Semua Bab 武神に認められた僕は、高天原の面倒事を処理することになりました: Bab 21 - Bab 30

31 Bab

これが、国譲り

 さて、何から訊いたものか。「何を考えている。さっさと話せ。私も暇ではない」 いや、貴方は暇でしょう。神社にいるだけで、実務は何もしてないんだから。 そんなこと思ったら、また見透かされるのか……。面倒だな。「実はですね……根の国の神々のことについて訊きたくて」「そうだと思った。だが、私は奴らについて詳しくはない」 案の定だ。元からそうだと思っていたので、落胆はない。「そうでしょうか。貴方は、オオクニヌシノミコトと対話をしたのでしょう?」 神話の記述でそうだというだけで、実際のところはわからない。だが、言う価値はある。「オオクニヌシノミコト……ああ、あの男か。確かに、会話はした」「それじゃ」「だが、本当に少しだ。当時を再現してみるか」 頭の中に、映像が流れ込んでくる。これは僕の視点ではない。じゃあ、誰の? 答えはすぐに分かった。「大国主命、貴様……我々高天原にこの国を譲れ。この土地は、天照大御神様のものだ。貴様のものではない」 蓮だ。差し出しているこの、武神らしからぬ華奢な手は蓮のものだ。 この物言いも、蓮そのものだ。声も、昔から変化がない。雷斗は後ろにでもいるのだろか。そして目の前には、黒髪を肩ほどまで伸ばした男性。タレ目で柔和そうな容姿だが、今その表情は緊張しきっている。「僕の一存では決められないよ。そうだ、僕の息子にも訊いてくれないか。あの二人が承諾したら、譲ろう」 声まで柔和だ。そして、これは国譲り神話そのままだ。だとすると、今後の展開も予測は出来る。「承知した。では、タケミカヅチ。訊いてくれ」「わかった」 背後から聞こえる声は、僕も知っている雷斗のものだ。この頃はまだ、神の名前で呼び合っていたのか。どうでもいい話だけど、記憶には残る。「待っている間、もてなそうか」 落ち着いた声で、オオクニヌシが提言した。これが善意なのかはわからないが、何となくそんな気はする。「構わぬ。用事さえ終われば、我々は高天原に帰還する。そう時間はかからない」 しかし、蓮はそれを断った。何故だかはわからないけど……プライドに障ったのか? そして、言った通り雷斗はすぐ戻ってきた。二人……いや、二柱の息子を連れて。「事代主の方は了承した」 後ろに控えている、二つ結びの男性は頭を下げた。彼がコトシロヌシなのだろう。「私は、高天原に従
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-29
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出雲ってなんだ?

 それにしても、国譲り神話って本当だったのか。まだ再現は終わってないけど。「じゃあ……新しい社が欲しい」 オオクニヌシは堂々とそう言い切った。「新しい社、か」 蓮も、満更ではなさそうだ。流石に思うところがあったのだろうか。「承った。天照大御神様には、そう伝える」 そして、蓮の手には契約印。この時代からそんなものがあったのか。「では、ここに印を。これで話は終わりだ」 オオクニヌシは、言われるがまま印をした。これが、国譲りか。思ったより呆気ないというか、まあ神話上でもそうだったな。「……ということだ」 目の前の景色が、神社に切り替わる。再現はここで終わりらしい。「ええと……つまり?」「鈍いな。これが私の知る彼だということ。穏やかで、頼りない男だ」 確かに、頼りなさはあったけど……神話の中では機転のきくシーンもあるし。でも、蓮はその事情を知らないのか。根の国での出来事なんて、知らないよな。当然。穢らわしい、みたいな扱いだし。「で、社は造られたのですよね?」「出雲にな。今、そこにいるのかは知らんが」 これって、出雲大社のことだよな。僕は行ったことないけど、本当に大きいらしい。いつか行きたいなぁ。「それ以降、お話はされましたか?」「一度もしていない。気になるのなら、出雲に行けばいいのではないか? 黄泉平坂もあるのだし」 確かに、それはそうだ。出雲に行かない理由など、最早一つもない。タケミナカタのことも、大体は理解できたし。血の気の多い武神、と言ったところか。でも、金がなあ……。大甕に行くだけでも、結構大変だったし。出雲って新幹線とかあるんだっけ。僕の住んでいるのは千葉県だから、乗るために東京まで出なきゃいけないんだけど。「そうですね。出雲への行き方、調べてみます」 そう話題を打ち切り、家へと戻る。スマホを起動し、出雲について調べることにした。 出雲国。現、島根県東部。元は伯耆国……鳥取県西部と一体だった土地。黄泉平坂があると言われているのは松江市で、出雲大社は出雲市か。あの辺りの地理は、わかるようでわからない。 そして、出雲には新幹線がない。行くなら、新幹線ではなく航空路の方が現実的だそうだ。でも、片道で五万円は流石にしんどい。もう少し、安く行ける方法はないだろうか。 必死に探すと、寝台列車が見つかった。しかし、予約を取れるの
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-31
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雷斗とタケミナカタ

