観察室のデスクから

観察室のデスクから

last updateDernière mise à jour : 2025-10-19
Par:  相沢蒼依Complété
Langue: Japanese
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親友兼相棒にこぼした当時の山上の心情と、関監察官の視線の先に映る、お相手は誰なのか!? 決定的な失恋をした彼の前に、突然現れた人物。 「一夜限りでいいから、相手になって下さい」と――。

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Chapitre 1

監察日誌:山上と新人

 はじまりは、山上の何気ない一言だった。

「今日フワフワしてて、足の速いヤツに出逢ったんだ……」

 俺は手元にある書類と格闘しながらだったが、その異質な一言に反応し、眉間に深いシワを寄せながら、しぶしぶ顔を上げた。

「なんだ。その変な形容詞は……なぞなぞか?」

 応接セットの椅子に座り、テーブルに長い足を乗せて、口元に魅惑的な笑みを浮かべて俺の顔を見る山上。

「ん~……。ピンクのウサギくんって感じかなぁ」

 嬉しさを隠しきれない様子に呆れてため息をつき、デスクに頬杖をついた。いつもなら――。

『使えそうなヤツ、〇〇で見つけたさ』

『良さげな人材、信じられないところから発掘したぞ』

 なんて台詞通りに実に分かりやすく、知らせていたけれど。ピンクのウサギくんって、いったい……?

「山上、見ての通り俺はすごく忙しいんだ。戯言なら、他所で報告してくれないか」

 吐き捨てるように告げ、書類にさっさと視線を落とした。山上はチッと舌打ちして立ち上がり、俺の傍にやって来る。

「その内こっちに来るから、関に紹介するよ」

「俺に紹介するまでに、潰れなきゃいいがな」

 今まで山上が連れてきたヤツは、一ヶ月も持たずに消えているから。

 顔を上げずに視線だけで山上を見ると、相変わらず嬉しそうな表情をキープしていた。

「アイツはそんな、ヤワなヤツじゃないよ。フワフワしてるけど、芯は強いと見たね僕は」

 ――お得意の刑事の勘、ですか……。

「分かった。楽しみにしてる」

 その日一日、ご機嫌で過ごした山上だったが翌日は一転、不機嫌丸出しで現れた。

「毎日騒々しいな。いったいどうしたというんだ?」

 前日同様にデスクに頬杖をついて、呆れた眼差しを山上に向けてやる。

「どうしたもこうしたもないよ。水野のヤツ、僕の家の力を断りやがった」

「水野? 昨日のピンクのウサギくんのことか?」

 山上の家の力を断るなんて、珍しいヤツがいるもんだ。

 俺が目を細め嬉しそうにすると、ますます苛立った様子になる。

「関……なんだよ、その顔。僕の不幸を喜んでるのか?」

 なにをやっても様になる山上は、格好よくデスクにひょいと腰かけ、俺に大きな背中を向けた。

「昨日お前は言ったじゃないか、芯が強いって。その強さで必ず、ここにやって来るだろう?」

 その寂しげに映る背中に、そっと問いかけてやる。

「せっかく上司のバカ長を遠くに飛ばしたっていうのに、すぐに来ないなんて僕の計算が、大幅に狂ってしまったじゃないか」

 俺の問いかけを無視して、他にもブツブツと文句を言い続ける山上。

(やれやれ――相当、頭にきているらしいな)

「良かったじゃないか。大嫌いなデカ長がいなくなって。お楽しみは、あとにとっておけってことだよ」

 なにかにつけて山上に媚びを売っていた、目障りな上司が消えたのだ。なので、悪いことばかりじゃない。

 俺の台詞に、山上はうんざりとした顔で振り返ると、

「お楽しみ過ぎて、明日にでも忘れるかもな……」

「まったく……。俺は首を長くして、待つことにするよ。さて今日は一時間後に、お前の部署に参上するからな。市の公園管理所から、この間の件で苦情がきているんだから、覚悟しておくように!」

