王宮の豪奢な一室に、イグニス王子の声が響く。 私との婚約破棄を発表するための、壮麗な舞台だ。「ロザリア・シュヴァリエ! 本日をもって貴様との婚約を破棄する!」 王族らしい艶やかな金髪。まあまあ整った貴族的な顔立ち。 けれどその緑の瞳から滲み出る傲慢さが、すべてを台無しにしていた。(ついに来たわ! 婚約破棄よ、婚約破棄!) 心の中で私は盛大なガッツポーズを決めた。 もちろん、表情にはおくびにも出さない。今は完璧な悲劇のヒロインを演じきる、大事な場面なのだから。「……どうして、ですか?」 か細く、今にも消え入りそうな声。 驚きと悲しみで大きく目を見開き、潤んだ瞳で彼を見上げる。 うん、我ながら完璧な演技だわ。「決まっているだろう! 貴様が魔力を持たない『出来損ない』だからだ!」 イグニスは勝ち誇った笑みを浮かべた。「我が隣に立つ者は、国で最も聖なる魔力を持つ者でなくてはならん!」 ほら来た。 魔力至上主義のお国らしい、テンプレ通りのセリフ。 イグニスは私の腹違いの妹、ミリアの肩をこれみよがしに抱き寄せる。 甘いストロベリーブロンドの髪を揺らし、ミリアは心底心配しているという顔で私を見た。 庇護欲をそそる愛らしい紫の瞳。その奥に計算高い光が宿っているのを、私はずっと前から知っている。「お姉様……ごめんなさい。でも、イグニス様のお側には、この聖なる魔力を持つあたしがいるべきだって、神官様も……」(出たわね、お約束のセリフ) ああ、もう茶番はいいから。 早く最後の宣告をしてちょうだい。「そうだ! 真に俺の隣にふさわしいのはミリアただ一人!」 イグニスは一度言葉を切ると、わざとらしく私に指を突きつけた。「よってロザリア、貴様を追放処分とする! 行き先は魔獣が棲まう『禁断の森』だ!」 追放。 禁断の森。(最高の条件じゃない!) ショックで膝から崩れ落ちそうになるのを、必死でこらえる――という演技をしてみせる。「そ、そんな……あまりにも……」 瞳に涙を溜めて、絶望に打ちひしがれた令嬢を完璧に演じきる。 心の中は、これから始まる最高のフィールドワークへの期待で、サンバカーニバル状態だったけれど。◇ 衛兵に両脇を固められ、私は部屋を後にした。 最後に振り返った私に、イグニスは嘲笑を浮かべ、ミリアは勝ち誇った顔で
Terakhir Diperbarui : 2025-09-01 Baca selengkapnya