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All Chapters of 観察室のデスクから: Chapter 21 - Chapter 30

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監察日誌:熱い視線と衝動的な想い2

***「あ~、この時間帯ってば、暇すぎる……」 ランチタイムが終わった、午後2時15分過ぎ。勤務しているコンビニ内は、お客が誰もいずガランとしていた。 店長は発注をしに、裏に行ったばかりで俺一人がカウンターに佇みながら、さっき関さんからもらったメールを、こっそりと眺めた。「やっぱ、忙しい人なんだよなぁ。でも必ず会いに行くって、書いてくれるだけ有難いかも」 素っ気ない文章の中に、ちょっとだけ含まれている、僅かな幸せを探す。俺の書くメールに、毎回律儀に返信してくれる関さん。 文章は本人同様、素っ気ないものだが、その言葉の裏の裏を、きちんと読みとって噛み砕く。 俺ってどんだけ、関さんに夢中なんだろ。 呆れ果てていたそのとき、コンビニの扉が音を立てて開いた。「いらっしゃいませぇ」 反射的に挨拶をし、入って来たお客を確認する。次の瞬間、心臓がバクバクと一気に、駆け出してしまった。「関さん……」 と背が高くて色白の男性が、何かを喋りながら、楽しそうに入って来たから。 もう何度目だろう、この切ない気持ちを、ぎゅっと噛みしめたのは―― 俺は思わず、俯いてしまった。 レジ横にあるお弁当コーナーで、仲良く品定め。まるで見せつけられている様である。「どれにしようかなぁ……」「数少ない弁当に、どうしてそんなに悩むんだ。さっさと選べ、水野くん」「食べたかったお弁当が、売り切れてたんですってば。だから悩んでるんですよ」 うーんと言いながら、棚を覗きこむ関さんの想い人。そんな彼を、じっと見つめる関さん。 見つめる関さん……って、あれ!?(俺――?) もしかして彼を通して、俺を見つめてる!?――見つめられているのか、俺?『俺のホークアイにかかったんだ。これから覚悟しろよ?』 以前告げられた、その言葉を思い出す。突き刺さるようなその視線に、どうしても目が離せなかった。俺だけを見つめて欲しいと強く願ってしまう。「水野くん……」「はい、すみませんっ! なかなか決められなくって」 棚から顔を上げた想い人は、慌てふためく。関さんは、まだ俺を見続けていた。 その視線に気がつき、想い人も不思議そうな顔をして、小首を傾げながら俺を見る。「紹介するよ。彼は……俺の男なんだ」「は!?」 俺と想い人は素っ頓狂な声で、同じセリフを吐いてしまった。「えっと、
last updateLast Updated : 2025-09-25
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監察日誌:熱い視線と衝動的な想い3

*** 俺がバイトを終える五分前に、コンビニ前に車を停めた、関さんを発見した。今回は買物がなかったのか中には入らず、俺を待ってくれるみたいだ。 こうなると仕事が上がる時間が、異常なくらい長く感じてしまう。早く関さんに会いたいという気持ちで、いっぱいになって仕事どころじゃなくなるから。 そんな落ち着かない心情を悟られないように、積極的にせっせと棚の整理をしていたら、「今日はお客がいないから、上がっていいよ。お疲れさん」 店長の言葉が、神の声に聞こえた瞬間。残り三分でも、非常に有難い。「お疲れ様でした、失礼しますっ」 ペコッと頭を下げて元気よく言ってから、急いで着替えて、関さんが待つ車に走った。 いつものように、助手席の窓ガラスをコンコンしてから、ドアを開ける。「こんばんは。お待たせして、すみません」 目を伏せて車に乗り込む俺に、関さんはフッと微笑んだ。「何か……えらく浮かれた顔をしてるな。何か、いいことでもあったのか?」 その台詞に、困惑するしかない。浮かれた理由作った原因は関さんが一番、よく知っているだろうに……「関さんって、ホントに意地悪ですよね。俺の気持ちを知ってて、そんな質問をするんだから……」 口を尖らせた俺を確認すると、してやったりな顔してから、アクセルをゆっくり踏み込んだ。「今日は、ビックリしましたよ。水野さん連れて、お店に現れたときは」「ああ。昼飯一緒にしませんかと、誘われたからな。たまに、そういうことがあったろ。今更、驚くことでもないだろう?」「そうなんですけど……もっとビックリしたのは、あの、ですね。水野さんに俺の事を、紹介したじゃないですか。俺の男、だって……」 関さんと俺の付き合いは、囲碁の相手というのが現在進行形。キスだって、あの日以来していないし、勿論それ以上のことすら、していない関係なのに。 突然の俺の男宣言に、すっごく困惑してるんですけど……しかも相手はあの、水野さんになんだから。 自分が好きだった相手に、紹介するというのは、その……俺は自惚れていいんだろうか? チラリと運転してる、関さんの横顔を眺める。その顔色からは、相変わらず何も掴めない。 信号機が赤に変わり、ブレーキを踏んだ関さんが俺に振り向く。「紹介したの、迷惑だったのか?」「ちっ違います。そうじゃなくて、あの……水野さんを吹
last updateLast Updated : 2025-09-26
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監察日誌:熱い視線と衝動的な想い4

