Semua Bab 観察室のデスクから: Bab 11 - Bab 20

45 Bab

監察日誌:残された仕事と守るべき者

その後ふたりで協力して、山上が残したデーターをすべて回収し、なんとか書類を纏めて、すべてのホシの洗い出しをした。発砲事件を起こしてくれたおかげで、予定よりも早く送検できる手筈となったのがさいわいだった。 裁判所に重要書類を提出する日まで、あともう少し――不眠不休に近い仕事を、ここ数日こなしていたとある夕方。「水野くん、大丈夫か? 頭がふらついているが……」 「大丈夫です。関さんこそ、ふらついていませんか?」 デスクの後方にある窓からオレンジ色の西日が入ってきて、その暖かさが俺たちふたりを眠りの世界へと誘っていた。 お互い隣同士、パソコンとにらめっこして仕事をしている最中。横目でそっと水野くんの様子を見ると瞼が降りる寸前で、パッと目を覚ましながら、必死に睡魔と格闘していた。「俺はふらついてないから、大丈夫だ」(――山上も無茶をするヤツだったが、水野くんも相当負けず嫌いらしい) 幼い子供のような愛らしい仕草に笑いながら、強引に肩を抱き寄せてみた。「ちょっ、関さん?」 「俺の肩を貸してやるから、20分くらい仮眠しろ。その方が効率が上がる」 「そんな……」 「隣でうつらうつらされた方が、かえって迷惑だ。それともぶん殴って、気絶させた方がいいか?」 水野くんの顔に拳を見せつけると、慌てて肩に頭を乗せた。「すみませんっ。肩、ちょっとだけお借ります」 おどおどしながら、慌てて目を瞑る。 まったく――どうして俺は水野くんに、優しい言葉のひとつくらいかけてやれないんだろう。これじゃあ嫌ってくれと、言ってるようなものじゃないか……。 謝ろうと考え、顔を水野くんに向けると、彼は既に夢の中の人となっていた。 肩を貸したが水野くんの方が背が高いので、窮屈そうに寝ているのがどうにも忍びなく、頭を持ち上げてそっと膝に移動させてみる。頭を撫でると気持ち良さそうに、体をすり寄せてきた。「俺が、ずっと前から思ってることを話そうか……」 頭を撫でながら、ポツリと呟く。寝ている今なら少しは、素直な言葉が出てきそうだったから。「君が好きなんだ。山上と付き合っていても、どうしても諦めがつかなくて……」 想いは胸の中で、ずっと燻っていた。時折見せる笑顔が山上に向けられたものでも、それを遠くから見ることができて、とてもしあわせだった。 水野くんがしあわせで
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-15
Baca selengkapnya

