグニスは私の腹違いの妹、ミリアの肩をこれみよがしに抱き寄せる。 甘いストロベリーブロンドの髪を揺らし、ミリアは心底心配しているという顔で私を見た。 庇護欲をそそる愛らしい紫の瞳。その奥に計算高い光が宿っているのを、私はずっと前から知っている。「お姉様……ごめんなさい。でも、イグニス様のお側には、この聖なる魔力を持つあたしがいるべきだって、神官様も……」(出たわね、お約束のセリフ) ああ、もう茶番はいいから。 早く最後の宣告をしてちょうだい。「そうだ! 真に俺の隣にふさわしいのはミリアただ一人!」 イグニスは一度言葉を切ると、わざとらしく私に指を突きつけた。「よってロザリア、貴様を追放処分とする! 行き先は魔獣が棲まう『禁断の森』だ!」 追放。 禁断の森。(最高の条件じゃない!) ショックで膝から崩れ落ちそうになるのを、必死でこらえる――という演技をしてみせる。「そ、そんな……あまりにも……」 瞳に涙を溜めて、絶望に打ちひしがれた令嬢を完璧に演じきる。 心の中は、これから始まる最高のフィールドワークへの期待で、サンバカーニバル状態だったけれど。◇ 衛兵に両脇を固められ、私は部屋を後にした。 最後に振り返った私に、イグニスは嘲笑を浮かべ、ミリアは勝ち誇った顔で
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02:出来損ないの令嬢
 あれはいつのことだったかしら。 確か、私が十二歳になった年の夕食でのこと。 豪奢なだけの、冷たい食卓。 きらびやかな食器の上には、一流の料理人が腕を振るった料理が並んでいる。 けれどそこに家族の温かさなんてものは、ひとかけらもなかった。「さすがは我が娘だ。ミリアの魔力は、まさに国宝級だな!」 父である侯爵が、満面の笑みでミリアを褒めそやす。 継母も「本当に、あなたのような娘を持てて誇らしいわ」と、うっとりと相槌を打った。「まあ、お父様、お母様!」 幼いミリアは嬉しそうに声を弾ませて、小さな指先をキャンドルにかざした。ぽっ、と指先に小さな光の蝶が生まれる。 ひらひらと食卓の上を舞う蝶に、家族の視線が釘付けになった。(始まったわ、いつもの茶番が) 私は完璧なマナーで、静かにスープを口に運ぶ。 彼らは私に興味がないくせに、少しでも難癖をつける隙があれば折檻してくる。屈辱的な扱いはスルーするが、痛いのはさすがに嫌。 魔力、魔力、魔力……。この家では、それだけが価値のすべて。 まぁ文化人類学の観察対象としては興味深いけれど、当事者になるのはごめんだわ。 誰も私を見ていない。私がここにいることに、気づいてすらいないのかもしれない。 食事が終わると、私は音もなく席を立った。 もちろん誰も引き止めない。 私が部屋からいなくなったことに、最後まで誰も気づかなかった。◇ 私が向かうのは、自室ではない。屋敷の西棟の一番奥。 埃っぽい書庫の片隅こそが、私の聖域だった。(ああ、落ち着くわ) インクと古い紙の匂い。これこそが私の帰る場所。 この世界の人々は、魔力のない過去の記録をただの御伽噺だと切り捨てる。 なんてもったいない! 伝説や神話にこそ、その土地の人々の価値観や、忘れられた歴史の真実が隠されているというのに。 これだから研究はやめられない。本当はフィールドワークに出たいけれど、私は『出来損ない』。家の恥だとか言って、あまり外に出してもらえないのだ。 出来損ないというのなら、どうして王子と婚約させたのやら。 大方、魔力の有無がわからないほど幼い頃に政略婚約をねじ込んで、その後に私の無魔力が判明したんだろうけど。知らんがな。 慣れた手つきで、棚の奥からひときわ古びた本を取り出す。『フラグラーレ王国建国神話異聞』 異端の
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03:旅立ち