***「ん……?」 寝返りしようと体を動かしたら、背中に壁が当たって身動きが取れない。セミダブルのベットに男がふたり、やっと寝ているのだ。腕の中にいる雪雄を見て、やっと自分の置かれている状況を把握した。 口を少しだけあけ、しどけない様子で眠る可愛い姿に、自然と笑みが浮かんでしまう。「こんな姿さえ愛しく思うんだから、相当まいってるよな……」 柔らかい頬にキスをしてやると、少し身じろいでから、すりりと俺に体を寄せてきた。 まったく――無防備すぎる。今の俺が何もしないと分かっていて、寄ってきてるんだろうか。「俺のどこが、そんなにいいのやら……」 ポツリと呟いたら、ふっと目を開いた雪雄。「形の良い耳……」「なんだ、起きているのか?」「ん……。何か聞こえたから、答えただけ」 ぼんやりとしながら、ぶつぶつ答える。もしかして寝ぼけているのか?「耳が良いなんて、変わってるな」「あとね……神経質な関さんに似合わない意外とゴツい造りの、血管の浮き出た手が好きなんだよ」 この微妙すぎる感覚、山上に通ずるものが、あるようなないような。 大学では建築学を学んでいる雪雄。以前空間デザインについて、熱く語られたのだが、正直なところ話についていけなかった。 俺は見たまま、白か黒かを判断する。だが雪雄は違う角度から物事を判断し、鮮やかな色彩をつける。自分にはないその感覚に惚れ込んだのだろうと、容易に分かったのだが。「ねぇ、関さん……」「どうした?」「俺……ウザくないですか?」 余程気になったのだろう。うつらうつらしながらも、たどたどしく訊ねてきた。「バカとは言ったが、ウザいなんて一言も言ってないぞ。ウザいくらいが、俺には丁度いいんだ。そんなこと気にするな」「そ? 良かった……」「ああ。安心しろ。大丈夫だから」 俺の言葉にちょっとだけ微笑んでから、気を失うように眠りについた雪雄。    ウザい……前の彼のことを引きずっているから、心配になって出た言葉だろう。きちんと俺を気持ちを伝えていれば、いらない不安を募らせる必要なんてないのに。「これでも少しは、前進したつもりなんだがな」 お前から貰った好きに見合うくらいの愛を、俺はいつ渡せるだろうか? この両手から零れそうな程の愛を、お前は受け取ってくれるだろうか?「焦がれているという言葉じゃ足りなん
last updateLast Updated : 2025-09-27
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監察日誌:熱い視線と衝動的な想い5