監察日誌:残された仕事と守るべき者2

*** 所轄内部の汚職事件を暴いた俺と水野くんは、その功績を称えられて、表彰されることになった。 表彰式が行われるホテルに一緒に行こうと、捜査一課に向かっている矢先、向こうからやって来た、林田さんに話しかけられた。「水野、見かけませんでしたかね?」 「いえ……これから表彰式の会場へ、一緒に行こうとしていたところだったんですが」 「あのバカ、こんなモノを置いていきやがったんです」 胸ポケットから、辞表と書かれた封筒をチラリと見せる。水野くん、もしかして――。「俺も一緒に、捜しましょうか?」 「アイツの行き先は、スマホのGPSで追えるから大丈夫ですよ。関さんは表彰式に出席してください。ふたり揃って欠席なんて、前代未聞になってしまう」 「でも彼が、早まったことをする可能性も……」 眉根を寄せながら心配して言うと、林田さんは突然声を立てて笑った。「関さんアンタ、水野がそんなにやわなヤツに見えます?」 「いえ……それは」 「俺は山上から水野宛に、遺言を預かってるんですよ。刑事を辞めるなって……」 「山上から?」 死に際のヤツの行動に驚いて意外そうな顔をすると、林田さんは頬をポリポリ掻きながら、照れたように言う。「こんな大役を俺に頼む山上も、どうかと思ったんだけどな」 「林田さんはふたりの、直属の上司ですから。当然適任ですよ」(――山上は、やっぱり凄いヤツだ。あの状況で水野くんがどういう行動に出るかを予測し、大事な言伝を林田さんに頼むんだから)「さてうちの水野は、どこに逃亡したのかねぇ」 スマホを取り出し、位置情報を確認した林田さん。俺も気になり、思わず覗いてしまった。「この道って、墓地に繋がってるラインですよね?」 「山上の墓に行くつもりか……なんていうか、水野らしいな」 「表彰式に行くついでに、お送りしますよ。通り道ですし」 「通り道だが、遠回りになっちまうじゃねぇか。表彰式に遅れたらどうする?」 林田さんの困惑した声を打ち消すようにほほ笑みを湛え、眼鏡を押し上げた。「水野くんの緊急事態ですからね。もちろん最初っから、赤色灯を回して飛ばしますよ」 「公私混同もいいトコだな、おまえさん。さすがは山上の相棒だ」 「痛み入ります。さあ、そうと決まれば行きましょうか」 俺は水野くんの元に林田さんを送りこみ、辞表を撤回させ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-16
Baca selengkapnya

監察日誌:決定的な失恋と唐突な脅迫事件

*** 「おはよう、水野くん」 その日珍しく署内の玄関口で水野くんを見かけたので、後ろから声をかけた。俺の声に振り返った彼の顔色はえらく冴えないもので、目の下には大きなクマまで作っている。「あ……おはようございます……」 「随分と悩んでいるようだな。なにか困りごとか?」 「えっ!? どうして」 「水野くんの顔が、いつもと違うからだ。目の下にクマを作るくらい、悩ましいヤマなのか?」 意味なく眼鏡を上げながら指摘すると、ますます困った表情を浮かべて視線をきょろきょろ彷徨わせる始末。(これは、かなりアヤシイじゃないか――)「全然っ、たっ、大したことはないんです。プライベートでちょっと……」 「ほう……それは、非常に気になるな」 「気にしないでくださいっ! 本当にくだらないことなんです。関さんになんて、とても言えませんっ」 慌てふためきつつ、俺との距離をとる水野くん。その挙動不審な態度がアヤシすぎて、さらに質問を重ねようとしたときだった。「そういえば、急いで仕上げなきゃならない仕事がたくさんあったんだ。関さんすみません、お先に!!」 水野くんはわかりやすい嘘をついて、走ってその場を後する。(俺にはとても言えないことって、いったいなんだろうな? どんな種類のやましいことを、隠しているというんだ) どうにも気になったので、捜査一課の刑事たちにさりげなく紛れて、こっそりと三係を見張った。「ミズノン、昨日はお手柄だったそうじゃないか。なのにどうして、そんな浮かない顔してるんだ?」 俺の他にも、水野くんの様子が違うのを指摘した刑事。「そりゃ悩むよなぁ。面食いな水野の恋のお相手が、一筋縄ではいかないヤツなんだから」 水野くんの横をすれ違い様、大きな声で言う林田さん。(――なるほど、恋の悩みだったのか)「ちょっ、水野って面食いなの? 意外だなぁ。なんでデカ長が、その相手のことを知ってるんすか?」 「たまたま現場に遭遇したまでだ。偶然って怖いねぇ」 林田さんは意味深な笑みを浮かべながら告げて、颯爽と出口に向かう。そんな彼をすぐさま追いかけ、捜査一課を出たところで勢いよく肩を掴んだ。驚いた顔で振り返った林田さんの顔が、少しだけおもしろい。「ちょっと関さん、びっくりするじゃないですか。おはようございます……」 「おはようございます。さきほど
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-17
Baca selengkapnya