 馬車の扉が、無情に閉められる。 御者が鞭を鳴らすと、騎士たちを乗せた馬車は土煙を上げて去っていく。 私をこの場所に置き去りに、さっさと引き返していくのだ。「達者でな、お嬢ちゃん。せいぜい長く生き延びろよ。ま、無理だろうが」 遠ざかる馬車から、投げやりな声が聞こえた。「おい、早く戻ろうぜ。なんでもイグニス様のご即位を祝して、近々盛大な夜会が開かれるらしい。俺たちも警備で出れば、うまい汁が吸えるかもしれん」「そりゃいいな!」 下世話な笑い声が、風に乗って私の耳に届いた。(即位を祝す夜会ですって?) 国王陛下はご病気だが、まだ健在のはず。それなのに、もう次代の話? イグニスとミリアは何を考えているのだろう。 私には前世の記憶がある。そしてある時、気づいたのだ。 この世界は、前世でプレイしたゲーム『ドラゴンズブレイド』にそっくりであると。 ドラゴンズブレイド、略称ドラブレは戦略シミュレーションRPGだ。 主人公はある国の王子。戦乱に巻き込まれながらも、自国の繁栄を目指して戦いを勝ち抜く……という内容。 ちなみにその王子というのが元婚約者のイグニスだった。ゲーム主人公の王子はプレイヤーの分身になるため、明確な性格が設定されていなかった。名前も自由に決められるが、デフォルトで設定されているのが『イグニス』だ。 ミリアはヒロインで、現実と同じく莫大な魔力を持つ。性格は天真爛漫、ちょっと生意気だが心根は優しい少女だった。 私ことロザリアは悪役令嬢。魔力に秀でた妹を妬んで、様々な妨害をするお邪魔キャラなのである。 しかも最終的に憎しみに心を支配されて、自分自身を生贄に、竜王ヴァルフレイドを呼び覚ましてしまうのだ。 なんというか、世界観と人物の配置はゲームと同じなのに、性格がみんな違う。 ゲームのイグニスとミリアは、数多くの試練を乗り越えて英雄と呼ぶのにふさわしい人間へと成長する。 しかしこの有り様はどうだろう。彼らはもう大人なのに、これから劇的に変わるのだろうか。 しかもゲーム最大の敵である竜王ヴァルフレイドは、私がこれから対話を試みる。結果次第では敵対が避けられるかもしれないのだ。 民は凶作に苦しんでいると聞くのに。 もっとも、民衆の救済と指導は王族の仕事だ。私の出る幕じゃない。ただ少しだけ、哀れだとは思う。 やがて馬車の姿は完
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04:森の洗礼
 森は深く、暗かった。 一歩足を踏み入れただけで、瘴気がねっとりと肌にまとわりつく。空気そのものに重さがあるみたいで、私は思わず眉をしかめた。(これが瘴気……。生態系が完全に歪んでいるわ。興味深い研究対象ね) 異様な形にねじくれた木々。見たこともない色の苔が、地面を覆っている。 普通の動物の気配は全くせず、不気味な静寂が森を支配していた。 手製の地図と古代植物学の知識を頼りに、私は慎重に進む。 ゲームではただの背景だった森が、現実では複雑で危険で――何より魅力的に見えた。 ああ、私は古代の神秘が眠る土地を歩いているのだ。この足で! 苔むした石碑を見つける。 表面の汚れを慎重に手で拭うと、かすかに古代文字の痕跡が現れた。「……こっちね。間違いないわ」 この道標は、ゲームのマップにはなかったもの。 やはり、この世界はゲームであってゲームではない。自分の知識と観察力が試されている。◇ ガサッ、と。 茂みが大きく揺れる音に、私は即座に巨大な木の陰に身を隠した。 ナイフの柄を握りしめて心臓の鼓動を抑えながら、音のした方を見つめる。 現れたのは、黒い影だった。霧が集まってできたかのような、巨大な狼。 燃えるような赤い瞳が、獲物を探してきょろきょろと動いている。(あれがシャドウウルフ……! ゲームのグラフィックよりずっと大きくて凶暴そう。さすが実物だわ) 魔獣は魔力に反応して襲ってくると古文書にあった。魔力ゼロの私は、彼らにとって認識できない存在のはず。 仮説を検証する絶好の機会になるだろう。(……でも、もし違ったら? 一口で食べられちゃうかしら。さすがにちょっと緊張するわね) シャドウウルフは、私が隠れているすぐそばを通り過ぎていく。 鼻をひくひくと鳴らしているけれど、全く気づく様子はない。やがて興味を失ったように闇の中へと消え