*** 雪雄との付き合いが順調過ぎるくらい順調に、進んでいたある日。難航している仕事に辟易しながら、ため息をついた瞬間、デスクに置いていたスマホが軽やかに着信を告げた。 時刻は午後10時58分……こんな遅くに誰だろうとディスプレィを確認したら、水野くんからだった。「関です……何かあったのか?」「あ、お疲れ様です。水野ですけど今、大丈夫ですか?」 コソコソ喋る水野くんの様子に、眉間にシワを寄せるしかない。「ああ。大丈夫だが……」「俺、今夜当直で、買い出し頼まれてコンビニに来たら、伊東くんが厳つい男に絡まれてて……」「なるほどな。出待ちしたところを狙われたか」「えっと……関さん?」「悪いが、俺が行くまでに雪雄を救出してくれ。もちろん、警官だってことは内緒だ。相手は2年前、伊東くんが付き合ってた元彼だから」 雪雄と本格的に付き合ってから、どうしても元彼の存在が気になって、使ってはいけないラインで調べあげた。 ――スーパーゼネコンにお勤めの元彼さん。最近縁談話が破談となり、それが原因なのか、地方へ飛ばされる予定になっていたはず。 なので、そろそろ現れる頃だろうと考えた矢先に、予想が的中してしまった。「良いことに関しては、当てが外れるのにな……」 ポツリと呟き、水野くんの返事を待たずにさっさとスマホを切る。コートを引っ掴み、小走りで扉に向かった。 多分雪雄は、困惑しているだろう。なぜ自分の元に、今頃現れたのかと――。
last updateLast Updated : 2025-09-28
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監察日誌:熱い視線と衝動的な想い6

*** 俺はバイトを終え、ゆっくりした足取りで店を出た。外の寒さに、ぎゅっと体をちぢ込ませたら、「ユキ……」 懐かしい響きで俺を呼ぶ声に、ビクリと体が竦んでしまった。縮こんでしまった体から力が抜けなくて、声のする方に顔を向けることすら出来ない。 確認しなくたって、分かってしまう。高校生のときに初めて付き合った人で、その後俺をこっぴどく振った、大好きだった宍戸さん。 ゆっくり目をつぶり、深呼吸を二回する。大丈夫……俺には、関さんがいるんだから。 目を開けて宍戸さんの顔を、しっかりと見た。「こんばんは、宍戸さん。お久しぶりですね」 顔がやつれて、痩せたように見える。まとってる雰囲気も以前と比べて刺々しさがなく、丸くなったように感じた。 昔の凄味がない分だけ、少しは安心して話せるかもしれない。「ずっとここで、バイトしてるんだな。大学は……建築の勉強は楽しいか?」「楽しいですよ。宍戸さんに教わったことを、復習してるみたいですから」 高校生のとき土木関係のバイトをしていて、大学生だった宍戸さんと出会った。もともと建築に興味のあった俺に、当時いろいろ教えてくれた。 本当に親切で、物知りで憧れた。バイトの仲間内でリーダー的な存在の彼を、独り占めしたいと強く思っていた。 そんなある日、お前が好きなんだと突然抱きしめられて――怖かったけど俺はそのまま、宍戸さんを受け入れた。憧れている宍戸さんになら、いいと思ったから。 だけど大学を卒業して社会人になった途端、俺との距離を置くようになった。ガキな俺はそれがどうしてなのか、全然分からなくて。不安になり、電話やメールを何度もした。離れていく隙を、何としてでも埋めたかったから。『ユキ……お前ウザ過ぎ。俺は本当に忙しくて疲れてんだ。恋人なら分かれよな』「忙しいのは分かるけどさ、少しは俺の事を考えて欲しくて……」『そんな余裕があれば、とっくにしてるって。いい加減にしろよ!』 抱きついた俺を振り払って、足蹴にした宍戸さん。何度も何度も、俺のことを蹴っ飛ばしてから――。『ウザいお前とは、もうやっていけねぇ。出て行けよ』「そんな……」『その辛気臭い顔を見てるだけで、イライラするんだ。早く行けってば!』 こんな酷い別れ方を過去にしたというのに、どうして普通に会話が出来るんだろう? 両手にぎゅっと拳を作って
last updateLast Updated : 2025-09-29
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監察日誌:熱い視線と衝動的な想い7