監察日誌:決定的な失恋と唐突な脅迫事件2

*** 失恋しても腹は減る。仕事が進まなかった今日は、残業しないことにした。夕飯を買うために傍にあるコンビニに寄って、そのまままっすぐ自宅に帰る。(最初から好きにならなきゃ、こんなモヤモヤした気持ちをせずに済むのに……本当厄介だよな) そんなことを悶々と考えながら部屋の明かりをつけて、テーブルの上に買ってきた弁当をのせようとビニール袋から取り出したら、中からレシートがはらりと落ちてきた。(確かレシートは、コンビニのレジで捨てたはずなのだが――) 床に落ちたレシートを取ろうとして腰を屈ませると、裏になにかが書かれているのに気がついた。「……なんだ?」 咄嗟の判断でポケットからハンカチを取り出し、指紋が付かないようにレシートを拾う。とりあえず明日、前歴者リストから指紋を検索して、ホシの目星をつけようと思いつく。 目の前にレシートを掲げ、裏面に書いてある内容を読んでみる。『微糖の君へ アナタのメガネになりたい。一番先に、アナタの視界に入りたいから。 アナタの携帯電話になりたい。すぐそばでアナタの声を聞きたいから。 アナタの吸うタバコになりたい。アナタの唇に触れたいから。 アナタを、ずっと見ていました。』「おいおい。俺はストーカーされていたのか? 恐ろしいことばかり、羅列されているじゃないか……」 背筋がゾッとして、食欲が一気に失せた。自分が好きな微糖の缶コーヒーや煙草を吸うことも把握されている時点で、気持ち悪さに拍車がかかる。しかも今日は失恋のショックを引きずっていたせいで、いつもよりぼんやりしていたから、店員の顔すら覚えていない。だが、ひとつわかっているのは――。「ストーカーしている相手は、男だってことだ……」 いったい、いつから狙われていたのだろう? こんな俺が男に好かれる覚えは、まったくないのだが。 眉間にシワを寄せて考えても、さっぱり頭が働かない。「いろんなショックが一気に重なり過ぎて、今日はダメだな。明日やっつけよう」 テーブルに置かれた弁当を冷蔵庫に放り込み、さっさとシャワーを浴びて、この日は早く就寝した。 明日朝一番で、調べ物をしようと思ったから。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-18
Baca selengkapnya

監察日誌:決定的な失恋と唐突な脅迫事件3

*** 早朝、誰よりも早く署内に到着。監察室でちまちま指紋を取り検索をかけたが、残念なことにヒットしなかった。 俺自身、そのコンビニにはよく行くが仕事柄不規則なので、曜日や時間帯はすべてバラバラである。今朝もコーヒーを買いに寄ってみたものの、レジには若い女性店員とおばちゃん店員がいただけで、収穫は得られなかった。 透明の袋に入れた脅迫めいたレシートを、ぼんやりと眺めてみる。「俺が微糖のコーヒーを飲むことも、タバコを嗜むことも知っている人物。つまり男性店員がホシ、なんだよな……」 書かれている文字は走り書きにも見えるが、バランス良く整っている筆跡に好感が持てた。文字に対して好感は持てるが書いてある内容は、どことなく山上を彷彿とさせるものがある。「執着心の強さ……か。ここまで想われるような、人間じゃないんだがな」 苦笑いしながら、レシートをポケットにしまった。おかげで昨日の失恋のショックが、半分以上失せている気がする。「お礼を言わなきゃならないから、絶対に捜しだしてやろう」 強引な理由を作って、自分に発破をかけた。理由はどうあれ、どんなヤツがストーカーしているのか、興味が湧いたのである。だがどんなヤツが相手でも、付き合う気は毛頭なかった。「さてと、そろそろ学校が始まる時間だな。矢野翼くんの顔でも、拝みに行くとするか」 腕時計で時間を確認して、椅子から立ち上がる。水野くんが好きな男子高校生――中身が山上に似ているという彼にも、大いに興味が湧いたから――。 デスクに山積みにされている仕事をチラリと見て胸が痛んだが、興味が勝っているので華麗にスルーする。とっとと彼の拝見が終わってから、目の前の仕事を片付けてやろうじゃないか。 昨日の沈んだ気持ちとは一転、軽い足取りで監察室を出た。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-19
Baca selengkapnya