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05:覚醒の儀式
 重い石の扉に、私は手をかけた。全身の力を込めて押せば、ギィィ……と鈍い音を立てて、ゆっくりと開いていく。 扉の隙間から流れ込んできたのは、数万年の間、閉ざされていたであろう古代の空気。物音一つしない内部から、ひんやりとした風が漂ってくる。 中へ一歩足を踏み入れると、自分の足音がやけに大きく響いた。 進んだ先は、広大なドーム状の空間である。 天井が淡く光って、古い星図のようなものを映し出している。降り注ぐかすかな光が空気中の塵をきらきらと照らして、まるで本物の星空と星屑のように部屋を彩っていた。(ここが……竜王の祭壇の間) 中央に、それはあった。 黒い一枚岩を削り出しただけの、シンプルな祭壇。 華美な装飾は一切ない。ただそこにあるだけで、圧倒的な存在感を放っていた。(空気が濃い。瘴気とは違う、もっと古くて、静かな何かの力……。まるで深海の底にいるみたい) ゲームの『ロザリア』は、ミリアへの憎しみを抱えてここに来た。 復讐のために、自らを生贄にしようとした。 ……なんて愚かな。 この存在は兵器じゃない。破壊の道具でもない。 最高の生きた歴史書なのだ。 私は意を決して、祭壇へとゆっくり歩みを進めた。◇ 高鳴る心臓を抑えるために、一度深く深呼吸をする。 祭壇の表面に、そっと右手を添えた。冷たくなめらかな石の感触が伝わってくる。 目を閉じる。 魔力のない私にできる唯一のこと。自らの意思、魂の願いそのものを、祭壇へと注ぎ込む。 イグニスもミリアも、もうどうでもいい。 今の私の心を占めているのは、この探求心だけ。 侯爵令嬢としてでも、悪役令嬢としてでもない。 一人の学者としての、ただ一つの欲望。(教えて、竜王ヴァルフレイド。あなたはこの世界で、何を見てきたの?) 呼びかけのための声は、最初は緊張で震えてし
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06:汚れなき魂
 魂に直接響くようなプレッシャー。 私はそれに耐えながら、闇の中にいる巨大な存在をまっすぐに見据えた。「はい。私がお呼びしました。私の名はロザリアと申します」 毅然と答えると、頭上から古びた石がぱらぱらと落ちてくる。 竜がわずかに身じろぎしただけで、この遺跡は崩れてしまいそうだ。「――またか。我を呼び覚ますのは、いつも決まって復讐か、破滅を望む愚か者。貴様も同類か」 その声は乾いていた。何かの感情というよりも、長い年月に摩耗しきったかのような響きだった。(復讐を望む愚か者、ね。確かに、ゲームの『ロザリア』ならそうだったでしょう。でも、私は違う)◇ 黄金の瞳が強い光を放つ。 その光が私を包み込むと、私の内面、記憶、感情のすべてが一冊の本のように暴かれていく感覚に襲われた。(魂を読んでいるのね。いいわ、見てちょうだい。これが私の、たった一つの純粋な願いよ) 正直、恐怖はある。でも目は逸らさなかった。 憎しみも嫉妬も、もうとっくに捨ててきた。 見られて困るものなんて、何もない。あるのはただ知りたい、解き明かしたいという、どうしようもない学者の欲望だけ! 彼の声が再び脳裏に響く。諦めきったような声だった。「……ふむ。また憎悪か、あるいは傲慢か。貴様ら人の子の魂は、いつも同じ色に濁って――」 声が途切れた。永い、永い沈黙。「……憎しみが、ない。あるのは……この輝きは……久しいな。かつて我の真理の一端に触れようとした学者がいた。あの男の魂も、このような知の光を放っていた」 古文書を記した、あの異端の学者のことだろうか。 やはり彼もここに来ていたんだ。そして竜王の知の一端を書物として書き記した。「だが……違う。これは、なんだ? あの男の光が川底で拾った小石の煌めきならば、貴様のそれは……夜空に輝く星その