「恋人だろうがなんだろうが、友達付き合いに口をはさむのは縛り過ぎじゃないのか?」「俺はね、コイツ専属のSPなんです。野蛮な暴漢が近付いたら、排除するのが当然の務めでしょう?」 サラリとすごいことを言ってのけた関さんに、俺の頬が自然と赤く染まるのが分かった。「関さん何気にすごい……そのセリフ、ぜひとも翼に言わせたいっ」 水野さんはひとり、きゃぴきゃぴしている。俺、穴があったら入りたいんですけど。「くっ……アンタがいなければ」 言い終わらない内に関さんに近づき、ガシッと胸ぐらを掴んだ宍戸さん。その瞬間、関さんの腕は俺の体を無理やり遠くへと押し出した。「水野くん、時間っ!」「まかして下さい!」 水野さんは素早く腕をまくって、時計とにらめっこした。 「な、何なんだ!?」「手を出すなら、どうぞ思いきり派手にやっちゃっていいですよ。その代わりすぐそこにある、警察署に連れて行きますがね」 関さんの言葉に、宍戸さんの右手の拳が止まった。体を掴んでいる左手が、わなわなと震えている。「俺はっ! 俺の答えは決まってますから」「ユキ?」 宍戸さんの姿があまりにも哀れで、つい叫んでしまった。関さんを掴んだまま、俺の顔をじっと見る。「どんなに頼まれたとしても、友達だろうが恋人だろうが、戻ることは無理です」 俺は宍戸さんに向かって、頭をペコリと下げた。きっぱり言った俺を、信じられないものでも見るような顔をして、見つめる視線を感じた。「あんな別れ方をしたから……じゃなく、今の宍戸さんは俺が知ってる、憧れた宍戸さんじゃないから」 ゆっくり頭を上げて、頑張って俺の気持ちを伝える。「俺の好きだった宍戸さんは、損得勘定で動く人じゃなかったのに。変わり過ぎてて、正直怖いです」「ユキ……お前がいなくなってから、俺は初めて分かったんだ。どれだけ大事なヤツだったのか……ってさ」「それで代わりになりそうな職場にいる同僚に、手を出したということなんですか」「違っ!」「自分から振ってしまったから格好悪くて、よりを戻そうとはとても言えないですもんね」 核心をついた関さんの言葉に、宍戸さんは掴んでいた手を離した。「後ろを振り返らず進んだ雪雄と、立ち止まったままの貴方じゃ、全然釣り合いません。離れている間、貴方が変わったように、雪雄も変わったんです」 そう言い放つと強
last updateLast Updated : 2025-09-30
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監察日誌:生まれて初めての……

 今日は2月14日、特に行事はない。個人的には何だが……。 監察室の扉の前にチョコが入っているであろう小箱が、3個置かれていた。毎年この時期になると、同じような現象が起こる。添付されている手紙も読まないし、チョコは分からないよう、とある筋に横流ししていた。 屈んで小箱を手に取ると監察室の扉を開けて、深いため息をつきながら中に入る。小箱をデスクに置き、着ているコートを脱いで、ハンガーに掛けたところで、ガンガンと激しく扉をノックしてきた人物。「あ!?」 ビックリした俺は返事をするのを忘れ、顔を引きつらせるしかない。朝から騒々しくする人物は、ただひとりしかいないのだから。「おはようございますっ、関さん!」 いつも以上に、テンションの高い水野くんが登場。俺のデスクにある小箱を見て、ニヤリと笑う。「さっすが関さん。もうチョコ、ゲットしてるんですね」「俺は甘いのが苦手だから、昨年同様、好きなのを持っていってくれ」「いやぁ、今年は遠慮しますよ。だって俺もチョコもらったし……」 嬉しそうに言ってから、じゃーんと見せつけてくれた。「翼がね、警察学校から、わざわざ送ってくれたんですよ。俺、超嬉しくって!」「箱に何か張ってあるが、メッセージか?」 目を凝らして、その内容を読んでみる。「『喜び勇んで、悶えてしまえ。悶え過ぎて、死ぬなよ』って、なんだこりゃ?」「これは翼なりの、心のこもったメッセージなんです。だから俺、朝から悶えちゃって、困ってるんですぅ」「殴ろうが蹴ろうがちょっとした事では、死なない水野くんだから、大丈夫だろう」 矢野 翼のメッセージもどうかと思ったが、その文面通り、死に急ぎそうなほど、はしゃいでいる水野くん。思いっきり嫌味を言ったのに、それでも嬉しそうにしている。「俺は頑張って、手作りしたのを送ったんですよ。バカでかいハートのチョコに、メッセージを書いてみたんです」「へぇ」「でね、関さんは伊東くんに、あげないんですか?」 自分の事ばかり喋り倒すんだろうと思ってたので、俺に投げて寄こした話題に顔を曇らせた。「どうして菓子メーカーの売り上げに、喜んで貢献しなきゃならないんだ。くだらない」「そういうと思ってた。あのね今回俺は、翼からチョコを貰えるなんて思ってなかったんです」 右手人差し指を立てて、偉そうに俺にレクチャーする。「
last updateLast Updated : 2025-10-01
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監察日誌:生まれて初めての……2