 無事、寝台特急の予約を取ることには成功した。本も返した。雷斗の神社には、車を禁止されたので電車で行くしかなかった。鹿島線って本数が少ないし、かなり不便だな。関東とはいえ、過疎地域の路線だから仕方ないのか。 鹿島神宮駅からは歩いて十分。途中が坂道なので、毎日通っていたら足腰が鍛えられそうだ。 鳥居をくぐると、静謐な空気に覆われた。やはり、格の高い神社というのはそういう風になっているのかもしれない。蓮の──香取神宮もそうだ。「あの、すみません。お伺いしたいことがあるのですが」 人の少ない、奥の方で声を上げると目の前に光の玉が現れた。それはやがて雷斗の形になり、見慣れた彼の姿が現れた。「お前が? 一人で何用だ」 不審がっているが、確かに今は蓮がいないので仕方がない。事情を説明すると、雷斗の表情は少し穏やかなものになった。「国譲りか。懐かしい、つまりお前はタケミナカタのことを知りたいわけだな」「はい。是非とも」 ここで何か、情報を得られればいいのだが。「では、話すか。と言っても、蓮から見せられたものと大差はないと思うが」 ──国譲りの時、タケミナカタは確かに反抗的だった。だがしかし俺の役目は、まつろわぬもの……つまり反抗的なものをねじ伏せること。だから、タケミナカタを諏訪まで追い詰めた。本当はあそこまで行くつもりはなかったんだがな。あいつが逃げ回るから仕方なかったと言える。 タケミナカタは、威勢はいいものの臆病な神だ。自分より強い存在にはへりくだる。現に、俺にはそうだった。オオクニヌシ譲りの美貌はあるが、難儀な性格だな。今も諏訪にいるはずだ。武神としての誇りを失い、力を使わないようになったと聞いている。哀れだが、逆らったのだから当然だろうな。「そんな冷徹な……」「そうか? 俺の話したことは事実だ」 事実だから冷徹なんですよ、とは言いづらかった。それを言って何になる? 彼は神だ。人間とは、感性が違う。それを忘れたわけじゃないのだから。「そんなに気になるのなら、諏訪に行けばどうだ? まだいると思うが」 諏訪。長野県だっけか。正直、出雲に行くのだからこれ以上の出費は避けたいところだが……タケミナカタ本人、いや人ではないけど。の話も聞きたいかもしれない。それに、彼が黒幕の可能性だって十分ある。会いに行かない理由は、金銭面だけだった。「そうです
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-03
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いざ、諏訪へ