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07:竜王の宮殿
 柔らかな絹のシーツの感触に、私はゆっくりと目を開けた。 視界に映るのは、見たこともない緻密な彫刻が施された木製の天井だった。 ここはどこだっけ。夢の続き……? 体を起こすと、信じられないほど体が軽いことに気づく。 いつも私を縛っていた鉛のような倦怠感が、嘘のように消えていた。「おはよう、俺の花嫁。よく眠れたみたいだな」 声のした方を見ると、部屋の隅の椅子に赤髪の青年が足を組んで座っていた。 竜王ヴァルフレイド。昨日の出来事が一気に頭に蘇って、私は瞬きをした。 彼はいつからそこにいたのか、楽しそうに私を見ている。「おはようございます、ヴァルフレイド。ええ……こんなに深く眠れたのは、生まれて初めてです」 戸惑いながらも答えると、彼は満足そうに頷いた。(このベッド……まるで雲の上にいるみたい。それに体の感覚が違う。いつも私を悩ませていた微かな頭痛もない。どうして……?)◇ 私の疑問を見透かしたように、ヴァルフレイドが立ち上がり、窓辺に立った。「この世界は魔力に満ちている。魔力を持たないお前にとって、それは常に微量の毒に晒されているのと同じことだ」 彼の言葉に、私は息を呑む。「だが、この巣は違う。俺があらゆる魔力の流れを排し、お前のためだけに調律した。ここだけが、お前の魂と身体が真に安らげる場所になる」 そういうことだったのか……。 魔力がないことが『欠陥』なのではなく、この世界そのものが私にとって過酷な環境だったんだ。 それを彼は一瞬で見抜いて、この楽園を作ってくれた?(ただ守るだけじゃない。私の存在そのものを理解して、最適な環境を用意してくれた) 生まれて初めてだった。 こんなふうに、ただ存在しているだけで、大切にされていると感じるなんて。 胸の奥がじんわりと温かくなった。◇
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08:永い孤独
「お前が求めていたものを与えよう」 食事の後。ヴァルフレイドが指を鳴らすと、食堂は一瞬にして書庫へと姿を変えた。 天井まで届く本棚がいくつも並んでいる。それらを手に取ってみれば、この世界の成り立ちから、失われた古代文明の記録まで、あらゆる知識が詰まっていた。 私は目を輝かせて本を読もうとして、ふと動きを止めた。「ヴァルフレイド。もしよければ、あなたの話を聞かせてくれないかしら」「俺の?」 彼は私の問いに驚いたように目を瞬かせる。「あなたはこの永い時間、ここで何をしていたの?」 あの古文書を記した学者のように、たまには訪れる人もいただろう。けれど彼の永い時の中で、それらがどれだけの割合を占めていたことか。「…………」 ヴァルフレイドは、読み始めていた本を閉じた。黄金の瞳に陰りが見える。(少し、踏み込みすぎたかしら。でも……あの寂しそうな瞳を、放っておけない。彼は私の物語を知った。なら、対話者として彼の物語も知りたい。これは私の人生をかけた、最高のインタビューなのだから)◇ ヴァルフレイドは窓の外に広がる森を見つめながら、ぽつり、ぽつりと語りだした。「遠い昔……世界はもっと簡素だった。お前たちが魔法と呼ぶものはなく、ただ世界の力が満ちているだけだった。純粋で美しい力に」 彼の声は、どこまでも平坦だった。「俺はその力の一部として生まれ、王としてではなく、ただの観測者として存在していた。役目は、ただ見ていることだけだ」 自分の話ではない、どこかの誰かの物語を語るように。「だが、やがてお前たち人間が生まれた。そして、その力を自らの欲望のために使い始めたんだ。野心、嫉妬、傲慢……お前たちの強い『情念』が、魔法という力に流れ込み始めた」(情念が、魔法に……。そういうことだったのね。この世界の魔力は、ただのエネルギー
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09:竜王とお散歩