*** 仕事中、関さんからメールが届いていた。休憩時間に、じっくりとそれを読んでみる。『明日親友の祥月命日なんだが、一緒に行くか? 行くなら俺の家に泊れ』 という内容のもので。もちろんすぐに、二つ返事でOKを出した俺。いつも通り、仕事が終わるのをコンビニ前で待っていてくれたんだけど。 助手席に乗り込んだ俺の目に映った関さんが、いつもの関さんじゃなく。すっごくやつれていて、疲れ切った感じに見えてしまった。「こんばんは……。明日の休みをとるのに、お仕事、かなり頑張ったでしょ?」「あ? まぁな。うん……」 しかも何だか、心ここにあらずみたいな感じ。体調でも悪いんじゃないだろうか。 信号が赤になるのを見計らい、そっとオデコに手を当ててみた。むー、熱はない。「どうした、急に?」「何か関さん、変だから。もしかして、体調が悪いのかなって」「俺はいつもと変わりない」 チラッと俺の顔を見て、すぐに前を向く。運転中だから当たり前の行動なんだけど、どうも素っ気ない。俺、知らない間に地雷でも踏んでしまったかな?「ねえ何か、関さんを怒らせるようなことでもしちゃいましたか?」「いや……何もしてないぞ」 いやの後の間が妙に空いていて、余計に気になるんですけど。「関さん、何か隠してるでしょ?」 よく考えたら、今日は2月14日のバレンタインデー! もしかしたら関さん、すっごい美人に愛の告白でもされて、チョコを受け取ってしまったとか!? それを隠すのに、きょどっている可能性が大かも。 運転している関さんの体に遠慮なく詰め寄って、顔をじっと見つめた。途端に眉間にシワを寄せ、目の下を赤くさせる。「やっぱり関さん、チョコ……」「どうして分かったんだ。お前はエスパーか?」 ちょっと照れたような表情と一緒に、困った顔を滲ませて俺を見る。「だって――」 惚れた欲目じゃないけど、関さんは俺には勿体なくらい格好いい人なんだ。好きだとかは言葉にしないけど、たまに心臓をぎゅっと鷲掴みされるような行動をして、俺を翻弄させたり。 見た目クールで淡白そうなのに、一度火がつくと、とことんまで俺を追い詰める。そんな関さんが俺は大好きだから、女だろうが男だろうが渡したくない! 下唇を噛んで、俯いた俺の頭をそっと撫でてから、「まさか強請られるとは、思ってなかった」 困った表情を浮
last updateLast Updated : 2025-10-02
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監察日誌:親友の墓参りから