 三日後の朝、僕は新宿にいた。というのも、諏訪の方へ行くバスはここから発車するからだ。新宿に限った話ではないが、東京は常に人が多い。今日は平日なのに、どうしてここは満員なんだ。電車も立つしかなかったし、ストレスの溜まる街だ。 バスタ新宿。多分、日本で一番のバスターミナル。色々な行き先があ莉、色々な待機場所がある。混乱しながらも、なんとか該当のバスに乗り込んだ。 平日だからか、乗っている人は少ない。僕を含めて、十人いるかどうかといったレベルだろう。窓の外を見ると、まだ新宿のビル群だった。やることもないので、音楽を聴きながらスマホでネットサーフィンをする。息抜きに窓の外を確認すると、一面の緑に変わっていた。日本の都会部分は、思っているより一部なのかもしれない。 諏訪でバスを降りる。とは言っても、ここから諏訪大社まで徒歩で行ける距離でもないのでタクシーを呼んだ。車はすぐ来たので、乗り込み神社まで直行する。周りは、バスで見た時と同じく一面の大自然だった。「お客さん、ここです」「ありがとうございます」 お金を払って降りると、これまた敷地の広い神社が目の前にある。少なくとも、蓮の神社──香取神宮よりは大きいだろうな。 諏訪神社って、確か下宮と上宮両方あるって話だし。これは、タケミナカタがどこにいるのか探すのに手間がかかりそうだ。 ここはタケミナカタの領域。気を引き締めていかないと。何が起こるかわからないのだから。 幸いなことに、人はいなかった。いないというか、神社の神主とか禰宜はどこかにいるのだろうが広大すぎていちいち探す気にはなれない。アマツミカホシの時は、小さな神社だったからそれすらいなかったけど。今回はやはり、格が違う。  なるべく奥の、ひっそりした場所で念じてみる。『タケミナカタ様、いらっしゃいますか』「お前、何の用だ?」 いきなり背後に気配を感じたので、振り返る。そこには、蓮の映像通りの青年がいた。 白髪、三つ編み、赤い瞳。鋭い眼差しは、武神特有の威圧感がある。「……フツヌシの気配を感じる。お前、人間の皮を被った神使か?」 直感も冴えるらしい。いや、僕は別に神使ではないんだけど。「普通の人間です。少し、神力というか……そういうのを扱えるだけで」「なるほど、つまり敵という訳だな。改めて問う。我が地に何用だ?」 完全に警戒されてい
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-05
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恋情

「諏訪から、一度も出たことはないと?」「そうだ」 間髪入れずに、返事が来た。これは本当のこと、のような気がする。「……本当に?」「本当だ。俺は天津神と違って嘘はつかない。あの大敗以降、出雲には行っていない。当然、父上のことも知らない」 この言葉、信じるべきなのか。いや、それは……他の神との整合性をとってからだ。「では、このことを他の皆さんに確認しても?」「構わない。今の俺をどれくらい皆が覚えているのかは疑問だが」 今の貴方、日本でもかなり知名度高いですよ。国譲り神話の負け犬として。 流石にそんなことは言わないが、事実だ。「わかりました。では、これで」 軽く一礼し、その場を去る。諏訪を観光するのもいいかもしれないが、散財になるしまっすぐ帰った方がいいかもしれない。 帰りは電車で帰ることになった。バスより本数が多いし、時間も短い。新宿駅からは、何回か乗り換えないと僕の家に着かないけど。成田って、やっぱり中途半端に不便だ。大学を卒業したら引っ越そう……。「で、タケミナカタからは話を聞けなかったと」 翌日、蓮に報告しに行ったら呆れられた。蓮の言いたいことはよくわかる。金や時間の無駄遣いだ、ってところだろう。「馬鹿者が。天照大御神様は急いでなくとも、私が急ぐ」 これ、怒ってるな。仕方のないことだけど、あまり急かさないでほしい。「蓮が国譲りのことをあっさりと終わらせるから……」「私が悪いと」「そうは言ってないですが」 これ以上ぼやいても仕方がない。蓮の言うことを聞こう。「さっさと根の国に行けばかろうが」 蓮の言うことはもっともだ。「でも、根の国って敵の城ですよ。いきなり踏み込むのは、怖いじゃないですか」「愚か者が。アマツミカホシと戦っておいて何を言う」 蓮はそこで言葉を切った。そして、急に感情のこもらない声でこう言った。「貴様はアマツミカホシを斬った訳ではなかったな。あれは雷斗か。私の見込み違いだった」 そこまで言われては、引き下がれない。確かに、雷斗は武神だし度胸だってある。 けれど、僕だって人間としての矜持はある。……つもりだ。だからこそ、ここで引くわけにはいかない。「……根の国に行けばいいんですね?」「私はずっと、そう言っておろうが」「いいでしょう。明日にでも、出雲に行きますよ。黄泉平坂を下りましょう。誰にも
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-07
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マズいのでは?