監察日誌:決定的な失恋と唐突な脅迫事件4

*** 俺の心配をヨソに、水野くんと男子高校生の恋愛は災い転じてなんとやら。いつの間にか、うまくいってしまったようだった。だって――。「デカ長、今度の日曜、有給使わせてください」 「水野、急にどうしたんだ?」 「実は、翼の家に行くことになりまして……」 たまたま用事があって三係に顔を出した俺の目の前で、すごい話が展開されていく。俺が水野くんの後方で腕を組んで佇むと、林田さんが微妙な表情を浮かべた。俺は唇に右手人差し指を立てて、ナイショをお願いする。「お宅訪問っていったい、なにをやらかしたんだ?」 「ミズノンってば顔に似合わず、手が早いんだね。昨日の二十分の逢瀬で、なにをやったんだよ?」 俺の存在を華麗にスルーした刑事が、水野くんをからかうように声をかけた。その問いかけに、思いっきり顔を引きつらせる水野くんの姿は正直、おもしろいの一言に尽きるものだった。「上田は席に戻りなさい。話がややこしくなるから……で、水野はなにをやったんだ?」 「翼が大学受験を辞めて、警察官になるって言いだしたんです。お父さんがえらく反対しているそうで。その説得に、俺が出張ろうってことになりました」 「水野……間違っても『息子さんをください』なんて、失礼なことを言うなよ。休んでいいから」 「デカ長、ありがとうございます!」 林田さんの冗談をスルーして、大喜びする水野くん。俺なら『お父さんをください!』にして困惑させるがな。(さて、冗談はこれくらいにして……本題に入らなければ) 頭を下げて自分の席に戻ろうとした水野くんを、目の前で不機嫌丸出しな表情を浮かべて、思いっきり睨みつけてやった。「監察官から、直々のお呼び出したぁ水野。覚悟しておくんだな」 「あ~あ、バレちゃったんだね。ご愁傷さま」 林田さんと先輩刑事が、手を左右に振っている。「なんで呼び出されるか、わかっているよな水野くん」 俺の言葉に曖昧に頷いた彼を、監察室へと連行した。さあどうやって、料理しようか?
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-20
Baca selengkapnya

監察日誌:決定的な失恋と唐突な脅迫事件5

***「コイツは、誰だ?」 監察室に入ってから証拠の写真を水野くんに見せつけて、開口一番に問い質した。「えっと……矢野翼、私立高に通う三年生です……」 遠慮がちな言葉とは裏腹に、大きな目を更に大きく見開いて、写真をまじまじと見つめる。「山上の次が、未成年の男子高校生って、ちょっといき過ぎじゃないのか?」 「あの……その」 「君の上司から、しっかり報告を受けているんだ。今更隠しても無駄だぞ」 俺の調べも付いているんだ。見たくない現実を急に突きつけられたこの気持ちは、どうすればいい?「優秀な君がくだらないことで、身を滅ぼす姿を見たくないんだよ」 「……翼との恋愛は、くだらないことじゃないです。俺は真剣に――」 「男同士の恋愛に、明るい未来はあるのか? なぜいばらの道に、まっすぐ突き進むんだ水野くんっ」 「関さん……?」 水野くんの恋愛事件もさることながら、俺のレシート脅迫事件もあれから展開がなかった。なのでついイライラが募ってしまい、水野くんにあたってしまう始末に気持ちはどうにもならなくて――。「山上はどう思うかはわからないが、俺個人としては君には普通の恋愛をして、しあわせになって欲しいと思っているんだ」 「はあ……」 「なのに、君ときたら――」 俺は水野くんの首に左腕を回し、そのまま壁に向かって除夜の鐘よろしく打ちつける。一度ならず、二度三度。「あだだっ……関さん、ちょっ、たんまっ!」 「男子高校生に手を出すなんて……そんなロリコン変態野郎だったとは……俺は失望したんだよ」 四度目のゴンッ! 俺は好きという気持ち以外の心の内を、水野くんに伝えた。伝えたら、意外とすっきりした。なんだか、不思議な感じだ――。 放り投げるように水野くんの体を手放し、両腕を組んでその情けない姿をじっと見降ろした。水野くんは涙目になりながら、しゃがみこんで頭を撫で擦っている。「水野くん、悪いが不毛な恋愛は応援しない。仕事面ではバックアップしてやるが、プライベートに関してなにかあっても、絶対に助けてやらない」 「わかりました。なるべく問題を起こさないよう、隠密に行動します。そこで、お願いがあるんですが……」 上目遣いをして、おどおどしながら拝んできた。「無理な頼みなら、聞かないぞ」 「難しいお願いじゃないですよ。ただその手にしてる写真、俺に
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-21
Baca selengkapnya