「ヴァルフレイド」 私が声をかけると、彼は金色の瞳をこちらに向けた。「あなたに、食事を作りたいの」 ヴァルフレイドは心底不思議そうな顔をして、わずかに首を傾げた。「食事? 望むものがあるなら、俺が一瞬で出してやろう。なぜお前が作る必要があるんだ?」「私の前世の世界ではね、誰かのために時間と手間をかけて食事を作ることは、とても大切なおもてなしなの。料理は、ただ空腹を満たすだけのものではないわ」(彼はきっと、豪華な食事は知っている。でも誰かが自分のためだけに作る、温かい食事の味を知っているかしら。これは私の実験よ。人の手の温もりが、数千年を凍てついてきた彼の心に届くかどうか) 私の説明を聞いて、彼の瞳に知的な光が宿る。未知の文化に対する、純粋な興味の色だった。「なるほどな。お前の言う『おもてなし』とやらを、受けてみよう」「ええ、ぜひ。……ただ、一つ問題があるのだけど」 私が困ったように言うと、彼は楽しそうに口の端を上げた。「厨房も、調理器具もない、か。ならば、人間の町へ買い出しに行けばいい」◇ 私たちは連れ立って宮殿のバルコニーに出た。 ヴァルフレイドの体がまばゆい光に包まれる。光が収まった時、そこに立っていたのは神々しい真紅の竜だった。 彼は私の前に恭しく身をかがめ、その巨大な背中を示す。私は少し躊躇いながらも、彼の温かい鱗に手をかけて背へと上った。 力強い翼の一振りで、竜はふわりと宙に浮く。眼下に広がる禁断の森がみるみる小さくなり、やがてどこまでも広がる雲の海を突き抜けた。遮るもののない紺碧の空と、白く輝く太陽。風は強いはずなのに、彼の魔力がヴェールのように守ってくれていて、ただ心地よいだけだった。「すごい……!」 思わず、歓声が漏れた。「世界って、こんなに広くて、綺麗だったのね……!」 前世で飛行機に乗ったことはある。だがこの飛行は、そんなものとは比べ物にならなかった。
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10:星空デート
「これは……なんだ……?」「私の故郷の家庭料理よ。あ、故郷というのは前世の方のね。美味しいかしら?」 私が緊張しながら尋ねると、彼はもう一口ゆっくりとスープを味わった。それから何か途方もない真理に触れたかのように、深く息を吐いた。「……温かい。いや、温度のことではない。これは……魂が、満たされるような感覚だ。俺が創り出す完璧な味の食事とは、全く違う」 私は胸がぱっと明るくなるのを感じた。ささやかな実験は、どうやら成功したらしい。 神のように万能な彼に、私が与えられるものがあった。その事実が、どうしようもなく私の心を温かくした。◇ その夜、私は宮殿のバルコニーで月を眺めていた。あの食事の後、ヴァルフレイドはずっと何かを考え込んで、黙ったままでいる。 ふと背後に気配を感じて振り返ると、彼が少し離れた場所に立っていた。「ロザリア。今宵は星がよく見える。……俺の背で、空を見に行かないか」 命令でもなければ取引でもない、純粋な誘いの言葉だった。彼の金色の瞳に慣れないことをする少年のような、かすかな緊張が浮かんでいるのを見て、私は思わず微笑んでしまう。「ええ、喜んで」 私が頷くと、彼は安堵したように息を吐いた。(夜のお散歩……いえ、空の散歩かしら。これが食事へのお返しなのね。彼らしくて素敵な、少し不器用なお礼だわ) 神様みたいに完璧に見えるあなたにも、そんな顔ができるのね。なんだか、とても愛おしいと思ってしまった。 再び真紅の竜となったヴァルフレイドの背に乗って、私たちは夜空へと舞い上がる。 眼下には美しい地上の夜景。昼間は恐ろしく見えた禁断の森は、ホタルのような虫や光るキノコ類の輝きに彩られて、まるで宝石箱のよう。 頭上には銀の砂を撒いたような、天の川がくっきりと見えた。 彼は古い竜族だけが知る星座の名を、私の心に直接語りかける。私だけの特別
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