 攻めてきた? 僕はまだ、何もしていないのに。というか、蓮は? 雷斗は? 無事なのだろうか。 思考がまとまらないのは、今は無くなった眠気のせいではなさそうだ。そもそも、考えてばかりでは事態は好転しない。“到着しました” その声を聞くなり、船から飛び降りる。今、この場がどうなっているのか確かめなければ。 高天原も夜。灯りもロクにないこの場では、被害がどうなっているのかわからない。 そもそも、アマツミカホシの攻撃だって残っている。夜目がきかないのでわからないが、また凄惨なことになっているのだろう。想像はつく。「あのお二人は?」 いつの間にか、人の姿に戻ったトリフネに聞く。「今は就寝中なので、朝になるまでは起こせません。貴方は人間だから起こしたんです。とりあえず、天照大御神様に面会されてください」「わかりました」 彼女の神殿は、淡く発光している。イルミネーションのような煌びやかさはないが、安心する淡さだ。 天照大御神は、その中で誰かと話し込んでいた。長い黒髪、巫女服。見覚えがない姿だ。「だから、私の存在を認めろと言っているでしょう」 黒髪の女性は、そう天照大御神に詰め寄る。随分と気が強そうだ。天照大御神とは、正反対に見える。「存在は認めとるやんか。でも、根の国の住人は高天原に置かれへんねん」 黒髪の女性は、根の国の住人らしい。穏やかな声でも、天照大御神の拒絶が伝わる。「別に、置いてほしいなんて言ってないわよ。私はただ……貴女に姪として認めてほしいだけ」 姪? 親族関係なのか。いや、黒髪の女性の思い込みなのかもしれないけど。「スセリ……そう言うてもなぁ、うちがそれを認めると高天原が大変なことになるんよ」 スセリ? スセリヒメか。 確か、スサノオノミコトの娘だよな。姪……確かに、理屈は通っている。スサノオノミコトは、天照大御神の弟。 弟の娘であれば姪だ。それが認められないからといって、高天原に侵攻していいわけでもないけれど。「あ、一成くんやん」 しかも、最悪のタイミングで気づかれるし。スセリの目線も、こちらを向く。「人間──この目で見るのは、久しぶりだわ。まずは貴方から消してもいいのよ?」 物騒な女神だ。神って、温厚な方が珍しいのか? 正面を向いた彼女は、美麗そのものだった。長いまつ毛、底なしの黒い瞳。女好きで有名なオオ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-11
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拘束

 彼女はそう言うなり、何本か髪を抜いた。そして、それを手で握りしめる。 髪は形を変え、やがて人の姿へと変わった。「やっておしまいなさい、私の可愛い式神たち」 なるほど、これが彼女の手の内。 自分では戦わず、使い魔に倒させる。だから、一人でも高天原を壊せるのか。圧倒的な数の暴力だ。 何にせよ、ここではマズい。神殿が壊れた時、責任を負わなければならなくなるのは僕だ。それは避けたい。 後ろ姿は見せずに、段々後ずさる。「戦いはあかんよ〜」 天照大御神は、こんな時でも平和主義だ。正直、今はそれどころではない。 自分の神殿が破壊されるかどうか、という状況なのに。呑気なのか、それとも僕が考えつかない何かがあるのか。それはわからない。 そんなことより、まずはスセリヒメの戦い方を解析するところからだ。 髪を抜いて式神にした、ということは恐らく神力の源は髪。蓮や雷斗も、アマツミカホシ……記憶に新しいところで言えばタケミナカタも長かった。多分、基本的には髪と神力は一体だ。だから、力を削ぐには髪をどうにかすればいい……のだと思う。その、どうにかの方法を考えなくてはいけないのか。 切る以外にあるか? 長さが力と直結しているのであれば、それが一番手っ取り早い。 では、どうやって? 女性の体とはいえ、神だ。本来なら、僕と住む次元が違う。髪を切る隙なんて、当然だが存在しない。接近するのも危険だ。この仮説が合っているのかもわからないが、やる価値はある。いや、やるしかない。 ……フツノミタマって、アレは……蓮だよな。風神の力を持つフツノミタマであれば、意図しない形で髪を断ち切れるのではないか。となれば、今は防戦するしかない。神殿の外に出たし、逃げ回ってみよう。タケミナカタのように。 体をふわりと浮かせ、空を駆ける。スセリヒメ派当然ついてきた。いけるかもしれない。「喧嘩を売っておいて逃げるなんて、本当は自信がなかったのかしら?」「どうでしょうね」 どんどん加速していくと、彼女もそれに適応してきた。やはり、三貴紳の娘。莫大な神力だ。 僕の神力は無限じゃないから、効率的に使わなくてはならない。あと何時間したら、蓮達は来るのだろう? それさえわかっていれば、もっと上手く立ち回れるのに。「さて、お遊びは終わりよ。私が直々に葬ってあげること、感謝なさい」 結局、逃げ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-13
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変容