監察日誌:決定的な失恋と唐突な脅迫事件6

*** 「レシートの脅迫状が届いてから、今日で10日目……目星すらつかないって、いったい――」 あれ以来、定時後と帰宅前の2回、コンビニに足しげく通っている。アヤシイ店員が多過ぎて、犯人がわかったもんじゃない。 わからない原因を作っているのは、俺のこの目つきの悪さ。会計中にじっと顔を見ると、揃って目を逸らすか、視線を落ち着きなく彷徨わせる店員たち。俺は怒って、見ているワケじゃないのに。ただ観察しているだけ、なんだが……。 うんざりしながら夕飯の入った袋を、店員から受け取ろうとしたときだった。「いつまで回数増やして、日参するつもりなんですか?」 「ん……?」 そのセリフに、目線を店員に合わせた。癖の強い黒髪が印象的な、若い男性店員のぱっちりした二重瞼の瞳は、明らかに困惑の色を滲ませていた。「俺としては、ありがたいんですけどね。微糖の君……」 「――君、だったのか」 まじまじと顔を見つめると、若い男性店員はちょっと俯いてから、「あと20分でバイトが終わるんですが、お時間戴いてもいいですか?」 「ああ、かまわない。外に停めてある車で待ってる」 見つけた嬉しさをひた隠しにして袋を受け取り、車で待機をしていた。 解けなかったパズルが、なにかの拍子にあっさり解けてしまったような。1ピースだけ抜けていたジクソーパズルが、変なところから発見されて完成してしまった感じというか。そんな妙な達成感に、心が満たされてしまった。「自分で見つけられなかったのはやはり残念だが、向こうが根負けしてくれて正直助かった」 流れているピアノ曲に合わせて鼻歌を歌っていると、助手席の窓がトントンと遠慮がちに叩かれた。運転席から助手席を開けてやると、漆黒の髪を揺らして嬉しそうに顔を覗かせる。「失礼します……」 Tシャツにジーパン姿の彼が、おどおどしながら乗りこんできた。大学生くらいだろうか、矢野翼と比べると大人びている。「話ってなんだ?」 俺は彼を見ず前を向いたまま、単刀直入で訊ねた。こちらを見ている視線を、痛いくらいに感じるから。「あの名前……教えてください」 「自分の名前を名乗らんヤツに、教える義理はない」 「すみませんっ! 俺、伊東雪雄って言います。大雪の日に生まれたからって、名前に雪を付けられたんですよ」 安易ですよねと、嬉しそうに呟きながら教えてくれ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-22
Baca selengkapnya