「実際に見た印象と、関さんから聞く山上さんの印象、かなりズレがあるなぁ」 お墓参りに行く道すがら、雪雄は不思議そうな顔をして、俺を見上げた。雪雄が手に持っているマーガレットが、清楚な雰囲気とマッチしていて、見るだけで目が癒される。「ヤツは黙っていれば良い男なんだが、我を通すためには、手段を選ばんからな」「え~、ジェントルマンな感じに見えるのに、関さん並みにワガママなの?」「何だそれは。俺に喧嘩を売ってるのか?」「そうかぁ、類は友を呼ぶんだね」 俺の質問をスルーして、勝手に完結する雪雄。最近いつも、こんな調子である。 山上の墓前に差し掛かった時、誰かが拝んでる姿が目に映った。背が高く、がっちりとした体型。死という言葉が似合いそうなくらい、何かを頼み込んで拝んでいるようにも見える。「ねぇ、山上さんのお墓ってあそこ? 誰かいるみたいだね」 そっと指を差して、俺に確認する。 彼は確か、警察学校にいるはずの人間なんだが、墓参りのためだけに、わざわざ出てきたんだろうか? 俺たちが山上の墓前に佇むと、ゆっくり振り返った矢野 翼。「山上の祥月命日のために、わざわざ学校を出てきたのか? 矢野 翼くん」 挨拶をすっ飛ばし、とりあえず疑問をぶつけてみた。「うわっ! み、水野さんの未成年の彼氏さん!?」 雪雄が驚いて発した言葉に、矢野 翼はギョッとした顔をした。頼むから、この場を混乱させないでくれ――「えっと、ビックリさせちゃってごめんね。このメガネの人は、水野さんの上司みたいな人で関さん。俺は付き添いで来た、伊東って言います」「ああ、マサ……じゃなかった、水野からよくお話を伺ってます。すっごくお世話になってるって」「昨日も朝一番でやって来て、君から貰ったチョコを自慢していたぞ。悶え死にそうな勢いだった」「ぶっ! 何やってんだよアイツ……恥ずかしすぎんだろ……////」 右手を口元に当てて、目もとを真っ赤に染めた矢野 翼。この姿を見たら、水野くんは昨日以上に、身悶えるだろう。「あの、スミマセン。学校の件でしたよね。俺の親父が一昨日ぶっ倒れまして、急きょ実家に帰って来たんです。原因は過労だったので、今日午後一で戻ることになってます」「そうか、大変だったな」「いや、俺としてはラッキーだったかな、と。偶然とはいえ今日ここに、来られたんだから」「水
last updateLast Updated : 2025-10-03
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コンビニで――

仕事が終わるの時間と恋人のバイトの時間が重なれば、たまにコンビニへと迎えに行っている。だがそこで、最近見かける客がえらく気になってしまった。 目が合うと何故だか全身から放たれる、敵意剝き出しのオーラが漂っていて、何なんだコイツはという不快感と一緒に、更なる疑惑が持ち上がってしまう。 もしかして、雪雄のことが好きなんじゃないかって―― それ故に何とかして時間をやりくりし、コンビニに日参することになった。 ***「いらっしゃいませ!」 仕事が終わり、いつものように雪雄が働いているコンビニに顔を出した。カウンターには雪雄と最近入ったであろう細身で、どこにでもいそうな感じの若い男性店員がいた。 ふたりで楽しそうに仕事している様子に、ちょっとだけ妬けてしまう。 チッと思いながら飲み物が売っているところに行こうとしたら、背の高い男性とぶつかってしまった。「すみません……」「いえ。こちらこそ、ぼんやりしてしまって」 ぶつかった衝撃でズリ落ちてしまったメガネを上げて、男性に謝る。そこではじめて気がついた。 同じ時間帯に、何度か逢ってるヤツだ。山上に勝るとも劣らないその容姿と、漂わせている独特な雰囲気――カタギの:職業(しごと)をしているとは到底思えない。「最近、この時間によくお逢いしますね」 だたならぬ相手だからこそ、思い切って話しかけてみた。「そうでしょうか。すみません、人の顔を覚えるのが苦手でして」 眉根を寄せ、さも申し訳なさそうにして謝る男に、いえいえと首を横に振った。顔は謝っているが言葉に抑揚がなく、謝っていない感が満載だ。 水野君よりも少しだけ背の高い男を見上げながら、口元に微笑を湛えてやる。「職業柄、人の顔を覚えるのが仕事なので、お気になさらずに。それにアナタのような、整った容姿の方を覚えていない方が、大変失礼になってしまいます」 俺の言葉に男は笑みを浮かべるどころか、逆に挑むような眼差しで見下ろしてきた。「……俺を持ち上げて、何を聞き出したいのでしょう?」「別に、持ち上げているワケではないですよ。素直な感想を、述べているだけです」「素直な感想、ね――」 小首を傾げ、印象的に映る瞳を細めて、俺の後方を見やる。振り返ってその視線を辿ると、雪雄が働いているカウンターだった。「ふふっ、目の色が変わった」「!!」「しまった
last updateLast Updated : 2025-10-04
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