 公園での捕り物劇で、いろいろ破壊した山上。これも、いつものことなのだが。

「あ~あ。水野も関みたいに指定された時間に、ちゃっかり来ないかなぁ」

 無理な願望を呟きつつデスクから降りると、しょんぼりしながら部屋を出て行く。普段見せない、そんな寂しそうな顔を見たら、手を貸してしまうじゃないか――。

「その水野くんが来る日を俺が調べてやるから、それまで指折り数えて頑張れ山上!」

 まさかこのときは親友がソイツに、恋心を抱いてるなんて思いもしなかった。

「サンキュー……楽しみにしてる」

 振り返らず右手を上げて出て行った姿に、呆れ返ることしか出来なかったのである。

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監察日誌:山上と新人
 はじまりは、山上の何気ない一言だった。「今日フワフワしてて、足の速いヤツに出逢ったんだ……」 俺は手元にある書類と格闘しながらだったが、その異質な一言に反応し、眉間に深いシワを寄せながら、しぶしぶ顔を上げた。「なんだ。その変な形容詞は……なぞなぞか?」 応接セットの椅子に座り、テーブルに長い足を乗せて、口元に魅惑的な笑みを浮かべて俺の顔を見る山上。「ん~……。ピンクのウサギくんって感じかなぁ」 嬉しさを隠しきれない様子に呆れてため息をつき、デスクに頬杖をついた。いつもなら――。『使えそうなヤツ、〇〇で見つけたさ』『良さげな人材、信じられないところから発掘したぞ』 なんて台詞通りに実に分かりやすく、知らせていたけれど。ピンクのウサギくんって、いったい……?「山上、見ての通り俺はすごく忙しいんだ。戯言なら、他所で報告してくれないか」 吐き捨てるように告げ、書類にさっさと視線を落とした。山上はチッと舌打ちして立ち上がり、俺の傍にやって来る。「その内こっちに来るから、関に紹介するよ」「俺に紹介するまでに、潰れなきゃいいがな」 今まで山上が連れてきたヤツは、一ヶ月も持たずに消えているから。 顔を上げずに視線だけで山上を見ると、相変わらず嬉しそうな表情をキープしていた。「アイツはそんな、ヤワなヤツじゃないよ。フワフワしてるけど、芯は強いと見たね僕は」 ――お得意の刑事の勘、ですか……。「分かった。楽しみにしてる」 その日一日、ご機嫌で過ごした山上だったが翌日は一転、不機嫌丸出しで現れた。「毎日騒々しいな。いったいどうしたというんだ?」 前日同様にデスクに頬杖をついて、呆れた眼差しを山上に向けてやる。「どうしたもこうしたもないよ。水野のヤツ、僕の家の力を断りやがった」「水野? 昨日のピンクのウサギくんのことか?」 山上の家の力を断るなんて、珍しいヤツがいるもんだ。 俺が目を細め嬉しそうにすると、ますます苛立った様子になる。「関……なんだよ、その顔。僕の不幸を喜んでるのか?」 なにをやっても様になる山上は、格好よくデスクにひょいと腰かけ、俺に大きな背中を向けた。「昨日お前は言ったじゃないか、芯が強いって。その強さで必ず、ここにやって来るだろう?」 その寂しげに映る背中に、そっと問いかけてやる。「せっかく上司のバカ長を遠
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監察日誌:山上と新人2
*** ピンクのウサギくん、もとい水野くんがやって来る日。山上は予想通り、そわそわしていた。 俺は前日から仕事が超多忙で、かまう暇なんて全然ないというのに、仕事をしているそばにわざわざやって来て、ひとりで喋り倒し、勝手に出て行く始末。 同じ署内にいるんだから、その内会えるだろうと、ゆったり構えていた俺。その後、山上からもまったく音沙汰がなかったので、いつものように逃げ出したのだろうと思った。 山上と音信不通になった六日後の夕方、煙草を吸いに喫煙所に行くと、煙草も吸わず俯いて座ってる、気落ちした山上を発見。 ――予想どおりピンクのウサギくんが音をあげて、逃亡でもしたのか……。「お疲れ。珍しく、ふさぎこんでいるじゃないか?」 隣に座って肩を叩くと、ゆっくり顔を上げて、ぼんやりしたまま俺を見る。その瞳には、悲壮感が漂っていた。「水野に……ファイルで頭を叩かれた……」 その言葉に何もしていない、俺の眼鏡が自然とズリ下がった。(――この山上を、ファイルで叩いただと!?)