そんなことを話したり考えたりしていると、人影が見えた。女性、らしい。思わず駆け寄る。新川の制止も無視して。「千代」 声をかけると、彼女は目を逸らした。でも、あの髪の結び方。伏せがちな目。シュッとした顔立ち。千代なのは、疑いようがない。「……どうして、ここがわかったの」 千代の第一声は、それだった。確かに、言われればそれも気になりはするか。「……永田霞のこと、知らないわけじゃないんだろ」「教えない」 千代の声は、はっきりとしていた。「もう貴方の正義に付き合わされたくない。だから別れたのに」 そう言い、去りかける千代の手を取り引き留める。「待ってくれ」 握った手は、酷く冷たい。そして、思っていたよりもずっと小さかった。「千代、お前を蔑ろにしていたのは認める」「だったら」 手を振り解こうとする千代。それでも、握り続ける俺。「……これが終わったら、二人で話がしたい」 彼女がこちらを振り返った。目は、丸く見開かれている。 何も話さない。俺も、千代も。どれほどの時間が経ったか、わからない。段々と、俺の手も冷えてきた。冷え切った頃、千代はようやく口を開いた。「……霞くんなら、三階の自習室よ。さっき見た時はね」 そして、もう一言。「終わったら、絶対に話をする?」「当然だ」 手を解くと、熱が戻ってきた。 千代の去る姿を見ていると、新川が来た。こいつなりに、空気を読んだのだろうか。「夫婦喧嘩は終わったのか? じゃ、案内してやるよ。どこにいるって?」 先ほどの情報を新川に伝える。彼は携帯を操作し、こう言った。「侑たちも行くってよ。行こうぜ」 階段を昇っていくと、少しだけ蒸してきた。いよいよ、決着か。この事件も、長いようで短かった。 だが、俺はどうしたいのだろう。永田霞を問い詰めて、彼に罪を償わせるのか。千代と、仲直りをするのか。円香は、東京地検に戻れるのか。問題は山積みだが、とにかく目先のことから片づけていくしかない。 自習室の前で、侑たちと合流した。「じゃあ、行くぞ」 全員に目配せして、中に入る。そこでは、線の細い青年が一人で本を読んでいた。 少し長い黒髪、目つきの悪さ。間違いなく、永田霞本人だ。「……永田霞、だな」 詰め寄ると、彼は目線をあげた。「はい、そうですが」 そう言いつつも、表情は変わらない。「話を
Terakhir Diperbarui : 2026-01-07 Baca selengkapnya