監察日誌:決定的な失恋と唐突な脅迫事件7

***「あっ、もう、そんなトコ……」 「君が、ここを放っておくからいけないんだろう?」 室内に、乾いた音が響き渡る。それを心地いいと思いつつ、目の前にある関さんの顔をドキドキしながら眺めた。「だからって、そんなぁ……えっ、ここも!?」 「どこもかしこも隙だらけだ。取ってくださいと言ってるようなものだぞ」 「だって関さん、めっちゃ強いんだもん。手を広げて、囲もうと思ったんだって」 なぜ故だか車の中で、関さんと趣味の話をした。彼は職務質問をするみたいに、いろいろ俺から聞き出すべく、話を展開させていき――生年月日から家族構成や友人関係、そして趣味の話にまでたどり着いた。「超下手っぴなんですけど、囲碁をやってるんです。じいちゃんがくれた年代物の、かやで出来た足つきの囲碁盤が、すっごくいい音がするんですよ」 「関西に住んでたとき、関西棋院に在籍していた。学生の頃の話だがな……」 「関さんってば、プロを目指してたんですか? あそこに入るのは、至難の業だって聞いてます」 同じ趣味をしていたことを嬉しく思いながら、話に花を咲かせた。「一時はな……。いろいろあって、数年で辞めてしまったよ。君の家にある碁盤、ちょっとだけ見せてもらえないだろうか?」 「ぜひ!」 ――ってなワケで、関さんをまんまと家に招き入れることに成功したんだけど、一局打とうって話になり現在に至る。ド素人相手にプロを目指した人が、容赦ない手でどんどん俺を窮地に追い込んでいく。(関さんってば、こんなふうに恋愛も攻めていけば、きっとあの彼だって手に入ったと思うんだけどなぁ)「伊東くん、余計なことを考えているだろう? スカスカだぞ」 「だって関さんってば、強過ぎるんだもん」 「俺が手を抜いているところがあるのも、わからないのか?」 「わかっているさ。そんなお情け、俺はいらない。自分で切りこむのみ!」 パチン! 俺の一手にメガネをクイッと上げて、真剣な眼差しで盤上を覗きこむ関さんの姿に、自然と胸が熱くなる――やっぱり、カッコイイなぁ。この人の身体の熱は、どれくらいのものなんだろう? どんな抱き方をするんだろうか? 触れられたい……触れて、みたい……。「そんなにじっと見つめるな。穴が開く」 チラリと俺の顔を見てから、すぐ盤上に戻る視線。心なしか少し頬が赤い。「いいじゃん。見るの
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-23
Baca selengkapnya

監察日誌:熱い視線と衝動的な想い

*** 仕事は相変わらず忙しかったが、伊東くんとは定期的に会っていた。毎日マメに、彼からメールをもらっている。『微糖の君へ 今、大学のカフェテラスで、友達と一緒にお茶を飲んでます。今頃関さんは、たくさんのお仕事を一生懸命に頑張っているんでしょうね。大好きなアナタに、一秒でも早く会いたい』 伊東くんから送られてくるメールは、”微糖の君へ”宛てからはじまる。そして、想いをこめた内容を羨ましく思う。 囲碁の勝負のように逃げずに、直球勝負をしてくる彼。漆黒の髪の下にある、意志の強い眼差しを思い出すと、胸がじんと熱くなった。 まだなにも言葉に出来ない俺は、本当にダメな男だ。どうしたものか――。 ため息一つついて、手短にメールの返信をする。『今やってる仕事のカタがついたら、必ず会いに行く。それまで囲碁の練習でもして、首を長くして待っていろ』 文章でさえも、うまく想いを伝えることがなかなか出来ない。こんな俺を、君はいつまで待つことが出来るのだろうか?(きっかけさえ、なにかあればいいのだが……) いろいろ考えていた瞬間、監察室の扉を軽快にノックして入って来た人物。にこやかな笑顔で入室してきたその姿を見て、ぴんと閃いたのだった。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-24
Baca selengkapnya
Sebelumnya
12345
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status