 スセリヒメからは、香木の香りがする。何だかとても、懐かしい匂い。 ただ、肝心の神力の源らしい髪は狙えない。そもそも、この読みがハズレである可能性もあるのだが。「天照大御神、私だけど」 神殿の扉を開けると、予想外の光景が広がっていた。「……誰だ、お前」 雷斗だ。時間稼ぎは、どうやら成功だったらしい。 蓮の姿は見えなかったが、それは普段と姿が違うからだった。 フツノミタマ。有事には、蓮は神剣と化すらしい。 何も語らないが、それは物理的距離の問題かもしれない。雷斗とは話しているのかも。「私はスセリ。天照大御神の弟である、スサノオノミコトの娘よ」 スセリヒメの瞳から、少しだけあった光が消えた。「やからぁ、認めたらあかんのよ。それは」「……だ、そうだが?」 天照大御神の柔和な否定に便乗する雷斗。僕には触れてこないのも、雷斗らしい。「だから、認めさせるのよ。やっておしまいなさい、私の式神たち」 また髪を数本抜き、式神を形成するスセリヒメ。やはり、神力の源は髪っぽいな。雷斗か蓮に、それを気づかせるしかない。「式神使いか、面白い」 雷斗は何だか余裕そうに笑みを浮かべているが、捕らわれている僕はそれどころではない。「気をつけてください! 髪! 髪なんです、彼女の神力の源は」 雷斗の視線が、スセリヒメの髪に向いた。「一成……恩にきる」 短く言葉を発し、すぐ彼女の懐に潜り込む雷斗。悔しいけど、武神としては超一級だ。 僕ができないことを、すぐやってのける神なのだ。それは、蓮だって全幅の信頼を寄せる。「……余計なことを」 後ろに飛び退こうとしたスセリヒメの腕を掴んで、雷斗は引き寄せる。 その後は一瞬だった。 スセリヒメの腰まであった長い髪は、根本からすっぱり断ち切られた。 それと同時に、僕の拘束も解けた。神殿に、長い黒髪の束が落ちる。式神も、消え去ってしまった。 もう、長かった時代など想像もつかないほど勇ましい髪型になってしまった。風の刃は、彼女の髪を刈り上げてしまった。これじゃ、女神というより武神のような。  僕の見立てが当たっていたのは、幸いだ。これで間違っていたら、雷斗に何と言われるかわからない。 スセリヒメの変化は、髪型だけではなかった。「……神力が暴走しているな……」 いつの間にか人間体に戻った蓮が、そう呟く。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-15
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処遇