「水野くんっていうのは、随分とやんちゃするヤツなんだな」 山上の家の力を断ったり、叩いたり……芯が強いとかの問題じゃないぞ。「水野はいいヤツだよ。今回は僕が悪いんだ……」 そう言って、寂しげに天井を仰ぎ見る。自分の非をあっさりと認めるなんて、山上らしくない。いつもなら、ぶーぶー文句を言い続ける場面なのに――。「他のヤツが水野に触ったのを見て、何かイラッとしたんだ。それでソイツの手を、叩くように払ったら、僕の態度がなっていないって、水野が怒って叩いたんだよ……」 長い台詞を言い終えると、手にしていたコーヒーをあおるように飲み干す。俺はズリ下がった眼鏡をやっと元に戻し、しげしげと山上を見た。 今の台詞を総合的に判断すると、オソロシイ答えが導き出されてしまう。この男は他人の機微に関して、敏感に反応するが、愛情のない家庭で育ったせいで、自分のことには無頓着な奴だった。 だから尚更、この答えを言っていいものだろうか――。「山上は、何が一番ショックなんだ?」「ん~……。水野に叩かれて、嫌われたことかな」「他の人間が、水野くんに触っただけでイラついたのは、どうしてだと思う?」 天井を見上げていた山上が、俺の顔を不思議そうに見つめる。「どうしてだろ……?」 ――その答えを、言っ
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監察日誌:山上と新人3
*** 次の日、車を駐車場に停め、署内の玄関目指して足早に歩いていた。前方にひどく肩を落とした、長身で細身の男性が俯きながら、とぼとぼ歩いている。 その横顔を見て、つい最近見た書類の写真をふと思い出した。「ピンクのウサギくん……」 いい機会だから挨拶しようと近づいたら、首の後ろに見覚えのある噛み痕があるのを目ざとく発見してしまった。 それを見て、眉根を寄せるしかない。まさかとは思うがこの痕を付けた犯人は、山上だろうか――。 愛情が屈折したヤツだから、相手を求めることになったとき、これでもかと自分を押しつけながら貪るんだ。山上の癖その一が、噛むことだから――。「水野くん……」 躊躇いながら声をかけたがなにか考え事しているらしく、あっさりと無視された。 はあぁとため息をついた水野くんの左肩を掴むと、かなり驚いた顔をしてバッと振り返る。「君は、耳が遠いのか?」「へっ!?」「先ほどから君を呼んでいた。水野くん」 じっと顔を見つめると、緊張した面持ちになった。「失礼しました。考え事、してまして……」「考え事ね……。まぁ一緒にいる山上が、苦労の種だろう」 俺は眉間にシワを寄せ、目を細めて憐れみを示した。「ああ、紹介が遅れたね。自分は監察官の関と言います。山上とは同期なんです」「同期……監察官……」 水野くんは力なくぼんやりと、俺の言葉を繰り返す。「山上の始末書の数々には、まったく呆れ果てる。そう思わないか?」「はあ、そうですね……」 山上の話をすると、途端に顔が曇った。なにかあったのは、間違いなさそうだ。「それに手が早い。相手の気持ちなんて、お構い無しだからね。山上の噛み痕、ワイシャツから少しだけ見えてる」 俺は自分の後頭部を指差して、水野くんに教えた。「か、噛み痕っ!?」 ビックリした水野くんは、慌ててワイシャツの襟を引っ張り上げ、見えないよう過剰に反応する。「俺の視線がたまたまソコだったから、見えただけだ。少しだけだと言ったろう? 神経質にならなくても、いい」 呆れた表情で言うと、軽くため息をついて、すみませんと呟いた。「山上に迷惑なことをされたなら、俺に言えばいい。喜んで飛ばしてやるよ?」 その言葉に、水野くんが口を開きかけた瞬間――。「こらぁ、僕の水野を天下の玄関口で口説くなよ。関っ!」 片手にコーヒーシ
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監察日誌:山上と新人4
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監察日誌:悲劇の行方4
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監察日誌:悲劇の行方5
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監察日誌:悲劇の行方6
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