さて、何から訊いたものか。「何を考えている。さっさと話せ。私も暇ではない」 いや、貴方は暇でしょう。神社にいるだけで、実務は何もしてないんだから。 そんなこと思ったら、また見透かされるのか……。面倒だな。「実はですね……根の国の神々のことについて訊きたくて」「そうだと思った。だが、私は奴らについて詳しくはない」 案の定だ。元からそうだと思っていたので、落胆はない。「そうでしょうか。貴方は、オオクニヌシノミコトと対話をしたのでしょう?」 神話の記述でそうだというだけで、実際のところはわからない。だが、言う価値はある。「オオクニヌシノミコト……ああ、あの男か。確かに、会話はした」「それじゃ」「だが、本当に少しだ。当時を再現してみるか」 頭の中に、映像が流れ込んでくる。これは僕の視点ではない。じゃあ、誰の? 答えはすぐに分かった。「大国主命、貴様……我々高天原にこの国を譲れ。この土地は、天照大御神様のものだ。貴様のものではない」 蓮だ。差し出しているこの、武神らしからぬ華奢な手は蓮のものだ。 この物言いも、蓮そのものだ。声も、昔から変化がない。雷斗は後ろにでもいるのだろか。そして目の前には、黒髪を肩ほどまで伸ばした男性。タレ目で柔和そうな容姿だが、今その表情は緊張しきっている。「僕の一存では決められないよ。そうだ、僕の息子にも訊いてくれないか。あの二人が承諾したら、譲ろう」 声まで柔和だ。そして、これは国譲り神話そのままだ。だとすると、今後の展開も予測は出来る。「承知した。では、タケミカヅチ。訊いてくれ」「わかった」 背後から聞こえる声は、僕も知っている雷斗のものだ。この頃はまだ、神の名前で呼び合っていたのか。どうでもいい話だけど、記憶には残る。「待っている間、もてなそうか」 落ち着いた声で、オオクニヌシが提言した。これが善意なのかはわからないが、何となくそんな気はする。「構わぬ。用事さえ終われば、我々は高天原に帰還する。そう時間はかからない」 しかし、蓮はそれを断った。何故だかはわからないけど……プライドに障ったのか? そして、言った通り雷斗はすぐ戻ってきた。二人……いや、二柱の息子を連れて。「事代主の方は了承した」 後ろに控えている、二つ結びの男性は頭を下げた。彼がコトシロヌシなのだろう。「私は、高天原に従
Last Updated : 2025-10-29 Read more