「……スセリ」 すっかり勇ましくなったスセリヒメを、天照大御神は優しく抱き寄せる。「天照大御神様、根の国の者に触れては」 雷斗が慌てて制止しようとしても、彼女は聞く耳を持たない。「触らないで! こんな……こんな、醜い私を……」 スセリヒメでさえ、拒絶の意を表す。それでもお構いなしに、天照大御神は語りかける。「ごめんなぁ、うち……冷たすぎたな」 もう全員、黙るしかない。僕に至っては部外者だし。「高天原は、確かに大事やよ。でもな、血の繋がった姪も大事やねん」「貴女……今更何を……」 スセリヒメの声が震えている。低いけれど、前より情の伝わる声だ。「あんた、ホンマは高天原を壊したいわけやなかったんやろ?」 ……え? そうなのか? スセリヒメの方を見ると、涙を流しながら頷いている。「……そうよ。本当に、認められたかっただけなの……」 そうして、一連の事件の話をし始めた。「アマツミカホシをけしかけたのは、紛れもなく私。でも、それは貴女に私のことを認めて欲しかったから。どんな罰でも、望んで受けるわ。高天原から見た私が異物なのは間違いないわけだし」 認めた。一件の黒幕は、彼女だったらしい。 天照大御神は、それを聞いても表情を変えない。慈愛に満ちた眼差しのままだ。「うん、わかっとったよ。うちはね、立場上認められへんのよ。根の国に親族っていうの」「わかってるわよ」「でもな、スセリのことは大事に思っとるで。心の中では、ずっと昔から」「じゃあ、どうして」 嗚咽混じりになってきたスセリヒメが問う。答えはさっき聞いたような気もするけど、当事者だとまた違うのだろう。「やからね……」 天照大御神も、めげずに語りを続ける。彼女は本当に、忍耐の塊のような存在だな。 スセリヒメがひとしきり泣き終わった頃には、朝どころか昼になっていた。流石に眠い。 だが、こんなところで意識を手放したらどうなるかわからない。その一心で目を開けている。「……あの……」 そんな状況でも、突っ込みたいことはある。「僕は、もう帰っていいですか?」「ならぬ」 疲れ切っているのだから、もういいだろう。僕は部外者だし、留まる理由も本来ならない。 帰宅を拒否しているのは、蓮の方だ。確かに、蓮からすれば故郷。でも僕は違う。何の理由で引き留めているのだろうか。 「スセリヒ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-17
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これが、神

「……お前、何を言っている?」 流石の雷斗も困惑しているが、僕としては名案のつもりだった。「一緒に暮らしていれば、侵攻もすぐ止められる。それに、天照大御神は慈悲に溢れているから、再教育もできる。どうです?」「なるほど……いや、しかし……」 雷斗は、すぐには反論できないようだった。「確かに、ええかもしれんなぁ。スセリは、うちと暮らしたい?」 天照大御神は、スセリヒメに問う。彼女的には、一緒に暮らしても問題はないらしい。 だが、雷斗と蓮の視線は冷たい。同じ神ではあるのに、差別が存在するのか。そういうところは、人間と変わらないのかもしれない。「……私……」「ん?」 天照大御神は、暖かい声色で続きを促す。「私が、暮らしてもいいの……?」 スセリヒメのその様子は、女性というよりか弱い女の子と言った方がしっくりくる。 見た目は全然そんなことはない。ないんだけど、表現するならという感じだ。「勿論やよ、親族として……と言いたいけど、それは難しいな。天照大御神、という高天原の長としてやろなぁ」「……正気なの?」 スセリヒメの声が震える。それがどういう心情なのかは、僕が推察できないほど深いものだろう。「うちはいつだって正気やで」 あっさりそう言ってのける天照大御神は、やはり器の広さが違う。だからこそ、最高神なのかもしれない。「……大国主とお父様には、どう言うのよ」 大国主。彼女の夫。そういえば、挨拶しなかったけれど……今は何をしているんだ? お父様ってことは、スサノオノミコトか。こちらは、天照大御神の弟だったよな?「ああ、それなんやけど……一成くん」「はい?」 急に名前を呼ばれたので、間抜けな返事をしてしまった。そんなことに構わず、天照大御神は続ける。「悪いんやけど、スセリと一緒に挨拶しに行ってくれへん? 大国主も、スサノオも悪い子やないし。スセリも一緒やから、穏やかに終わると思うで」「え、僕が……?」「うん。高天原の神は、根の国には降りられへんし」 そう言われてしまうと、断れない。スセリヒメも、心配そうに僕を見ている。蓮や雷斗の目線も突き刺さる。「……わかりました。一緒に行きましょう」「ほんま? 助かるわぁ」 途端に、弾んだ声でその場まで明るくなった。いや、それは多分錯覚なのだが……天照大御神である以上否定も出来ない。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-21
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